勇者だけど難癖付けられたから隠居したい
頭を空っぽにしてお読み下さい。
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「勇者様、どうか私達の世界をお救い下さい」
形の良い顔を悲痛に歪め、第一王女と名乗った少女が平伏した。しがない平民の俺は、王女様に平伏されてるなんて恐れ多くて。と言うかうざくて。
困ったから、取り敢えずソイツに歩み寄った。必然的に見下す感じになる。
「お請けして頂けるのですね......!」
よし、丁度良い。1つ頷くと片足を軽くあげ、俺はソイツの顔を踏みつけた。
「ふぎゃ」
なんか悲鳴とか怒号とかイロイロ聞こえるけど、仕様がない。踏みたくなる様な頭を踏みやすい所に置いておくのが悪いんだ。俺には女の子に足を乗せるような趣味はないんだから、だから俺は悪くない。
そもそもこれは、1年前から始まったあの悲劇が原因だ。
☆
俺の住む村はちっぽけな農村で、まだ12才の成人してもいない俺が狩りに出なきゃならない程度に貧しい。
その日も相棒である短剣片手に森へ入った。途中で見かけた兎や鳥を無視してドンドン進む。俺の獲物は味気ない小動物ではなく、それよりももっと上等で美味い魔物肉だ。ヤツらは森の奥に入らないと出てこないし、村のヤツらには魔物を狩ってる事は教えてないから早く帰らないといけない。ダッシュだ。
木が密集してきたら枝に飛び乗り、更に枝から枝へ飛びうつる。途中、頑丈そうな蔦を見付けたから、ついターザンごっこをしてしまった。俺だって遊びたいんだ。村に他の子供がいないからぼっちだけど。
「お前、何者だ」
唐突に視界が開け、そこそこ大きい泉を発見した。今日はここで狩ることにする。暫く待てば魔物が水を飲みに来るだろうから、それまで遊んでいよう。1人遊びは得意だ。
「おい、そこのお前。何者かと聞いておる」
何するかな。水切りとか? いや、どうせ投げるなら当てたい。
「無視するな! 聞こえておるぎゃっ!?」
青色の肉ができた。ビックリした。
処理した肉をカバンに積めて、村に帰る。なんでかむさ苦しい男共が増えていた。何時のまに繁殖したんだろう。どう見ても俺より年上だ。こんなことってあるのか?
......ゴホン。冗談はさておき。俺の村は国の騎士を名乗る脳筋集団に占拠されていた。しかも肉をとられた。ふざけんな返せ。
「嘘だろ!? ブルーバードの肉だ!!」
「おいおいこの鮮度、ついさっきまで生きてたんじゃねぇのか!?」
「はぁ? A指定の危険種だぞ」
仲間の叫び声を聞きつけた騎士共が、この場にワラワラと集まってくる。どこに隠れていたんだ、肉返せ。今週はそれで食いつなぐんだ。
無言で肉を奪った騎士に手を差し出せば睨まれた。睨み返すと、腰の剣をチラチラ見せながら意味ありげに笑ってくる。コイツ、噂に聞くナルシストだろうか。
「シヴァ! こっちに来なさい!」
顔を青くしたおばさんに抱きかかえられ視界をふさがれる。周りの村人が何か必死に謝っているのは声でわかった。取り敢えず、俺の肉は返って来ないようだ。
腹減ってるのに、殺してやろうかなこの騎士共。
怨念が漏れてたらしい。なんか徴兵された。魔王が復活するから勇者の素質がある若者を集めてるんだって。俺の場合は嫌がらせだ。
「うっわ、貧民まで集められてる。見境ないな」
「バカ、よくみろ!」
俺を指さして笑ったヤツが、隣のヤツの言葉にハッとして怯えだす。他のヤツらも遠巻きに見てくるばかり。どうやら同年代の子供がいても俺はぼっちらしかった。まぁ、いいや。勇者の選定はガチバトルらしいから、怪我しないよう柔軟でもしていよう。
この王都に来るよう命令しやがった騎士共も、見送りのとき泣いてた村のヤツらも、死ぬなよって言ってたし。弱っちそうなコイツら、意外と強いのかもしれない。
俺、今まで負けた事ないし。今回も圧勝したけど。
そんなこんなで勇者にされた俺は、城に呼ばれてハゲたオッサンにあった。この国の王らしい。一緒にいた宰相とかもハゲてた。俺はこの国が心配だ。
「シヴァ! これから宜しくな!」
「よろしくね」
「よ、よろしくですぅ」
ついでにこの3人が仲間になった。盾使いと魔法使いと治癒師だ。名前は忘れた。あ、あと聖剣も貰った。魔王に大ダメージを与えられる聖なる武器らしい。他の装備はくれなかった。ケチだ。
まぁ、なにはともあれ、俺達の冒険はこれからだ。
☆
「踏まれた理由が分かった?」
「うぎゅぅ、わきゃりませぇん!」
「勇者様! どうか、どうか御許しを。王女様が死んでしまいます!」
足下に頭が増えた。けどコイツが一番踏みやすいから、このまま続きを話してやろう。
☆
魔物や魔族から人々を助け、四天王とかを打ち破り、俺達はとうとう魔王城に辿り着いた。黒とか紫とか目に痛い外観だ。中も罠が多くて歩き難いし、ろくな部屋もない。こんなとこに住む魔王は間違いなくドMだ。
「漸くここまで来たな! 心の準備は良いか? シヴァ」
「シヴァがそんなヘタレな訳ないでしょ。早く行くわよ」
「私全力で回復しますから、思う存分暴れて下さいねぇ」
魔王目前で殺る気溢れる3人に頷き、扉を蹴り飛ばす。
「ぐきゃ」
なんか潰れた。コイツが魔王だろうか。取り敢えず聖剣を投げてみる。
「ぐぅ......がっ、ぁ......」
扉を突き破りクリーンヒット。死んだっぽい。呆然とした3人に手を振ると、無視された。手を叩いてみても反応がない。揺さぶっても何も言わない。仕様がないな。
「しっかりしろ」
「「「......ぎゃあああ!! シヴァがしゃべったぁぁぁ!?」」」
ちょっと傷付いたから蹴ろうとしたら黙った。
そうして魔王は倒され、世界に平和が戻った。りはしなかった。魔王を一撃で倒した化け物だと、怯えられているらしい。あのハゲた国王に次代の魔王として指名手配された。ムカつく。
「化け物だ! 化け物がきたぞぉ!」
「イヤー! 助けてー!」
一撃で倒した訳じゃない。二撃だ。そう言っても誰も聞いていない。目撃者の3人は城で別れたっきり会ってないし、証言もしてくれないだろう。腹立つ。
「あっち行け! 来るな!」
「痛て」
投石された。しかも見覚えのあるヤツに。確か......魔王城に行く前、デカい熊に襲われていたのを助けてやったヤツだ。物凄くイラッときた。もう知らね。隠居してやる。元々ぼっちだった俺は、1人で何処ででも生きていけるんだ。そっちがその気なら、俺は引きニートになってやる。
結果、なんか世界が滅んだ。ビックリした。
☆
「分かった?」
「ふぁっ、ふぁい。わふぁいまぃた」
「そ、その様な…お痛わしい...ところで、世界はなぜ滅んだのでしょう」
「生き残りの魔族と魔物に負けた」
俺は何もしていない。ごめんなさいって土下座されても、御慈悲をって五体投地されても、何もしなかった。まぁ、自宅警備はしてたけど。
「あにょ、そりょそりょあひをどふぇてくだひゃい」
あ、忘れてた。踏み心地が良いから、つい。......ごめん?
「ふぅ。顔が変形するかと思いました。
それで、あの、今のお話を聞く限り、勇者様には戦って頂けないという事ですか」
「気分しだい」
なんか、変な魔方陣に引きこもり強制終了させられてイライラしてるし、勇者は誰かに譲って、俺は悠々自適に暮らしたい。
そう思って、いつの間にか扉の影からこちらを伺っていたハゲたおっさんを見ながら、俺は立てた親指を床へ向けた。
一年前からの悲劇とやらは魔王倒してからの迫害です。2ヶ月そこらで終わった模様。