37.接触
僕たちの予想通り昨日の生き物が洞窟に攻め込んでくることはなく、今朝は魚を加えたどら猫……じゃなくてサラに無言で叩き起こされた。
朝食は昨日のカレーの残りと川魚を一匹ずつ。
イベントが後半戦に入ったこともあり、豪華な、いや、豪華ではあるが昨日と違い、すぐに狩りに迎えるような早く食べられる料理であった。
そして現在、午前十時過ぎ。
僕たちは昨日の地面の悪い森ではなく、見晴らしの良い草原で狩りを始めていた。
基本的に牛や羊といった生き物の『中』が多い。
そこまで気性も荒くない生き物なので、問題なく次々とサラとダイチは狩っていく。
「リア、ランキング見たか?」
「え、いえ、見てないけど」
二人が狩りをしている間は基本暇なので、昨日の不可解なランキングの話をすることに。
リアはすぐにメニューバーを開けてランキングに目を通し、驚きのあまり口を手で抑えて目を見開いた。
「ど、どうなっているの……」
「僕たちはランキング圏外に、そしてハンスたちは16位」
「何言ってるのよ、ゼロ。それはいつの話をしているの?」
「え?」
僕はサラの狩りに目をやるの止め、メニューバーを開く。
昨晩の話だが、何かあったのだろうか?
と思い、すぐにランキングを見る。
すると、そこには有り得ない光景が広がっていた。
「な、なんだよ……これ。トップ100位内の全てのグループが10000ポイント台だと」
「それだけじゃないわ」
「ああ、そうだな。ハンスのグループ名――サタンがない」
昨晩、僕がランキングを確認してから約十時間。
その間に何があったというのだろうか?
昨晩のランキング1位だったグループのイベントポイントは確か約5000ポイント。
現在はそのグループのイベントポイントは26600ポイント。続いて2位は23500ポイント。
トップ100位でも10900ポイントだ。
このランキングには恐らくタイムラグは存在しない。
それは僕たちが熊を全滅させようとした時に分かっている。だから、このランキングの動き、イベントポイントの動きは異常。
つまり、異常=『特別』が見つかったということだ。
しかも、大量に。
なぜなら、『特別』と言ってもイベントポイントは200ポイント+αだからだ。
昨晩からランキング1位のグループは、昨晩から現時点までに約21000ポイントという有り得ないイベントポイント量を増やしている。
それはつまり、最低でも『特別』という存在を100体は狩ったということ。
それよりハンスのグループ――サタンがランキングから姿を消した。
理由は『特別』を探し出せてないの一言に限るだろう。
それ以外に考えられない。
「これは悠長に狩りしている場合じゃなさそうだな」
「そうね。残りのイベント期間を考えても、すぐに私たちも動き出さないといけない感じね」
リアの言う通りである。
後二時間後には、残りイベント期間は一日。
明日の午後十二時にはイベントは終了するのだ。
もうイベント後半戦というよりかは、イベント終盤と言う方が正しいかもしれない。
だというのに、少し僕たちは悠長に行動しすぎていた。
本当に今の僕たちラックはなりふり構っていられない状態と言える。
僕たちのイベントポイントは1160ポイント。
トップ100位との差は約10倍ほど。
それは正直どうでもいい。
問題はランキング圏外になったハンスのグループの方だ。
ランキング圏外により位置情報もイベントポイントも分からない。
これではどう戦っていくか決めることができないと言える。
もちろん、とにかく狩ってランキング内に入れば、間違いなく勝つことは出来るだろう。
だが、そうならなかった場合、イベント終了後に全てが決まるのだ。
こういうのを見えない恐怖と言うのだろうか?
それにはっきり言って、ハンスのイベントポイントを見ながら、僕はこのハンティングゲームを立ち回っていたところがあったので、ランキング圏外にいられるとなると本当に厄介である。
「クソ……どうしたものか」
「ゼロ、大丈夫なんだよね?」
「分からない」
「……」
僕の言葉にリアはただ塞がらない口を開け、反応することはなかった。
⚀
昼食を終え、最終日が始まったが何の策も思い浮かばずに狩りが再開された。
午前同様に『中』の生き物をとにかく狩り続けているという状況。
「ちょっとストップ」
鋭い目つきでそう言い、左右後ろを伺うサラ。
何かが見えたのか、それとも何か嫌な気配でも感じたのか。
全く僕たちには分からないが警戒態勢に入る。
「サラ、何かいるのか?」
「うん。約五百メートル先にグループだと思われる男性三人」
僕の質問に淡々と答えるサラ。
まぁ人なら問題ないな。
サラが急にあんな声音でみんなを止めるものだから、ゾウとかカバ、ライオンなどかと思ったわ。
てか、約五百メートル先が見えるとか視力どれぐらいなの?
「はぁ……それなら大丈夫だな」
「僕はてっきり凶暴な生き物かと」
「私も心臓が跳ね上がっていたわ」
カルロスたち三人もホッとしたのか体から力を抜く。
同じく、僕とリアも安堵のため息をつき、朝に汲んだ川の水で喉を潤す。
「で、どうする? 接触するか? 俺はどちらでも良いが」
「このままこちらに来た場合は接触しましょうか。このイベントが始まってから人と会う機会はあまりなかったですし。それに『特別』の情報が手に入るかもしれません」
カルロスの質問にリアがすぐさまそう答える。
妥当な、回答だと言える。
確かに今の状況で情報収集は大事だ。
と言っても、そんな簡単に『特別』の情報を渡すグループもいないと思うが。
まずその男性グループが情報を持っている確証もないしな。
草原の生き物を狩りながら僕たちは前に進む。
サラによると男性三人は気付いていないのか、こちらに向かっているとのこと。
接触することは間違いなさそうだ。
数分後、完全に僕たちにもその三人は見え、あちらも恐らく気付いただろう。
そしてなぜか男性グループの一人の男がこちらに向かって走ってくる。
しかも、何か叫んでいるような気がするがまだ遠くて聞こえない。
少し不思議に思いながらも行動からして、恐らく積極的に接触を求めてきていると考えるべきだろう。
「……母さん!」
母さん? どういうことだ?
え、ヤバい奴? ちょっと変な奴?
そう思っていると、エリカが口を開き、男に向かって走り出す。
「あ、アレックス!?」




