46.Bレイヤー
ゼロたちのグループ――ラックが色々大変な頃、イベント終えたある三人はBレイヤーのとある屋敷で飄々とした表情で会話をしていた。
「クイーン。ハンスの奴、殺られたってよ」
「ふふっ、別に予想通りですが……ハンスに期待でもしてたのですか?」
ムキムキに鍛えられた男の言葉に鼻で笑い、紅茶を見つめてそう答えるクイーン。
「いいや、期待してたのはゼロの方だ。というわけで、ワシ的には期待通りってところだよ」
「そう、ならいいですけど。それよりキング、お菓子を貰えるかしら」
「人使い荒いなぁ~」
と言いつつも部屋を出て、お菓子を取りに行くキング。
扉が完全に閉まるのを見て、クイーンは瞼を下ろしてコップに桃色の柔らかい唇を付け、紅茶を口に流し込み、喉を二度ほど鳴らす。
「ジャックはまたゲームですか?」
「ん? そうだけど」
ジャックという髪の短い女の子は寝転びながら、クイーンに視線を送ることなく、適当にそう答える。
「わたくしも一緒によろしくて?」
「……珍しいね、クイーンがゲームなんて」
クイーンの言葉に思わずリズム良く動いていた手を止め、ソファーに座り直すジャック。
そして肩を軽く回し、首を左右に曲げてポキポキと音を鳴らす。
「そうかしら? で、ダメですか?」
「ダメなわけないじゃん! ボクは大歓迎だよ! でも、ちょっと待ってね」
ジャックはニコッと笑い、自分の手にあったゲーム機をセーブする。
続けて手慣れた感じで、ソファーの目の前にあるスクリーンの下にあるテレビゲーム機を取り出し、電源を付けた。
そんな光景を横目で見ながら、クイーンは自分専用の椅子から立ち上がり、ジャックの座るソファーに腰を下ろす。
「それで何系がいいとかある?」
「そうですね……」
クイーンは顎に手を置き、考える仕草を一瞬見せ、口を開いた。
「人を殺すゲームでお願いします」
「了解!」
敬礼ポーズで元気良くそう反応するジャック。
そのタイミングで扉が開き、お菓子を取りに行っていたキングが戻ってくる。
「クイーン、これでいいか?」
「ええ、テーブルの上に置いておいてもらえる?」
「ああ。って、クイーンがゲームとは珍しいな」
「ジャックにも言われたわ」
口角を軽く上げ、クイーンはテーブルに置かれたお菓子を手に取り、袋を開けてハムスターのように上品に少しずつ食べていく。
「そうだ。キングもやる?」
「おいおい、ジャック。ワシがゲームとか苦手なのを知っていて言っただろ?」
「まぁ~ね」
「はぁ……まぁそういうことだから――」
「別に苦手でもいいでしょ? キングもやりましょうよ。ゲームは楽しむものですよ?」
予想外のクイーンの言葉に、一瞬目を大きく開け、ゆっくり息を呑む。
だが、キングはすぐに表情をいつものものに戻し、頭を軽くかきながら言葉を発する。
「クイーンがそういうなら仕方ないかぁ~」
「ふふっ、三人でゲームなんて久しぶりだから楽しみです」
「そうだね。いつもボク一人だし。ふぅ~、用意できたよ!」
ジャックはゲームコントローラーを二人に手渡す。
「ありがとうございます」
「サンキュー!」
そう言いながら受け取り、キングはクイーンとは真逆の位置に腰を下ろす。
ジャックはその行動に少しキングを睨み、その二人の間にソファーが揺れないような感じで静かに座った。
「じゃあ、始めましょうか。イベントの続きを……」
冷たい声でそう言い、ニコっとした笑みを二人に向けるクイーン。
それを見たキングとジャックは、苦笑いを浮かべながら頷いた。
キングとジャックは知っていた。
なぜクイーンが珍しく、ゲームをやろうとしているのかを。
それは間違いなく、イベントで久しぶりに腕に『切り傷』という怪我をさせられたからだろう。
正直、そこまでの傷ではない。
だが、クイーンにとって『傷』を負うということは、潔癖症が泥塗れにされるのと同じこと。
もちろん、そのクイーンに『傷』を負わせた敵は木端微塵となった。
しかし、それだけではクイーンの頭に上った血が下がることはなかったらしい。
そういうわけで、ゲーム……しかも、『人を殺すゲーム』で、そのどこにも当てられない怒りを収めようとしているということなのだ。
時々、こういうことはあるのだが、クイーンは顔には出さない。
それがむしろ恐怖で、キングとジャックはその怒りが収まるまでは、どんな要望だとしても付き合うようにしている。
「……ゼロ、早く来ないかしら。こんな感じで綺麗に殺してあげるのに、ね……」
クイーンはスクリーンを見ながら、楽しそうに、嬉しそうに、綺麗な笑みを浮かべて柔らかい声でそんな言葉を告げる。
そのスクリーンには男のゲームキャラクターが、白目をむき、泡を吹き、大量の槍のようなもので串刺しになり、血塗れで死んでいる姿がそこにはあった。




