3.Iレイヤー
眩しい日差しを受け、瞼がゆっくりと上がる。
ここが……
「Iレイヤーか」
監視していたので、パソコンから見たことはあったが、実際にこのBNWに入って見てみると凄くリアルだ。
いや、これはリアルとほとんど変わらない。
むしろ、数年後にはこっちがリアルになっていそうだ。
「なんかタイムスリップした感じですね」
そう巨乳が呟く。
僕は「だな」とだけ言って、少し目を瞑ってみる。
風の音、草の匂い、鳥の声、肌に感じる太陽の日差し。
自然を感じるな……って、ここから始まるの?
「私、こんな草原を見るのは初めてです」
「僕もだ。しかし、Iレイヤーはこれほど自然的な場所なのか?」
「私に聞かれましても……」
まぁだよな。
てか、管理者であった僕の方が知っているべきだよな。
だが、僕が管理者として見て来た場所は人間が大勢いる場所。
こんなところがあることすら知らなかった。
「それよりあの貧乳ちゃんはどこでしょうか?」
巨乳が貧乳のことを貧乳ちゃんって言ってるよ!
絶対に見下してるよ!
まぁそれは置いておいて。
確かに貧乳が見当たらない。
周りには笑えるぐらい草しか生えてないのに。
「先にどこかに行ったとか?」
「あ、そう言えば、マップを見ればっ!」
「その手があったな」
僕たちはIレイヤーのマップを開く。
Iレイヤーはかなり広いなって、ちゃんと街あるし。
そしてその街へ向かう貧乳も表示されていた。
「街の方に行ったんですね。私たちも向かいましょうか」
「だな」
そう言い、ゆっくり草原を歩き出した。
⚀
歩き始めて五分。ずっと風の音を堪能中だ。
そろそろグループとして、この巨乳と仲良くなりたいのだが。
「はぁ……オセロさんはあまり喋るのが好きではないんですか?」
オセロさんって何? 見た目が白黒模様の服、黒髪に白銀のメッシュだからオセロ?
僕はゼロなんだけど。
勝手に『オ』を付け加えて『ゼ』の濁点を取らないでほしい。
てか、キュベレーとの会話聞いてたよね?
「好きじゃないこともないが、初対面の人と話すのに抵抗があるというか……」
「仕方ないですね。私はリアです。巨乳という名じゃないですよ!」
僕、君に巨乳って言ったっけ?
もしかして、心読める系のスキルなの?
それだと怖いんだけど。
「えっと、僕はゼロだ」
「ロク?」
「耳大丈夫か? 初期からバグ発生してるのか?」
「あ、結構ツッコミはキレがあるんですね」
こいつ僕のこと試したのか。
いや、バカにしたという方が正しいか。
「それでリアは何のスキルだったんだ?」
「私は『回復』スキルですね」
心読む系じゃないのかよ!
じゃあ、さっきのもっと怖いよ!
「なるほど。使うことが多そうだな」
「はい。えっと、オセロじゃなくてゼロさんのスキルは何ですか?」
リアは凄く期待した瞳でそう聞いてくる。
なんか罪悪感しかないんだが……。
嘘をつくべきか?
カッコ良くサイコキネシスとか言っておく?
「まぁアレだ……『なし』だ」
「『なし』!? はい? 聞き間違えかな?」
嘘をつかないで正直に答えたら、リアの口から凄く変な声出ちゃったよ!
それに加えて、「聞き間違えかな?」とか言って現実逃避を始めちゃったよ!
「いや、本当に『なし』と書かれていてな。スキルがないっぽいんだよ」
「地球上でどんな生活をして、どんな犯罪を犯したらそうなるんですか!」
「そ、そこまでのことはしてないはずなんだが……」
「女性のおっぱいからおしりから他にもあらゆる場所を舐めたとか?」
僕のことをどんな特殊なやつだと思っているんだ。
それにそんなことをしていたら、逆に超希少性の高いエロ系のスキルが付きそうだけどな。
「初対面の人によくそこまで言えたな!」
「褒めてますか?」
「頭の方もバグってるんじゃないか? 早く自分のスキル使え!」
本当に見た目によらず、厄介な女だな、このリアってやつは。
今後が心配で仕方ないよ。
「おっ! アレって街じゃないですか?」
「そのようだな」
十五分ほど歩くとやっと街が見えてきた。
それにしても、思っていた以上に大きい。
「よしっ! 今からあの街まで競争しましょ! 負けた方が食べ物奢りでっ!」
「ちょ、待てって! ああぁー、もうっ!」
胸を上下に弾ませながら全力疾走するリア。
まるで、ボールだな。
そんなことを考えながら、僕は意外と足の速いリアを追いかけるのであった。