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26.グループ戦と夕食危機

 つい三十分前に聞いた転送音と共に、僕たちはイベント特別エリアに到着。

 転送先には毎日のように見ていた草原が、辺り一面に広がっている。

 影一つないので、サンサンと降り注ぐ日差しが直接僕たちの肌に打ち付けていた。


『<情報>グループ戦が開始されました。

 相手:サタン

 内容:イベントの順位戦

 制限時間:イベント期間

 場所:イベント特別エリア』


 イベント開始と共にハンスとのグループ戦がスタートしたのか、マーガレットの声が脳内に響き渡る。

 グループ戦の情報によると、ハンスのグループ名はサタンというらしい。

 これでトップ100位に入っていれば、常に順位は確認できるはずだ。

 もちろん、それは相手も同じなのだが。


「ちょ、ちょっと! 何なの……これ?」

「あたしじゃない。うん、あたしじゃない」


 困惑した表情で、動揺しているのはリア。

 サラはとにかく今回は自分は何もしてないと、リアにアピールしている。


「ねぇ、ゼロ……もしかして、ゼロがグループ戦を受けたの?」

「まぁな」

「はぁ!? う、嘘でしょ?」

「サ、サプラ~イズ? 的な?」


 僕が作り笑顔をリアに向けてそう言うと空気が固まった。

 音も風もしない。

 まるで、この世界が今の状況に空気を読むように。


 すると、次の瞬間、リアが僕の胸元に両手でしがみついてきた。


「ど、どうしてそんな勝手なことするのよぉ! 何でよ! 相談してよ、私たちはグループでしょ!」


 目から鼻から水分が流れ出す。

 リアの顔はぐちゃぐちゃで、僕に触れている両手は震え、弱々しい。

 触ってしまうと崩れ落ちそうで、僕はただ見ていることしか出来なかった。


 この表情を僕は知っている。

 この声音を僕は知っている。

 リアが本当に怖がっている証拠だ。

 昨晩、寝る直前に感じたものと同じ。

 今ほど酷くなかったが、それは間違いなく同じものだ。


「悪い……でも、僕にも事情があるんだ」

「じ、じじょう? な、何のよ、事情って……」

「それは……言えない」

「な、何で? どうしてよ?」

「今は言えないんだ。本当にごめん……」


 僕はただそう言い、ゆっくりと目を閉じた。

 だって、リアの瞳を見ていると罪悪感に苛まれそうだったから。


 リアは「そ……っか」と壊れるように呟き、胸元から両手を滑らせ、そのまま地面に崩れ落ちる。

 思わず目を開けると、そこには絶望しているリアの姿があった。

 だがしかし、僕はそんなリアに対して何もかける言葉が思い浮かばず、リアが立ち直るまでその場を沈黙で過ごした。


 リアが少しずつ人やグループを信用し始めていたのは知っていた。

 それはカルロスたちとの会話や僕たちとの会話で実感し、嬉しく思っていた。

 だというのに、僕がリアを裏切るような行為をしてしまった。

 本当はこんなことになるとは思ってもいなかったし、リアなら笑顔でグループ戦を受け止めてくれると思っていた。


 まぁ正直言うと、昨晩の会話で嫌な気はしていた。

 イベントに「死」が関わるかもしれないと想像して恐怖していたからな。

 そして実際にイベントに「死」は関わっていた。

 間違いなくマーガレットの説明中に、恐怖を感じていたはずだ。

 いや、あの説明の後もずっと感じ続けていただろう。

 それなのに、ハンスとのグループ戦によって、更に追い打ちをかけてしまった。

 最悪だな、僕は。

 まぁでも、後悔してもどうしようもない。

 このグループ状況もイベントもグループ戦も乗り切るしかないのだから。


        ⚀


 鳥と草木の音を聞き始めて、何時間が経っただろうか。

 リアが崩れ落ちた後、僕たちは動いてもいないし、喋ってもいない。

 ただただ時間が過ぎるだけ。


「お腹、空いた」


 そんな空気を壊したのはサラだった。

 メニューバーで時刻を確認すると、午後四時過ぎ。

 そう言えば、夕食は何にしようか?


 そう思い、マップを開いてみる。

 すると、そこには絶望が広がっていた。


「何もない……だと」


 その言葉にサラは「え?」と変な声をあげ、あのリアさえもこちらを見た。


 な、何て言うことだ。

 このイベント特別エリアには、店どころか街すらない。

 一面、森や草原のみ。少し川もあるが、それ以外は何もない。


「どういうこと……なの?」


 僕を見て、マップを見たリアが異変に気付いたようだ。

 リアは先ほどまでの表情を忘れたかのように、眉間にしわ寄せて額に手を当てている。


「リア、一度夕食の方をどうにかしないか?」

「そうね。このままだと夕食抜きになってしまうわ」

「夕食抜き!? それは死ぬ」


 サラが僕たちの会話でやっと状況を理解したのか、顔を真っ青にしている。

 本当にご飯が好きだよな、いや、ご飯しか頭にないよな、サラって。

 まぁ夕食抜きにして、サラが使い物にならなかったら終わりだしな。

 とにかくサラの分だけでも夕食を用意しないと。


「マップを見る限り、この四日間は自給自足の生活をしなければならないと考えていいだろうな」

「間違いないわね。まずは水や山菜、出来ればお肉も欲しいところね」


 リアの様子を見る限り、一度先ほどの件は保留というところか。

 まぁ目の前にたくさん死ぬ要素があるからと言って、諦めるわけにはいかないからな。

 今は生きるための行動をするのが最善だ。


「じゃあ、川に向かおうか」

「そうしましょう」

「川! 熊さんいるかな?」


 なんかフラグのような発言しやがったぞ、サラの奴!

 絶対に出るなよ、熊!

 頼むから、イベント初日で死ぬとか嫌。

 てか、普通に死にたくない。

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