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鉛筆  作者: 桜枝 巧
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初めて奴に渡した誕生日プレゼントは、HBの鉛筆一本、だった。

小学校二年生のときの話だ。奴、Tの家は私の家の隣にあった。幼馴染、かといわれると少し首をひねらざるを得ない。家が隣同士だからといって、一緒に遊んだことは数回、しかも他の子も混じった状態でしかなかった。本人に対しても、黒いランドセルかっこいいなあ、位にしか思っていなかった。私のは当然のように赤かったから。

その日がTの誕生日であることは、以前から知っていた。それまでは母親のほうから向こうのご家族に向けて何かしら送られていたらしいが、小学二年生になったのだからお前もそろそろ自分で選びたい年頃だろう、といわれ、数少ないお小遣いの中から奴のためにプレゼントを買うことになったのだ。

たまったもんじゃない。なんであんな奴のためにお菓子や好きな本を我慢しなくちゃならないんだ。そう思った私は、文房具屋さんで一本だけ鉛筆を買った。キャラクターなんてものはついていない、柄が緑色の、小学生にしては少しおとなっぽすぎる位の代物。

メガネで真面目な奴にはお似合いだ、と考えることにした。

一本六十円。それでも一日百円生活の私には痛い出費だった。

さすがにそのままでは可哀想なので、鉛筆のてっぺんに小さなリボンをつけてもらった。

そこそこの誕生日プレゼントの反応は、やはりそこそこだった。

ああ、ありがとう。それだけを言って、少し首をかしげながらもTは鉛筆を受け取った。

次の年も、そのまた次の年も、お小遣いが上がっても面倒くさがりな私は鉛筆を送り続けた。ちなみに、Tのほうから私に誕生日プレゼントがくることはなかった。少し恥ずかしそうにして私の前を通り過ぎていくだけだった。

 私も奴も、それぞれの前に一本の細い、しかしはっきりとした線を引いていたように思う。しかもそれは、奴のほうが堅固であるようだった。Tは全体的に、人との接触自体を避けていたように思える。線を越えるのは、一年に一度、私が鉛筆を渡すときだけだった。


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