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イントゥ・ザ・フレマシー  作者: 沖見 るもい
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10、最初の敵

「うだうだ考えても仕方ねぇだろ、早く行こうぜ」

 そう言って、勢いよく町の外への一歩を踏み出したのは岳雪であった。能力や装備品などを考慮しても、彼が先頭に立つのは妥当だと冬雪(ふゆき)も思っていたので、岳雪、冬雪、茜、源二郎の順で歩き始める。ゲームの中では縦一列になって歩いていたが、まさかこの状態でもこの並びで歩くとは思わなかった。しかし、いざ街の外へ出てみると、行商人や他の旅人達も同様に列を成して歩いている。どうやこれがこの世界のスタンダードらしい。

「なぁ、冬雪。さっきから視界の隅にチラチラと魔物らしきものが見えるんだが、これは積極的に吹っかけてった方がいいのか?」

 とりあえずまっすぐ北に向かって、という冬雪の指示を忠実に守っている岳雪が首だけをこちらに向けて問いかけてくる。

「そうだな……。戦わないことには経験も積めないし……。でも、数が多いと危ない。まずは3匹以下のものだけ、かな」

「えーっと、以下、ってぇのは3匹も含むんだったか?」

「……そうだよ」

 冬雪が呆れ気味に返すと、岳雪は大口を開けてガハハと笑った。

「悪いな、俺、そういうのはさっぱりなんだよな」

 そう言って、なおも笑い続けた。冬雪としては自分の親(に似た者)の予想外の弱点に辟易しないでもなかったが、そういえば父は勉強が嫌だからという理由で冒険家になったのである。もしかしたら、実際の父親もこうだったのかもしれない。

「ふぅ。まぁ、笑ってる場合でもねぇな。冬雪、ご所望の魔物さんがいるぜ、えーと1、2……3匹だな。これはオッケーってことだよな?」

 指を差して数えている岳雪の視線の先にはたしかに3匹の魔物が見えた。あれは、たしか『毒ガエル』だ。注意すべきはその名の通り毒を持っているという点だがFGも低く魔法も唱えてはこない。それに解毒剤も準備してある。これなら負けることはないだろう。

「うん。皆、戦闘準備に入って。茜と源じいは少し下がって後方支援。俺達が苦戦しているようだったら魔法は使ってもいいけど、この戦闘では多くても2回まで。俺と岳さんがメインで攻撃」

 口を開いた時点でこちらに気付いた毒ガエルの群れが迫って来る。冬雪は咄嗟の判断でそう指示をした。名前の呼び方については無意識でするりと出て来たものを採用することにする。

「任せろ!」「わかりました」「はいよ」3人が各々の了解を口にしたところで戦闘が始まる。

「ぅおおおぉぉぉぉっ!」

 シャッという音を立てて大剣を抜いた岳雪は、見るからに重そうなそれを軽々と片手で持ち、大きく振り被ると毒ガエルの脳天に叩きこんだ。大して切れ味の良い武器ではないためか、斬撃というよりは打撃に近い攻撃で呆気なく1匹目を仕留める。レベル1でも戦士であればこれくらいは出来るのだ。残るは2匹。いきなりやられた同胞を見て、やや怯んでいる様子が伺える。この状態ならば冬雪でも仕留められるかもしれない。こういったものを振り回すのは源二郎とのチャンバラごっこ以来である。

「えいやっ!」

 ごっこ程度の経験ではあったが、時代劇を長年視聴していたことや、また、源二郎仕込みの殺陣が効いていたのだろう、悪くない当たりだと思われた。岳雪の大剣はその重さと、それを扱えるだけの腕力を持って相手を叩き潰しながら斬撃を与えるが、冬雪の剣はそれよりも軽く、切れ味に重きを置いている。一撃で仕留めることは出来なかったが、かなりの致命傷を与えられたようだ。毒ガエルは肩の辺りからばっさりと袈裟懸けに切られ、青色の血を流しながらヨロヨロとしている。残る1匹が岳雪の大剣の餌食になったのを確認し、止めを刺そうと剣を振り上げた時、瀕死の毒ガエルは最期の力を振り絞って口から毒液を吹いた。

「うわっ!」

 思わず剣を持った右手で顔をガードする。まだ傷も負っていないし、何となく、口や目の中にさえ入らなければ毒は回避できるような気がしたのだ。魔物の放った毒液はグローブと上着の間のむき出しになっている部分に付着した。

「大丈夫か、冬雪!」

 2匹を仕留めた岳雪が駆け寄り、瀕死の毒ガエルに止めを刺す。点在している3匹の亡骸は砂のようにさらさらと崩れ、風に吹かれていずこかへ飛んで行ってしまった。そしてそこにはこの世界の通貨である金貨が数枚残されている。

「大丈夫……。ちょっと毒液が手にかかっただけ」

「それなら良かった。……やっぱり3匹ぽっちじゃこんなもんだよなぁ」

 岳雪はホッとしたような表情を浮かべ、地面に落ちている金貨を拾い上げた。「ほらよ。毒ガエル3匹で15DGD(デジデ)だ」

 冬雪はそれを受け取ると、腰に下げている財布代わりの布袋に入れた。たかだか毒ガエルを3匹倒しただけでは全員の武器や防具をそろえられるわけもなく、もちろん、大した経験にもならないためレベルも上がらない。

「村はそんなに遠くはないんだけど、出来ればこの辺りでレベルを上げておかないとな……」

 剣を鞘に納め、茜と源二郎の方を振り向いた時、ぐらりと視界が揺れた。

「冬雪様!」

 地面に膝をつき、一体どうしたのかと右手で顔を覆う。その時、右手首が青紫色に変色しているのがちらりと見えた。


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