7、3人の仲間
「ふふぉふぉ……。確かに冬雪殿から見れば、わしは『じいちゃん』ですなぁ」
魔法使いの老人は禿頭をつるつると撫でて笑った。その仕草も源二郎そのものである。
「しかしのぅ、冬雪殿、わしも『源二郎』という立派な名前がございましてな」
「わ……かってるよ、そんなの……」
「おいおい冬雪、こんな老いぼれじいさんに指摘されただけで泣くんじゃねぇ」
岳雪の言葉で自分が泣いていたことに気付き、手の甲で慌てて拭う。
「岳雪さん、冬雪様にそんなことを言うものではありませんよ」
茜は困ったような顔で岳雪をたしなめ、冬雪に向かって微笑んだ。
あぁ、写真と同じ顔だ。そう思うと止まったはずの涙がまたほろりとこぼれた。
「どうなさいました? やはりどこかお怪我でも……」
茜はおろおろしながら手に持っている棒(恐らくそれは杖なのだろうが)を両手に握り直した。「まだ未熟なもので、応急処置程度の魔法しか使えないのですが……」
「いや、違うんだ、これは……その……怪我とかどっか痛いとかじゃないんだ!」
冬雪は両手を振って魔法を使おうとする茜を制する。
「その……、すごくお世話になった……大好きな人達にそっくりなんだ……。でも、その人達とはもう会えないから……」
下を向き、絞り出すようにそう言うと、ホロホロと涙がこぼれ落ちた。無防備な後頭部にずしりと何かが乗せられたような気がした。それが岳雪の大きな手だと気付くのにそう時間はかからなかった。
「悪かったな……」
「別に……いいよ」
兜の上からがしがしと撫でられる。慰めているというよりは、頭をシェイクしているかのようだったが、死んだ父親も写真で見るとなかなかの体躯であったので、こんな感じなのかもしれないと思った。
「あなたが念じたからよ」
「えっ?」
キラキラと砂金のような鱗粉を撒き散らしながら、蛍は舞うように冬雪の目の前に現れた。
「あなた、念じたのは名前や職業だけじゃなかったのね」
「……そう……だったかな……」
「そうよ。だってここはメイトスの泉。念じた通りの仲間を釣り上げることが出来る泉よ」
そう言うと蛍はいたずらっぽい笑みを浮かべてウィンクをした。「しっかりね、勇者様」
「勇者様……なのか。俺……」
呆けた表情のままポツリとそう呟くと、頭の上に乗せられていた大きな手は、今度は肩へと移動した。ただし、それはそっとではなく、ドスンという重さと共にである。
「しっかりしろよ、勇者様よぉ。俺はアンタについてくために呼ばれたんだからな」
「私もです、勇者様。勇者様の目的はわかりませんが、あなたのためならばこの命、擲つ覚悟でございます」
「老い先短い老いぼれじゃけれども、それなりの役には立てるはずじゃ。存分に使ってくだされ」
2人が岳雪に続くと、冬雪は一度力なく頷き、それから力強く首を縦に振った。




