プロローグ 能力『性転換』
よろしくお願いします
俺東 転花が異世界へと送還される直前、召喚主である神ティエスはこう言った。
「我が授けた力で世界を救え」
と。
そう高校2年生の夏に某漫画の祭典から帰宅中に不慮の事故で死んだ俺が、とある理由からティエスに召喚され、異世界を平和にするべく旅立つ羽目になったのだ。
異世界、『アルヴァール』
ティエス含め十二神が管理するこの世界に突如魔王が現れ、さらに立ち向かうべく勇者が出現した。
死力をぶつけ合い、連日至る所で戦いを繰り広げていた。……周りのことなど一切考えずに。
その戦いで大地は荒れ果て、民は苦しみ、世界を救うどころかさらに混沌へと進めてしまった。
民は魔王と戦う勇者に何も言えず、また勇者も魔王と戦っているのでその現状に気が付きもしない。
そこで十二神が1人ティエスは立ち上がった。
魔王に立ち向かい、勇者を倒す第3の勢力の出現させるために……
とのことらしい。
◇◆◇◆
ともあれ指名を帯びて異世界へと転生した俺なのだが、ティエスの授けた能力というものに衝撃を受けていた。
《能力:性転換》
相手の性別を変える
以上なのだ。
しかもその発動条件がやけにきつい。
一、魔法陣を出現させる。
二、その上に相手を跪かせる。
三、相手が発動主に対して敗北の言葉を述べる。
……どう考えても無理だ。
普通勇者と魔王、両方に立ち向かうべく擁立される第三勢力なのなら、それに見合う能力が付与されるのが道理というものだろう。
「どうなってやがんだ!ティエス!!」
通じないと分かっていてもつい叫んでしまった。
あまりにも無茶がありすぎる。
『いや、どうなってると言われても困るぞ転花よ』
「うわっ!!」
急に返事が返ってきたもんだから、飛び跳ねて驚く。
肩の方を見ると、そこにはミニサイズのティエスが俺の肩に乗っていた。
『ふふっ、驚いたか転花よ。しばらくの間はこのミニティエスがお前のガイドをしてくれる。今のご時世ちゅーとりあるというものがないとキレる奴らもいるみたいだからな。親切設定というやつさ』
「んなアホな……まぁありがたいけども……ってそんな話はどうでもいい。どういうことだよティエス。能力性転換って!しかも発動条件やたら厳しいし!これでどう戦えってんだよ!」
『いや、それを言われると困る。なにせ我はアルヴァール十二神が1人、性転換を司る神だ。故にそれに見合った能力しか付与できん。なに、心配するな転花よ。お前ならやれるさ。なにせ元の世界でお前ほど我を信仰しておったのはほぼいないと言っても過言ではないからな!』
はははと笑うティエス。
……なんの励ましにもならんわ。
むしろ俺の性癖が全力で露見してんじゃねぇか。
『まぁ発動条件は厳しいが、発動すればどんな強敵でも性別を変えるだけでなく、お前をなによりも大切に思うようになる。性転換した美少女ハーレムを築くのが転花の夢であろう?この世界ならそれがやれるぞ?』
「ぐっ……」
ティエスの言葉は俺の心を揺るがした。
TSハーレムはたしかに俺が夢にまで見た光景だ。
この能力ならそれが叶う……
そう性転換を司る神ティエスが俺を選んだ理由。
それは現世においてTSを愛し、信仰していたからだ。
尚且つ偶然俺が事故死したこともあり、俺が召喚されることになった。
ようはタイミングが良かったという話なのである。
『まぁ転花よ。能力というのは使い方で最強にも最弱にも化ける。そして我が付与した能力、確かに制約は厳しいものだが、発動さえすれば相手は抵抗することができぬ。ようは機転をきかせるんだ。真っ向に戦わなくても、上手くやる方法はいくらでもあるからな。そうさな……よし、今から我が言うようにあの鎧の男に声をかけてみよ』
ティエスが指差す方には青色の鎧を装着し、腰に片手剣を引っ提げた好青年が立っていた。
高身長、引き締まった体、パーツの整った爽やかイケメンだ。
さすがは異世界。このレベルが普通に街を歩いているとは……
「言う通りって……」
まぁものは試し。
俺はティエスから言われた通り
「き、君!!実に僕の理想にピッタリだ!!あ、突然すみません。私、流しの旅芸人をしておりますテンカと申します。お見知り置きを」
旅芸人を装ってその好青年に声をかけた。
「な、なんだ突然……!?えっと……テンカさんだっけか?何が俺に……「うーん!まさに理想!!僕の相方にピッタリだ!!」……相方?」
相手に考える時間を与えるな。
こういうのは勢いでいけ!
ティエスの言葉である。
「そうなんですよー、実はね、私の相方が魔王軍に襲われてしまって……大怪我をしたんですよ。近々この街で大事な公演があるというのに……しかーし!そこであなたです!!」
好青年は戸惑っている。
俺の勢いにただただ押し込まれている。
「一度でいい!!演技に協力してくれませんか!?」
「……まぁ一度だけならば」
「本当かい!?助かるよー!じゃあ今から出す魔法陣の上に立って……」
すかさず俺は性転換の魔法陣を展開した。
青白く光る円状のそれの上に好青年が立つ。
「そこで膝をついて……」
「こうか……?」
好青年はなんの魔法陣か聞かない。
ティエス曰く、こちらの世界の演劇は魔法陣をよく使うそうだ。
だからこれ自体も何か演出用の魔法陣と思っているのだろう。
「そうそう!そして最後に顔を下に向けて……『くっ、俺の負けだ!!』と悔しそうに言って!!」
「くっ、俺の負けだ!!」
好青年がそう言った瞬間、
『契約成就確認。性転換開始します』
とのシステム音と共に魔法陣が発動した。
「な、なんだ……?性転換??」
好青年の戸惑う声を遮るかのように光は強さを増す。
「かっ……体が!!熱い!!何をした……!?」
胸元を抑え、地面で蹲る。
青白い光の柱に周囲にいる人も何事かと足を止めてその光を見つめる。
「なんだあの光は?」
「さっきまで魔法陣の上に人がいたような……」
ん?中の様子が見えないのか?
俺にはくっきりと中で悶える好青年の様子が見えているのだが……
『ああ、性転換の様子はテンカにしか見えないぞ』
俺の疑問にティエスはすぐ答えをくれた。
『まぁ一応は隠してやらんとな。体が変化する様子を囚人監視の中やられるのはかわいそうだしな』
性転換させてる時点でそれを言うのはおかしいとは思うが、俺は見えるので文句はない。
「があぁぁぁぁぁぁぁーーーー」
バッと起き上がり、そして好青年の叫びと共に体の変化が始まった。
短髪だった黒髪が徐々に伸び、軽く日に焼けていた肌が透き通るような美白に。
高身長だった体も縮み、纏っていた鎧が取れ、その結果胸が成長するところを確認することができた。
そしてものの数分後には……光の柱の中から一人の美少女が誕生した。
先ほどの好青年と同一人物とは到底思えないくらいの変貌を遂げた。
まさに理想といった美少女だ。
『どうだ転花よ!素晴らしい能力であろう!!』
「控えめに言って………最高です!!」
おっとつい本音が出てしまった。
しかしあんなにも完璧な性転換の瞬間を見せられたのだ。さすがは異世界。
心からティエスを信仰したくなってしまった。
俺がティエスに羨望の眼差しを向けていると、
「うー、なんだったんだ…………って……ん?」
元好青年が目覚めたようだ。
そして自分の声に疑問を感じたようだ。
そして自分の体の変化に気がつき……
「な、っなっ!ない!!ある!!」
性転換後特有の反応を示しながらあたふたし始めた。
そして……
「お、お前!!俺の体に一体何をしたって……ああ!!」
はらり
「あ」
体が縮んだもんだから……履いていたものが全てずり落ち……目の前には下半身丸出しの美少女が立っていた。
………現物は初めて見ました。
「み、見るなーーー!!!」
とっさに服の裾を伸ばし、下半身を隠す。
その所作すら最高です。
「い、いいから早く元に戻せ!!」
ふるふる震えながら涙目で訴えてきた。
それもそうだな。
彼は協力してくれただけだしな。
「なぁティエス、元に戻すにはどうすればいいんだ?」
『ん?元に戻す方法はないぞ?』
「は?」
「え?」
『だから一度発動した性転換の効果を打ち消すことはできないのだよ』
つまり彼はこれから先ずっと女として生きていかなければならないということか。
「な………」
あー、彼の顔がどんどんと絶望に染まっていく。
『まぁ良いではないか!男であろうが女であろうが生きているのには変わりはないんだからな』
ガッハッハとティエスが笑う。
「言い訳あるか!!俺を誰だと思ってやがる!!」
そういうと言うことは何かしらの有名人なのであろうか?
それとも噛ませ犬がよく言う方の意味であろうか。
「俺は……俺はな!!アルヴァールを救うべく立ち上がった勇者様なんだぞ!!」
あー、はい。
本当偶然この世界に来た目的の一つをものの数十分で達成してしまった。
(……えっ?この物語続くんですか?)