怠惰1」
「さて、どうしたもんかな」
俺は、床に広がる血だまりに沈む中年の男を見ながら呟いた。
どう死体を処分するか。
今までは大概事故に見せかけてきたので、ここまで露骨な殺人を犯したのは初めてだ。
包丁には俺の指紋がバッチリついてるし、誤魔化すのは無理だろう。
「ねぇ…」
俺は突然背後からの少女の声に驚き、振り向いた。
しかし、そこには壁があるだけだった。
俺も頭がイカれたかなと思いながら、振り向くと、
「…!?」
無い、死体が…無い。
逃げたかという考えが一瞬頭を過ぎったが、血だまりさえもなくなっている。
「…とすると、俺はマジでイカれたのか…?」
俺は落ち着こうと天井を見て、それから死体のあった場所に視線を戻す。
「うぃーっす。私、ベルフェゴールって言うんですけどー」
そこに今度は絵本の王様のような格好をした少女が立っていた。
「ここの死体が無くなってたのにびっくりしてんでしょー? 私が消してあげたのよー」
気だるそうな表情で、少女は訳の分からない事を言い出す。
「ちょっと待て。まずお前は誰だ」
「いや、だからベルフェゴールだって…」
「ベルフェゴール? 悪魔の?」
「そー」
「ここにあった死体は?」
「私が消した」
「なるほど…いや、全く意味がわからないが」
目の前の少女は悪魔らしい。
全く納得出来ないが、とりあえず話を進めよう。
「何で死体を消した?」
「あーそれね、初回特典みたいなもんよ」
「初回特典?」
「そう。それでね、死体を消してあげた見返りに私に協力してほしいの」
「協力…何だ?」
「天使を殺してほしいの」
困惑する俺に、少女はダルそうにそう言った。