21、再び
まだ1『匹』残っている……。源二郎はそう言った。たしかにあれはもう人間ではない。まごうことなく魔物である。冬雪は村長を睨みつけた。
「でもよぉ、はっきり言って、いまの俺らじゃどうにも歯が立たねぇぞ。源じい、さっきの魔法でどうにかなんねぇのかよ」
岳雪は村長から視線を逸らさず、床に転がっている大剣を拾い上げる。
それは冬雪もそう思っていた。しかし、そもそもまだ源二郎のレベルは4なのである。上級の魔法はレベル30を超えなくては習得できないはずであったが……。
「馬鹿者! わしばかり頼るな! お前がやらんか!」
源二郎の喝が入り、岳雪は肩をすくめた。
「……何だよじいさん、急に威勢よくなりやがったな」
まったく、最近の若いモンは、と鼻息を荒くしている源二郎はまさしく冬雪の祖父の源二郎である。これは一体どういうことなのだろうか。まぁ、自分の夢なわけだし、都合よく動くのは仕様なのだろう。
岳雪の後ろでしゃがみ込んでいた茜は源二郎と冬雪を交互に見つめ、ゆっくりと立ちあがった。杖を持つ手はまだ少し震えている。
岳雪が村長に向かって走りだし、その勢いのまま切りかかる。その攻撃は案の定軽くあしらわれたが、よぼよぼのじいさんに負けてられるか、と悪態をつきながらなおも向かって行く。
「ほりゃ、冬雪。お前も行かんか!」
「わ……、わかってるって……!」
そう言って岳雪に加勢するものの、形勢は逆転してくれず、その光景はさながら幼児と大人の相撲であった。何度切りつけてもはじき返されてしまう。それでもあの魔法を再び食らったら立ち直れないかもしれない。そう思うと、攻撃の手を休めるわけにはいかない。ゲームの時のようにきっちりと交互に攻守が切り替わるシステムでないことにひとまず安堵した。
しかし、かといって、ゲームのように体力は無限ではないのだ。ジャージに竹刀ならまだしも、初期装備とはいえ、それなりの重量があるものを身に纏い、振り回しているのである。その道のプロである岳雪の方でもかなり消耗していることは容易に見て取れる。このままでは二人の体力が0になった時点でゲームオーバーだ。形勢逆転の鍵はやはり魔法なのだが、どうやら源二郎はもうあの魔法を使ってくれる気はないらしい。かといって茜では歯が立たない。どうしたらいいんだ……。
「冬雪よ。勇者も魔法が使えることを忘れてないか?」
冬雪の心を見透かしたかのようなタイミングで源二郎の声が届く。驚いてちらりと源二郎を見ると、彼は口角を上げてニィっと笑っている。
わかってる。わかってるけどさ……。でも勇者の攻撃魔法が使えるようになるのなんてずっとずっと後だろ。そう言おうとしたところで、村長の手のひらが眼前に迫ってきた。なぜかその動きはゆっくりと見えたものの、それを避けることは出来なかった。
冬雪の身体は大きな衝撃と共にふわりと宙に舞った。
「冬雪!」
岳雪はそう叫んだが、その場を離れるわけにはいかない。止めを刺そうとしている村長をギリギリのところで食い止めるのが関の山だ。
「冬雪様!」
茜の声が聞こえるが、したたかに頭を打った冬雪の身体は思うように動かない。どうやらこれが致命傷というやつなんだろうな。こんな状態でもやけに頭は冴えていて、冷静にそう分析する。これが戦闘不能状態ってやつなんだろうか。とすると、あとはあの3人に託すしかない。
「冬雪様、冬雪様! 目を開けてください!」
近くに茜がいるのがわかる。しかし、戦闘不能状態になってしまえばいまの茜の力ではどうすることも出来ない。何とかこの戦いに勝利し、冬雪の身体を引きずって『復活の聖水(時価)』を買いに行かなくてはならないのである。手持ちのDGDは500ちょっと。いまは一体いくらで買えるのだろう。
あーぁ、せっかくちょっといい武器が買えるってところまで来てたんだけどなぁ。のん気にもそんなことを考えていたが、徐々にその思考もまとまらなくなっていく。
もしかしたら、このまま夢が覚めるのかもしれないな……。途切れ欠ける意識の中でそう思った。




