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最後のアーティファクト  作者: 三六九
第二章 這い寄る影
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八話 その赤は燃えるよう

「あのガキども、上手く売り捌いたようだな。

 あれだけのものだ、金貨三……いや、四枚は堅いぜ。

 橋の手前まで待つか? いや『七つ岩』の辺りでいいんじゃないか。

 ……って言ってますよ、シエラちゃん」


「あ、はい」


 どこかの騎士団長と同じ名のおじいさんの店を出てすぐ。

 ソラがフードの下で耳を小刻みに動かし、下手糞な芝居を交えながら言うには、五人組の男が建物と建物の間でこちらを注視しつつ強盗の相談中とのこと。

 確かに店を出てから視線を感じていたけど、いやはや物騒な話ですね。

 今すぐどうこう、という話ではなさそうだしとりあえず放っておこう。


 いつの間にか陽は傾き始めている。

 さて、今からどう動くか。


「ソラ、街ってあとどれくらい先なの」


「人間の足だと、次に明るくなって、その間には着くといいですね」


「なんで他人事なんだよ」


 まだけっこうあるな。

 というかその憶測は当てになるんですかね。

 あの大きな狼の姿がデフォルトのソラだ、少し余分に見積もったほうがいいだろう。

 だとすると。


「どこか泊まれるところ探すか」


 街などでおおっぴらに動けない動きたくない商人の商人による商人の為の場所がここだとすれば、情報交換をするような場所もある筈……居酒屋的な。

 それに併設して宿なんかもあるだろう。

 まだいまいち貨幣の価値が分からないけど、一晩泊まるくらいなら問題ない筈。




「ガキが来るところじゃねぇ、帰んな」


 そうでした。

 それっぽい店を見つけたので突入したものの、取り付く島もない。

 本当は二十半ばだと言っても残念ながら通用しないだろう。


「……ちなみにソラさんはおいくつで?」


「生きた年月ですか? 確か百五十年くらいです」


 大先輩だった。

 でもお互い見た目はおチビちゃんですね。


 当てもなく既に背丈を追い越されそうな影を見やりながら歩く。

 戻ってディアーノ・トルーガの家に厄介になるという案も浮かんだけど、いや流石に。

 ここまでしてもらってさらに世話になるのは気が引ける。


 あちらこちらから視線が突き刺さる。

 目立っていたこの真っ白な髪と、隣のぴょこぴょこ動く可愛らしい獣の耳は、今は隠しているんだけど。

 右手、森の中からも陰鬱な視線を感じる……闇に紛れる、後ろ暗い目。


「んー、どうしようか」


 ちょうど半分くらいまで来ただろうか、ラウンドアバウトのような形の一際広くなった広場。

 左手の丘は存在感を増し、頂点には背の高い見張り櫓が建っている。

 傾斜がきつく山のようになっている丘の影が、広場を半分ほど覆っていた。

 白っぽい砂が眩しいこの辺りの道との明度の差か、闇が世界を切り取っているようにも見える。


 広場には木組みの掲示板がいくつか設置されていて、様々な人々がそれに貼られている何かを眺めていた。

 商人風の者。鎧を着ている者。軽装の若い男女。親子連れ。

 各々が何かしら武器や防具を身に着けていて、空気が物々しい。


 俺とソラは目がいいのだろう、人ごみの外からでも掲示板は見えるけど。


「……なんて書いてあるんだ、あれ」


「分かりません」


 見えても読めなければ意味がなかった。

 気にはなるけどまぁ別にいいか。


「あの左上のでかいやつは、マドリック商会が御者を募集している。

 その下の横長のはヤコウバナの急募だな。なかなか割がいい。

 その右、剥がれかかってるのはちょっと見えんな……」


 俺とソラの頭上後方からにょきっと腕が生え、指で指し示しながら読み聞かせる若い男の声。


「その上は連絡用の暗号だな。その上も同じ。

 一番右端、三枚並んだ小綺麗なやつはテレーズ商会が護衛を募っている。

 だがあそこは止めとけ、支給品も賃金も碌なもんじゃない」


 一つの掲示板を読み上げた男が腕を引っ込め、それを目で追いかけるように俺とソラは後ろを振り返った。

 かなり近いところにいた、簡素なコートを纏っているけれど微かに金属の擦れるような音もする……見上げると目が合った。

 燃えるような橙色の瞳と、赤の強い明るい茶色の逆立った髪が陽に映えている。


「よぉ、嬢ちゃん。狙われてるぜ」


「……どうも」


 胸を張った立ち姿は堂々としているのに、どこか軽い印象を受ける男。

 喋り方の問題だろうか。

 意識してか知らずにか、ソラが俺の手を取った。


「おっと警戒しないでくれ。俺はウルフレッド、しがない情報屋さ」


 一歩退き、身体の前で釈明するように両の手を広げるウルフレッドと名乗った怪しい男は、鋭い目つきで辺りを見回した。


「後ろの五人組はただのごろつきだが、『迷落の森』の三人組はちょっと厄介そうだ」


「……だそうですよ、ソラさん」


 この男の言が本当なら、俺たち(の恐らくお金)を狙っているのはもう一組いたらしい。

 ソラは眉根を寄せて耳を小刻みに動かしている……どうやら察知できていないようだ。

 俺も視線は感じていたけど、人数までは分からなかった。


 わざわざ見ず知らずの俺たちに忠告してくれるということは、とても人が良いか、あるいは何か目的があるか。

 悪い人間には見えないけど、どうだろう。

 目的……金か、俺か、ソラか。


「ご忠告どうも。行こう、ソラ」


「はい」


 この男が俺たちを狙っている奴らと組んでいるという可能性もある……または三組目、ということも。

 それに、俺とソラの逃げ足に追いつける人間がいるとも思えないし。

 逃げるが勝ち。


「ちょい待ち。本題はここからだ、『白き魔女』」


「……」


 身体を半身にしたまま、目を切り替えた。

 やはり上手く焦点が合わないけれど、以前より周囲の魔力がよく見える。

 この赤い男もなかなかどうして、そこら辺の人間より魔力の保有量が多いようだ。


「城塞都市のレイグリッド・トルーガから言伝を預かっている。……勿論、聞くだろ?」


「……あなたは、一体」


 ウルフレッドは俺の言葉を遮るように、口を開いた。

 やはりどこか軽い、若い男の声は飄々としている。


「言ったろ、お人好しの情報屋さ」

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