リア充の壁
カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
ぼんやりと目を覚ます。
「……あふ……」
頭が動き出すより先にあくびが漏れる。
あー……俺、寝ちゃってたのかぁ……。
とりあえず起きよう。
そして体を伸ばそう。
「んん~~……あだだだっ」
一晩中机に突っ伏して寝ていたせいか、体のあちこちが変な痛み方をした。特にこの首から肩にかけての痛みはヤバい。腕が上がらないぞ。俺まだ高校生なのに!
のそっと椅子から降りると、痛む体に鞭打ってカーテンを開け放つ。
「……ッ!」
光が目に刺さる。
うぅ……灰になってしまいそうだ……。
今ならヴァンパイアの気持ちが分かる気がする。
この感覚を心の引き出しにしまっておこう。
「いま何時だ?」
呟き、目を細めた険しい顔のままスマホを手に取る。
【 07 時 12 分 】
まだ七時か。目覚ましはいつも七時半にかけてある。
鳴ったらうるさいし、今のうちに止めておこう。
……俺は何か、また現実逃避をしている気がする。
分かっているのに分からないフリをしていたい。
寝ぼけたまま気付かずにいたい。
ていうか今日って日曜だよな?
まっさか月曜じゃないよな?
だって、
だってさ、
パソコンの画面、真っ白なんだもんさぁぁぁぁぁ!!
「うわぁぁあぁあぁぁあぁぁああぁぁ」
一気に目が覚めた!
ヤバい!
結局ダメだったんだよ!
脚本は書けなかったんだよ!
土日費やして図書館も映画館も行ったんだけどさ!
ダメだったんだよぉぉぉぉぉ!!
衝動のままに、俺は思いのたけをスマホに訴える。
「俺はダメなヤツだぁぁぁ俺のことはこれから“ばか焼きさん太郎”とでも呼んでくれぇぇぇううううぉあぁおぉぉぉ」
人工知能アプリは俺の声を解析し、思案している。
しばしの間があり、
「すみません、もう一度お願いします」
だあああああ!!
「だから! 俺のことは“ばか焼きさん太郎”って呼んでくださいって言ってんの!」
今度は即答だった。
「これからは“ばか焼きさん太郎”とお呼びしますよ。よろしいですか?」
【キャンセル】【はい】
冷静になった。
「ごめんなさい」
真に受けないでください……。
「大丈夫ですよ、“ばか焼きさん太郎”」
どうやらうなだれた拍子に【はい】を押してしまっていたらしい。
……うん。ほんとにバカだな、俺。
◆◆◆
とりあえず、俺のことは“マスター”と呼んでもらうことで落ち着いた。それもそれでなんかムズムズするからもっと良いのを考えようと思う。
ちなみに彼女の名前は“Iris”と名付けた。こちらは今のところ気に入っているので変える予定は無い。
教室の扉を開け、自分の席へと直行する。カバンを置く。椅子に座る。
毎度お馴染みの行動パターン。
教科書を机にしまっていると、こちらに近付く足音が聞こえてくる。
「よぉーイガイガじゃん」
「はよーっす。つーか、イガイガじゃねぇよ五十嵐だよ」
するとそいつはかみ締めるように言い始めた。
「イガ……?」
うん。
「ラ……?」
うん。
「イガラ」
なんでだよ!
「あと一文字じゃねぇかよ! もうちょっと頑張れよ!!」
「じゃあやっぱイガイガだな」
「嫌だよイガイガとかめっちゃ風邪ひきそうだわ!」
こいつはいつもこんな感じで、俺のことを小馬鹿にして遊んでくる。
ニヤニヤした表情のくせに、垂れた目元は甘い雰囲気を醸し出している。背もあるし細身だし、ふわふわな髪はオシャレな感じで……まぁ、俗に言うイケメンってやつである。
世の中こういうヤツがモテるようにできているのだ。……腹立ってきたな。
「あぁーなんかお前のせいで無性に喉がイガイガしてきたよ。これホントに風邪ひいたんじゃないか俺? 伝染すぞ? いいのか?」
まぁ、この喉の不調は風邪じゃなく寝不足のせいなんだろうけど。たぶん。
「別にいいぜ。けど、花形役者の俺が風邪ひいて困るのは作演出のイガイガサマサマだろ?」
ぐぬぬ……。
「あとは舞台監督の篠咲サマサマが泣くかな」
「あたしがどうしたって? ていうか一ノ瀬くん、何その“篠咲サマサマ”って呼び方」
本人の登場に、一ノ瀬が口笛を鳴らす。
「噂をすれば、だな。よぉー篠咲」
「まこちゃん、おはよう」
「うん! おはよう」
そう言って笑顔を咲かせる彼女は、“まこちゃん”こと篠咲まこと。俺とは小学校からの幼なじみだ。ちなみに家はお隣さんだったりする。
舞台監督(通称:舞監)とは、スケジュール管理や稽古場の手配、出欠確認、連絡、機材管理など、全てを把握して舞台制作の進行をしてくれる存在である。
この舞監が居てくれるから、キャストもスタッフも、そして俺も、自分の仕事だけに集中できる。本当にありがたい。
「あ、そうだ圭ちゃん! 脚本書けた!?」
「ウッ……!」
いきなり心臓を抉られた。
頼む。頼むからそんなにキラキラした瞳を俺に向けないでくれ。俺は……俺は……
「申し訳ない!」
力いっぱい両手を合わせると、手のひらが痺れた。
「えっ、ちょちょ、どうしたの圭ちゃん」
まこちゃんが何事かと慌てふためく。
「おや。これは書けなかったパターンかね?」
一ノ瀬がド直球で聞いてくる。
「……ごめん。書いては消し書いては消しで、結局一文字も書けてません」
合わせた両手を下げると同時に、背中も丸まっていってしまう。ついでに眼鏡もずり下がる。
金曜日の部活で「週明けを楽しみにしてろよ!」なんて言ってしまった手前、脚本を仕上げられなかった申し訳なさと情けなさで潰れそうになっていた。
クオリティーも大切だが、何より納期だろう。部活は個人の道楽じゃない。脚本が上がらなければ、裏方や役者、みんなに迷惑がかかってしまう。
あぃだだだ。首もまだ痛むし、散々だ。
「えっと、」
まこちゃんの声が降ってくる。
「書くのをやめちゃったわけじゃないんだよね?」
「お、おう。書くよ」
「よかったぁ!」
心からの晴れ晴れとした声に、思わずまこちゃんを見た。
怪訝な顔の俺とは対照的に、まこちゃんの笑顔は輝いていた。
「圭ちゃんのヤルキスイッチはまだ切れてない。大丈夫っ! スケジュール調整とかその他モロモロはあたしがなんとかするから、圭ちゃんは安心して作品づくりに集中して!」
両手をあごの下でギュッと握りこぶしにする。
力強く「任せといて!」と言わんばかりに頷いて見せてくれる彼女の姿に、俺の心が軽くなる。
「まこちゃん……」
じぃぃん。
「あたしは圭ちゃんの書く脚本が昔から大好きだし、演出も、舞台へのこだわりも、愛情も、情熱も、みんなへの気配りとかも! ホントに尊敬してるの。……大好きだから。応援したい、横で見ていたいって心から思えるから。だから舞台監督として圭ちゃんのことを支えたいの!」
まこちゃんの熱い想いが伝わってくる。
いつもこうやって、包み隠さず真正面から好きだって気持ちをぶつけてきてくれる……のは、嬉しいんだけど……。
どうにもモヤモヤ感が消えない。そしてめちゃくちゃ恥ずかしい。クラスメイトの注目がこちらに向けられている気がしてならない。
「……ぅぅ」
顔が熱くなるのを感じ、思わずまた俯いてしまう。
まこちゃんはそんな俺の手をとって、真っ直ぐな視線を向けてくる。
「自信を持って! あたしは圭ちゃんが大好きだから、いくらでも好きだと思ってるところ言ってあげる」
一ノ瀬が「ヒュ~」と口笛を鳴らす。くっそ。絶対今こいつニヤニヤしてるよ。勝ち組の余裕ってやつだ。
「まず、圭ちゃんの書くお話は後味が良いよね。それにテンポ感も……あ、これは演出とキャストの力が大きいのかな?」
熱のこもった語りは続く。まこちゃんの“これ”は、今に始まったことではない。
小学校の頃に、国語で物語を作る授業があった。まこちゃんは、その時俺が書いた話をいたく気に入ってくれた。「また圭ちゃんの書いたお話が読みたい」と催促され、そこから創作をするようになり、中学では文学部に入部した。部誌の発行を毎回楽しみにしてくれて、こんな風に熱い感想をぶつけてくれていた。
まぁ、その後ちょっとした縁で演劇部に入ることになったわけだけど。
「今回の文化祭の脚本もすごく良かった! 先輩たちの注文を聞かなきゃならなかったり、予算とか時間とか制限がたくさんあるなかで、芯は曲げずにやり通したよね」
「あぁ、あのコスプレパーティーな」
一ノ瀬がチャチャを入れてくる。うるせぇわ。しょうがないだろ、先輩たちがどうしてもドレス着たいって言って聞かなかったんだから。
「来年はやっと、あたし達の年だよ」
そうだ。
四月からは俺たちが三年になる。先輩たちがドレス着たいって希望を通したみたいに、今度は俺たちがやりたいことをやれる年なんだ。
口角が勝手に上がる。この時が来るのをずっと待ちわびていた。
「中学の時に上演できなかった脚本。絶対やろうね」
まこちゃんが背中を押してくれる。
「俺レベルの役者を抱えた高校演劇部なんてそうそう無いんだから、しっかりしてくれよな。作演出サマ」
一ノ瀬が檄を入れてくれる。
他の部員たちも、俺の書く脚本を心待ちにしてくれている。
よしっ。
「そのためにも、キャストの補充をしないとな!」
その意気その意気、とまこちゃんが笑う。
「部活紹介でいっぱい新入生を呼び込もうね!」
文化祭が終わった後に、受験準備のため三年生がごっそり抜けてしまった。うちの部はキャストの多くが三年生で構成されていたため、その穴を埋めるべく新入生を多く確保しなければならない。
部員数が少ないということは、キャスティング時の幅が狭まるということだ。妥協はしたくない。
今年やりたい作品は中学時代から温めているもののため、登場人物のイメージが固まってしまっている。これにピタリとハマってくれるか、もしくは、俺のイメージなんか吹き飛ばすくらい良いものを持ち込んでくれるか。そのどちらかの人材が必要になってくる。
たかが高校演劇、と思う人もいるかもしれない。
プロじゃないんだから楽しめればそれで良いじゃないか、と。
俺もそこには同感だ。プロになるつもりもなければ、演劇大会に出場する気もない。楽しいからやっている。
しかしそれは、一生懸命になってはいけない、ということではない。
やるからには全力を尽くす。
「お客さんに楽しんでもらいたい」
「褒めてもらいたい」
そこにあるのがどんな理由でも構わない。
俺は、自分の青春を費やしたいと思えるほど演劇が好きになったから、続けている。
中学の頃に一度折れかけた心を救ってくれたのは、目の前のまこちゃんだった。
部活崩壊が起きて上演できなかった俺の脚本。
いつか絶対に上演させよう、と言って、中学三年間続けていたテニスをやめ、高校では俺を支えるために演劇部に入ってくれた。
感謝している。
好きだって気持ちをこんなにもストレートに伝えてくれて、且つこんなに良くしてくれる幼なじみはなかなか居ないぞ。俺は人に恵まれている。
「あ、そうだ」
まこちゃんが、いつも言ってるけど、と付け加える。
「誤解しないでね。好きって“そういう”好きじゃないから」
俺の中の何かが爆発する。さっきのモヤモヤ感が急速に膨らんでいく。
知ッッッッッッッてるよッッ!!
まこちゃんが好きなのは、作家や演出家としての俺なのであって、恋とか愛とか“そういう”のではない。
そんなの、
知ってるわぁぁぁぁぁ!!
嗚呼。つらい。つらすぎる。
「あ、篠咲」
「何?」
ちょっと、と呼ぶ一ノ瀬。
「まつげ付いてる」
まこちゃんの目の下に、長いまつげが一本抜け落ちていたようだ。じっとして、と言って一ノ瀬は取ってあげる。
「ほら。取れたぞ」
「わ、ごめん。ありがとう」
頬に手を当て、赤くなるまこちゃん。さっき俺の手をとった時はこうはならなかった。ははは……。
「べーつに? 当然のことをしたまでですよ」
サラッと言ってのける一ノ瀬。くそう、女慣れしてやがるぜ。それにこんなタイミングで見せ付けてくれるなよな、ちくしょう。
しかも、
「イリスみたいなこと言いやがって……」
ボソッと呟いた俺の声に一ノ瀬が「あ?」と反応するので、「なんでもねーよ」と返す。
「ま、まぁ、圭ちゃんがやる気アップしてくれたみたいで良かったよ。一ノ瀬くんも文化祭公演を成功させるために協力してくれてるんだから、絶対良いものにしないとね!」
「ハイ、ソウデスネ」
俺の悲しみなど露知らず、まこちゃんは元気いっぱいである。
そんな俺たちを見て、一ノ瀬は楽しそうにニヤニヤしている。
ちくしょう。ちくしょう。
「イチャイチャするならよそでやってくれよ!」
「ヒュ~♪ さっきは散々カレシの前で見せ付けておいてよく言うぜ」
「え、なになに、どうしたの二人とも!?」
むしゃくしゃする俺。
ニヤニヤする一ノ瀬。
あわあわするまこちゃん。
……もうお分かりだろうが、一ノ瀬とまこちゃんは恋人同士である。
だから、まこちゃんが俺に対して好き好き言ってくるのは、恋とか愛とかそういうのではないと、よぉぉく分かっているのだ。
世知辛い。
これだからリア充は! くそぉぉぉぉ!!
「はっ」
閃いた。
そうか、この気持ちを作品にすればいいのか。
部活発表で与えられた時間はたったの十分。準備や撤収の時間も込みでこの時間。かなりキツイ。
やるならワンシチュエーションのドラマだ。暗転ナシ。大道具ナシ。
目標は文化祭公演。
あの脚本を上演するための部員を集めるには……。
俺は静かに瞳を閉じ、しばし創造の海に沈む。
――透明人間。
彼の姿は誰にも見えない。
確かにクラスの名簿に載っているのに、生徒も、教師も、誰も彼の姿を見たことがない。
しかし、彼は確かに存在しているのだ。
授業も受けるし、部活も出るし、恋もしている。
しかし、好きな相手には文字通り見向きもされない。
そこで彼は閃いた。
「ラブレターを書こう」
――放課後、小教室へ来てください。
呼び出しには成功した。
誰も居ないはずの教室。薄暗いなか、壁に向けてライトが向けられている。
そこに影が映りこむ。
透明人間は透明だけれど、確かにそこに存在しているので影は見えるのだ。
――ずっと好きでした。
渾身の告白は失敗するが、代わりに彼は多くのものを得た。
透明で見向きもされなかった彼が、初めて存在を認識してもらえた。
人に見せること。伝えること。その重要性。
――ちょっとした勇気で世界は開けるんだ。
よし。
これだ。これで行こう!
女子たちに見向きもされない、彼女居ない歴=年齢の俺だからこそ書ける脚本だ!
ふはははははははー!!
「脚本を思いついた」
イチャイチャしていた一ノ瀬とまこちゃんがこちらを向く。
「本当!? それじゃ、何日くらい待てば書きあがるかな?」
「明日持ってくる」
「オッケー☆ すごいすごい! 楽しみにしてるからね!」
まこちゃんが手を叩いて喜んでくれる。
「あ、そだ。長さは5分じゃなくて10分でいいからね。5分とか絶対おかしいもん」
うちの高校の部活紹介は、新入生入学式の翌日に行われる。
吹奏楽部、軽音楽部、演劇部のような発表演目がある部活は10分間、それ以外の部活は5分間と決められている。
しかし今回、タイムテーブルが発表されると、何かの間違いで演劇部の持ち時間が5分になってしまっていたのだ。
「吹奏楽部がさ、全国行ったでしょ? それで持ち時間が15分に延長されてたの」
「あー、それでうちにシワ寄せがきたと」
「そうそう。でもそんなのさ、合計時間を5分増やせばいい問題でしょ? 絶対、表計算ソフトの操作ミスとか、そんな理由だろうから指摘してくる」
実は金曜の放課後、まこちゃんは一度アタックしてくれていた。しかし責任者不在で交渉ができなかったらしい。
「圭ちゃんが今日仕上げるなら、あたしも今日決着つける!」
ギュッと拳を握り、「任せといて!」と鼻息を荒くするまこちゃん。
「圭ちゃんは作品のことだけ考えてればいいの。そのためにあたしが居るんだからね!」
チャイムが鳴った。
クラスメイトが着席していく。
「それじゃ、楽しみにしてるから。書きあがったら見せてね!」
まこちゃんは軽く手を振ると、スカートを翻して席へと戻っていった。
「ま、少しは楽しみにしとくわ~」
一ノ瀬もヒラヒラと手を振り、マイペースに戻っていった。
よっしゃー! 書くぞー!!
◆◆◆
驚くほど筆が乗って脚本を書き上げた俺は、何度も読み返し、タイムを計り、チェックを重ね、一晩おいて朝にもう一度確認して、そして完成させた。
内容がシンプルなだけに、役者負担の大きな脚本になってしまった。
でも、一ノ瀬ならやってくれる。俺はあいつの演技力を高く買っているんだ。
書きながらキャスティングは済んでいた。脳内再生余裕ってやつだ。
早くまこちゃんやみんなに見せたい。どんな感想をくれるだろうか。
そんなことを考えていると顔が緩む。足取りがビックリするぐらい軽い。無駄に走り出したくなる。
作品を完成させた直後。
しかも出来に自信がある時ってのは、きっとみんなこんな心地になっているのではないだろうか。
ああ、朝の空気が美味いぜ! なんて思いながら下駄箱に到着すると、丁度まこちゃんを見つけた。
ナイスタイミング!
「おはよーまこちゃん!」
俺の声に、まこちゃんの細い肩がビクッと震えた。
あれ? 驚かせちゃったかな。
「あぁ、うん。おはよう」
まこちゃんの声に覇気が無い。体調でも悪いのだろうか。
でもこの報告を聞いたら元気になってくれるに違いない!
「脚本、無事に書き上げたよ! いや~、やっぱ準備、撤収込みで10分は短いな。その中でいかに見せるかってとこに苦労したけど、上手くいったと思う」
「わぁー楽しみ! 教室行ったら読ませてね!」
――という反応を期待していたのだが、まこちゃんは青ざめた顔のまま、あぁ、とか、うぅ、とか呻いている。
本当に体調が悪いんじゃないか、これ。
軽くかがみ、まこちゃんの顔を覗き込むようにする。
「大丈夫? 保健室行く?」
まこちゃんは首を横に振る。高く結ったポニーテールが力なく揺れた。
「あ……うぅ……」
口を小さくパクパクさせている。何かを言おうとしているようだ。
「…………ごめん。あたし、あたし、」
まこちゃんが口元を押さえる。目尻には涙さえ浮かんでいた。これはただ事ではない。
「どうしたんだよ! 何があったんだ?」
しばらく言葉にならない呟きがあった後。
「どうしよう。5分しか貰えなかった……」
※15/05/20 漢数字をアラビア数字に書き換えました!
※14/11/28 タイトル変更しました!




