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イントゥ・ザ・フレマシー  作者: 沖見 るもい
19/36

19、絶体絶命、か

 血気盛んに向かっていった岳雪であったが、相手は先ほどまでの頼りなかった村長ではない。最早360度どこから見てもれっきとした魔物である。それならこちらとしても手加減する道理はない。ないのだが、どちらかというと、手加減などしている余裕などない、というのが正しい。

「くそっ、こいつの身体、どうなってんだ!」

 岳雪の大剣はたしかに村長の左肩にヒットしたはずであった。しかし、それは彼の強靭な肉体によって弾かれてしまう。ダメージは与えていると思うのだが、おそらく微々たるものなのだろう。

 もしかして、いまのレベルじゃ勝てないのか……? そんな考えがちらりとよぎる。

 いや、打撃に強いのであれば、逆に魔法に弱いというのがこのゲームだ。しかし、その魔法の使い手である茜と源二郎はまだ大した魔法を習得していない。これまでの経験で、新しい魔法はどうやらゲームのように戦闘終了後のレベルアップと共に習得するだけではなく、戦闘の最中に発動する場合もあるということはわかっている。だから、今回もそれを祈るのみである。

 炎魔法を使うやつは氷魔法に弱い。それもわかってる。初級ではあるが、源じいが氷魔法を習得するのはもうすぐなんだ。それもわかってる。冬雪は岳雪に加勢しながらそう思った。茜は回復と防御魔法を終え、次の指示を待っており、源二郎はというと、冬雪からの『待機』を忠実に守っている。

 くそっ、何でいちいち俺が指示を出さなきゃなんねぇんだ!

 メンバーはプレイヤーの入力なくしては何も行動を起こさない。基本的に前線で攻撃する戦士は良いとしても、治癒師や魔法使いは細かい指示が必要である。しかし、これはゲームではない。茜も源二郎も血の通った人間のはずだ。だからきっと、経験を積んでいくことで自ら考えて動けるようになるはずである。

 俺が一言、『自分達で考えて動け』と言えばもしかしたら。そういう気持ちはある。どちらも賢い(会話をする限りは)ので、無駄にMGを消費させることはないだろう。でも……。

「口ほどにもありませんなぁ、勇者様。これなら私がわざわざ出向かずとも、妻だけで事足りたようです」

 村長は余裕たっぷりにそう言うと、数歩後退りした。するとその場所へ夫人がゆらりと立つ。彼女も村長同様に死んだような目をしていたが、こちらに危害を加える気は満々らしい。ニタリと笑った表情のまま拳を強く握りしめ、腕には太い血管が浮き上がっていた。

「私を邪魔するやつは誰であろうと許さない。たとえそれが勇者様であっても……」

「邪魔って……。当たり前だろ。黙って見てられるかよ!」

 そう言って振り下ろした冬雪の剣は容易く夫人の手によって受け止められた。「何で……」彼女は素手で切っ先を握りしめている。わずかに血が滴るのみで、大してダメージを受けている様子もない。彼女はそこでニヤリと笑った。

「勇者様に用などありません。さっさとその女を渡しなさい」

 夫人は冬雪の後方にいる茜をちらりと見やると、切っ先を握る手に力を込めた。パキィっという音を立てて、剣はまるで飴細工のようにぱっきりと折れてしまった。彼女はつまらなそうにその折れた切っ先を投げ捨てると、冬雪を無視して茜の元に歩いて行く。

「おい、待て! お前の相手は俺らだろう!」

 岳雪が後ろから大剣を振り下ろすが、その衝撃に身体が軽く傾いだだけで、彼女は歩みを止めようとしない。

「どうなってんだよ、こいつら……」

 それは冬雪だって知りたい。何せこんな敵はゲームには出てこなかったのだ。いや、いまはそんなことを考えるよりも!

「茜! 逃げろ!」

「逃げろと言われましても……!」

 このゲームには単体での『逃げる』コマンドなど存在しない。それに、唯一の出口である扉の前にはいつのまにか村長が立っている。

 じりじりと茜との距離を詰めていく夫人を後方から切りつけるのは少々気が引けるのだが、やられている相手の方では多少身体がぐらつく程度のもので、こちらを気にかける様子もない。茜はというと、まだ人の姿をしている村長夫人に危害を加えても良いのかと(もっとも、茜の力では傷一つ付けられないだろうが)躊躇っているようであった。源じいは依然『待機』中である。

「冬雪、どうする! こいつら強いぞ! このままじゃ……」

 このままじゃ、の先は冬雪にもわかる。全滅、だ。

 おいおい、こんな序盤でゲームオーバーなのかよ。そりゃ、これは夢かもしれねぇけどさ、こんなの後味悪すぎんだろ。

「茜! 源じい! もう『待機』は止めだ! もう好きなようにやれ! MG何て使い切ったって構わねぇ! 全力だ!」

 冬雪は苦し紛れにそう叫んだ。打撃班が通用しないのであれば、この2人が頼みの綱だ。どうせ夢で、どうせゲームオーバーなら、最後まであがいてやる。


 

 

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