第二章 プロローグ
「どういう事なのよ、これ」
手にしたペンダントを見つめ、エフィルは絶句するしかなかった。
王家の家紋があしらわれたそのペンダントトップには、くっきりと名前が刻みこまれている。
『アクス・ヴォールナ・フォーラス』…一年前に死んだはずの王子の名前。
「兄貴は、戴冠式の日までに俺を殺すつもりなんだ」
ペンダントをエフィルに手渡した、その持ち主たる「死んだはずの王子」は、俯いたまま呟いた。
エフィルには、わからなかった。どうして、国を追われて存在を殺され、一年の間命を狙われ続けながらも、逃げて続けているのか。
「信じられない…なんでここまでされて、逃げてるだけなのよ、あなた」
「おい、エフィル」
「堂々と、みんなの前に出てやればいいじゃない。自分は生きてるんだっていうことを、証明するのよ」
「できるわけがない」
彼女の必死の説得を、きっぱり否定するイルファ。
「のこのこと出て行ったが最後、向こうに偽物だの何だのと難癖つけられて、殺されるに決まっている」
「なら、私たちが証明すればいいのよ」
エフィルはきつく拳を握りしめた。「どうやって?」と不安げに尋ねてくるウィミーネの顔を一度見て、大胆に宣言する。
「戴冠式の時に、国民の前で、カイ王子の行いを暴くのよ」
黙っていたラズマが、おもむろに口を開いた。
「そんなことして、一国を敵に回す事になったら、テロリストの肩書がつくかもしれないぞ」
「テロリストだろうが英雄だろうが、そんな肩書どうでもいいのよ」
腰に手を当てて、エフィルは胸を張る。
「魔王さえ倒しちゃえば、どうとでもなるわ」
「すごい自信だな…」
ため息交じりに呟いたラズマを無視し、彼女はフォーラス王家の証のペンダントを持ち主に返した。
そして、どこか申し訳なさそうにしながら受け取るアクス王子に、力強く笑って見せた。
「この、勇者エフィル様が、何もかも正義の星の下に裁いてみせるわ」




