表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
80/84

白い炎

深刻な自家中毒からカイトが復帰したのは、D・ウォルトにとって驚くべき事柄ではなかった。

 膨大な魔力を拡散させた少女は、こちらの世界でカイトが行動を共にしていた人物である。

 その場合、少女が日常的に放っている魔力の残滓(ざんし)を、彼が偶発的に身に帯びる可能性も低くはない。となれば、カイトの義身においてもまた、適合性のある彼女の魔力を吸収し、状態の改善や能力強化などが行われるであろうことは、当然ながら考慮の内の出来事だった。


 だが現在のカイトは、こちらの剛腕(ごうわん)を一方的に打ち負かす程の、圧倒的な臂力(ひりょく)を有していた。

 そうした非合理的で不条理な事態に、D・ウォルトは無意識の内に後ろへと下がる。動揺に思考停止へと陥っていた彼は、しかし、次の瞬間に起こった非現実的な現象に、今度は激しい混乱の中へと突き落とされた。

 こちらの世界で調達したらしい、カイトの間に合わせの右腕は、反撃(カウンター)を決めた姿勢のまま固まっている。敵へと向けて差し伸べられていたその腕から、突如として、轟々とした(まばゆ)いばかりの白炎が噴き上げられたのだった。


 外装の継ぎ目や、破損した裂け目から溢れた炎は、瞬く間に彼の右腕を覆い尽くす。

 一方、真横で燃え上がるその火炎にも、当人は全く動じる気配はない。

 そうした視覚的な情報のみでも、宿り主に牙を剥かない、出自不明な異色のそれが、尋常ではない存在の物であると判断するのは難しくなかった。


「なぜ、だ……何だ、何なんだ、これはァ!? 貴様の、その、力は、炎は何だ!? どうして、私の腕だけが、砕けた!? なぜ、貴様の方が、私よりも勝っているのだぁッ!?」

「…………質問が、多過ぎだ。つうか、俺の方が訊きたいぐらいだっての。まあ、でも、あいつが力を貸してくれたってのは、間違いないとは思うがな」


 (かす)れた声でそう(つぶや)いたカイトは、メリッサがその身に帯びていたのと同じ、銀の燐光に包まれた右腕を横目で眺める。感慨深げな面持ちで、彼が確信をもって口にした発言に、D・ウォルトは激情も(あら)わに激しく地団太を踏み、床へと蜘蛛の巣状の(ひび)を広げる。


「馬鹿な、有り得ん! 有り得るはずもない! 魔力の放出源である小娘との距離は、私の方が近かった! それに、受信体(アンテナ)としての胴体部の表面積も、遥かに私の方が広いではないか!?」

「そう、かもな。だけどよ、前に俺の知り合いの魔女が、こう言ってたんだ。『魔法ってのは、高度な技術や知識と同じ位に、強い信念がなくちゃいけない』。『要は、使う時の(ハート)ってのが大事』なんだってな」


 唐突に穏やかな口調で語り始めるカイトに、D・ウォルトは反応に戸惑い、絶句する。

 疑念に満ちた表情を浮かべる相手に、彼は(てのひら)へと燃える白き炎を握り締め、覚悟に満ちた鋭利な眼差しを突き刺した。


「だから、どんなに計算に合わなくても、お前が俺より強くなるはずはねぇんだよ。自分を、大切な人達を、そして、この世界を傷付け壊そうとしている頭でっかちの下衆(ゲス)野郎なんかに、あいつが力を貸そうだなんて、思う訳ねぇだろうが!!」

「ふざ……巫山(ふざ)()るなぁ!! そんな世迷言(よまいごと)戯言(ざれごと)など、私が聞く耳持つと思うてかぁ!!」

 

 カイトの断言に逆上したD・ウォルトは、一気に彼へと距離を詰め、左腕の剣を振るう。

 更に速度を増した挙動で、相手の首を目掛けて横薙(よこな)ぎに払われた刃は、虚しく空を斬る。

 瞬間、手応えの有無を確かめる暇もなく、背面へとめり込んだ痛打によって、D・ウォルトは前のめりの恰好となって突き飛ばされた。


 激しく床の上を横転していく巨体に、カイトは蹴り出していた右足をそのまま直下へと落とし、素早い踏み出しから追い(すが)る。

 残像を引く程の俊足(しゅんそく)で肉薄する彼に、受け身から急制動を掛けたD・ウォルトは、仰向けの姿勢から蹴りを見舞う。

 超絶的な相対速度で迫る靴底を、カイトは間一髪で、しかし危なげなく(かわ)す。続け様に、彼は伸びきった敵の脚部を、膝の辺りで抱え込む。そして、相手に抵抗する暇も与えないまま、猛烈な勢いで時計回りにその巨体を振り回し、充分な加速を付けた後に投げ飛ばした。


 激しい右回転で宙を舞ったD・ウォルトは、林立する装置の列へと墜落し、けたたましい激突音を響かせる。

 敵を下敷きとしたその瓦礫(がれき)の山へ、カイトは早足で歩み寄っていく。

 互いの距離が半分程に狭まった時、折り重なっていた残骸が内側から弾け飛び、中へと(うず)もれていたD・ウォルトが再び姿を現した。


「貴ッ、様ッはあああぁぁッ!! 不遜(ふそん)で、不敬で、不快に、過ぎるぞおおおおッ!!」


 狂乱から裏返った絶叫を響かせた彼は、振り(かざ)した双腕の銃口の先を、発射炎(マズルフラッシュの赤い火花で明滅させる。

 重機関銃による狙いの荒い射撃は、散弾のようにバラけつつ、標的であるカイトへと向かう。

 轟音と化した銃声に遅れ、一面を覆い尽くしながら飛来する無数の弾丸に、彼は無言のまま右腕を差し出す。

 刹那、大きく指を広げた掌から、白の炎が縦に輪を作って広がる。

 そして、行使者の前面を隠すまでに拡大したそれは、衝突した鉄の塊を包み、勢いを殺し、融解させ、気体と化して霧散させていった。


 やがて、残弾を全て射ち尽くした重機関銃は、激しい鳴動の余韻を残して沈黙する。

 白煙の棚引く銃口を下げたD・ウォルトは、生身の頃であれば血走っていたに違いない、飛び出さんばかりに見開いた双眼で、炎の盾を収束させる敵を凝視していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ