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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第1章 魔女と機巧男(ウィッチ アンド サイボーグ)
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真実は前触れもなく

「おおっと、何だ何だ? てっきり下の方から出てくると思ったら、まさか上からのご登場とは。あんな脱出の方法で無事だったとは、お前ら、本当に運の良い奴らだな」


 思いも掛けない手段で現れた二人に、男は砕けた気安い口調で揶揄(やゆ)を飛ばしながら、呆れたように濃い紫色をした髪へと手櫛(てぐし)を入れる。

 その時、カイトは彼の額の両脇の部分に、何か不可解な突起物が付着しているのに気付く。

 望遠カメラの倍率を上げ、癖の強い頭髪の下から覗いているそれを注視した彼は、その二本の奇妙な物体が、節くれだった動物の角であると見定めた。


 相手の異様な身体的特徴に当惑するカイトをよそに、メリッサは生々しい質感の角を生やす相手へと、苛立ちの(こも)った甲高い怒声を浴びせた。


「ギスティア、あんたまた性懲(しょうこ)りもなく、私を殺しに来た訳!? あんだけ散々しくじってるくせに、いい加減そろそろ諦めなさいよね!!」

「できるなら俺も、逃げるのだけは上手いお前との鬼ごっこは、もう金輪際やりたくなんかはなかったさ。だが、今回は少々、いつもと事情が違ってな。悪いが、手加減も遠慮も一切無しの、本気モードでやらせてもらう。さあ、今度こそ覚悟してもらおうか、メリッサ」


 ギスティアと呼ばれた謎の男は、不意に声色へと不穏な気配を織り交ぜ、カイト達の方へと進み出る。その敵方の挙動を睨む鋭く冴えた眼光と、過不足なく神経を張り巡らせた無駄のない足運びは、実地における戦闘を熟知した者に特有の素振りだった。


 徐々に距離を詰めてくる謎の相手に、メリッサはたじろぐように小さく後ずさりをする。

 抵抗と敵対の意志を(あら)わにするその顔には、しかし隠し切れない恐怖と怯えの色が、表情の端々へと抑えようもなく滲み出ていた。


 そうした隣人の変化を感じ取ったカイトは、ほとんど反射的に彼女の前へと一歩を踏み出す。

 距離を置いて向かい合う二人の間へ割り込んだ彼は、息を呑む音を背中で聞きながら、対峙(たいじ)する有角の男へと妨害の姿勢を明示した。


 カイトは、常人ではない風貌の男とメリッサに、どのような因縁があるのかは知る由もない。

 だが、メリッサが口走った不穏当な言葉や、明らかに彼女を害しようとする男の態度に、どうしても見て見ぬ振りをする訳にはいかなかった。

 メリッサを(かば)って立ちはだかるカイトに、ギスティアはふと足を止め、双角の下で眉根を困惑気味に小さく寄せた。


「そういえばまだ聞いていなかったが、誰だ、お前? 見覚えのない顔だが、よその土地……いや、別の国の人間か?」

 眼前に屹立(きつりつ)するカイトの顔立ちや髪、服装などを素早く眺め回しながら、彼は無精髭(ぶしょうひげ)の浮いた顎へと右手を添えて思案する。

 それを見たメリッサは急に活気を取り戻すと、疑問を(てい)する相手へと向け、カイトの右肩越しに小馬鹿にした笑みを飛ばす。


「ふっふ~ん? あんた、こいつが誰だか分っかんないんだぁ~? ちょっと会わない内に、随分とまた勘が鈍ったみたいねぇ、ギースく~ん」


 過剰に抑揚を付けた文句を口遊(くちずさ)む彼女に、ギスティアは不愉快そうに細めた両目で、そのあからさまな嘲笑を睨み付ける。そこで、彼は得意気に腕組みをしているメリッサが、上半身だけ下着姿となっているのに改めて気が付いた。

 直後、ギスティアは頬を奇妙な形に引きつらせると、苦み走った固い笑みを浮かべながら、並んで立つ二人を興醒(きょうざ)めした眼差しで見比べた。


「うーん……俺が言うのも何なんだが、そういう捨身みたいな金の稼ぎ方は、正直どうかと思うぞ。まあ、確かにお前は見た目だけならそれなりだし、性格の悪さは大して問題じゃないと割り切れる奴らには、ある程度の需要があるのかも知れんが―」

「話の途中で悪いが、それは全くの勘違いだ。メリッサ、君も真面目に考えないで良いから」

 

 ギスティアの思考を先取りしたカイトは、相手が話を進め切らない内に、その発言を横合いから早々に(さえぎ)る。相手より差される疑わし気な眼差しに、彼は後ろ暗いところがないことを示すように、それを毅然として正面から受け止め続けた。


 唐突に辺りへと満ち渡る微妙な空気に、メリッサは静かに火花を散らす男達を、戸惑いの混ざった表情で交互に流し見る。

 やがて、二人が対立している争点の理解を諦めた彼女は、腕に抱えていた上着を手早く着込みながら、沈黙を守るギスティアへと声高に宣言した。


「分からないなら、教えて上げるわ! 何を隠そう、こいつはついさっき私が召喚して呼び出した、私と契約を取り交わした悪魔なのよ! どう、これで私にもちゃんと魔術の素質があるんだって、能天気でどんくさいあんたにも分かったでしょ!」


 彼女の説明に片眉を跳ね上げて驚いた彼は、対面に立つカイトを今一度じっくりと凝視する。

 時間を掛けて相手の姿を観察した後、不意にギスティアは相好を崩して吹き出すと、そのまま腹を抱えて大笑いを始めた。

 大口を開けて身も蓋もなく笑い転げる彼に、そんな反応など想定していなかったメリッサは、激しく面食らう。

「なっ何よ!? 何が、そんなにおかしいのよ!? どんなにこいつの階級(クラス)が低かったとしても、私が魔力を持ってることの証明には変わりない―」

「いやいやいや、まずその前提からして間違ってるぞ。そいつにどんなことを吹き込まれたか知らないが、はっきり言わせてもらう。メリッサ、お前が自分で召喚したと言っているその男は、悪魔の眷属(けんぞく)なんかでは絶対にありえない」


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