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20.襲撃

 僕たちがBNWに来てから一ヶ月。

 今は五月の下旬。


 僕は今日も商売だ。

 初日からゼロ教信仰者が絶えることはなく、毎日約1000人もの人を対応している。

 合計でもう3万人ぐらいだろうか。

 Gポイントも3000万ポイントを越え、もうGポイントに困ることはなさそうだ。

 まぁあの二人に言うと、無駄遣いするので言ってないがな。


 それにしても、一ヶ月も経つとIレイヤーの生活にもかなり慣れた。

 部屋からあまり出れないのは不自由だが、アルコールライフの常連や店員さんたちとはそれなりに喋るようになり、仲良くなった。

 リアとサラとも相変わらずで、喧嘩もせずに楽しく暮らしている。


 そう言えば最近、リアが街で有名になったらしい。

 と言っても、リアが自分で「美人で愛想がいいからか、みんなから好かれているの!」などとドヤ顔で言ってきただけだけどな。

 でも、サラの話を聞くに、リアを街で知らない人は本当にいないみたいで、もしかしたら僕と同じぐらいの知名度があってもおかしくないとか。

 正直、言いすぎだろと思いながらも、見た目と愛想は間違いなく一級品なので、あり得なくもない話でツッコむことはなかった。


 サラはサラで大食いと常識知らずなところが、子供ぽくって可愛いと色んな店の店主に餌付けされてるとか。

 だから、最近は出来るだけ夜はお菓子を減らしている。

 別に太ったりはしないと思うが、健康面が心配というか。

 アバターは病気や怪我をするのに、BNWの医療はあまり発達していない。

 恐らくIレイヤー=最下層だからという理由もあるのだろう。

 まぁリアがいるのでどうにかなるのだが、病気にならないことに越したことはない。


 ――11000ポイントが払われました。


 扉からいつもとは違うGポイント量が部屋に響く。

 何かのバグだろうか?

 ここは3000ポイントしかいらないはずだからな。


 そんなことを思いながらも、扉が開くのを待つ。

 すると、入ってきたのは一人の少女。

 身長は小学生ぐらい小さく、服は黒のワンピース。

 少女はゆっくりと扉を閉め、頭を下げてなぜか片膝をつく。


 しかし、一人で来るとは珍しい。

 普通、客はグループ三人で入ってくるからな。

 このパターンの客は初めてだ。


 というか、この少女は何をしているのだろうか?

 ずっと片膝をついた状態から動かない。


 と、その瞬間……


「うっ……ぐっ!?」


 いきなり何かに腹を蹴られ、僕は窓の壁に背中を強打する。

 痛みに耐えながら、目を開けるが目の前には少女しかいない。

 これは少女のスキルなのか?


 でも、グループ戦なしにこんなことしたら、絶対に犯罪行為と思われる。


「はぁ、はぁ……君、何をした……」

「……」


 少女は動くことも喋ることもしない。

 何がどうなっている?


 残り時間は十秒。

 とにかく今は何とか耐えるしかない。

 だって、ここで死ぬわけにはいかないからな。


「そろそろか、ミレイ。外へ出ておけ」

「分かりました。ハンス様」


 僕が少女に視線を向けていると、急にガタイの良い男が現れる。

 そして少女に命令し、少女は命令通り部屋から出て行った。


「お前は誰だ?」

「オレはハンス。Iレイヤー最強のグループでリーダーをしている」


 ハンスという男はニヤケながらそう答え、ベッドに腰を下ろす。


「いや~、やっぱり蹴りでは死なないかぁ~。ざーんねん!」

「さっきのはお前が?」

「え、そうだが……って、見えてなかったんだったな! グハハっ!」


 煽る口調でそう言い、組んだ脚を手で叩き、わざとらしく笑う。


「お、お前、犯罪行為にあたることを理解しているのか?」

「は? 何で? 見えないのに犯罪になるわけないじゃん?」

「何言ってんだ?」

「犯罪は見つかるから犯罪なだけで、オレの蹴りは見つかってない。だから、オレの行動が犯罪になることはないんだよ!」


 ハンスは意味不明な理由を述べ、「バカかよ、ゼ・ロ・さ・ま!」と付け加える。


 見えないから犯罪にならないってなんだよ!

 スキルで透明にでもなったのか?

 もしそうなら、透明になると犯罪がバレないというわけになる。

 いや、実際そうなっているのか。

 まだ透明になるスキルとは確信は持てないが、そうだった場合はかなり厄介な相手だ。


「それよりさ、少し話そうぜ」

「何をだ?」


 もう三十秒はとっくに過ぎている。

 なぜ扉から何も音声がしないのだ。

 これも何かのスキルか何か?

 いや、待てよ。


 僕は数分前の記憶を思い出し、あることに気付く。

 あの音声だ。

 3000ポイントではなく。11000ポイント。

 恐らくハンスは普通より多く払い、対面時間を増やしたのだろう。

 あの少女は三十秒で出て行ったから1000ポイント。

 こいつは1万ポイント。

 計算すると、1万ポイント=五分だ。


「そう、警戒するなよ。別に殺しはしない」

「そう言われると逆に警戒するんだが」


 何が目的だ。

 絶対にこいつはゼロ教信仰者ではない。

 ただ僕に会い、話をしに来ただけ。


「てか、そんな警戒する仲でもないだろ? 懐かしの仲間? いや違うか、懐かしの『一族』なんだから」


 目を大きく開き、口端を上げながら、そう言うハンス。

 一族という言葉だけで理解した。

 こいつが何者なのかということを。


「悪いがその話はこのBNWではしないでくれ」

「グハハっ! そうだよな。けどよ、一族にそれは冷たくないか?」

「お前を知らないのだから仕方がない」

「だ、だよな! ランキング136位のオレなんか知らないよなぁ~!」


 今の言葉で確信した。

 やはり僕はこいつが何者なのか知っている。だが、僕はハンスを知らない。

 でも、ハンスの方は僕を知っている。それも詳しく。

 間違いない、ハンスは一族の一人。

 昔、一緒に育った『あの世界』の生き物だ。


「それでお前は何が目的だ?」

「あー怖い怖い。昔からそうだったな」

「そうか? 変わったはずだが?」

「一族の前では変わってねぇーよ! それよりオレとグループ戦をしろよ」

「断る」


 グループ戦など無暗にやることではない。

 それに一々こんなやつの要望に応えるわけがない。


「それは止めておいた方がいいぜ!」

「なぜ?」

「そら断ったら、ゼロの過去をこの世界中に広めることになるからな」

「卑怯なやつめ」

「何とでも言え、グハハっ!」


 楽しそうに笑うハンス。

 目的はグループ戦をすることだったようだ。

 つまり、僕を『殺す』ことが目的。

 面倒なやつに目を付けられたな。


 しかし、僕の過去で脅されると断ることはできない。

 僕という存在はまだバレるわけにはいかない。

 いや、出来ればバレずにAレイヤーまで行かなければいけない。

 そうしないと、僕の『目的』が達成しにくくなる。


「仕方ない。グループ戦の件、受けてやるよ」

「まぁだよな!」

「で、何をする?」


 内容によってはかなり大変になる。

 僕はレベル0のスキルなし。

 普通に考えて、戦闘系で勝つのは不可能に近い。


「オレが普通に戦ってもゼロには勝てねぇーからな。というわけで、七月にあるイベントの順位で戦わないか?」


 ハンスのやつは恐らく僕がレベル0のスキルなしとは知らないのだろう。

 知っていたら、僕と普通に戦って負けるなんて思うはずがないからな。

 過去を知りすぎたせいで、警戒しているといったところか。


 それよりイベントの順位で戦うってどういうことだ?

 イベントに参加したことがないので、分からないのだが話を聞く限り、イベントには順位が存在するということだけは分かる。


「イベントの順位で戦うとはどういうことだ?」 

「そんな怖い顔するほど難しいことじゃねぇーよ。ルールは簡単、イベントの終了時に順位が高かったグループの勝ち。ただそれだけだ」


 かなりシンプルな内容。

 直接対決というよりかは間接対決と言うべきか。

 僕的には有り難いと言うべきか、いや、油断はできない。

 実力、イベントの詳細が分からない以上はまだ何とも言えない。

 ある程度の準備はしておくべきか。


「分かった。それでいい。その代わり、さっきのように手を出すな」

「もう手を出す気はねぇーよ」


 ――五分が経ちました。部屋から退室してください。


 扉の方から音声がする。

 長いと思っていた五分が思った以上に早く経ったようだ。


「じゃあ、オレは行く。グループ戦はイベント開始と同時にスタートだからな」

「ああ、分かった」


 僕の言葉を聞いたハンスはポケットに手を突っ込みながら部屋から出て行く。


「はぁ……」


 反射的にため息がもれる。

 本当に面倒なことになった。

 このグループ戦、あの二人に言うべきか?

 だが、僕について説明はできない。


「……サプライズでいいか……」


 と、苦笑いをしながら呟く僕。


 それより一族がこの世界にいるとは思ってもいなかった。

 一人いるということは他にもいるのだろう。

 そして一族たちの目的は――。

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