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短編

図書室の地味ガールと勘違いヤンキー君

 

 俺は学校で超絶怖いと恐れられているヤンキーだ。

 俺が街を歩けば不良が逃げ出す。気合の入った奴とはいつでもタイマンだ!


 そんな俺はいつも通り肩で風を切りながら街を歩く。


「あらたけし君~、背が高くなったわね~」

「本当ですわね~、早川はやかわさんの所の息子さんでしょ? あらあら、金髪にしてオシャレさんね」

「ママ! 僕、剛と遊びたい!」

「あ、ずるいよ! わたしは剛君のお嫁さんになるの!」

「あらあら~」


 違う!? 俺は泣く子も黙るヤンキーのはずなんだ! こんな緩い雰囲気に屈しない!


 純真な子供の瞳が俺を貫く。俺は仕方なくママさんが連れていた子供の頭を撫でた。


「……おう。俺は学校に行かなきゃいけないから明日遊んでやるよ。ふん、それでいいか?」


「やった!」

「えへへ、剛君はツンデレさんなんだから~」


 お母さんたちは何も言わずに微笑んでいた。


 そして俺は学校へ向かった。




 俺が通っている九段下高校は少し偏差値が高いだけの普通の学校だ。俺は家から近いというだけの理由でこの学校に決めた。



 学校に近づくにつれて、俺の周りから人気が無くなっていった。

 そう、俺はヤンキーだからだ。

 そんじょそこらのヤンキーとは違う。

 子供の頃に見たアニメと漫画の影響をもろに受けた。


 俺は……正義のヤンキーであった。

 だけど、他の人から見たら俺の恰好がヤンキーだがら、怖がって近づいて来ない。

 近づいてくるのは近所の奥様方と子供たちだけだぜ!




 俺は登校しながら、ポイ捨てする駄目男に注意したり、信号無視して横断歩道を歩く学生に注意をする。


「おう、てめえポイ捨てしてんじゃねーぞ! 殺すゾ」

「馬鹿野郎! てめえの命はてめえだけの物じゃねえんだよ! 車を見たら家族を思い出せや!」


「ひぃ!?」

「や、やば、剛だ!」


 注意したやつらは一目散に逃げ出した。


「けっ、しゃばボーイが」




 そんな事をしていたら後ろから声をかけられた。

 こんな姿の俺に声をかける奴は数人しかいない。

 耳障りなキンキン声。


「ちょっと早川! あなたまた弱い者いじめしたの! 今日という今日はあなたの悪事を暴くわ!」


 同じ学校の正義感が強い女、立花夏子たちばななつこだ。

 彼女は学校の生徒会に入っていて、学校で唯一ヤンキーである俺が気に食わないらしい。

 こうやっていつも絡まれている。


 俺は面倒くさいから走って逃げることにした。


「うぜーよ、くそ女が。おい、車に気を付けて通学しろよ。けっ!」


「ちょっと待ちなさい! あんたに暴力振るわれたっていう苦情があるわ! 言い訳があったら言いなさい!」


 俺は無視して走り去った。




 こんななりをしているから学校で目立つ存在だ。

 そして目立つ事によって俺を疎んじる者が出てくる。

 社会の仕組みだ。仕方ない事だ。


 俺は必要がない限り暴力を振るわない。弱い者をいじめるのはダサい事だ。

 だが、手段として使う事もある。そうでもしないと分からない者が多すぎるんだよ……この世の中は。



 学校の敷地に入ると校舎の外れの大きな木の下で上を見上げて困っている女子生徒がいた。

 あれは同じクラスの崎本麻衣さきもとまいだ。

 高校生なのに小学生と見間違う小さな身体。結構可愛らしいので男子生徒から大人気だ。

 俺の事は怖くて近づいて来ない。でもよく遠くから悪口を言っているな。

 なぜか俺の事を目の敵にしてくる。



 俺は崎本が見上げている木の上を見た。

 そこには降りれなくなっているにゃんこがいた。


 木に近づくと、崎本は俺に気が付いた。



「ひ、ひえ!? は、早川……。ふ、ふん、あんたなんかこわくないわよ! 邪魔だから消えて!」


 俺は怯えている崎本を無視して木を登った。


「にゃ、にゃ~」

「よーし、よしよし、おとなしくしろ、ほら」


 俺は学生服の懐ににゃんこを入れて、巧みに木から降りた。

 そして崎本に懐に入れたにゃんこを渡す。


「ほら、俺じゃ怖がっている。お前がいいんだとサ」


「ひ……あ、はい……」


 崎本はおそるおそる俺からにゃんこを受け取った。


「にゃん!」


「はは、こいつ腹減ってんだな。ちょっとまてや……これならにゃんこでも食えるな」


 俺は鞄に入っていたやささみを崎本へ渡した。


「ふしゅー! はぐはぐ」

「あ、ちょっと!?」


 にゃんこは崎本の手からささみを奪い、はぐはぐ食べ始めた。

 その姿は癒される。


「それじゃあな!」

「あ、ちょっと待ちなさいよ! ぎ、偽善をしても私は騙されないわよ! ……ふん、この学校から退学してくれたらいいのに……」


 俺は崎本を無視して、教室へ向かった。





 俺が余裕をもって教室に着いて、授業の予習をしていても崎本は教室に現れない。そしてHRギリギリで遅刻してしまい、先生に怒られていた。



 一時間目の数学の授業中に崎本は後ろを振り向きながら友達達に愚痴を言っていた。


「きー! これも全部早川のせいよ! 本当にむかつくわ!!」


「だよねー、ちょっと怖すぎだよね」


「うんうん、わかるわ。だってあいつ人を殺してそうな目をしてるもん」


「街の不良もあいつと目を合わさないものね」


 授業中にうるさいな。俺は崎本の隣の席だから余計に気に障る。

 ちゃんと勉強しないと後悔するぞ。



 俺は手を上げて先生に意見した。


「は、早川君……どうしたのかね?」


「先生! 周りがうるさいので一喝してもいいですか?」


「い、いや、き、気持ちだけで結構だ。わ、私から注意しよう。――お前ら少しは静かにして早川君を見習え! 崎本! この問題を解いてみろ!」


「ふえ!?」


 崎本は問題がわからなくて困っていた。

 そしてそれを誰も助けようとしない。仕方ない。


 俺は崎本にノートを見せて鉛筆で答えを書いてあげた。

 崎本が横目でそれを見るのを確認した。


「……くっ、x=2です」

「よし正解だ。じゃあ次の問題にいくぞ……」


 教室に静けさが戻り授業が再開された。


 隣の席の崎本を見ると真っ赤な顔でプルプル震えていた。






 今日もそろそろ放課後の時間になる。


 俺は確かにヤンキーだ。

 見た目も金髪で顔も怖い。体格もいいから威圧感がある。

 だけど、曲がった事が嫌いだ。

 ケンカを売られたら買う。そして拳で黙らせる時もある。


 だけど、最近の若者って陰湿すぎじゃないか?

 だってこんな事をするなんてひどすぎるだろ?


 今日最後の授業の体育から帰ってきたら、俺の鞄がカッターでズタズタに切り裂かれていた。

 よくあることだ。

 鞄の中身はゴミ箱に捨てられていた。


 怒りはある。

 だけどそれ以上に悲しみが先立つ。




 終わりを告げるチャイムが鳴る。生徒たちがワイワイしながら放課後を楽しもうとしている。

 俺は何事もなかったかのように、鞄を持って図書室へ向かった。




 図書室は俺の憩いの場所であった。

 ここで本に囲まれて過ごす時間が俺にとって一番大切な時間だ。


「あ、早川君、お疲れ様」


「ああ、委員長、お疲れ」


 まるでバイトみたいな挨拶をするのは図書委員長の地味ガール、早乙女光さおとめひかりだ。

 おさげ姿で丸眼鏡をかけている彼女は自他ともに認める地味ガールだ。

 この学校で唯一俺と普通に接してくれる生徒でもある。


「この本入荷したよ。見る?」


 委員長が持っていた本は俺が好きな作家の新作であった。


「おう、ありがとな委員長。じゃあ早速……」


 俺は席に座って本を読み始めた。

 委員長も適当な本を手にとって俺の隣で本を読む。


 俺と彼女はここでしか接点がない。

 そして会話も少ない。


 だけど、俺はこの時間が好きだった。


 この日は珍しく会話があった。


「うん? どうしたのその鞄?」


「ああ、ちょっと破けちまってな。まあ使えるから大丈夫だろ!」


「……ちょっと待って。……あった。貸して」


 委員長は俺の鞄を手に取った。そして裁縫道具を使って俺の鞄を補修し始めた。


 俺は委員長の補修作業を見ていた。


「ちょっと気が散るわ。本でも読んで待ってて」


「ああ」


 時間が進む。

 放課後の図書館は生徒が全然いない。

 今この空間には俺と委員長しかいない。


 いつもならそろそろお開きの時間だ。


 委員長が声を上げた。


「よし、これでとりあえず大丈夫。はい」


「お、おお! すげえな! こんな綺麗に直せるんだな! 俺感動したぞ」


「それは言いすぎよ。まあいいわ。そろそろ帰るわよ」


「ああ」


 俺と委員長が席を立つ。

 そして図書室をでたらお互い別々の方向に歩き出した。


 いつも過ごす図書室。だけど少しだけ違う今日。


 少し歩いた所で俺は振り向いた。

 そしたら委員長も振り向いていた。


 お互い言葉は交わさず、ただ笑顔を振りまいた。


 委員長の笑顔が俺の胸を打ち抜く。

 俺は生まれて初めて女の子を可愛いと思ってしまった。











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