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11.Gポイントの謎

 朝食を食べ終わり、アルコールライフに戻ると既に酔っ払いで店内は溢れていた。

 店のメニューには酒は800ポイントと書かれているが、誰も躊躇することなく、酒がなくなれば頼んでいる。それに加え、色んなおつまみが机に並ぶ。


 こんな朝から夜までこれだけ飲み食いすれば、恐らく昨日の僕たちの夕食並み、いや、それ以上の値段になることは間違いない。


「そろそろ聞き取り調査を始めるか?」

「そうね、私が基本的に喋るわね」

「ああ、頼む」


 ラックの中で一番コミュニケーション能力が高いのはリア。

 他にもカジノで培った表情や態度を読み取る能力は非常に高い。

 メンタリストと呼んでもいいぐらいだ。

 僕も最初「巨乳」と心の中で呼んでいたことがバレていたしな。


 そういうことで僕たちは空いてる席に腰を下ろす。

 そして店員に無料である水を頼む。


「おー、昨日の初心者さんじゃねぇーか!」


 いきなり髭の生えた男が話しかけて来た。

 話を聞く限り、昨日のグループ戦を見ていたのだろう。


 その男に続くように、ぞろぞろと僕たちを囲むアルコールライフの客たち。

 暑苦しいというか、おっさん臭いというか……アルコール臭いというか。


「今日は皆さんにこの世界について聞きたくて」

「おーおー! いいぜ! それで初心者さんはいつここに?」

「昨日のお昼です」


 リアのその言葉と共に店内に謎の「おぉー」という歓声が上がる。

 他にも「やべーぞ」とか「こえ~」という声が聞こえる。


「てめぇーら、静かにしろ! 悪いな、初心者さん」

「いえ、大丈夫です」

「しかしな、この世界に来て、数時間後にグループ戦でビギナーズキラーに勝つことはかなり凄いことなんだぜ!」


 その言葉に周りの奴らも大きく頷く。


「え、そんなに強いグループだったんですか?」

「ここの番長的なグループだったからな! まぁあいつらを好きな奴は誰もいなかったけど」


 そういうことだったのか。

 ここのトップを倒したのだから、僕たちがこれだけの注目を浴びるのは当然。

 しかも、嫌われ者を倒したのだ。僕たちは救世主に近い。

 そうなると、もしかしたらアルコールライフにいる客は僕たちのことを、ここのトップと認めているかもしれない。


「イカサマをする人は好きになれませんよね」

「んー、イカサマは関係ねぇーよ。ただあいつらは、いや、あの男二人はクズだ」

「クズ?」

「ああ、態度も大きいし、すぐに暴れる。それに昨日、男二人の後ろにいた女いただろ?」


 あの肩をすくめていた二十代後半ぐらいの女か。

 死ぬ時に「やっと死ねる」とか言っていたのが印象に残っている。


「はい、見ました」

「あの女は男二人に酷い性行為を受けていたんだ。この世界ではグループ内の犯罪は適用されない。殴っても、蹴っても、レイプしたって罪にはならないということを利用してな」

「最低……ですね」


 リアはそう言って、顔を引きつっていた。

 僕たちも思わず、瞼を閉じる。


 でも、これであの女の言葉の理由が分かった。

 暴行や性行為を受けていたから「やっと死ねる」という解放されるような言葉を言い残したのだろう。

 可哀想に。グループ分け一つで天国と地獄だ。


 ところで、グループ内で犯罪が適用されないというのは謎だ。

 地球では家族でも犯罪は犯罪だったからな。

 キュベレーがBNWを出来るだけリアルに近づけているという点を考えても、グループ内だけ扱いを別にしているというのは理解に困る。でも、何か考えがあるのだろう。


「まぁな」

「でも、何でグループ内では犯罪が適用されないんですか?」

「それはグループだから」

「えっと……」


 納得できない回答に困った表情で、首を傾げるリア。

 まぁそらそうだろう。僕も全く同じ気持ちである。

 それを見て、「ごほん」と咳払いをして髭の生えた男は口を開く。


「つまり、BNWのグループとはBNWでトップになるためのグループ。そのために性行為や暴行が必要なら、それは仕方ないということなんだよ」


 これは難しいというか、滅茶苦茶な理由だ。

 簡単に言えば、グループ内で行うことは全て『BNWでトップになるための行動』と判断されているということ。


 そうなると、グループ内では実力と同じくらい、協力が必要になるというわけか。

 キュベレーにとって協力できないグループは理論上はトップになれないという考えがあるとみていい。

 だから、グループ内のルールをこれだけ自由にしているのだろう。

 キュベレーらしい考え方だ。実に面白い。


 リアや僕、サラが黙っているのを見て、髭の生えた男は頬をかいて話し出す。


「まぁ、納得できないよな。でも、これに関してはどうしようもない」

「ですよね」


 暗い表情でそう答えるリア。

 暴行や無理矢理な性行為の光景でも想像しているのだろうか。

 それとも僕にこれから暴行や性行為をされることに恐れているのだろうか。

 僕的には出来れば前者であってほしい。


「まぁ、初心者さんが暗い顔するのは分かるよ。でも、グループ内でそんなことをしているのは一部だ。ここにいる奴らは誰もそんなことしてねーよ!」

「そ、そんなの分からないじゃないですか」


 訴えかけるように青い瞳を髭の生えた男に向ける。

 すると、髭の生えた男は鼻で笑い、「それはねぇーよ」と一言。

 そして言葉を続ける。


「Iレイヤーにいる奴らはみんな仲間みたいなもんだ。もう五年以上の付き合いということもあり、お互い信用し合っているよ。まぁ次のレイヤーに上がる気がないグループの集まりだから、信用し合い、協力し合っているだけなのかもな!」


 その言葉に周りは頷き、「確かにな」や「間違いねぇー」などと共感している。

 不思議だ。

 何というかグループ内しか信用できない世界だと思っていたせいか、この光景を見ると人間の温かさを感じる。それは地球上の人間すら忘れていたもの。

 ここにいる人にとってレイヤーに上がらないということは、敵対しないということなんだろう。


「けど、何で次のレイヤーを目指さないんですか? 次のレイヤーの方が豪華になるんですよ!」

「まぁそれは……別にこの生活が嫌いじゃないからだよ。だよな、てめぇーら!」


 その髭の生えた男の問いに周りの奴らは「そうだぜ!」や「ここは意外と住みやすいんだ!」とか、「酒があれば生きていけるからな!」と酒の入った木製のコップを上げて楽しそうに答えている。

 その姿を見ると、本当に幸せそうに見える。


 確かにBNWのトップを目指さないければいけないルールなどない。

 Gポイントの使い過ぎだけに気を付ければ、この世界は楽しく生活できるはずだ。

 それに犯罪もほとんどないから治安も良い。

 この人たちとってはIレイヤーが最高の居場所なんだろう。


 それよりそろそろGポイントの話をしたい。

 僕はリアの耳元でGポイントについて話すように言う。

 リアはいきなり僕が耳元で囁いたせいか、「ひゃっ!」と変な声を上げて、僕を睨んできたが別に気にしない。

 愛想を振りまいて、雑談を続けるのが悪いのだ。


「あの、一つ聞きたいことがあるんですが……」

「おー! 何でも聞いてくれ!」

「GポイントとIレイヤーの物価について教えていただきたいなー、と」

「あー、そういうことか。最近のことで俺らもあんまり詳しくないんだがな」


 髭の生えた男は難しい表情でそう言い、一人の男を呼んだ。


「こいつのスキルは『撮影』と言って、目に映ったものを撮ることができる。それでだな、なぁあの写真を出してくれないか?」

「任せてください」


 そう言い、『撮影』というスキルを持っている男はある写真を胸元のポケットから取り出す。


「これは?」


 リアは不思議そうに写真を見てそう呟く。

 僕とサラも後ろからその写真を覗いてみる。


 パッと見る限り、メニューバーの写真のようだ。

 これがGポイントに何か関係があるのだろうか?


「これは一週間前にきた謎の通知。ここを見てくれ」


 そう言われ、髭の生えた男が指差す場所を見ると、そこには『100万ポイントがプレゼントされました』と書かれていた。


「100万ポイントですか」

「ああ、それで一週間前から物価が高騰。そしてIレイヤー、いや、BNW内の全て奴がGポイントを大量に手に入れることになったってわけだ」

「な、なるほど」


 いきなり100万ポイントがプレゼントされたか。

 夢のような、冗談のような話だ。

 しかし、実際、物価の高騰しているのだから信じるしかない。


 それにしても、誰がこんなプレゼントを……。

 キュベレーがそんなことをするわけがないし。

 もし、キュベレーの仕業なら、最初に僕たちにも100万ポイントを渡していないとおかしいからな。


 でも、これでGポイントの謎は分かった。

 そらGスコアと比率が違うわけだ。

 物価も高騰しないと店が潰れかねないからな。


「これは恐らく天からの恵みだ。100万ポイントをくれたのは『ゼロ』って名前らしいんだが、そいつにはみんなマジで感謝している!」

「ん?」


 ん? 待って? ん?

 いや、こちらを見ないでください、リア、サラ。

 僕と同じ名前だけど、恐らく違う……いや、これって一週間前?

 僕が父さんによって、意識を飛ばされたのも一週間前。

 理由は確か……僕が『ゲームの課金のような実験』をしたからだ。


 待ってよ、僕の記憶によると……『100万円をクラウド上の人たちにプレゼントしたら、どうなるか』という面白い実験を……あ、僕でした。

 まさか僕が原因だったとは、あ、あはははは……笑えねぇーな!


「ゼロ? 急に顔色が悪くなったけど大丈夫?」


 リア、そんなことないよ。

 僕は至って平常心で顔も悪くなく落ち着いている。


「う、うん、大丈夫だよ」

「目が泳いでるけど?」

「あはははは……目が平泳ぎしたいって――」

「プレゼントの主は、こいつです」

「って、おい!」


 その瞬間、店内の視線が僕に向く。


「君だったのか!」

「残念なことに、そうみたいです」

「てめぇーら、天の恵みを与えてくださったゼロ様に感謝の祈りを!」


 その言葉の後に周りから「ゼロ様、ありがたやありがたや」と掌を合わせられ、頭を下げられる。

 まるで、キリスト教徒の前にキリストが現れた感じである。

 僕、地球上で悪いことをして、BNWで神になりました。


 父さん、みんなこんなに喜んでいるよ。

 僕が正しかったんだ。


「ゼロがスキルなしの理由が理解できたよ」

「あたしも」


 訂正します。間違えだったようです。

 この世界の秩序を乱したことは罪でした。


 この地面に貼り付くガムを見るような、火傷しそうなぐらい冷たい瞳。

 しかも、それが合計で四つも。

 た、助けてぇ~!

 二人ともそんな目で見ないで~!

 そして祈るのも、もう恥ずかしいから止めてぇ~!


「みんな、頭をあげてくれ。もう感謝の気持ちは伝わった。だから、仲良くしてほしい」

「も、もちろんです、ゼロ様! なぁ、てめぇーら!」


 周りはまた「もちろんです!」と瞳を輝かせてそう叫んだ。

 それよりおっさんにこれだけキラキラとした瞳で見られたのは、僕が初めてなんじゃないだろうか。

 全く嬉しくないけど。

 むしろ気持ち悪い。


「ゼロ、私は感謝してないからね」

「あたしも」


 こっちはどうしたらいいんだよ。

 スキルないのは仕方ないだろ。

 許してくれよ、頼むよ。


 あ、そうだ。話を変えてしまうか。

 本当に誰だよ、Gポイントの話をしようって言った奴は……僕でした。


 僕は「ごほん」と咳払いをして髭の生えた男に質問する。


「なぁ、この世界でレベル上げってどうやるんだ?」

「それはですね」


 なんか口調が変わりすぎて、ガチで気持ち悪い。

 ギャップ萌えなんてしないからな。

 恐怖だから。おっさんのギャップは恐怖だから。

 まぁ話が聞きやすくなったとポジティブに捉えるか。


「レベル上げには方法が幾つかあります。

 一つ目は『商売』です。

 これは単純に商売しているグループの売り上げ量によって、経験値を得ることができ、レベルが上がります。

 二つ目は『ハント』です。

 これはIレイヤーの草原や森にいる動物を狩ることによって、経験値を得ることができ、レベルが上がります。

 三つ目は『イベント報酬』です。

 これはイベントの順位によって、経験値を得ることができ、レベルが上がります。

 四つ目は『グループ戦報酬』です。

 これはグループ戦を勝利することによって、相手の経験値を得ることができ、レベルが上がります」


 今の説明を聞く限り、日常的に行うのは『商売』か『ハント』といったところだな。

 『イベント報酬』はイベントがないと関係ないし。

 『グループ戦報酬』は相手の経験値を得るという点から一番効率よくレベル上げを行えるが、命をかけるという大きな代償が付いてくる。


「丁寧な説明をしてくれてありがとう」

「いえいえ、これぐらい当然のことです」


 そう言えば、僕たちは昨日グループ戦に勝ったよな。

 じゃあ、かなり経験値を得ていることになるから、レベルが上がっているはずだ。


 そう思い、リアとサラに聞いてみることにした。


「リア、サラ、レベル上がっているか?」

「私はレベル15になっていたわ」

「あたしも同じくレベル15」


 これはかなり上がったのか?

 Iレイヤーのレベル基準が分からないから返事に困る。

 すると、髭の生えた男が手を叩いて、口を開いた。


「それは凄い! Iレイヤーの平均レベルは10。Iレイヤーの中では高レベルですよ!」

「そ、そうなのね! ふふっ」

「強いってことだよね? 嬉しい」


 女子二人はそう言われ、機嫌が良くなったのか笑顔がこぼれている。

 よくやったぞ、髭の生えた男。さっきは気持ち悪いとか思ってごめんな。

 心の中で一応、謝っておく。


「それでゼロはどうなの?」


 リアがそう聞いてくる。

 聞かなくても分かるだろ?

 二人ともレベル15なんだぞ?


「僕は……」

「ど、どうしたの?」


 な、何で……。

 どうなってんだよ!


「レベル0だ」

「は? スキルなしはレベルも上がらないわけ?」

「やっぱりゴミ」


 そんなに怒らないくれよ、リア。

 それとサラはサラッと酷いこと言うよね。

 僕だって傷付くんだよ?


「そ、それはおかしいですね」


 不思議そうな表情でそう言ったのは髭の生えた男。

 僕はそれを見て、首を傾げる。


「あのですね、スキルがなくてもレベルは上がるんですよ。噂によると『スキルなし』のアバターはレベル100になると、スキルが追加されるらしいので」


 スキルなしってかなり辛いな。

 みんなのレベル1=レベル100ってことだろ?

 ほとんど無理ゲーだ。


 それより僕は何でレベルが上がらないんだ!

 もうこれ以上グループ内で『ゴミ』とか『使えない』とか言われたくないんだが。


「はぁ……」


 思わずため息が出た。


「まあまあ、ゼロ様には俺らがいますから大丈夫ですよ!」


 それ全然慰めになってないからね。

 何が大丈夫なの?

 この壊れた傘を見るような瞳の冷たさ分かるの?


 はぁ……二人の機嫌を直すには、もうこれしかないか……


「リア、サラ。街を歩きに行こうか。今日は僕の奢りだ」

「やっほー! いっぱい服とか買おうっと!」

「ラッキー! いっぱい食べようっと!」


 その日、僕は一日で約10万ポイントを使わされたのであった。

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