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33.放心状態

 昨晩はイベント経験者であるカルロスたちが中心となり、問題や喧嘩などが起こることなく、無事に今後の方針を決めることができた。


 今後の方針としては基本的に、僕たちのグループであるラックとカルロスのグループは共に行動し、サラとダイチが先頭に立って生き物を狩るという感じだ。

 だがしかし、生き物によっては僕を含めた他の四人も交戦する可能性があるので、サラが生成したナイフを全員が二本ずつ常備することを義務付けた。

 もちろん、僕たちが戦えるレベルを超えている生き物と遭遇した場合は、カルロスの判断により逃げることが決まった。

 それと片方のグループにイベントポイントが偏らないように、狩りをする二人が交互に生き物を狩るというルールを付け、平等にイベントポイントを得られるようにした。


 現在の両グループのイベントポイントを言っておく。

 僕たちのグループ――ラックは680ポイント。

 ランキングは96位。

 カルロスのグループは600ポイント。

 ランキングは100位圏外だが、上位5%には入ってることは間違いない。


 僕たちラックとカルロスのグループのイベントポイントを見れば分かる通り、イベントポイント差は80ポイント=『中』の生き物で言えば四匹分だ。

 ほとんど変わらないと言っていいだろう。

 なので、今日からイベント最終日までは、僕たちのランキングを見ながらイベントを進めていくつもりだ。


 しかし、一つ問題点がある。

 それがハンスとのグループ戦。

 現在、ハンスは単独トップを走り、イベントポイントは2560ポイント。

 二位との差は560ポイントという感じだ。


 ハンスとのグループ戦についてはカルロスたちには言っていない。

 理由としては、もしグループ戦をしていることを言った場合、間違いなくカルロスたちは僕たちに協力するからだ。

 それも自分たちのイベントポイントを増やすことを止め、僕たちが出来るだけ多くイベントポイント稼げるようにするに違いない。

 正直、それはとても嬉しいことだ。

 だが、それでカルロスたちが上位5%に入れず、折角のGスコアを獲得するチャンスを逃すのは勿体ないし、こちらもあまり良い気はしない。


 まだイベントは始まったばかりだ。

 『特別』という存在を見つければ、このイベントは一気に変わる。

 だから、それまでは今のままでいいだろう。


「ん~! 結構、体が動くようになってきた」

「それでまだ絶好調じゃないのかよ、サラ。僕の矢が泣くぜ」


 サラが軽いステップで鹿を殺し、ナイフの血を地面に散らしながらそう口走る。

 その言葉に苦笑しながら、ダイチは弓を撫でていた。


 時刻は既に午後三時を回り、何事もなく狩りは進んでいた。

 昼食は鹿肉、兎肉、猪肉の野菜炒め。

 エリカがササっと慣れた手付きで作っていたが絶品だった。

 やはり食事面では僕たちは得をしていると感じたので、エリカに感謝の言葉を告げると「これぐらい普通よ」と嬉しそうに笑っていた。


「はぁ、はぁ、カルロスさん。洞窟からかなり離れましたけど、帰りは大丈夫ですか?」

「そうだな。もうこんな時間だし、そろそろ戻ることにしようか」


 リアの様子を見ながら、カルロスは一度顎に指を置いて考え、そう言った。

 カルロスの指示により僕たちは来た道を折り返す。

 続けてカルロスが言葉を告げる。


「帰り道で狩った生き物は夕食に使うから、二人とも狩った生き物は俺たちに渡してくれ」


 サラとダイチは「分かった」「オッケー」と返事し、すぐさま前を向いた。


 それにしても、今歩いている道はドロドロしていて歩きづらい。

 足が泥の地面に埋まり、とにかく足が重く感じる。

 後、『ベちゃ』という音がシンプルに気持ちが悪い。


「リア、大丈夫か?」

「え、ええ……」


 先ほどから思っていたが、リアは額に大量の汗をかき、顔色があまり良くない。

 僕の言葉に対する返事もやけにテンションが低いし。

 昨日の回復スキルの疲労がまだ残っているのだろうか?


「本当に大丈夫か? 地面も悪いし、歩き疲れたなら背負うけど」

「だ、大丈夫よ。気にしないで、あっ――」


 リアは足が上がらなかったのか、体制を崩して前に倒れかける。

 だが、間一髪で僕が手で支え、顔面泥塗れにならずに済んだ。


「ふぅ~、危なかったな」

「あ、ありがとう……でも、手離して」

「あ、ごめん……」


 支えていた手は運よく……じゃなくてたまたま胸に当たってしまっていたようで、リアは顔を茹タコのように真っ赤にして僕から目を逸らした。

 僕が悪かったけど、怒らなくても……事故だし。


「あ、ゼロ君……」


 ――ベちゃっ!


「ちょ、エリカ、何してるの?」

「何で助けてくれないのよ!」

「だって、急だったし」

「リアは助けたじゃない! 酷い!」


 いや、そう言われてもな。

 しかし、顔面からいったせいで、前はドロドロで後ろは綺麗という感じだ。

 前後がはっきりと分かれていて、その見た目は意外と面白い。


「エリカ、ゼロを困らすなよ! それとわざとコケるな」

「ふんっ……」


 カルロスの言葉が図星だったのか、一度顔をそっぽ向けるエリカ。

 それからカルロスに向けて全力で舌を出し、右手で右目を抑えて「べぇーだ!」と叫んだ。

 カルロスは苦笑交じりのため息をつきながら、やれやれという感じで止めていた足を進め始めた。


 僕もそれを見て止めていた足を前に出す。

 だが、リアは膝に左手をついて、右手でお腹を抑えていた。


「おい、大丈夫かよ。お腹痛いのか?」

「う、うん……」


 完全に普通ではない。

 僕は一度、前にいた四人を呼び止めて状況を説明する。


「私の料理が原因かな? でも、他の人は大丈夫だし……」


 エリカは心配そうに、リアを見つめている。

 そして自分の料理が悪かったのではないかと反省していた。


「リア、ウンコしたら楽になると思う」

「おい、サラ。もう少しオブラートに包めと前にも言っただろ?」

「ウンピー?」

「可愛くしてどうする! でも、リア、木の陰で排泄したら楽になるかもしれないぞ?」

「う、うん。そうするわ。もし、覗いたら後で、い、たた……」

「覗かないから早く行け」


 呆れながらそう言い、僕はサラにティッシュを生成させてリアに渡すように言う。


「本当にごめんなさい。すぐに済ませるので」

「ゆっくりでいいからね、リアさん」


 エリカの一言にリアは作り笑顔で頷き、木の陰へ消えていった。

 それを確認し、カルロスが言葉を発する。


「みんなは大丈夫か?」


 カルロスの問いにみんなは二度首を縦に振る。

 リア以外は完全に大丈夫のようだ。

 そうなると、恐らくリアは運悪く、半生の肉を食べて当たってしまったのだろう。

 このイベントならではの問題だな。

 エリカも当然そういうことには気を付けていたはずだが、何しろ焚火を使って料理をしているのだ。

 慣れない部分もあるのだろう。

 僕も魚を焼くということすら、出来なかったからな。


 リアが木の陰に消えてから十分が経った。

 僕たちは静かにしていると、リアの排泄音が聞こえる可能性があると思い、気を利かせてこれからについて話していた。


 まぁサラだけが兎と鹿を楽しく狩っていたが夕食の食料が出来たので何の問題もない。

 むしろ、有り難い行動だ。


「そろそろ日が暮れる時間だな」

「そうですね。松明は一応ありますが、出来れば何も見えなくなる前には戻りたいですね」


 僕は手を組み、冷静な表情のカルロスと空の調子を伺いながら会話する。

 烏が鳴き始め、空が青色から橙色へ変わっていく。

 風も強くなり始め、木々が荒々しく揺れ、騒がしい音を奏でる。


 と、その時だった。


「キャーッ!」


 リアが消えていった木の陰の方から、烏を飛ばすほどの叫び声がした。

 間違いなく、リアだろう。

 もしかして、何かしらの生き物に襲われかけているのだろうか?


「サラを先頭に叫び声の方へ向かうぞ」


 カルロスの冷静な指示に無言で頷く、僕たち四人。

 サラの背中を追い、急いでリアがいると思われる場所に向かうと、そこには排泄を終わらしたと思われるリアが腰を落としていた。


 すぐさま僕たちは近寄る。


「リア、どうしたんだ?」


 僕がそう聞くと、リアは塞がらない口で声にならない声を出しながら、ゆっくりと指を差した。

 すぐに皆がその指先に視線を向ける。

 すると、そこには……人間が死んでいた。


 足首は無く、手は変な方向に向き、顔は体から離れた場所に転がっていた。

 地面は血で溢れかえり、ハエがその上を羽音を「ブンブン」と鳴らしながら飛びまわっている。


「な、何があったんだよ!」

「……」


 僕の問いにリアは答えない。

 いや、答えられない状態と言った方が正しいか。

 完全に固まっている。


「ゼロ、とにかくここから一度離れるよ」

「えっ……」

「人間を殺すだけの生き物がいるかもしれないからね……急ぐよ!」


 僕は放心状態のリアを背負い、サラを先頭に僕たちは洞窟へ向かって走る。

 後ろには一応、ダイチがおり、戦闘向きではない僕たち四人がサラとダイチに挟まれているという状態だ。


 クソ、足が重い。

 この地面と朝から歩き続けた疲労がここにきて完全に来ている。

 動けよ、僕の足!


 ――ピュー!


「はぁ、はぁ、か、カルロス! 何かに狙われているぞ!」


 ダイチが声を荒げながらそう言う。

 すると、二本の矢が僕の足の横を通過し、地面に突き刺さった。

 矢を使う生き物って何だよ!

 知能の高い霊長類でもいるのか?

 最悪だ、このタイミングでそんな生き物と出くわすなんて……。


「サラ、フラッシュバンを五個。後方へ十秒おきに!」

「任せて」


 サラはササっと一度先頭をカルロスに譲り、後方まできて、僕の指示通りにフラッシュバンを投げる。

 その行動を見て、すぐにダイチは先頭へ。

 何も言わずに的確な判断が出来るダイチは本当に優秀だ。


 三十分後。


「はぁ、はぁ……」


 僕たちは何とか逃げ切り、洞窟へと戻って来た。

 みんな洞窟に溜めていた川の水をコップに入れて勢い良く飲み、体力を回復させる。


「クッソがっ! やられた……」


 コップを壁に叩きつけてそう言い、腕を抑えているのはダイチ。

 恐らくあの矢を一発掠ったのだろう。

 出血はそこまで酷くないが、戦闘系、しかも、弓を使うダイチの腕の怪我は僕たちにとってかなり痛い。

 それにリアは現在も放心状態で、回復スキルを使用できる状態ではない。


「まずは落ち着こう。どんな生き物なのかは分からない。だが、流石に弓を使う生き物なら、ここまで追ってくるという判断はしないだろう」


 カルロスの言葉から分かる通り、カルロスは先ほどの生き物をそれなりに賢いと認めている。

 もちろん、その意見には僕も同じだ。

 あの場所、あのタイミングで襲撃してきたということは、僕たちはいつからか分からないが完全に狙われていたということ。

 しかも、一切気付かれることなくだ。


「とにかく焚火だ。そして夕食にする。それと俺の許可なしに洞窟から出るのは禁止だ!」


 カルロスの言葉にリア以外の僕たちはそれぞれ返事し、役割分担をして夕食の準備を始めるのであった。

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