10.初めての朝
「もう食べられない……」
サラのそんな寝言で僕は目が覚める。
時刻は午前八時過ぎ。
横には昨日知り合った女子二人がいた。
「そう言えば、このまま寝たのか」
そう呟きながら、二人を起こさずに動こうとすると……
「いっちゃダメぇ……」
という言葉と共にリアに腕を掴まれる。
僕を抱き枕とでも思っているのだろうか?
それにしても、リアは寝相が悪いのか、服が少しはだけている。
谷間というか、もう肩半分が出ており、とてもじゃないが凝視できない。
僕は思わず目を逸らし、リアの服を直すことにした。
流石に見ながらしないと難しいが、ここは自分の感覚を頼るしかない。
僕はゆっくりと掴まれていない腕を動かし、想像だけでリアの服を直し始める。
「本当に難しいな」
難易度の高さに思わず声をもらす。
そして次の瞬間……
――むにゅ!
僕の掌に柔らかい感触が走る。
こんなに柔らかい素材だっただろうか?
もう少し触って確かめてみる。
すると、リアの方から「んっ……」という声がした。
僕は起きたのだと思い、リアに自分で直すように言おうとリアの方を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「ちょ、ど、どこ触ってるのっ!」
「こ、これは違う。服を直そうと思って――」
僕が触っていた服ではなく、リアのたわわに実った胸。
しかも、残念なことに、それをリアに見られてしまった。
「ふ、服? はっ、脱がしたの?」
「これは元々だ!」
「そ、それよりこの手離してよ!」
「あ、わ、悪い」
僕はリアの胸から手を離し、僕とリアは気まずくなり、背中を向ける。
やってしまった。
まさか胸だったなんて……。
掌で胸なんか触ったことないから、あんな感触だとは知らなかった。
だから、今のは事故だ。しかも、良い事をしようとしての事故。
良い事しようとしての事故だからセーフだよな?
「朝から交尾?」
僕がリアに背を向けると、目の前にいるパッチリ目を開けたサラがそんなことを言ってきた。
「違う。どう見たらそうなる?」
「ゼロがリアの巨乳を揉んでたから」
もしかして、僕が服を直そうとしていた時から見られてたのか?
ならリアが起きる前に何か言えよ。
「アレは服を直そうと……」
「目を閉じながら、胸の位置を正確に当て、手慣れた手付きで揉むなんて、そっち系のプロ?」
「何だよ、そっち系のプロって! それに本当に違うから!」
昨日まで二人が変態だったのに、さっきの行為で一瞬にして僕が変態みたいになっている。
いや、胸を揉んでいる時点で変態なのかもしれないが、本当に事故なんだよ。
「あたしはないからね。リアにしたのは納得」
「勝手に納得しないでくれ」
全く誤解が解けない。だから、誤解っていうのか?
どうしたらいいんだ。
「まぁあたしは交尾いつでもオッケー勢だから」
「大丈夫だ。するつもりはない」
やはりサラは変態だ。
今のは真顔で顔の横に手でオッケーサインをして言うことじゃない。
「私は段階を踏んでから勢だから、さっきのはダメだからね」
背中越しからそんな声が聞こえる。
てか、今の時代は性行為をすぐ出来る人を『交尾いつでもオッケー勢』と言って、時間が必要な人を『段階を踏んでから勢』って言うの?
「リア、マジで事故だから。さっきは悪かった」
「別にもういいけど。私もこんな格好をしてたしね」
何とか許してくれたようだ。
それよりグループだとこういうのは性犯罪にならないのかな?
限度があるとか? 僕は事故と認められたからセーフだったとか?
とにかくこういうのにも気を付けないと。
「それで今からどうする?」
僕は二人にそう聞く。
「朝食ね」
「ご飯!」
二人そろってそう言ったので、朝食にすることにした。
僕たちは着替えて、荷物を持って部屋を出る。
着替えの時にリアが「こっちみないでね!」と先ほどとは違い、誘うような言い方をしてきたが、もちろん見ることはなかった。
サラは習慣なのか、僕の目を気にすることなく着替えていた。僕は気にするから目を逸らしたけどね。
「おはよう、良く寝れたかい?」
「はい、おかげさまで」
アンナと笑顔で会話するリア。
僕とサラはそれを後ろで見守る。
「それで今日はどうする気だい?」
「朝食をとってから、ここに戻ってきます」
「そうかい。一応、宿泊費の1000ポイントは今もらっておくよ」
「分かりました」
そう言い、リアは僕の方を見る。サラもなぜか僕の方を見る。
こいつら、絶対に奢らせる気だ。
「はぁ……分かったよ。1000ポイントですよね?」
「三人で3000ポイントなんだけど、あんた一人で払うのかい?」
僕は一瞬二人の顔を見て、アンナにこう言う。
「いえ、三人で1000ポイントずつ払います!」
笑顔で楽しそうにそう言ってやった。
後ろから舌打ちが二つ聞こえたのは空耳だろう。
そして僕たちは1000ポイントずつ払った。
「支払い完了。またいつでも泊まりにおいでよ」
「はーい!」
リアだけがその言葉に返事し、僕とサラは頭だけ下げておいた。
「男らしくない」
「男なのに女にGポイントを使わすなんて」
「何でだよ、一人1000ポイントなんだから当然だろ。それより何食べる?」
僕は自然と話しを変える。
はっきり言って、僕はGポイントに関わる話はあまりしたくない。
最初Gポイントを払おうとしたのもそれが理由。
人は地球上にいた時からお金――BNWでいうGポイントにはうるさいからな。
それにGポイントをめぐって喧嘩になり、グループ内が険悪な雰囲気になって、殺し合いになったら冗談抜きで笑えない。
まぁその時は僕がどうにかするつもりだけど。
「サンドイッチとかどう?」
「それは何?」
「パンに色んなものが挟んである食べ物よ!」
「それにする!」
僕たちの朝食はサンドイッチに決まったようだ。
⚀
「はぁ~、美味しかった!」
「やっぱり朝はサンドイッチとホットコーヒーね!」
幸せそうな表情をする女子二人。
僕たちはそれぞれ違うサンドイッチを頼んだ。
サンドイッチは三個ずつ入っており、僕たち三人は交換して色々な種類を食べあうことにした。
僕がたまごサンド、リアがサラダサンド、サラがカツサンド。
そして各自コーヒーやジュースを頼み、楽しく朝食をとった。
「しかし、この街は何から何まで値段が高いな」
「そうね、サンドイッチも1500ポイントだったしね」
「あんなに美味しいんだから普通」
そのサラの言葉に僕とリアは呆れてため息が出る。
サラは不思議そうに首を傾げていたが、僕たちは何も言うことなかった。
まぁ心の中では「サラ、この値段は普通じゃないんだよ」と叫んでいたけど。
宿泊費より高いサンドイッチなんて見たことないからな。
「まぁ戻ってアルコールライフの酔っ払いに聞き取り調査でもするか」
「もう戻るの?」
「必要最低限の物は昨日買っただろ。先にGポイントの謎だ」
「そうね。この世界を知ってからでも満喫する時間はあるものね」
って、この世界を満喫する気かよ。
昨日の決意はどこ行った?
リアは寝たら忘れるタイプの人なの?
「まだ食べたい」
「サラは砂でも舐めてろ」
サラの大食い発言に少し冗談ぽくそう言うと……
「わ、分かった」
「って、冗談だ。本当に冗談ぐらいは理解しような」
サラが常識を理解するのはまだまだ先のようだ。




