第九十七話 災い転じて福となる・・・か?(4)
※この度、東北地方太平洋沖地震で、被害にあわれた皆様のご冥福と、早期のご回復を心から願っております。同時に、原発作業に尽力を尽くしてくださっている【東京電力の作業員】皆様の無事を切に願っております。
自分が加勢することで、少しは続が驚くと思っていた。
最初は驚くが、すぐに「たかが宦官風情で!」という反応をするだろうと。
今までのこともあるので、たいして気にも留める必要もない。
すぐに、殺し屋の本性丸出しで冷静に対応してくるはずだ。
そう考えていたのだが、今回は少しばかり、その予想が外れていた。
「ど・・・・どうなっているのだ!?」
「なぜ、安林山が動けるのだ!?」
「奴は確か毒で――――!?」
敵の動揺がいつまでも収まらなかった。
同時に、聞き捨てならない会話が聞こえた。
(なに?)
“奴は確か毒で――――!?”
なぜ、私が毒で動けないことを知っている?
(まさか、毒を盛ったのはこいつらなのか?)
間抜けな目で自分を見ているこいつらが?
自分に向けられる視線を受けながら星影は思う。
だとしたら、ちょっと情けない。
こんな連中にやられた自分はあまりにも馬鹿じゃないの?
そう思って反省する星影だったか、彼女は知らない。
星影が間抜けだと称した賊達の表情が、彼女自身の美しさによってそうなっていたということを本人は気づいていなかった。
もっとも、それを星影が知ったところで喜ぶことはないだろうが。
(犯人かどうかはわからないけど、連中が私の事情を知っているのは確かね。)
伏せている情報を知っているあたり、そう考えて間違いないだろう。
(でも今はそれどころじゃない。)
仕返しをするためには、確かめるべき大事なこと。
だけど、優先順位が違った。
自分に毒を盛ったかどうかは、後で締め上げて聞き出せばいい。
そんなことよりも先に、確かめなければいけない大切なことがある。
「皇太子様、お怪我はございませんか?」
それは、劉拠皇太子殿下の安否。
宦官の名を反復する敵を無視して、皇太子へと穏やかに笑いかける。
「あ・・・?ああ!だ、大丈夫、だよ・・・」
名を呼ばれたことで、ようやく我に返る少年。
星影の質問に劉拠は、本来の彼らしい素の表情で答えた。
そんな彼の声で、金縛り状態だった叔父も覚醒した。
「こ、皇太子殿下!劉拠様ぁ!!」
「叔父上。」
「拠様、拠様!ああ、ああよかった!ご無事でよかった!!」
「叔父上!!」
駆け寄ってくる叔父に甥っ子は飛びついた。
「なんとバカなことを!もう少しで死ぬところだったのですよ!?」
「すまない、許せ・・・。私はただ、叔父上の助けになりたくて・・・」
「私は武人です!刃物を使うことは、私に任せればいいのです!ああ、よかった!本当にお前が無事で・・・!」
「叔父上・・・!」
もう離さないと言わんばかり少年を抱きしめる男。その微笑ましい光景を見ながら星影は口を開いた。
「ご無事で何よりでございました、劉拠皇太子殿下。衛青大将軍。」
(本当に、あなた様方が無事でよかった・・・!)
心底安堵したように告げれば、甥を抱きしめたまま、彼は星影の方へ視線を向けながら言った。
「安林山殿、かたじけない!皇太子を、拠様を守ってくれて!君には心から礼を言う・・・!」
「私からもだ、安林山。おかげで助かったよ。」
「いえいえ。臣たるもの、主を守るのは当然の務めですから。」
「謙虚であるな。」
「そんな!そんなことは、衛青将軍・・・」
尊敬する代将軍にそう言われ、表情が緩む星影。
「とにかく、全員無事で何よりだ。」
「はい、皇太子殿下!」
「はいっ!」
そんな会話をしながらほのぼのと、互いの無事をたたえあう三人。
そこへ罵声が加わった。
「やりやがったな!小僧っ!!」
そう叫んだのは、惚ける暗殺者達を従える頭目。
「クソガキ!!よくもぉ~!」
皇族二人の後ろから、少し体をふらつかせながら姿を現した。
皇太子を仕損じた男は、星影をにらみながら怒鳴りつけた。
「クソガキ~よくも邪魔をしてくれたな!?自分の立場が分かってるのか!?そんなにぶち殺されてぇのか!?」
それまでの綺麗な言葉遣いはなくなり、完全に怒っているということを思い知らせるもの。
これに星影は、とぼけた口調で答えた。
「あんれぇ~?もう平気なんですかぁー?」
「当たり前だ!このガキ!!鞘ごと殴りやがって・・・・!」
「仕方がないでしょう?剣はあなたが飛ばしちゃったんですから?」
「黙れ!貴様ただの宦官ではないな!?あのような高度な技を・・・!!」
「はてはて・・・。なぁ~んの、ことやら・・・・。」
ニッと笑いながら星影は答えた。
あの時。
皇太子に振り下ろされた刃物は、星影の手によって防がれていた。
自分めがけて向かってくる刀に、立ち尽くして動けない少年。
彼の足元で体を横たえていた星影は、猫のように俊敏に起き上がると皇太子と賊の間に割って入った。
その状態で、自分より背の低い皇太子を胸に抱きしめながらかばった。
賊に背を向けるということは、『切り殺してくれ』と言うようなもの。
だから敵は、星影もろとも串刺しにしようと、刀を持ち替えた。
そのわずかな動作に合わせて彼女は動いた。
向かい合う形で皇太子と抱き合っていたのだが、少年を抱きしめた状態で体を反転させたのである。
正確には半回転。
それにより、敵の目前に皇太子の体が付きだされた。
これには賊も微かに驚いたが、すぐに口元を緩めた。
(――――――――――己の命惜しさに、庇うのをやめて皇太子を己の盾としたか!)
そう判断して、再度刀を持ち替えて振り上げたのだが、
「――――――――ば~か。」
聞こえるか聞こえないかの小さな呟き。
その声と意味に賊の頭目が気付いた時、彼は宦官の術中にはまっていた。
皇太子と抱き合ったまま半回転した際に宦官は、少年の腰から剣の収められていた空の鞘を抜き取ると、それで漆黒の刀を防いだのだ。
「なっ!?」
それらの一連の動きは一瞬のこと。自らの攻撃をあっさりと防がれる。あまりの手際の良さに、暗殺者の体はわずかに止まった。それに合わせて星影は、皇太子の背に回していた左手を敵の腰へと伸ばした。
至近距離だったので手は届いた。
伸ばした手で、賊が腰に携えていた小刀をつかんで勢いよく引き抜いた。
それに驚いて視線を下げた頭目の顔面めがけて、刃が収まったままの小刀でぶん殴ったのである。
引き抜いた勢いそのままに、その動作をつなげる形で殴ったのかなりの攻撃力があった。
「馬―――――ぶうぅ!?」
馬鹿な、と言いたかったであろう言葉は、赤ちゃん言葉へと変換される。
利き手に空の鞘を持って賊の攻撃を防ぎ、左手で敵から奪った獲物で攻撃したのだ。
しかも、この攻防にはそれなりの理由があった。
利き手で防御することで確実に皇太子の安全を守れる。
左手で敵の獲物を奪ったのは、奪う小刀が右に束帯されていたから。
相手は暗殺のプロである。
腕を伸ばしてとる際に、右で取ってしまえば、無防備な皇太子の背が攻撃を受ける可能性があった。
これが左手であれば、腕を伸ばした際に、皇太子の背を守れるばかりか、攻撃を受けても自分の腕が盾代わりとなって皇太子を傷つけることがなかった。さらに言えば、安全な自分の腕に抱き寄せることもできて便利である。
ついでに言えば、右側から顔を殴るよりも、左側から下から上に向けて腕を上げて殴った方が勢いもあって攻撃力も高い。
というよりも、この動作が右に刺した刀を引き抜く動作と同じだったので、それの応用で攻撃しやすかったといった方が正しいだろう。
結果、星影のもくろみ通り『賊から皇太子を守る!』という形で成果を見せたのであった。
「小僧・・・このままで済むと思うなよ!!」
真っ赤な顔で怒る男。刀鞘でなぐったこともあり、鞘に描かれていた模様がくっきりとついていた。怒れば怒るほど、それがありありと浮き彫りになる。その様子を失笑しつつも、茶化しながら星影は言う。
「あまり怒ると、即席のイレズミが目立ちますよ?プクク!」
「笑うな黙れぇぇえ!!貴様何者だ!?ただの宦官ではないな!?」
「宦官でなければなんだというのです?うさぎですか?」
「ふざけるな!!あの動き!!・・・あれは、わしの動きが分かっていなければできないものだ!わしの気配を貴様・・・どうやって!?」
「あなたと一体化しただけです。」
切り捨てるのように、バシッと言い放つ星影。
「心を解き放てば、自然とこの舞台を仕切っている人物の動きがわかるというもの。そんなことさえも、あなたはわからないのですか?」
「なっ!?」
「例えどれだかあなたが強かろうと、あなたが従える者が優れていようと、数で圧倒していようと。己の持つ武のなんたるかを理解できず、それを生かせていない愚か者に、人の命を奪えるはずがない。」
「き、貴様~!?」
「武の真髄を理解していないばかりか、こともあろうに皇太子殿下暗殺の手段として武術を使うとは何たることだ?」
「なにを宦官風情が偉そうに!」
「宦官風情でもわかることを、貴様らは理解できていない。今ならまだ見逃してやる。命のあるうちに立ち去れっ!このままここにとどまるというならば――――」
両手を胸の前で組むと、ボキボキと指を鳴らしながら言った。
「全員まとめてぶっ殺す・・・・!」
殺気を放ちながら宦官は忠告した。
「殺すだと!?」
「俺たち全員をか・・・?」
「それはいくらんでも・・・」
「そう、無慈悲だ。」
馬鹿にするような口調でささやく周囲の敵に、星影は無慈悲だと笑顔で告げる。
「寝起きの悪い私に、お仕置きされることになりますよ。次期皇帝、現皇太子・劉拠様を暗殺しようとした罪でね・・・・!?」
そう言った眼は一切笑っていなかった。
それどころか、氷のような冷たくて重い威圧を周囲へと発していた。
これで、ざわついていた敵達は黙り込む。
「そういうわけだから、頭目殿。いい子だから、みんなを連れておうちへお帰りなさい。」
優しい口調とは裏腹の殺気立つ目をした宦官。
それが、戯れでも冗談でもないことは全員がわかっていた。
宦官からの脅しを受け、賊の何人かの手が、己の得物へと触れていた。
柄を、柄を、弦を・・・手にして、いつでも生意気な宦官を殺せるようにと構えようとしたが・・・
「痛い目を見てもいいなら、おいたをしてみなさい。・・・・坊や、お嬢ちゃん?」
その言葉で、何名かの賊の体がビクリと震える。
皇太子暗殺のため、彼らは俊敏に動いた。
優れた腕が持つものだけで集団された暗殺団。
決して自分達が何者であるか悟られないように。
それは性別に関しても同様のことで――――
「貴様なぜ・・・!?」
何度目かになる何故を口にする頭目。
素早い殺しを第一にしていたので、今までそれに気づく者などいなかった。
言い方を変えれば、こちら側に女性も交じっているなど気づく標的はいなかった。
「なのに貴様は・・・!!」
己の気持ちを誤魔化すように、強い口調で言う頭目。
それに星影は冷めたく口調で答えた。
「私は、女子供を殺す趣味はありません。だから、やめましょうと言ってあげているのでしょう?」
下手な口調とは違う上から目線の言葉。
「それでもなお、皇太子殿下のお命を脅かすならば、皆殺しにする。これは脅しではない・・・!」
最終勧告と言える宦官の言葉に、獲物に手をかけていた賊達は、無意識のうちにそれから手をどけていた。
鋭い眼光を伴う星影の脅しを受け、敵は完全に黙り込んだかのように見えたが――――
「・・・・それがどうした?」
開き直った口調。
「・・・・言いたいことはそれだけか?」
そう言ったのは敵の首領。
「貴様ら宦官相手におびえてどうするっ!?」
一括するように叫ぶと、星影を睨みつける男。
「それがどうした、宦官?帰れと言われて帰る暗殺者がどこにいる?ましてや、貴様のような玉なしの声をこちらが聞いてやる温情はないぞ?」
「温情をかけてやってるのは私だ。許してやろうと言うのを辞退するとは・・・本物の馬鹿だね?」
「貴様一人増えたところで、我らに勝てると思っているのか?それほど自分に自信があるのか?宮廷奴隷が!」
「例え暗殺に成功したとしても、口封じに殺されるのが8割。それが暗殺稼業だろう?そんなに死にたきゃ、そこの屋根から集団で飛び降りたらどうだ?おっと!その際は体を袋に入れて飛び降りてくれよ。そうしてくれないと、あとで片付けるものが困るから。」
「その言葉―――――!!あとで死ぬほど後悔させてくれるわっ!!」
そう言うなり、同じように殺気を放ちながら叫んだ。
「おしゃべりはここまでだ小僧!殺しの邪魔だ!どけ!!」
手にした得物を持ち直しながら構える敵。
(なんて頑固な分からず屋なの!?)
それに応える体勢をとりながら、ダメもとでもう一度度星影は言った。
「また痛い目にあいたいのか?今度は、鞘から抜いた状態で、顔を殴られたいわけ?」
「同じへまを二度もするか!今度はわしが、貴様をなぶる番だ・・・!」
「ずいぶん粘るんだね・・・?」
「ここまでした以上、手ぶらでは帰れん!是が非でも皇太子の首をもらうぞ!」
「・・・そう雇い主から言われているのか?一度の失敗は許したが、二度目はないと?」
「黙れ黙れ!貴様の正体はあとで吐かせればすむことだ!さっさとそこをどけ!!」
皇太子の前にいる自分を追い払うように手を動かす敵。
(そうだとわかれば、手加減の必要はないな。)
相手の状況を察したうえでそう決意する星影。
「大人しく皇太子の前からどけ、宦官!!」
「やだね。」
「なに!?」
「なんで私が、薄汚い刺客の類の命令を、聞いてやらないといけないわけ?」
「逆らうか小僧!?何様のつもりだ!」
「宦官様。」
「なっ!?」
鼻で笑いながら答えると、その場の全員に聞こえるように星影は言った。
「テメーらがその気ならこっちも遠慮はいらねぇ!お前ら全員捕まえて、黒幕吐かせてやるから覚悟しろっ!!」
そう叫ぶと、足元に落ちていた剣を蹴り上げる。
「なっ!?」
「あ!?」
驚く敵と皇太子目の前で剣が宙を舞う。宦官はそれを掴むと、賊めがけて垂直に刀を突いた。
「はっ!」
「ぐおっ!?」
星影の剣の切っ先は、狙った急所から外れた。
しかし、敵の肩口に傷をつけることはできたのだった。
「おのれ宦官~!?」
「宦官にも愛国心はあるんだよっ!!衛青将軍、微力ながら加勢いたします!」
「安林山殿なんと!?」
驚く大将軍を無視して、迷うことなく頭目へと剣を繰り出す宦官。
「このクソガキ!!」
追い払うように星影に刀を向けるが、それを彼女は難なくかわす。逆に、それよりも早い速度で敵をほんろうした。
「なんと見事な太刀捌き・・・!」
「本当に宦官でしょうか・・・?」
呆然とするばかりの皇族二人だったが、ぼうっとしてるわけにもいかない。
「殺せっ!皇太子と大将軍を!」
その瞬間、夕立のごとく、周囲から一斉に殺気が放たれた。
「なっ!?」
「きゅ、弓兵!?」
今までどこにいたのかと聞きたくなるように、自分達の周囲を囲む弓を携えた黒衣の集団。
「なぜ宮中にこれほどの曲者が!?」
(まったくだよ!どれだけ後宮の治安は悪いわけ!?)
皇太子の言葉に、星影も心の中でぼやいた。
それに応えるように、楽しそうに敵の大将は笑う。
「ハッハッハッ!簡単でございますよ、皇太子殿下。世の中力があればできないことはありません。それが善であれ、悪であれ・・・それを使いこなせる者だけかが、人の上に建てるのですよ。」
「貴様のような輩が、皇太子殿下に帝王学を語る資格はない!!」
「ではあの世で、高祖(書大寒帝国皇帝・劉邦)にでもお聞きすればいい。三人仲よくご教授されなされ!!」
声に合わせて、弦の引かれる音がした。
「危ない!」
「拠様!」
星影と衛青の声が重なった。
二人同時に皇太子に駆け寄ると、両脇を抱えて走る。
後ろから放たれた矢から逃げ、前方へと走った。
前から来た矢を素早く剣で払い、それぞれの左右から来た矢からよけるように身をかがめる。そのまま、皇太子の盾になりながら、三人は前へとでんぐり返しをしたのである。
「あっぶなぁ~!」
「ご無事ですか、拠様!?」
「ふ、二人ともすごいな・・・!?」
呆然としながら感心する皇太子の両脇で、宦官と大将軍は渋い顔をする。
(まずいな・・・壁かどこかに逃げないと、四方からの矢は防げない!)
武器で払ったとはいえ、先ほど自分達のいた場所に何本か弓矢が刺さっていた。
完全に防ぐことはできないだろう。
そう考えたのは衛青将軍も同じで、急いでそういう場所へ移動しようとしたのだが、
「死ねっ!」
「くたばれ衛青!」
「覚悟しろ宦官!」
そちら側からは、刀や剣を持った別の敵が襲いかかってきた。
「おらぁ―――!」
「―――――ぐっ!」
衛青は振り降ろされた刀を受け止め、つばぜり合いとなる。
「お、叔父上!」
「安林山殿!皇太子殿下を守ってくれ!」
「心得ました!」
それに応えながら、星影は皇太子に襲い掛かる敵を殴り飛ばした。
(参った!毒さえ盛られてなきゃ、陛下の時のようにいくのに・・・!)
まだ完全でない自身の体に舌打ちをする。
何人か目の敵を蹴り飛ばした時だった。
「安林山殿!」
危険を知らせる様な衛青の声。
程なくしてその理由を理解する星影。
自分と皇太子に刺さるような殺気が向けられていたのだ。
「そこまでだぞ、宦官・・・!」
接近戦に持ち込めない距離から、再び矢を構える敵達。
(マズイ!!)
あそこまで行けない!
向かう間に弓矢の餌食になる!
(逃げるのだって・・・)
目だけで周囲を見るが、突破口が見つからない。
逃げるのが不可能だと理解した瞬間、頭目の男の手が振り上げられた。
「ではごきげんよう、皇太子殿下。大将軍。・・・と、クソ宦官!!」
最初の方は聞こえるか聞こえないかの声だったが、最後ははっきりと周りに聞こえるような声。
「なんで私だけ悪口なんだよっ!?」
そう言い返した声は、唸る弓の音でかき消された。
(ちくしょうっ!!)
私が後宮に来たのは、奪われた妹を救うため。
相思相愛で、婚礼を待ち望んでいた妹を取り戻すため。
一番幸せになってほしい子の幸せを守るため。
(それなのに!)
「え!?」
未来の皇帝となるであろう少年を守るために抱きしめた。
「あ、安林山!?」
(私は絶対に死なない!!)
「そなた拠様のっ・・・・!?」
「私の盾に――――!?」
「―――――――皇太子殿下!!」
愕然とした顔で自分を見る少年に、不敵な笑みで星影は言った。
「助かった暁には、私のお願い聞いてくださいね――――!!」
「え!?」
(妹、星蓮を林山に返すと―――――――!!)
絶対に死なないけど、ただでは死ぬものかっ!!
絶対にあきらめない生への執着と、受け入れなければいけない現実の中で、星影は劉拠の盾となった。
矢が急所に当たらないように、皇太子に当たらないように、後ろの方でつばぜり合いをしている大将軍に当たらないように。
その上で、まだ戦えるような状態でこの攻撃を耐えるような防御態勢に入ったのだ。
(星蓮っ―――――――――――!!)
星影が覚悟を決めた時。
その場に大きな絶叫がこだました。
「ぐぉおおおおお!!」
「・・・・へ?」
耳に届いたのは、人の悲鳴とは程遠い声。
声というよりも、
「がぁああ!!」
聞き覚えのある懐かしい唸り声と、猛々しい呼吸。
目の前の後継に星影は目を見張った。
視界に映る矢が、黒くて大きなものによって隠された。
こちらに飛んでくる矢を、大きな口と強靭な牙で、真横からかっさらう生き物。
宙を舞うその生き物は、己の牙に納まった矢を細い枝を折るように簡単にバキバキと真っ二つにした。
地上に舞い降りた時には、粉々になった矢の残骸を苦とから吐き出しながら一吠えしたのだ。
「な、なに!?」
「こちらの矢がすべて―――――!!」
「噛み砕かれた!?」
「お、叔父上あれは・・・・!?」
「な・・・・なぜここにいる!?どういうことだ!?」
その咆哮に、誰もが恐怖を覚えるのだが彼女は違った。
星影は歓喜の声で叫んでた。
「紅嘉っ!!!」
そこにいたのは、金色の毛と稲妻のような黒曜の毛をもつ生き物。
衛青の妻である平陽公主の元・愛動物であり、ほんの半日前に皇帝の命で星影に下賜された小虎の紅嘉だった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます・・・!!
まずは、小説の中で出てきた言葉に関する解説を(^^;)
星影が言った『痛い目を見てもいいなら、おいたをしてみなさい。』の『おいた』ですが、『おいた』の『いた』は『いたずら』の略語です。
子供のいたずらを大人がしかる時に使っていた言葉です。
わからない方もいると思い、解説を入れさせて頂きました。
小説の内容に関してですが、前回の危機を回避した星影に、再び敵の弓矢が向けられました。
それを助けてくれたのが、例の子虎の紅嘉です。
危なかったり助かったり、助かったのに危なくなったりという状況ですが、一応、主人公(の身体)が不利な状態ということでこのように書いています(笑)
タイトルとなっている『災い転じて福となる』は、『災い転じて福となす』ということわざをもじったものです。
これは一般的に『身に振りかかってきた災いを、うまく利用・活用して幸福に変える』という意味で使われます。
それを『なす・・・か?』ではなく、『なる・・・か?』にしたのは、『星影がこの状況を幸運に変えれるかな?』という意味を込めてつけてみました。
その続きは・・・次回に続きます。
よかったら読んでやっってください(*^^;)
※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!
ヘタレですみません・・・(土下座)