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9.グループ名

「それで二人のスキルは何なの?」

「私は『回復』スキル。軽傷程度の怪我なら、治すことができるみたい」


 サラのタイプ的にリアのこの回復スキルはよく使われそうだな。

 僕の勝手な妄想だけど、サラってよく怪我しそうじゃない?

 あ、てか、脛に傷いっぱいあるし。

 妄想は案外当たってそうだな。


「そっちの方がチートってやつじゃない?」

「んー、軽傷程度だからまだそこまでじゃないかな?」

「そうなのか」


 リアの発言はもっともだけど、育った環境が違うと捉え方はかなり変わるな。


 リアのような地球の普通を知って育ってきた人間にとってはサラの『生成』は魅力的だ。

 それはいつでもどこでも自分の記憶領域にあるものを作り出せるなんてゲームの世界みたいなものだからだろう。


 それに対し、サラのような内戦地域のような毎日のように怪我をし、人間が死ぬ環境で育ってきた人間にとってはリアの『回復』は魅力的。内戦地域の医療レベルは普通の場所よりかなり落ちる。

 そう考えれば、当然『回復』なんていうスキルを持つリアは天使にみえるだろう。


「それよりゼロのスキルを聞きましょう!」


 出たよ、この性格最悪女。

 この街に来る時に教えたよな?

 って、ニヤニヤと楽しそうな顔でこっち見てきてるぞ!

 性格やっぱり終わってるわ。


 サラの方はリアが『回復』スキルなんて言ったもんだから、僕のスキルを凄く期待してるのか、体を前のめりにして、瞳を輝かせている。

 や、止めて、そんな目で見ないでぇ~。


「僕のスキルは『なし』だ」


 ここは男らしく堂々と言ってやった。

 見よ、このゴミを見るようなサラの瞳を!

 そして見よ、爆笑するクソ性格最悪女の姿を!


「数字を書いて転がす鉛筆より使えない」

「いや、それは言い過ぎだろ!」

「サラ、その考えで正しいですよ!」


 転がす鉛筆ってそんなに強い?

 確かに僕より有名だけども。流石にそれはないでしょ。


「スキルだけで判断するなって」

「じゃあ、何で判断するの?」

「た、例えば、見た目とか? 性格とか? ほら、僕ってそこらへんの人よりカッコイイじゃん? それにサラを背負って帰るぐらい優しいわけじゃん?」

「合コンのアピールタイムですか?」

「ツッコむな! こっちは恥ずかしさを我慢して言っているんだ!」


 リアにツッコまれるとは調子が狂う。

 それよりサラがずっと僕をジト目で見て来てるんだけど。

 これどうにかならない?


「あたしのグループはかなりのハンデありか、はぁ……」

「ハンデじゃなくて生ごみの間違えでは?」

「おーい、これスキル差別では? 泣くよ?」


 キュベレーのせい……じゃなくて父さんのせいで今、僕は差別を受けています。

 かなり可哀想なキラキラネームの子の気持ちが分かった気がする。


「そう言えば、今日のグループ戦でかなりGスコアとGポイントが増えましたね」

「あたしのおかげ」

「死ぬところだったじゃないですか!」

「冗談。アレは感謝してる」


 何か知らんけど、差別から話変わって良かった。

 それよりGスコアとGポイントだな。

 僕が服を買う時、少し驚いていたのはGスコアとGポイントがかなり増えていたからだ。

 Gスコアは30スコアから210スコア。

 Gポイントは約10万ポイントから316万ポイント。

 恐らくGポイントに関しては敵の合計Gポイントから僕たち三人へ平等に分けられたはずなので、他の二人にも約300万ポイントが入っているはずだ。


「Gスコアは後、90スコアでランクが上がるな」

「それよりGポイントでしょ! これおかしいですよ!」


 リアの言う通りこれはおかしい。あのグループが初心者狩りだったとしても、GスコアとGポイントの比率があっていない。

 仮にイベントのGスコア増加をなしと考えて、Gスコアの量を考えた場合、あのグループは五グループを倒したことになる。そして一グループのGポイントが30万だ。

 あのグループを合わせてグループは六グループ。

 一グループGポイント30万ポイント×六グループ=180万ポイント。

 これを三等分すると、60万ポイント。だが、僕たちはそれの五倍近く貰っている。


「何かあると考えていいな。明日、アンナか、酒場の人間に聞いてみよう」

「そうしましょう」

「Gポイントがおかしいと何かあるの? いっぱい物が買えて、いっぱい食事できていいことしかないと思う」

「そうなんだが、僕たちはBNWのことをまだ詳しく知らない。だから、このおかしいということは僕たちとってある意味、恐怖なんだ」


 サラはあまり納得していないようだったが、これに関しては仕方ないか。

 少し難しかったかもしれない。


「それにしても、ポテト美味しい」


 なぁ、サラ? 話はちゃんと聞こうな?

 そら納得も理解もしないわけだわ。

 この話してた時、ずっとポテト食べてたもん。

 晩飯にあれだけ食べたのに、よくまだ入るな。


「ゼロ。メニューバーで少し気になったところがあるんだけど……」

「この『グループ名』だろ?」

「グループ名?」

「昼間、グループ戦をした時、相手にはグループ名にビギナーズキラーという名があった」

「恐らく私たちもグループ名を付けなければいけないみたいですね」


 グループ戦やイベントの際に各グループの判別を分かりやすくするためだろう。

 全てのグループが未定だと色々と厄介そうだしな。


「それで何にする?」


 この時、僕はまだ知らなかった。

 グループ名を決めることが、これほど大変だったとは。

 そしてグループが変わるきっかけになるとは。


「『RZS』とかどうでしょう? 皆さんの頭文字をとっただけですけど」

「嫌。『サラの奴隷』でいい」

「『サラは奴隷』というのが希望ですか?」

「『は』じゃなくて『の』」

「どっちにしろ、採用しないからな」


 こいつら酷い。

 ネーミングセンスの欠片もない。

 後、勝手に言い争いするのやめてっ!


「『虫食い貧乳』とかはどうでしょう?」

「『乳輪若干デカい巨乳』とかは?」

「ちょ、何言ってるんですか!?」


 え、そうなの?

 その反応はイエスと捉えていいよな?

 寝巻から確認できる胸のサイズからして乳輪若干大きめなら……


「ひっ、何ガン見してるんですか!? 変態クソゼロ生ゴミ‼」


 慌てて両腕で胸元を隠すリア。

 その表情は茹タコのように真っ赤だ。


「変態クソゼロ生ゴミ。親指と人差し指で大きさを表すならこれぐらい」

「ほうほう、具体的で分かりやすい。って、変態クソゼロ生ゴミと普通に呼ぶな、サラ」

「あ、じゃあ! 『変態クソゼロ生ゴミ』で良くないですか? グループ名」

「確かに」

「確かにじゃないし。毎回、アンドロイドにグループ名――変態クソゼロ生ゴミだったら二人も嫌だろ!」

「いや、全然大丈夫です」

「むしろ、嬉しい」


 こいつら本当にこういう時だけ、仲良く僕をイジメてくるよな。

 それにリアはもう復活したし、後十分はあんな感じで恥ずかしそうにしとけば良かったのに。


「はぁ……もう少し普通の意見ないのか?」

「あ! 『ホワイトキャッツアイ』はどうですか?」


 急に閃いたようにそう口にするリア。

 僕には何でホワイトキャッツアイ――白い猫の目にしようと思ったのか、理解できない。

 白い猫の目の要素、このグループにあるか?


「リア、理由を説明してくれ」

「実はサラの目はキャッツアイらしくて、それに加えて色素が薄いからホワイトキャッツアイ。どうですか? カッコ良くないですか?」

「確かにサラの瞳は色素が薄いな」

「キャッ!」


 僕が覗き込むようにサラの瞳を見つめると、胸辺りをかなりの強さで押された。

 そして勢い良く倒れ込み、床に頭を打って「ボンっ」という鈍い音を鳴らす。


「い、いてて……」

「サラは瞳を見られるが苦手なんですよ!」

「その顔……さてはリア、知ってただろ!」

「さぁー」


 間違いなく、この表情は知ってたな。

 もしくはリアも同じような目にあったか。

 それならまぁいいか。


「ごめん、ゼロ」

「いや、気にするな」

「うん。気にしない」


 いや、ちょっとは気にしろよ!

 確かに僕が「気にするな」と言ったが気にしろ!


「それにしても、この瞳は珍しいな」

「ゼロも赤色」

「うわっ、本当ですね!」

「近いな、リア。別に驚くことないだろ。それにリアも青い瞳じゃないか」

「そうなんですよ! リアちゃん、意外にも青空のような美しい瞳なんですよ!」


 なんか自慢しているこの感じ、ムカつくから無視しよっと。


「で、サラはホワイトキャッツアイでいいのか?」

「正直、嫌。あんまりこの目は好きじゃないし」

「そうか」

「って、私を無視して話を進めないでくださいよ!」


 その言葉すら僕は無視するけど。

 サラも無視が上手いな。美味い虫を食べたからかな?

 はい、今のなしでお願いします。


 それより僕、意外と良いグループ名を思いついたんだよな。

 試しに言ってみるか。


「なぁ、僕から一ついいか?」

「却下です」

「無理」

「おい、まだ何も言ってないだろ!」


 こいつら二人ともアレだけ酷い案をたくさん出して、よく僕の一つの案を言う前に否定できたな。

 でも、言えば少しは気が変わるはずだ。


「はぁ……仕方ないですね。じゃあどうぞ」

「『ラック』っていうのはどうだ?」

「運ですか?」

「いや、不足という意味の方だ」


 そう、僕のラックは『運』ではなく、『不足』という意味である。

 何で不足なのか?

 ここが不思議な点だろう。

 リアもサラも理解できないのか、首を傾げて難しい表情をしている。


「なぜ『不足』という意味のラックか。それは僕たち三人には不足している部分がはっきりとあるから。僕は『スキル』、サラは『常識』、リアは『心』。そしてグループには『Gスコア』が足りていない。だから、僕はこのグループ名がいいと思う。いつかその『不足』しているものを手に入れるためという願いを込めて」

「あたしは賛成」


 サラはポテトを食べながら、納得したようにそう言った。


「私に不足しているのが『心』ですか?」

「ああ、会った時から思っていたんだが、その微妙な敬語とかな。態度と合ってないんだよ。態度を見れば、僕たちと仲良くしたいのは分かる。でも、自然と敬語を使っているあたり、恐らくどこか心を閉ざしていると思うんだ」

「敬語は昔から大人に囲まれて生きてきたから癖みたいなもので……」

「カ、ジ……キに? 住んでたとか?」


 サラがサラッと意味不明な発言を意味不明そうに言っている。

 カジキに住んでたって、カジキに食べられて胃にでも住んでいたのかよ。


「サラ、カジノですよ。私の親はカジノのオーナー。だから、いつも周りには派手な格好をした大人がいて、子供や同い年の人と接したことがなかったのです」


 そう口にし、青い瞳に闇がまとい寂しさ、悲しさ、辛さが伝わってくる。

 僕とサラはその姿を静かに見つめていた。

 時刻は午前十二時を過ぎる少し前、とても静かで風に押される窓の音だけが聞こえる。

 少し沈黙が続いたのち、リアは頬に涙を流し、口を開いた。


「カジノではディーラーをしていたので毎日のように人と会話はしてました。けど、会話していた相手は嘘や闇しかない大人ばかり。そんな大人と毎日会話していると、いつの間にか人を信じられなくなり、私は自然とその大人に似ていきました」


 そして続けて抜けた声でこう言った。


「だから、ここに来た時、分からなかったのです。ゼロやサラとの接し方が……」


 リアは僕たちから目を逸らし、窓から見える星を眺めながら、少し闇をおびた青い瞳から無色の涙を両目から流す。それは床に落ちる度に音を立て、床に水溜まりを作っていく。


「そうだったんだな、リア。でも、接し方が分からないからといって怖がらなくていい。僕たちはグループだ。敬語じゃなくていいし、少しずつ僕たちと関係を深めていけばいい」

「うん、それがいい。この世界のグループはメンバーが一人でも死んだら、他も死ぬ。だから、あたしたちはもう家族以上の存在。あの時、あたしはリアが助けてくれて嬉しかった。遅くなったけど……ありがとう」


 僕とサラの言葉にリアはこちらを向き、「二人とも」と言いながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で抱きついてきた。


「おい、重いぞ」

「いいじゃん! 私たちはグループですよ……じゃなくて私たちがグループだよ! 私には『心』が足りないみたい。だから、二人と一緒にその心を手に入れ……たい!」

「うん、それでこそリア。てか、巨乳邪魔」


 胸の感触……ありがとうございます。じゃなくて、本当にふざけた柔らかさだ。

 サラに「巨乳邪魔」と言われているのに、リアはなぜか嬉しそうに笑っている。

 その笑顔はさっきまでとはどこか違う。言葉にできないが本物の笑顔だった。


「じゃあ、グループ名は……」

「「ラック!!」」

「決定だな」


 僕たち三人は床に座り直し、メニューバーのグループ名の欄に『ラック』と入れる。

 そして入力し終わると……


『グループ名、入力完了。ゼロ様、リア様、サラ様のグループ名は『ラック』に決定いたしました』


 アンドロイドの声と共に正式にグループ名――『ラック』が決定した。

 これにてグループ名を決めるというシンプルにみえて、難しい作業は終了。


「よしっ! 決まったね!」

「うん、決まった」


 二人は嬉しそうに自分のメニューバーを見つめている。

 ラックというグループ名を気に入ってくれたようだ。

 そんな二人に僕は問う。


「二人とも、最後に一ついいか?」


 無言で二人は首を傾げる。


「僕はラックの三人でBNWでトップになりたい。二人はどう思う?」

「え? 最初からそのつもりだけど? でも、不足したものを手にするためにはトップになる時間なんて短いかもね!」

「あたしも同じ。トップになれば地球に戻れる」


 そう、サラの言う通り地球に戻れる。

 これを聞くのは緊張したけど、みんなも同じ気持ちだったんだな。

 一人だけ「商売して楽しく、この世界で生きよう」とか言われなくて良かった。


「だな! じゃあ、明日から頑張るか!」

「お~!」

「うん。てか、眠い」


 話が終わって疲れたのか、目を擦りながらサラがベッドに飛び込む。

 確かに三時間ほど喋っていたからな、仕方ないか。

 僕も寝ることにしよう……


「って、ベッド一個なのっ!」

「最初からそうじゃない! 今更どうしたの?」

「ここで三人は流石にな……」

「もう私たちラックは家族以上でしょ! 大丈夫! 夜這いはしないわ!」


 そう言われると逆に怖いんだが。

 そんな感じでどうするか困っていると、リアが僕の手を掴み、無理矢理ベッドの方へ。


「お、おい!」

「サラ、少し端によって!」

「はいはい」


 サラは眠たそうな声で返事し、ベッドの中央から端へ。

 そして僕はそのままリアと共にベッドイン。


「僕は端でいいよ」

「真ん中だよ! グループ――『ラック』のリーダー」

「は? 僕が?」

「だって、グループ名を決めたのゼロだし」

「マジか……」


 それを聞き、硬直してると横から子供のような可愛らしい寝息が聞こえてくる。

 サラが寝たようだ。


「私たちも寝ましょうか」

「くっついて寝る必要あるか?」

「今日は寒いので」

「そんな寝巻買うからだろうがっ!」


 それを無視し、リアもサラと同じく夢の中に入っていった。


「……こいつ、寝ている顔は可愛いのにな……」

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