第九十九話 災い転じて福となる・・・か?(6)
※この度、東北地方太平洋沖地震で、被害にあわれた皆様のご冥福と、早期のご回復を心から願っております。
同時に、原発作業に尽力を尽くしてくださっている【東京電力の作業員】皆様の無事を切に願っております。
玲春の登場に驚いたのは、星影だけではなかった。
「玲春!なぜ女官であるお前がここにいるのだ?それも、紅嘉と一緒に・・・!?」
彼女が仕える主人の夫である衛青だった。
困惑気味に少女を問いただせば、星影の胸にうずめていた顔を上げる。
そして神妙な面持ちで彼女は答えた。
「・・・お許しを、旦那様。お叱りは後で受けます。どんな罰でも受けますから・・・!」
「いやいやいや!ちょっと待って!!お叱りとか罰とか玲春殿!そう言う問題じゃないから!」
「安様。」
「衛青将軍は、別に怒っているわけじゃないよ。夜中に女の子が一人で、こんな危ないところに来てるから~」
「お許しくださいませ、安様。安様が怒るお気持ち、十分にわかっております。」
「わかってるって・・・」
「がぁ!」
途端に、服の袖を引っ張られた。紅嘉だった。
「ど、どうした紅嘉?」
「もしや・・・怒るなと言っているのではないか?」
注意深く紅嘉を観察していた皇太子が呟く。
「え!?そうなのか、紅嘉?」
すると、そうだと言わんばかりに星影の袖を上下に引っ張る小虎。
「やはり・・・!」
「それじゃあ紅嘉・・・・玲春殿は悪くないというのか?」
「ぐるぅ!」
「じゃあ、なんでお前と一緒にここにいるんだい?」
「ぐぅ・・・」
「なんだ、急に元気のない声を出して?何かやましいことでもあるのか~?お前は?」
このこのと、指先で小虎の顔をつつきながら聞く星影。完全に遊んで、からかってたのだが、
「おやめください、安様!紅嘉殿を怒らないでください!」
「玲春殿。」
それを『怒っている』と勘違いして、大慌てで止める玲春。
つついていた宦官の手を握ると、潤んだ双璧で星影を見ながら言った。
「紅嘉は、安様の危機を察してここまで駆けつけたのです!それを私に教えてくれたのです。」
「なんだって!?」
予想外の発言に、星影でなく、衛青達も顔色を変える。
「紅嘉・・・が、きみに教えたというのか?」
「はい、私に安様が危ないと伝えてくれ・・・ここまで導いてくれたのです。」
「じゃあ紅嘉って、しゃべれるのかい!?」
「いえ!・・・そういうわけではございませんが~・・・鳴き声で教えてくれました。それから行動で!私に来てくれと―――――」
「――――――それで自分の部屋を、宮殿を抜け出し、ここまで来たというのか!?」
「衛青将軍!?」
「そうなのだな?玲春!?」
「旦那様・・・。」
妻の侍女の話に、いつもとは違う口調になる衛青。
それは怒りと戒めが込められた声だった。
「なんという危険なことを!紅嘉は限られた者しか懐かないというのに・・・危ないと思わなかったのかい?」
「申し訳ございません・・・!」
「叔父上、そんなに怒らないでください。」
大将軍の態度にまずいと思ったのだろう。なだめるように、皇太子が口をはさんだ。
「お気持ちはわかりますが、悪気があってしたことではないでしょう。紅嘉と玲春・・・であったかな?この一匹と一人のおかげで私達は助かったのですから。」
「しかし・・・」
「そうですよ、衛青将軍。悪いなら、紅嘉の管理をしている魏忠殿ですよ!」
「では、その魏忠はどこだ?玲春!?」
星影の聞きたかった魏忠殿の安否を、厳しい口調で衛青が問う。
「それが・・・」
この問いに彼女は、言いにくそうに答えた。
「・・・賊に襲われてお怪我を。」
「なんだって!?」
「襲われただと・・・!?」
「どこで襲われたのだ、玲春!?」
少女の答え、星影・劉拠・衛青の男三人(!?)は、すぐさま聞き返した。
「襲われたとはまさか―――まさか玲春!魏忠に、いや、妻達のいる宮殿にも賊が侵入していたのか!?」
「違います、旦那様!奥様も、奥様がいらっしゃる宮殿の方々は、みなご無事でございます!」
「無事だと?」
「はい。安様の、高級宦官の方々がお住まいの宮殿の庭にいらっしゃるはずです。」
「ここから近いですね、叔父上・・・!」
「おっしゃる通りです、拠様。そのことを踏まえて考えても・・・・玲春。」
「・・・はい。」
「つまりお前は・・・自分の宮殿を抜け出し、高級宦官のいる宮殿まで来たと言うことになるが・・・。」
「申し訳・・・ございません・・・!」
完全に怒る姿勢で問いただす衛青と、大人しくそれを受ける玲春。
「返す言葉もございません・・・。」
「本当に・・・・なんということを・・・!」
ため息交じりに言う衛青の言葉で、その場は重い空気となったのだが、
「だ~か~ら!そういうことは後にしてください!!今は魏忠殿こととでしょう!?」
空気と話題を変えようと宦官が口を開いた。
玲春を庇いながら衛青との間に割って入ると、再度、武人に向かって訴えた。
「玲春殿を怒らないでください、衛青将軍!彼女は、紅嘉に頼まれてここまで来ただけですよ!」
「しかしな、安林山ど――――」
「それで玲春殿!魏忠殿は無事なのかい!?」
なにか言おうとする大将軍の言葉を遮りながら、縮こまっている少女に問いただす。
それに少女は、星影の服の裾を掴みながら答えた。
「はい、お命に別状はございません。お怪我はされているのですが・・・」
「じゃあ、生きているのだね?」
「はい・・・生きております、安様。」
「それならよかった。彼に何かあれば、紅嘉が可愛そうだからね。」
「・・・それが、良いとも言い切れないのです・・・。」
「え?」
安堵する宦官に、震える声で少女は言った。
「私が駆け付けた時、魏忠殿は肩から血を流されておりました。その側では、紅嘉が苦しんでおりました。私は・・・魏忠殿のお側に行く直前、ある者達が、そこから立ち去るのを目撃いたしました。」
「ある者達?」
「それは一体誰なのだ!?」
「それは―――――」
一呼吸すると、強く星影にしがみつく。
そして、片手の人差し指を立てると、その先をある方向へと向けながら叫んだ。
「魏忠殿を襲った賊!それは今、安様や旦那様達を襲っている者達で間違いございません!!」
「なに!?」
その言葉で、一斉に敵を見る一同。
指差した先、視線の先にいたのは、自分達を襲っていた賊達。
これを受け、指を刺された賊の頭目は忌々しそうにつぶやいた。
「やはり虎使いは・・・殺しておくべきだったようですな。」
「それじゃあ、お前達が魏忠殿を!?」
「一体何のために魏忠、という者まで襲ったのだ!?」
「それは拠皇太子様のせいでしょうね~」
「っ!!またそれかいっ!?いい加減にしろよっ!」
決まり文句用に言う相手に星影は、憤慨しながら怒鳴りつけた。
「『皇太子が悪い』と言い続ければ、それでこっちが納得するとでも思ってるのか!?だとしたら、貴様らはよっぽど仕事のできない刺客だな!?」
「なんだと!?」
「現に、一度失敗しているのだろう?」
脅すように核心をつけば、苦々しい表情で黙り込んでしまった。
「図星のようだな?」
「黙れ、小僧・・・!」
「ああ、いいとも。黙ってやろう。だが、黙るかどうかはお前達次第だ。」
「なんだと?」
片目を吊り上げながら聞き返す敵に、星影は目を細めながら言った。
「お前たちが誰に頼まれて皇太子殿下や魏忠殿性質周辺の一般宮廷人を襲ったのか話せ。そうすれば、命だけは見逃してやるよ。」
「安林山殿!?」
「正気ですか、安様!?」
「もちろん正常だよ。どうだい頭目さん?悪い話じゃないだろう?お前達が正直になれば、見逃してやる。仲間と一緒に逃げられるんだぜ?」
正直、ここまで非道の限りを尽くした敵を助ける気など毛頭ない。
どこぞの、媚を売るのが上手な宦官を助けた時のように、陛下が賊達の命を助けるとは思わなかった。
関係ない宮中の人間をたくさん殺し、そうなった原因は皇太子にあるとわけのわからない責任転嫁をしている連中など、陛下でなくても許せない。
だからこれは、口先だけの言葉に過ぎない。
「お前達に、悔い改める機会を・・・与えたい。望むなら、私が陛下に助嘆する。」
口先だけの言葉。
無理かどうかはやってみなくてはわからないが、相手は絶対に自分の話に応えないだろう。
「馬鹿か!いくら陛下の寵愛を受けている宦官とはいえ、李延年ほどの愛は受けていないだろう!?」
客観的に見ても、今の状態は賊の方が有利。
「だから信用できないと?」
「当たり前だ!男と男の約束だとでも言いたいのか!?玉無しの宦官風情が!!」
不利な立場ならともかく、有利な立場だからこそ、私の話には乗らない。
現に今、私達への侮辱と軽蔑の言葉を語った。
それを怒って黙らせるつもりはない。
むしろ好都合。
だってこれは、時間稼ぎなのだから。
「私もこ奴らは許せぬぞ、安林山!そなたが、心の優しいものというのは知っている。しかし、情けをかける相手を間違えているだろう?」
「おっしゃる通りでございます、皇太子殿下。しかし、あれは哀れな生き物でございます。」
「あ、哀れだと!?」
「我らのどこが哀れだと言うのだ!?」
反発する敵に、冷たい目で星影は言った。
「所詮・・・刺客・暗殺者の類は、闇にしか生きられないもの。どんな忠義・忠誠を尽くしても認められない。金で命を売っているのと等しいのではありませんか?」
「どういうだ・・・安林山、殿?」
「刺客とは、常に裏切りと隣り合わせだと言うことですよ、皇太子殿下。どんなに、高額な報酬とぜいたくな暮らし、確かな地位を約束されても、任務がまっとうできても、それが手に入るとは限らない。」
「なぜだ?」
「暗殺を依頼した権力者に、殺される場合が大半ですから。」
「依頼主に!?」
「そうなのですか!?安様?」
「そうだよ、玲春殿。私の師が言っていたよ。やましいことがあるから刺客を雇って使うからだ。やましいことを隠す為なら、刺客の使い捨てなんて当たりまえ。今回の貴様らの依頼だって、奇跡が起きて皇太子殿下を含めた私達が、幸運にも、あり得ないぐらいの万が一の可能性で成功したとしても、消されるのは確実さ。」
言い方を含めた星影の発言に、敵は声を荒げた。
「ふざけるな!なにが奇跡だ幸運だ!?」
「どこまでこちらを舐めれば気が済むのだ、クソガキめ!」
相手の反応はもっともだった。上から目線の言い方をされれば、誰でも腹が立つ。
「宦官よ!貴様、我ら相手によくそんな大口が聞けるな!?少しばかり腕が立とうと、大将軍様が側にいようと、お前たちが不利なことには変わりないのだぞ!?」
「それはどうかな?」
「なに!?」
「貴様らは、人を殺し過ぎだ。それに加え、私達に姿を見られている。・・・低い可能性で、人生最後の幸運を使って、私を殺せたとしても、私が貴様らの正体を暴けるだけの証拠を、この戦闘中に隠していたとしたら、貴様らの所業はすべて無駄!殺し損になるだけさ・・・!」
「!?」
「なんと!?」
「いつの間にそんなことを・・・!?」
賊はもちろん、驚く大将軍と皇太子に、星影は笑顔で微笑みかける。
星影が口にした、『敵の正体を暴けるだけの証拠を隠した』ということについてだが、
(そんなわけじゃないじゃ~ん。)
真っ赤な大嘘である。
そんなことをする余裕があれば、さっさとこの場から大将軍と皇太子を連れて逃げている。
「そなたがそんなことをしたなど、我々でさえ気づかなかったというのに・・・!」
「まさに、神業と言える・・・!」
「ははは。たとえ話でございますよ、皇太子殿下、大将軍。証拠になるかどうかは、陛下が確認してくださればいいこと・・・。」
「なっ!?どういう意味だ、宦官!?」
「たとえ話ですよ・・・。所詮私は、李延年様ほど寵愛はございませんが・・・それなりのことは出来るのです・・・!」
「なんだと~!?」
「例えば、皇帝のみしかわからない暗号があるでしょう?今更あなた方が、どんな偽装をしても、私がそれで真実を記していますので無駄ですよ。」
「き、貴様っ・・・・!?」
星影の言葉に、敵も味方も四苦八苦する。
自分の話している言葉は、賊がしたこと以外はすべて嘘。
人間は言葉に惑わされやすい。
星影が先に彼らがしたやましい証拠を口にしたことで、多少なりとも敵は動揺した。
その後で、精神的なゆさぶりとなる嘘をついた。
寵愛とか皇帝のみしか使わない暗号とか、知るわけがない。あるかどうかさえ分からない。
だけどそれでいい。
意味深なことを言えば、それだけでも効果はある。
命の駆け引きをしている場は、一瞬一瞬が、即決の決断を迫られる。
だから、落ちつて考えればわかるようなことをじっくり考えている間はない。
「どこにその証拠を隠した!?どのような暗号なのだ!?答えろ、宦官!!」
なので、騙す、騙されるという現象が起こって不思議ではないのだ。
(これで敵の呼吸は乱れた。)
上手くいくと踏んだ星影は、さらに相手を怒らせる言葉を吐いた。
「答える義務などありません。私がお仕えしているのは漢帝国である。どこの馬の骨ともわからんものの捨て駒に用はない。」
「か、かんがぁ~~~~んっ!!
「宦官ですが、なにか?」
歯ぎしりする敵に、わざとらしく聞き返せば、何人か悔しそうに拳を握る音がした。
「見ての通りの宦官ですよ、私は?それを聞き返しただけで怒るなど・・・なにがしたいのか、わけがわかりませんね?」
「安様、あまり挑発されてはー」
「挑発ではないよ、玲春殿。ただ私が言いたいのは、この刺客達のしていることが無意味なことだと言うことです。どうせ最後は、雇い主に葬り去られる運命なのに――――――」
「黙れっ!」
星影の言葉を遮って頭目は怒鳴った。
「黙れ・・・・宦官!貴様に何がわかる!?」
「わかるよ。」
その問いに、真面目な表情で星影は言った。
「失敗の挽回をしようと、必死になっている。仲間養わなきゃいけないのもわかるけど、別のやり方があったはずだ。」
「なっ・・・」
「無能な跡継ぎを排除するような裏工作は、私達が生まれる大昔からあっただろう。だが・・・・そんな道理に合わせて、ここにいらっしゃる劉拠様は、そんな無能とは程遠い。お前達の依頼主は、間違っているんだよ。」
確かに、嘘で惑わすことも必要だが、やはり自分の性分と少し合わない。
悪人だから、悪い奴だからと言って、人間が持つ良心がないわけではないだろう。
育った環境によって、良心なるものを知らない輩だっている。
だから、それを説くだけのことはする。
自分の気持ちだけは相手に伝えるようにしている。
「そんな馬鹿のために、死ぬこともないだろう?」
それが自分のやり方だから。
唇を噛みしめながら宦官の話を聞いていた死の使い達。
しかしそこは、その道の達人達であった。
「調子に乗るなよ、安林山!」
それが彼らの返事だった。
「小娘と虎一匹増えたところで、貴様らが不利なことには変わりないのだぞ!?」
星影の言葉を強く否定すると、再度襲ってくる姿勢を見せたのだ。
「・・・そこまで言うなら、試してみましょうか頭目さん?」
「なにっ!?」
相手の態度に、予想通りだとほくそ笑む星影。
先ほどまでは、行きつく間もないほどの急展開だった。
精神が張りつめすぎて、呼吸さえも苦しかったが、今はそれもない。
焦燥感や焦り、緊張も収まった。
心身ともに整えられた。
(相手を乱して、己を整える心理戦法は成功だな。)
相手と言葉を交わしたのは時間稼ぎのため。
相手にしゃべらせたのは、その間に自分の調子が回復させるため。
相手を怒らせたのは、彼らの精神状態を乱すため。
(それが私の目的さ。)
私には敵を助ける権限も力もない。
救えるものなら救うがそんな気は全くない。
最初から、彼らを説得する気はない。
でも、私の考えだけは言っておいた。
だってこれは、あくまでも私が万全の状態になるための時間稼ぎだから。
「どちらが不利なのかをね・・・?」
悪戯を思いつたい子供のように、ニヤリと笑う宦官。
少女の側から音もなく離れると、その動きに合わせてついてきた小虎の背を一撫でしてから叩いた。叫んだ。
「―――――――――――いっけぇ、紅嘉!!賊どものはらわたを食い破れっ!!」
「がぁあああ!!」
言ったと同時に、撫でていた背中を叩けば、それが合図となった。
新しい主人の命令に、待ってました!と言わんばかりに、賊めがけて襲い掛かる人食い虎。これに相手方は、大いに慌てた。
「ぎゃぁ――――――――――――――――!?」
巨体に似合わない俊敏な動き。
たちまち辺りは大混乱となった。
「と、虎がぁ!」
「こっちに来るなっ!」
「がるぅう!」
「ひぃい!噛むな噛むな!」
子供とはいえ、鋭い牙ととがった爪。
巨漢の体を揺らしながら敵に食いついた。
それはまるで、昼間の惨劇がもどってきたような光景。
もし、あの時と違う点があるとすれば――――――――
「うわぁ――――!腕がぁぁ!」
「は、腹を噛まれた!」
「きゃあああ!いやぁ!!」
「来ないでくれ!!」
「グルアァァァァァ!!」
この場所が、すでに血の臭いで満ちていたということ。
紅嘉が星影達の場所を見つけられたのは、小虎が星影の匂いのみで探したわけではなかった。
目的地まで、道しるべのように漂っていた臭い。
人にはわからない、辺りに立ち込めるぐらい充満していたサビテツの香り。
自分が狩る前から、鮮血と死肉の香りが広がっていた。
大好きな星影のにおいと混じってそこにあった。
それを頼りに紅嘉は星影達を探し当てていたのだ。
「がぁああ!!」
彼は、今ご機嫌だった。
新しい主人から許可が下りたということで、興奮状態にあったということ。
野生本来の捕食本能が、死臭と血で呼び起こされていたこと。
噛みたくて、噛みたくて、噛みたくて。
殺してみたくてたまらなかった。
もちろん、死なない程度に。
それが、この猛獣を駆り立てている理由であった。
「ガァア――――――!!」
皮肉にも、刺客達が殺した人間の血によって、小虎は興奮状態となっていたのだ。
「紅嘉の奴、いつにも増して、好戦的だな~」
幸か不幸か。
そのことに、小虎をけしかけた星影は気づいていなかったのだが・・・。
どちらにせよ、紅嘉の猛攻は、予想以上に賊に痛手を与えていた。
「ひ、引け!」
「虎から離れろっ!!」
「距離を取るんだ!」
統率がとれず、彼らの包囲が乱れ始めていた。
「お、お頭っ!虎が!虎がぁ!」
「このままじゃ、食い殺されますよっ!」
「ええい!情けない連中だ!?なにをしてる!殺せ!」
「へ、へい!ですが―――」
「どうやれば・・・?」
「馬鹿野郎!矢をいかけろ腰抜けどもが!それで、ひきつけてる間に――――!」
「させるかっ!」
「ぶっ!?」
接近戦では歯が経たないと判断した敵は弓矢で紅嘉を射掛けようとする。
それをさせまいと星影は、弓矢を構える集団に攻撃を仕掛けた。
散らばっていた敵の武器を拾って立て続けに投げつけた。
「やっ!はぁ!とぉ!やぁぁぁ!!」
刀や剣を、切っ先を向けて投げつけた。鞘なども十分な武器になるので、回転を利かせて投げつけたりした。
それはすべて矢を射かけようとする敵達にぶつかり、その攻撃を阻んだのだった。
星影の不意打ちの攻撃で、敵の包囲はさらにもろくなった。
それを瞬時に確認すると、呆気にとられている衛青に向かって叫んだ。
「大将軍!今のうちに皇太子と玲春殿を安全な場所に!」
「な、なんと!?」
「私はあなたほど、武に優れていません!二人一度には守れませんので、お早く!」
「安林山殿!?」
「本気ですか、安様ぁ!?」
「大真面目だ!さぁ、衛青将軍と逃げるんだ!」
「無茶を言うな!そなたをおいて逃げるなど――――・・・・!」
「私は大丈夫です、衛青将軍!遊撃は得意です!さぁ、お早く!」
星影の言葉に、一瞬苦悶の表情を見せるが、
「―――――――――・・・・必ずもどってくる・・・!」
苦しそうに、本当に苦しそうな呼吸でそう返事をする衛青。
「そなたの元に戻ってくるから――――――生きていてくれ!」
待っていてくれ。
普通ならそう言うだろう。
それをこの方は、生きていてくれと言った。
それだけで星影は十分だった。
「・・・仰せのままに、大将軍。」
笑いかけて胸の前で両手を組めば、同じように両手を合わせる男。
「必ず、生きていてくれ・・・・」
愁いを込めた目で、星影を見つめた後で背を向ける。
「叔父上!」
「安様っ!」
少年少女を庇いながらその場から遠ざかる武人。
その姿に星影は、戦いの時とはまた違った高揚感を覚えるのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!
本編に関することではないのですが、小説の中で『刺客』について星影が語っていましたので、昔のチャイニーズヒットマンについて、少し語らせて頂きます。
中国の歴史書の中には、刺客についての列伝というものがあります。
それを記したのが、その小説にも出てくる武帝に仕えた歴史家・司馬遷であります。彼は彼が記した『史記』の中に、五人の刺客について紹介した『刺客列伝』というものを残しています。
現在では、殺し屋という怖いイメージ・悪いイメージがありますが、時代によっては、悪い権力者などを懲らしめる・退治するという人達のことを言っていたみたいです。
だから、司馬遷の書いた『刺客列伝』に登場する方々も、現代風に言えば、どちらかと言うと烈士や侠客のような方々だったようです。
刺客として行動した理由も、『義理』・『大義』・『忠義』・『自己犠牲による平和』などがあったみたいです。
日本風に言いますと、必殺仕事人や暴れん坊将軍、遠山の金さんみたいな感じだと思って頂ければわかりやすい(!?)ですかね(^^;)
ただ・・・こうやって公に残っている刺客というのも稀なので、珍しいので書き残していますので、実際の刺客はまた違っていたかもしれません。
しかし、口封じで、殺害の任務完了後に殺されてしまうケースはあったようです。
ちなみに本編ですが、暗殺を実行する刺客である賊達に、星影は紅嘉をけしかけます。その上で、皇太子達を連れて逃げるよう衛青に進言をしました。
普通は逆かもしれませんが、星影の性格上、『自分がやらねば!』という責任感からこうなっています。
衛青将軍も、最初は迷いますが、虎もいるということで星影を信じて甥と妻の女官を連れて逃げます。
どうなるかは・・・次回に続きます(笑)
興味のある方、次回までお待ちいただける方、よかったら読んでやってください・・・(平伏)!!
※見直しはしましたが、文章中に、『誤字・脱字・変換ミス・抜け字』がございましたら、こっそりでもどうどうでもいいので、ご一報いただけると助かります・・・!
ヘタレですみません!!