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12.作戦会議

 10万ポイントを使わされた翌日。

 僕たちは別の宿を見つけるのも面倒だったので、次のレイヤーに行くまではアルコールライフに泊まることにした。


 それより今日は作戦会議の日。

 僕たちは必要最低限、いや、それ以上の物を昨日のうちに手に入れたということで、昨晩は「明日はレベル上げについて話そう」と言って眠りについた。


 そして三人が起きた時刻は午後十二時。

 別にそれほど長話になることはないので問題ないが、流石にダラダラ生活すぎる。

 僕たちは軽く昼食を済ませ、晩飯を先に買い、宿であるアルコールライフに戻った。

 それが午後五時。現在の時刻である。


「本当にこの世界の生活は楽だね」

「分かる。食べ物もいっぱいあるし」

「Gポイントがあるからだろ? そしてそれは僕のおかげ」


 おかげと言っても、僕はそのせいでこの世界に転送されたのだが。

 まぁBNWのみんなに感謝されたので、別に後悔はしていない。


「ゼロはみんなのATMだね」

「ATM? アホで怠惰なマリモ?」


 誰がATMだ、リアの奴。

 どう考えても、お正月に会う親戚のおじさんとか、サンタクロースの方が正しいと思うが。


 それとATMは『アホで怠惰なマリモ』じゃないぞ、サラ。

 てか、僕のことをそんな風に思っていたのか?

 マリモの要素ある?


「はぁ……」


 僕はため息をつき、サラに「マリモって知ってるのか?」と聞いてみる。


「うん、球状集合体を作ることで知られている淡水性の緑藻の一種」

「おい、詳しいな」

「褒めてる?」

「全く褒めてない」


 サラのマリモの知識量が半端ない。

 確かにマリモは可愛いとか言われて、一部で人気だが、サラもマリモを可愛いと思う系女子なのか?

 てか、サラのやつ知っていて僕にマリモって言ったのか。

 酷い、酷すぎる。


「それよりさ、そろそろ作戦会議しないか?」


 その言葉に二人は「ん?」と顔にクエスチョンマークを浮かべて、買ってきたポテトや小さな唐揚げを床に並べている。

 自然にサークルの飲み会みたいなこと始めないで!


「だから、用意してるじゃん!」

「そう、『食わざる者、働くべからず』って言うし」


 それは『働かざる者、食うべからず』じゃない?

 完全に反対だよね?

 てか、サラはまだグループ戦を勝手に行うという問題しか起こしてないからね。

 本当にずっと食べてるだけだから。

 働いた比率と食事した比率が0:100だから。

 まぁそんなこと言っても、無視されるだけか。


「別にいいけど、やる気があるなら」


 そう言って、二人の食べ物の準備を待つ。

 三分後、僕がボーっと待っていると、リアがやっと口を開いた。


「じゃあ、始めましょうか」

「間食パーティー」

「違うからな、サラ」


 流石にツッコミを入れて、作戦会議は始まった。


「まずはレベル上げについてだね」

「だな。僕には関係ないけど、二人には重要だしな」

「本当にレベル0とか使えない」

「昨日奢っただろ、それは許してくれ」


 冷たい目のサラに僕はそう言い、小さくため息をつく。

 昨日の奢りは何だったのだ……。

 無駄遣いとしか思えなくなってきたぞ。


「で、どうする?」

「あたしはグループ戦がいい」


 サラはサラッとそんなことを言う。

 こいつは負ける気がないのか?

 それともバカなのか?

 どちらにしても再教育が必要である。


「おいおい、グループ戦だけはなしだ」

「何で?」

「Iレイヤーのみんなは家族って髭の生えた男が言ってただろ?」

「でも、前はグループ戦した」

「それはかなり特殊なケースだ。Iレイヤーのみんなはグループ戦を好んでいない。それは次のレイヤーに上がる気がないことから想像がつく」


 その言葉を肯定するようにリアも頷き、口に入っていた物を呑み込んで話し出す。


「それに加えて、グループ戦は命がかかるからね。不必要なグループ戦は避けるべきだわ」

「でもそうなると、次のレイヤーに上がるのも、レベル上げも時間がかかる」


 ポテトを食べながらだが、意外とまともなことを言うサラ。

 確かにレイヤーに上がるのも、レベル上げにも時間がかかることになる。でも、死んでしまえば、元も子もない。


 それにまずイベントかグループ戦しかGスコアは獲得できない。

 その時点でBNWでトップになるのに時間がかかることは目に見えている。

 だから、焦ることもない。


「そう焦るな。僕たちはトップになることを急いでいない」

「ゼロの言う通りよ。私たちが今することはレベル上げ、それとGポイントの獲得ぐらいよ」

「ふん~、そっか」


 僕とリアの言葉に納得したのか、そう言って黙り込んだ。

 サラは急ぐ傾向があるからな。

 最初のグループ戦もそうだ。

 マイペースすぎるというか、マイペースは悪くないのだが、僕たちはグループ。

 だから、グループのペースというものを作り、進んでいかなければならない。


「それでレベル上げだが、リアどうする?」

「普通に考えてハントが妥当ね」

「だよな」


 僕とリアの考えは同じのようだ。


 ハントは死ぬ確率が低い。だが、地道なレベル上げ方法だ。

 でも、これがレベル上げの中では王道だろう。

 それに商売でレベルを上げる方法はあまり僕たちに向いていない。

 向いてないと言うか、何も売る物がない。

 それに次のレイヤーに行く度に店を用意するのは、時間がかかる上に面倒だからな。


「けど、ゼロは足手まとい」

「確かにそうだけど、はっきり言わないでくれ」


 サラ、僕も傷付くんだよ?

 そろそろ理解してくれないか?

 僕、傷付くと悲しそうな表情してるだろ?


「ゼロの足手まといについて、私に考えがあるわよ!」


 胸を張り、胸に手を当て「任せなさい」と言うリア。

 デカいなぁ……じゃなくて!

 一体、どんな考えなのだろうか?


「サラ、昨日と今日で生成した物を貸してくれる?」

「うん、いいよ」


 そう言い、サラが自分の鞄から取り出したのは『木材』『釘』『ハンマー』。

 昔に流行ったDIYってやつか?

 何を作る気だ?


「この三枚の木材は購入した物で、釘とハンマーはサラの生成品ね」


 自慢気にそう言うリア。だが、別に驚くこともないので無反応の僕とサラ。


「で、これをこうやって! よいしょ! よいしょ!」


 三枚の木材をコの字にし、ハンマーで釘を打っていくリア。

 可愛らしい「よいしょ!」という声と輝く汗はどこかあざとく感じる。

 ハンマーを打つと同時に胸が大きく揺れるのは狙っているのだろうか?


 サラが凍えるような瞳で見つめているのだが、僕には怖くて仕方がない。

 だが、サラのそんな表情も気になりつつ、リアの胸元が気になるのは男として自然なことなので僕は悪くないと言っておく。

 胸には男の目を引き寄せる能力が昔からあると科学者が言っているしな。

 え? 言ってない?

 でも、男がみんな言うから科学以上の説得力があるだろ?


「ふぅ~、最後の一発!」


 胸をボヨンっという効果音が聞こえるほど揺らし、リアは出来た物を満面の笑みで僕たちに見せてくる。

 しかし、首筋を流れる汗が謎の色気を生み、僕はなかなか出来た物に目がいかない。

 頑張れ、僕の瞳! あと少しだ、僕の瞳!

 よし! ラストスパートって、え?


「何これ?」


 サラが僕が思っていたことを言ってくれた。

 コの字のこれは一体何?

 まずこれで何をする気なの?


「椅子だよ、椅子! どう見ても椅子でしょ!」


 どこが椅子なの?

 何時代の椅子ですか、これ。

 縄文とか弥生ですか?


「あー、椅子か。確かに」


 なぁ、サラ。手を叩いて納得しないでくれる?

 僕だけが椅子と認識できなかった残念な奴みたいじゃん!

 仕方ない、ここは理解出来てる風に話を進めよう。


「この椅子をどうするんだ?」

「これに……」


 リアが僕を引っ張り、無理矢理立ち上がらせる。

 そして「ほれ」と言いながら、僕の下に椅子を置いた。

 僕はゆっくりと椅子に座る。


「「おー!!」」


 二人から謎の歓声が上がるが、本当に謎すぎて反応に困る。

 何が凄いのこれ?


「えっと……」


 なぜか輝いた瞳をこちらに向けてくる二人に、僕は少し恥ずかしくなり頭をかく。


「何か言ってくれないかな?」


 その雰囲気に耐えられなくなり、そう言う僕。

 じゃあ、二人はなぜか正座をして、「ゼロ様」と頭を下げた。

 何これ?

 かなり恥ずかしいんですけど。

 新手の嫌がらせ?


「お、おい。ちょ、どういことだよ!」

「だから、これでGポイントを稼ぐの!」

「は!?」


 意味が分からない。

 何が「だから」なの?

 それと「これ」って何?

 これ=僕?

 僕はもう何扱いなの? 物か何か?

 Gポイントを稼ぐって、僕を売る気なのか?


 僕の頭にあらゆることが過る。しかし、答えは出ない。

 というか、怖くなってきた。


「知らないの? ゼロは今ではIレイヤーで有名なんだよ?」

「そ、それで?」

「しかも、神様として崇められているのよ」

「そう、ゼロ教」


 BNWに僕の宗教が出来たようです。

 三大宗教である仏教、キリスト教、イスラム教の中にゼロ教が加わったようだ。

 いや、それは言いすぎか。

 でも、これってかなり凄いことなのでは?

 それよりこのゼロ教がなぜGポイントを稼ぐに繋がるの?

 てか、いつから僕はGポイントを稼ぐことになったの?


「そ、それでどうする気だ?」

「ゼロ教をのゼロを使い、ゼロ教信仰者からGポイントを頂くのよ!」


 今、かなり凄いことを簡単に言ったよな、こいつ。

 リアはやはり怖い。考えることが怖い。

 純粋なゼロ教信仰者を使うなんて悪すぎでしょ!

 罰当たりだよ、それ。


 まぁリアは全く罪悪感なんかなさそうだけど。

 使えるものは何でも使おうという考えなのだろう。


「言ってることは分かるが、具体的にはどうする?」

「ゼロはその椅子に座っているだけでいいわ。それでゼロに会うのに1000ポイントを払うようにして、バカなゼロ教信仰者からGポイントを取るのよ!」


 こ、こいつ、ゼロ教信仰者をバカだと言いやがったぞ!

 僕の信仰者になんてことを!

 酷すぎる、流石に僕も怒るよ?

 ゼロ教の神として罰を与えるよ?


「簡単に言えば、『商売』か」

「そうそう! 場所はここにしたわ!」

「ここってこの部屋のことか?」

「そうよ。扉がないと商売にならないからね」


 確かにそうか。

 僕が見えていたら、ただ僕を拝むだけの光景が出来るだけだしな。


「それにアンナさんが客が増えるから、宿泊費を無料にしてくれるって! これぞ一石三鳥!」


 それは凄いな。

 宿泊費が無料になって、商売する場所が手に入り、何も売らずにGポイントが手に入る。

 まさに夢のような稼ぎ方。

 一石三鳥と言う理由も分かるな。


「それでいつから始める気だ?」

「明日から始めるわ!」

「明日!?」

「サラ、扉の改造は出来てる?」

「言われた通りした」


 え、何? 勝手に扉を改造したの?

 一体、サラは何者なの?

 そういう系のプロなの?


「午前は午前九時から午後一時まで。午後は午後二時から午後六時まで。だから、昼食はその間に食べてね」

「あ、ああ、分かった」


 展開が早くてついていけないのだが。

 なんか知らないうちに話進みすぎじゃない?

 昼まで寝てたはずだよね?


「扉はGポイントを払うと中に入れるように改造したから、ゼロは勝手に内から開けないように! 襲われても知らないからね?」


 ゼロ教の信仰者は僕を襲うの?

 なかなか怖い商売だ。

 気を付けないとな。


「しっかり記憶したから大丈夫だ。で、二人はその間どうするんだ?」

「もちろん、ハントでレベル上げよ!」

「そう。ゼロと違って忙しい」


 僕も充分忙しいと思うんだけど。

 この商売って地球で例えるなら、アイドルの握手会みたいなもんだろ?

 神だけにリアルに神対応しないといけないし。


「まぁそういことだから」

「分かったよ」


 そういうことで僕たちの作戦は決定した。

 僕は商売。二人はハント。

 意外と悪くないと思う。


「じゃあ、明日から頑張るぞ!」

「「おー!!」」


 リアの言葉に僕たちは返事し、明日の準備を始めるのであった。

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