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第九十六話 災い転じて福となる・・・か?(3)

※この度、東北地方太平洋沖地震で、被害にあわれた皆様のご冥福と、早期のご回復を心から願っております。同時に、原発作業に尽力を尽くしてくださっている【東京電力の作業員】皆様の無事を切に願っております。

東京電力上層部と、九州電力と、某県の政治関係者には、今までの件を真摯に受け止め、誠意ある対応を行えるように望みます。




あれは厳師匠から、武術を学び始めた頃だった。

風変わりな武人は、星影1人を呼びだすとある質問を投げかけてきたのだ。

それが――――







「星影。お前には武術において大切なことはなんだと思う?」





ということだった。

自身の部屋に星影を招きいれ、椅子に座らせ、湯を出してからの問いかけだった。


「大切なことですか?」

「そうだ。それが何かわかるか?」


(武芸で大切なことって・・・ずいぶん簡単な質問ね。)


話を聞いてすぐにそう思った。

なぜなら、彼女は知っていたからだ。

優れた武術を己の欲望のためだけに使い、目的のためなら周りの人間を迷うことなく傷つける。

言うことを聞かなければ、力でねじ伏せる。

強い力を持ちながらも、集団で弱いものを虐げる。

鍛えた力を自分のためだけに使っている。

そんな輩が原因で武の道を進むことになった星影にとって、それはあまりにも簡単な問いかけだった。


「はい、わかります。己を誇示するために使わないことです。人を傷つけたり、苦しめたり、自分より弱いものを虐げることに使うのではなく、自分より弱いものを、守らなければいけない者を守るために使うことが大切だと思っています。」

「ふむ・・・。」


(そう答えるのが妥当だろう。)


そんな星影の考え通り、厳師匠は感心した様子で彼女の答えに頷いていた。


「なるほどな・・・・」

「ですから、悪用するのではなく、正しく使うことが一番大切なことだと思います。武術を正しく使うためにも、正しく学ぶこと。十分な体力と、折れない心を養うこと。それからー」

「あ~あ~はいはい!大体あってる。」

「は?・・・大体?」

「半分正解。」

「は、半分正解!?」

「うむ。半分正解ということだ。」

「ええ!?」


師匠の言葉に思わず聞き返せば、武人はあっけらかんと答えた。


(それって、完全に正解じゃないってこと!?)


そう思って相手を凝視すれば、ニッと口元をゆるめながら師匠は告げる。


「わしの質問も悪かったが・・・まぁ、そんなところだな。」

「質問が悪かったって・・・私の答えは、厳師匠の考えていらした答えと違うというのですか?」

「うん、根本的にな。正しいが、違う。」

「何か違うというのですか!?」

「いや、正解は正解だ。武術の使い方に関しては、ほぼ正解だ。正解だが・・・目のことは知らんようだな。」

「目?」

「そうだ。精神的な面に関することだ。」

「精神的な面・・・?」


それって、強い心で戦うってこと?

打たれ強いとかそう言うことなの?


「あの、つまり・・・心も強くなくてはいけないということですか?どんなことに折れないという・・・・?」

「あ~それもそうだが、ちょっと違う。」

「では、どんな状況でも落ち着いて冷静に判断できる平常心・・・というものですか?」

「それだと、折れない心と同じ分類になる。」

「じゃあ、なんだというのです?」

「それをこれから話そうと思う。」


そう言うと、星影を見ながら語りかける。


「武術において、目は重要な役割を果たす体の一部。星影、お前は自分にいくつ目があるかわかるか?」

「はぁ?いくつって・・・2つですが?」

「ぶぅぅぅぅ~!ハズレ。」

「ええ!?あ、じゃあ・・・2つだったり、1つだったりですか?」

「なんで減るんだ?」

「だって、私は両目とも健在ですが、中には片目がなかったり、あるいは両目が見えない者が-・・・あ!そうなると、0というのもありですね!」

「大間違いじゃ、バカタレ!」


大きく肩を下げながら、大きな口で息を吐きながら言う武人。


「お、大間違い!?」


対する星影は、自分の答えの何がいけなかったのか全く分からない。


(何が違うっていうのよ・・・!?)


自分の答えを正解と言いつつも、それは完全な正解ではないと言い。

違う違うと否定した挙句に、大間違いだと言われて呆れられた。

あからさまにバカにされたこともあり、少しいやな気分になってしまった。


「まぁ、そう不機嫌になるな。」


態度には出していないにもかかわらず、星影を見つめながら厳師匠は優しく告げる。


「不機嫌なんて・・・そんなことありません。」

「嘘を付け。今もまだ、むっとしてるだろう?わしにはわかるぞ~なんせ、心の目で見てるからな。」

「心の目?」

「おう。」


思わず、相手を直視する星影。厳師匠と目があう。互いの目を見つめた状態で武人は言った。



「人には3つの目がある。顔についている目と、心についている目の3つだ。」




「顔についてる目と心についてる目?」



(どういうこと?)



聞きなれない言葉に、星影は不思議そうに厳師匠を見る。

相手はそれに答えるように柔らかい口調で言った。



「顔につい散る目は姿あるものを見定める目、心についている目は見えない者を見定める目だ。人にはな、星影・・・・誰しも3つの目があるのだ。」

「3つの目が・・・?」

「お前のように顔に2つあるものには1つの心の目が、片目だけのものには2つの心の目が、盲目の者は3つの心の目があるというわけだ。」

「はぁ・・・。」

「ハハハ!口で言ってもわからないのは当然か。」


いまいち、ピンとこなくて首を傾げれば、悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。


「普段の生活で、心の目を使うことはないからな。だがな星影、この普段あまり使わない心の目というのが、武術において重要なものなのだぞ。」

「『心の目』、がですか?」

「そうだ。例えば、盲目の者は顔の目がない代わりに耳や鼻がよく利くだろう?あれはな、ない部分を補うために発達しているのだ。盲目の者が杖を頼りに、あるいは杖なしに歩けるのも、自分の歩く歩幅と、目的地まで何歩けばつくのかをすべて暗記しているからだ。」

「そうだったんですか!?すごいですね・・・!」

「だろう!?それだけじゃないぞ~盲目の者は、心の目を使うことに関しても長けている。」

「『心の目』、をですか?」

「ああ。武術において心の目とは、周囲への心を解き放つことで見ることのできる目なのだ。心を閉ざしたり、壁を作ったりしては、使うことはおろか、見ることもできない。」

「では・・・どうすれば使えるようになるのですか?心を解き放つとは?」

「その場の空気と一体化すること。なぁ~に、難しく考えなくていい!体の力を抜いて楽にし、楽しむことだ。」

「楽しむ?」

「そうだ!変に緊張したり、無理やり意識を集中させようとするな。その場をすべているものが誰か、好き嫌いなしに考えて、認めて、楽しむのだ。反感や抵抗という陰の感情を出してはならん。楽しい陽の感情を出しながら、その楽しい明るい気持ちから平常心へと心を変化させる。そこで初めて、心の目を使うことができる。」

「心を変化させれば・・・見えるのですか?」

「そうだ。喜怒哀楽を使い分けられるお前なら、習得するのは造作もなかろう!」


カラカラと笑いながら武人は言う。


「見えるもの、聞こえるもの、あるいはにおいや感覚に惑わされるな。気を楽にして心を解き放ち、その場の空気に身を委ねた時、隠れた真実が見えるのだ。このことを、武術においては、『心の目』すなわち『心眼』という。」

「『心眼』・・・。」

「星影、よくよく忘れるな。心眼は、心を解放した時にこそ使えるもの。お前はそれを使えるだけの心の豊かさと自由さを持っている。だから自信を持て、星影。」





我が愛弟子よ――――――――――






(そうか、心眼・・・!)



短い時間で、それだけの記憶が駆け巡る。


(それを使えば、皇太子殿下を救うことができる!)


『心眼』の教えはもちろん、楽しかった思い出も一緒によみがえった。

走馬灯にしては、やけに生への執着が込められたもの。

思い出されるのは楽しいものばかりで、沈んだ気持ちが浮き上がった。



(私ならできる。)



そう思った瞬間、楽しくなった。

元気が出てきた。

何を弱気になっていたの、星影?

体力がないなら、その分集中力で補えばいい。

毒でやられたからって何よ?

あなたまだ、こんなところで死ねないでしょう?

妹を助けてもいないのに、救ってもいないのに、どうして絶望してるの?

困っているの?

言い訳ならいくらでもできるじゃない?

出来ると信じてやればいいじゃない。

あなたならこんなこと、朝飯前でしょう?



この窮地で打開策を思い出すことができたということは―――――!!




(それってつまり、まだ死ぬなっていう天帝からのお告げでしょう?)




そう解釈したのである。

先ほどまで滅入っていた気持ちと体が嘘のように楽になっていく。

出来ると、勝てるとわかったから、力が出てきたのかもしれない。

琥珀の飲ませてくれた薬の効果も大きいとは思ったが、自分を信じてこそ戦える。

私はいつだってそうしてきたから。




――――――――――自信を持て、星影よ。――――――――――




ありがとうございます、厳師匠。


あなたのおかげで、私に迷いはない。



(私はもう、戦える。)



星影は静かに目を閉じた。

目を閉じ、体の力を抜いた。

相変わらず、心の臓の音がうるさかったが、悪い気分はなかった。

なぜならそれは、自分の好奇心と昂揚感によるものであったから。

これまでのように、悪いことに対する心臓の鼓動ではなかったから。

だから、気分がよかった。

耳を研ぎ澄ましながら、その場の空気へと心を解き放つ。

変に意識を自分の身に集中させずに、その場の空気へと一体化した。



(今、この場を支配しているのは漆黒の刀の主。)



どこにいるかなんて探らない。

無理やり見つけようとする必要はない。

だって彼が、この舞台の主役。

主役だと主張しなくても、目立つのが主役というもの。



(さあ・・・・今どこで、私達からの歓声を待ち望んでいるの?)



舞台の主役は、ここ一番という見せ場の前にはその存在を誇示させるもの。

待っていれば、必ず脇役の前に現れてくれる。



「では、お名残惜しいですが・・・」



賊の声が響く。

その声には余裕があり、自身の勝利を確信していた。

星影はそんな賊の心に自分の心を重ねる。



(私が奴なら、どこから攻撃する?)



身動きの取れない、獲物を扱えない、かられるのを待つだけの得物をどうやって仕留める。




「お別れと行きましょうか、大将軍、皇太子。」




ひどく静かな声で、主役は宣言した。


――――――くる。


(まずは、布石を仕掛けるはず。)


「うわっ!?」


そんな星影の予想通り、何かが皇太子を倒した。



「なっ!?」



彼を弾き飛ばしたのは、黒色の鞭のようなもの。先ほど、衛青を攻撃したのと同じだった



(もう一撃、攻撃してくる。)




「あぅ!?」



程なくして、体に軽い衝撃を受けた。

皇太子を弾き飛ばした何かが、再び彼を攻撃した。

起き上ろうとしていたところに少年の鳩尾にそれは当たる。そのまま、星影ごと一緒に床に突っ伏してしまった。



「痛っ!?」


「拠様っ!!」



甥の異変に気づき、声を上げる叔父。それを鼻で笑いながら敵は最後の仕上げへと入る。



「さぁ~て、皇太子殿下・・・!」



追いつめて得物にとどめを刺す猛獣のように楽しそうな口調で暗殺者は告げる。



「次生まれ変わる際は―――――――」



その言葉に合わせて、皇太子の周りの煙だけ晴れる。

その合間から、追いつめられた甥の姿が武人の目に映った。

しかしそれは一瞬の出来事。

武器も何も持たない少年に、




「命を狙われぬ平民にでも生まれなされ!!」




漆黒の刀を男が振り下ろした。




「やめてくれぇぇぇぇ!!」




なにもできず、見せつけるように晴れた煙の中に浮かんだ甥の最後。

皇太子が叫ぶ代わりに、大将軍が叫ぶ。

痛みによるものか、恐怖によるものか。

逃げることも、動くこともできず、完全に固まる皇太子。

未来の皇帝を約束された少年に刀の刃が当たる―――




「拠様ぁぁぁ―――――!!」



敵がどう攻撃してくることはわかっていた。

わかっていたけど、皇太子を庇わなかった。

そこでかばってしまっては、肝心な攻撃を防げない。

戦で言う、遊撃や伏兵ばかりを気にするあまり、本陣への攻撃を見逃してしまってはいけない。

だから、あえて手も出さずに待ったのだ。




(本陣を、皇太子へとどめの一撃を刺すこの瞬間を――――――――!!)

















「――――――そっこだぁぁぁぁぁぁ!!」







皇太子に、敵の刃物が当たることはなかった。



「なっ!?」


「――――――えっ!?」


「ぐはっ!?」



衛青の声から悲痛の念が消え、拠皇太子の口から驚きの声が漏れ、賊の頭目の口から苦痛の叫びが上がった時。




「・・・次は平民に生まれろだぁ?」




何かが、地面に倒れる音の後だった。

周囲を威圧するように問いかける声が発せられたのは。



「だったらテメーは、次こそは真っ当な職種の人間に生まれ変わることだな。暗殺者さんよ・・・!?」



しかもその口調は軽やかで、どこか楽しそうに紡がれた言葉。




「なっ!?なん・・・・!?」



予想を反する事態に、敵達は思わず手を止めてそちらを見る。

煙の隙間から、二つの影が浮き上がる。

一つは、自分達が命を狙い、自分達の頭目の手によって殺されるはずだった皇太子の姿。

もう一つは、宮中ではよく見かける衣をまとった長身の人物が立っていた。




「何者だ貴様!?」



自分にかけられた声に、その人物は皇太子をかばいながらゆっくりと振り返った。




「そういう貴様らこそ、何者だ?」



煙が晴れるのと厚い雲から月が顔をのぞかせるのは同じで、



「畏れ多くも漢帝国皇太子殿下と大将軍を暗殺しようとは不届き千万もよいところ!!」



月光を浴び、照らされるようにして現れたのは美しい顔立ちの宦官。



「まぁ・・・そ~んな馬鹿な相手に、名を名乗れというこという私も馬鹿だけどね?」



そう言って茶化すように笑う姿は、香蛾と称えるのに十分な姿。



「お前・・・は・・・?」



ハッとする美貌に思わず見とれる賊達。

一方、そんな連中と戦っていた衛青は、美しい宦官の名を口にしていた。





「安林山殿っ!?」





敬愛すべき大将軍の言葉に、腰を落としてしおらしく首を垂れる麗人。そして、にっこりと微笑むと、柔らかの口調で答えた。



「寝過ぎですみません、衛青将軍。昼間しっかり寝て目がさえた分、きっちりと働かせていただきますので。」

「働く?」

「はい。」



皇太子を抱き寄せたまま、胸の前で両手を組む星影。

その姿は力強くしなやかで、宦官独特の弱さを漂わせていた。

しかし、その目には武官と同じ強さがうかがえる。

強い光を込めた瞳で大将軍を見ると、はっきりとした声で告げる。



「どうぞこの安林山を、賊討伐の手駒として、存分にお使いくださいませ。」



この大胆不敵な申し出により、周囲からは静かな動揺が走るのだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!



主人公・星影がなんとか復活しました。

厳師匠の言葉を胸に、やられたらやり返す精神で反撃に出るようです。

時間も続きますので、興味のある方読んでやってください(^^;)



※誤字・脱字がありましたら、こっそりでいいので教えてください(平伏)

チェックを厳しくしているので、ないとは思います・・・あったらすみません!!



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