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32.協力

「何から何までしてもらい、すみません」

「いいのいいの! ほら、温かいうちに食べて!」


 エリカから石の皿に入った湯気を立てているシチューをもらう。

 中には熊肉やキノコ、山菜などがたくさん。


「いただきます」

「はい、どうぞ!」


 僕はスプーンでシチューを口へ。


「うっ、美味い」


 自然とそんな言葉がこぼれ、頬が緩み、体が温まる。

 二日ぶりのちゃんとした料理。

 たった二日ぶりでも、それはとても美味しく感じた。


「でしょ! おかわりもあるからね!」

「はい、ありがとうございます」


 現在、僕とエリカだけが洞窟内で焚火を囲んでいる。

 僕は熊の返り血でドロドロだったということもあり、先に川の水を浴びさせてもらった。

 服も洗い、今はパンツに熊の毛皮を剥いで作ったコート一枚で過ごしている。

 熊の毛皮は思った以上に温かく、肌触りも悪くない。


 リアとサラはというと今丁度、川で水浴びをしているところだと思う。

 太陽も落ち、寒いと思うがしっかり体を洗っているだろう。

 特にリアは。


 残るカルロスとダイチは焚火に使う枝拾いだ。

 先にシチューは食べたようで、僕が水浴びから帰って来たと同時に出て行った。


 まぁそういうわけで、エリカと二人きりなのだが、今のところ変なことはされていない。

 意外と言えば意外だがラッキーなので、別に「何で大人しいんですか?」などという無駄な質問はしなくていいだろう。

 僕が期待しているみたいになるしな。


 それよりエリカたちには聞きたいことが山ほどある。

 カルロスとダイチ、リア、サラも一緒に会話したいが、そうすると話が夜まで続き、明日に影響を及ぼす可能性があるので、先に会話を始めることにする。


「エリカ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「え、ええ、もちろん」


 エリカは顔をこちらに向け、微笑みながらそう言う。

 それを見て僕は口を開く。


「何で僕たちと合流することにしたんだ?」


 まず最初の疑問はこれだろう。

 イベントとはグループ戦を全グループで行っているようなもの。

 合流をする必要性はもちろんないし、むしろそんな時間があればイベントポイントを稼ぐべきだ。


「んー、ゼロ君たちと行動する方が安全と思ったからかな?」

「それだけ?」

「え、いや、そのイベントってグループ戦と違って協力戦みたいなところあるからさ」

「協力戦?」

「うん、イベントってさ、今回は体を使うイベントだったけど、他にも頭を使うイベントもあるの。だけど、どちらも得意なグループって珍しいから苦手なグループは得意なグループに協力してもらったり、上位を目指すなら得意同士が協力し合ったりするのよ」


 つまり、イベントは一対一対一……のようなバトルロイヤル形式ではなく、メニューバーを見るだけでは分からないが、一対二や四対五などで戦っていることになっているってことか。

 もちろん、それにはメリットもあればデメリットもある。

 だとしても、イベントのジャンルにあったグループと協力すのはメリットというわけか。


「つまり、僕たちと一緒に上位を目指すために合流したってことですね」

「まぁそうなるね。サラさんは大きな戦力だから」


 そう言い、エリカはコップに入った水を飲む。


 言い方を変えれば、エリカたちは僕たちの力を利用するために合流したことになる。

 でも、それは別に僕たちにとってデメリットではない。

 なぜなら、僕たちも上位を目指しているからだ。

 それに今回、エリカたちが合流してくれてなかったら、僕たちは死んでいたかもしれない。

 いや、死んではなかったけど、僕はあの力を使うことになっていただろう。


 エリカとの会話は一旦休憩。

 僕はシチューを食べ、体力を回復させる。

 しかし、何度も言うが美味しい。

 自給自足の生活に慣れているエリカたちは本当にあらゆる面で強いと思う。


 洞窟内に沈黙が続く中、僕は夕食を食べ終える。

 熊と一勝負したこともあり、シチューを三杯も食べてしまった。


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」


 僕が食べ終わった瞬間、洞窟外から足音がする。


「ただいま! 帰り道で二人と会って一緒に帰って来たよ」


 カルロスがそう言い、洞窟の隅に木の枝を置く。

 ダイチもそれに続いて木の枝をほり投げた。


「ご飯! ご飯!」

「サラさん、すぐ用意するわね」

「エリカさん、ありがとうございます」

「いいのよ! リアさんも座ってね」

「は、はい」


 二人は僕の隣にある石の椅子に腰を下ろす。


「な、何見てるのよ!」

「い、いや、別に」


 いや、だって二人とも僕と同じく、熊の毛皮のコートなんだよ?

 自然と目が引き寄せられるというか、何と言うか。


「ゼロの変態!」

「変態!」

「おいおい、三人の前で変態は止めろ!」


 その会話を聞き、カルロスたちは声を出して笑う。

 おかげで場は和んだが、僕は少し恥ずかしかった。

 全く、リアとサラは……。


        ⚀


 夕食を食べ終わり、午後九時。

 サラは疲れたのか、もう眠ってしまった。


「協力していくにあたって、色々情報交換しませんか?」

「もちろん、俺たちもそのつもりだったよ」


 僕の言葉にカルロスは真剣な声でそう言う。

 他のみんなも顔つきが変わった。

 これからするのは真剣な話。

 今後のイベントに大きく関わることになる話だ。


「まずはスキルから話しますか?」

「だな。ゼロは確か『なし』だったか」

「恥ずかしながら、そうですね」


 僕はコップに入った水を喉を潤す程度に飲む。


「その分、リアとサラは優秀ですよ」

「それにしては熊に苦戦していたようだが」

「それはまぁ……戦闘系のスキルがないので」


 他の三人は静かで、僕とカルロス、焚火の音と洞窟外から入ってくる風の音だけしかしない。

 とても緊張感のある雰囲気だ。

 僕は「ごほん」と咳払いをし、スキルについて話し始める。


「まずリアのスキルは『回復』。名前通り怪我や病気を治すことができます」

「それは頼もしいスキルだな。しかも、レア中のレアスキルだ」


 カルロスが言う通り『回復』スキルはレアで使い勝手が良いスキルだ。

 現在、リアのレベルは20丁度。

 前は軽傷程度なら完全回復可能だったが、今は重症も一応だが対応できるぐらいになったようだ。

 その証拠に昼のサラの大怪我を完治まではいかないが、一命を取り留めることはできていた。


 僕は次にサラのスキルについて話し出す。


「サラの方は『生成』。これはかなり珍しいスキルで、サラの記憶領域にあるものを掌から生成できます。ですが、ある程度の制限はあるのが欠点ですね」

「面白いスキルでもあり、最強とも言えるな。制限はどんな感じだ?」

「大きさや一日の生成回数ですね」

「なるほど。妥当だな」


 強いということは、それなりの欠点がある。

 それは当たり前であり、そうしなければこの世界の秩序が狂う。

 と、言ってもサラのスキル『生成』もある程度は使い物になるようになった。

 リアと同じくレベル20になり、掌サイズの生成は制限なしに。

 現在、両手サイズのものは一日に一度だけ使える。だが、その生成にはかなり疲れるという欠点がある。

 なので、まだ実戦では使い物にならない。

 特に今回のイベントでは使うことは無いだろう。


「しかし、二人とも確かに優秀だな。戦闘系のスキルなしということは、あの数の熊を殺したのはサラの戦闘能力のみということか?」

「まぁそういうことです」


 納得したように頷く、カルロスを含め三人。

 流石、サラとでも思っているのだろう。

 僕もその意見には同感だ。


「じゃあ、次は俺たちだな。まず俺から。俺のスキルは『鉱物変化』。こんな感じで石や岩などの形を自由に変えられる」


 手に持っていた石がまるで、粘土のように形を変え、小さな矢先になった。

 そしてその矢先をダイチへ。


「ということは、このシチューの鍋から皿、スプーン、椅子まで全てカルロスのスキルによって作られたってことですか?」

「そうだな。俺のスキルの制限は体以上の鉱物は変化不可。それだけだからな。かなり使い勝手が良い」


 確かに使い勝手は良い。

 このイベントにピッタリのスキルと言えるな。


「次は――」

「私ね!」

「おい、俺が説明するからエリカは――」

「私がするからカルロスは黙って!」

「は、はい……」


 待ってましたと言わんばかりの元気な声で、カルロスの言葉を遮ったのはエリカ。

 自分のスキルぐらい自分で言えるという感じだろうか。

 カルロスもエリカの勢いに負け、ため息をつき黙り込んでしまった。

 エリカはそれを見て、ニヤっと笑みを浮かべて口を開く。


「私のスキルは『毒感知』。その名の通り毒を感知できる。だから、毒キノコや花の毒などはすぐ分かるから、私といる限りは毒死することはないわ」

「まぁそういことだ、ゼロ。だから、エリカのおかげで、このハンティングゲーム中の食事は安心できるし、エリカの料理なので味も申し分ないってことだ」

「食事面に強いのは大きなメリットですね」


 このエリカの存在で、カルロスのグループは食事面で大きな得をしている。

 健康にも、味にも問題なく、四日間のイベントで食事に困ることはなさそうだ。

 つまり、僕たちもこれからは食事面は安心と言える。

 これは他のグループよりかなりの差が生むことができるな。


「最後は僕だね」


 やっとか、という感じの表情でそう言ったのはダイチ。


「僕のスキルは『狙撃』。目標物に向かって、石を投げたり、矢を射ると何も無い限り命中するスキルだよ」

「じゃあ、あの熊に矢を飛ばしたのはダイチだったということですね」

「そういうこと。まぁ言っても、僕だけの力じゃないけど」


 と言い、カルロスとエリカを見る。

 すると、二人は笑みを浮かべた。


 あ、そういうことか。

 矢先はカルロスの『鉱物変化』で作り、そこにエリカの『毒感知』によって見つけた毒物を塗っていたってことだろう。

 つまり、あの矢は三人のスキルが生んだ連携技。


 僕たちのグループがサラという一人の最強戦闘者を中心に戦っているのに対し、カルロスのグループは三人が協力し合い戦っているということか。

 これがグループで長年過ごしてきた差。

 圧倒的な差だ。


 ――凄いな。


「スキルも確認し終わったことだし、今後の方針でも語るか?」

「その前に一ついいですか?」

「ん? もちろんいいが何だ?」


 カルロスは眉間にしわを寄せ、不思議そうに首を傾ける。

 僕はカルロスたちにずっと聞きたかったことがあったのだ。

 熊を全滅させるメリットの最後の一つ。

 そう、『特別』のヒントについて。


「あの熊のイベントポイントを教えてほしいんですが」

「お、おう。別にいいが、ちょっと待ってよ」


 カルロスはメニューバーを開き、素早く確認する。


「えっと……50? まぁ生き物の大きさで言うと『大』だな」

「……嘘だろ……」

「ど、どうした?」

「い、いえ、何でもありません」


 僕は動揺をしていることを隠すように、コップの水を一気に飲む。

 はぁ……ヒントはなしか。


 熊の主は特別ではなく大。

 200ポイント+αではなく50ポイント。

 一体、特別とは何なんだ。

 どんな生き物を特別にしたんだ、マーガレットは……。


「ゼロ、本当に大丈夫か?」

「あ、はい。今後の方針を話しましょうか」


 僕は心配させないように、表情を戻してそう口にする。

 そこから僕たち五人はエリカの紅茶を堪能しながら、フクロウの鳴き声が聞こえる時間まで、今後の方針について話し合ったのであった。

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