第九十五話 災い転じて福となる・・・か?(2)
※この度、東北地方太平洋沖地震で、被害にあわれた皆様のご冥福と、早期のご回復を心から願っております。同時に、原発作業に尽力を尽くしてくださっている【東京電力の作業員】皆様の無事を切に願っております。
東京電力上層部と、九州電力には、今までの件を真摯に受け止め、誠意ある対応を行えるように望みます。
竜門弥生は、現知事のエゴ強行可決された、公平さに欠けた法案「東京都青少年健全育成条例」 http://mitb.bufsiz.jp/ に断固反対いたします。※
頭目の指示で、3分の一がその場から消えた。
窮地を脱した星影達だったが、安心できる状況ではなかった。
「これでもう、味方は来ませんぞ・・・?」
「貴様・・・!」
「今は運よく助かったな、衛青大将軍よ。これで終わらせるほど我らは三流ではない。悪いがあんたには死んでもらう!皇太子共々な・・・!!」
「ふざけるな!拠様には指一本触れさせない!」
少年と星影をかばいながら賊の前に立ちはだかるは、漢帝国自慢の名将・大将軍衛青。
「この人数相手にずいぶん強気でございますな、大将軍?」
「・・・側まで私の手の者がきている。これだけ騒いで人が来なかった方がおかしいのだ。これ以上貴様らが粘るのも無意味なこと。命があるうちに、早々に引き揚げてはどうだ?」
「ここまで来た以上、引くことなどできん。もう、二度目のしくじりは許されんからな・・・!」
「二度目のしくじり?」
(どういうこと?)
賊の言葉に首をかしげる衛青。その言葉が引っ掛かったのは星影も同じだった。
(つまり・・・以前も襲撃して失敗しているってことかしら?)
そうだとしたら、皇太子って大変な身分なのね。
しみじみと思いながら薄めで少年を見れば、複雑そうな表情で賊をにらんでいた。
「・・・要は貴様らに、私を殺すように命じた依頼者がいるということか?」
「我らは素人と違い、そのような情報は言わぬぞ?皇太子殿下?」
「言わずとも、察しはついている。」
皇太子の代わりの大将軍が答えると告げた。
「だからこそ、皇太子さまは私が守る・・・!」
「叔父上。」
(どうするんだ、これ?)
先ほどの加勢のおかげで、頭上の賊からは逃れられたが、不利なことには変わりない。
壁際に追い込まれ、前はおろか、左右には殺気を向ける敵ばかりだった。
「お、叔父上・・・!」
「安林山とともに動かないでください!」
甥の声にそう告げると、剣を構えて応戦の動きを見せる。
(無茶だ!二十人近い敵相手に一人で!それも、私達の様な足手まといを守りながらなど・・・)
再び薄目で周囲の様子をうかがう星影。
幸い、自分が意識を取り戻していることに、敵味方双方共に気付いてはいなかった。
だからと言って、このまま皇太子とじっとしているわけにもいかない。
なんとか逃げ道はないかと薄めで目を凝らしながら探すが見つからない。
(悪い時には悪いことが重なるもんだな!くそっ!!)
内心で悪態ついていると、ふと自分の体を支えている皇太子の体が動く。
見れば、呼吸を整えながら剣の柄を握りしめていた。
(おいおい、戦う気か!?)
お前が原因で襲われてるんだぞ!?
命を狙われてる本人が応戦したら、守るものも守れないだろう!?
「おやおや皇太子様・・・なにをなさるおつもりで?」
星影が気付いたことに賊の頭も気づく。
フフフと笑いながら、手にした漆黒色の刀を上下に振りながら言った。
「お噂通り、お優しい皇太子様で・・・。この劣性で、大事な叔父上様を守るために自らも戦おうとは。」
「拠様!いけません!動かないで!!」
「ですがね、皇太子様・・・今の状況を打開するための一番いい方法は、あなた様が手にしているその剣で我々を殺すことではありませんぞ?」
「なんだというのだ・・・!?」
「あなた様ご自身で、あなた様がご自分の命を絶つことです。」
その言葉で空気が張りつめた。
「無礼者っ!!」
続いて、衛青の怒声が飛んだ。
「皇太子殿下に対して、どこまで侮辱すれば・・・!もはや命はないと思え!!」
「事実を述べたまででございます。きっと、あなた様方を助けた者達が、ここで最後の生き残りだったのでしょう。」
「え・・・?」
(?どういうこと?)
意味ありげに告げた言葉。相手は不思議そうな口調で話を続けた。
「おや・・・?お気づきになりませんでしたか?ああ、そうでしたな・・・!死体にはすべて、布や衣服やらをかぶせましたからね・・・。さすがの衛青将軍も、血の臭いまでは嗅ぎ当てられませんでしたか?」
その言葉で、星影の体から熱が抜けた。
「まだお気づきになりませんか?不審に思われませんか?これだけ騒いでいるのに、誰一人ここのものがやってこないことに?」
まさか・・・!?
「どういう・・・ことだ・・・・!?」
聞いたのは衛青だった。唇を噛みしめながら、震える声で問いただした。
「貴様・・・!この周辺にいる者達をどうした・・・!?」
「殺しました。」
返事でもするように答える男。
「宦官・女官はもちろん、この場にたまたまいただけであろうものもすべて。なにか・・・不備でもございましたか?」
「なっ・・・!?」
何気ない会話でもするように話す敵。
「み、皆殺しにしたというのか・・・・!?」
「ご安心を。女官は綺麗な体のまま、殺しました。抱いてしまえば、喘ぎ声がうるさいですからな。」
クックッと笑う男に、星影と衛青の怒りがあおられた。
「きさまぁ~!!」
(この外道がっ!!)
皇太子一人殺すためなら、関係ない人間を殺してもなんともないというの!?
「なんと・・・むごいことを・・・!」
残酷な真実を聞かされた少年は、絞り出すような声で言った。
それは怒るような、嘆くような言葉。怒りに打ちひしがれる二人の傍らで、皇太子は真っ青な顔でつぶやいたのだ。そう言って噛みしめた皇太子の唇からは、赤い液体が流れ出ていた。
「何の罪もない者達まで殺めるなど・・・貴様それでも人間か・・・!?」
これに対して、相手は馬鹿にするような口調で返してきた。
「なにをおっしゃいます?あなたがいけないのですよ、皇太子殿下?大将軍に会いに行ったりなどするから!あなたを殺そうと思えば、先に大将軍を仕留めなければいけません!なんせ、大将軍ですからね~・・・殺すまでの時間や騒ぎのことも思えば、皆殺しにするのも仕方ないでしょう・・・!?」
「貴様ぁ―――――」
気炎を上げる衛青とは対照的に、がっくりと肩を落とす劉拠。
程なくして、自分を抱き寄せる彼の体から力が抜けていった。
同時に、唇から流れる血の代わりに、両頬から小さな玉の雫がいくつも零れ落ちていた。
「そんな・・・私の、せいで・・・!?」
声と触れ合う体の感触で、少年が落胆しているのがわかった。
その様子は、当然のことながら衛青や賊達にも伝わっていた。
「違います、拠様!あなたのせいではありません!!悪いのは―――」
「――――――――皇太子殿下であるあなた様ですよ、劉拠様。」
衛青の言葉を遮りながら頭目は叫ぶ。
「本当に気づかなかったのですか?この大人数で、これだけ騒いでいるのに誰も出てこないことに!?血の臭いにも、殺される故郷によって出たし尿の臭いにも!?それすらわかりませんでしたか、拠様は!?」
上から目線で語る言葉は、余裕がにじみ出ていた。
なんともいえない歯がゆい気持ちに、抱きしめられた状態で星影は拳を握りしめた。
少し休んだおかげか、時間が経ったせいか、琥珀の薬が効いたのか。
あるいは敵に対する怒りによってか。
『病は気から』という言葉通り、星影の闘争心が彼女をむしばむ毒に抗体として作用したのだ。
感情が奮い立つことによって、毒による体の疲労が収まりつつあった。
(なんとか時間を稼がないと・・・!)
それもまだうまく動けないが、¥この相手を許すことはできない。
自分が動けるようになるまで、まだ時間がいる。
あと少しだけ、あと少しだけ休ませてもらえれば――――
(私はこのクソッタレ共の顔面を張り倒すことができる・・・!)
そう思い、回復出来次第すぐに動けるようにと・・・呼吸だけでも整え続けたのだが・・・
「さぁさぁ!もう悲しむのはそこまでにしましょう。あなたがこれ以上悲しむ必要はありません。」
おしゃべりは終わりだとばかりに言い放つ賊の頭目。
「あなたが悲しんだからと言って、失われた命は戻りません。生き返りません!」
「おのれ!ぬけぬけと!」
「本当でございましょう?衛青大将軍。なんせ皇太子殿下は―――――これから死ぬのですからねっ!」
「――――――――――黙れっ!!」
それは完全に衛青を怒らせるのに十分だった。雄叫びを上げながら、敵に向かって一歩踏み出す。無情にも、それが殺し合いの合図となってしまったのだ。
「敵は大将軍といえども一人!なぶり殺せ!!」
「なめるなっ!!」
「叔父上!!」
いっせいに、衛青向けてとびかかる賊。
一方で、皇太子へも敵の凶刃が向けられる。
「死ね皇太子!」
「あっ!?」
「―――させるか!!」
甥を狙う獲物を払いのける叔父。
「背中がまるごしだぜ!」
「なんの!」
皇太子に気を取られれば自身に攻撃を受け、攻撃に気を取られれば皇太子に攻撃が及ぶ。
「おのれ・・・卑怯者共!!」
いたちごっこの繰り返しで、思うように状況を打破できない衛青。
そのいら立ちが、悪態として口をつく。
「無様ですな・・・大将軍。」
「貴さ――――・・・!?」
衛青の口から出た相手への言葉が途中で途切れる。
その異変で、星影もあることに気づく。
(――――――気配が消えた!?)
先ほどの声の主である賊の頭目の気配が消えたのだ。
それも気配だけではなく、
「どこだ!?どこへいった!!」
姿も一緒に消えたようだった。
薄眼をさらに開けてみれば、別の異変を目にすることとなった。
賊の頭目が消えたのに合わせて、他の部下達も怪しげな動きを始めたのだ。
波が打ち寄せるように、前後左右へとすり足で動き始める。
「我ら闇に生きるもの・・・影から影へと移動し、獲物をしとめるのが本分。先ほどの失態はそれを怠ったがため・・・!」
「なに!?」
「それゆえ・・・我らの本分で仕留めさせていただく!」
その言葉で、波が引くように一斉に星影達から離れる賊達。同じように、月も雲中へと隠れ、視界は完全に暗くなった。
(やつらめ!月が隠れるのに合わせて、勝負に出たか・・・!)
「どこまで卑怯なのだ!姿を現せ!」
「殺し合いに卑怯云々は無意味でしょう?少しは喜ばれてはいかがですか?あなたはこれから、皇太子様共々、冥府にいらっしゃる甥御様に会えるのですから?」
「黙れ!私は、私は死んでもこの子を守る!けっして、去病のもとなどへはー・・・!」
姿が見えない敵を探しながら叫ぶ。
そんな衛青をあざ笑うような笑い声ばかりがこだまする。
「姿を現せ卑怯者!正々堂々と戦え!!」
「もしそうならば、最初から暗殺者として来ませんぞ?」
(そりゃそうだろう・・・。)
相手の言葉に、その通りだと不本意ながらも同意する星影。
同意はするが、このやり方は許せない。
(どんな理由があるにせよ、陰でこそこそと命を狙うなんて許せない!)
これ以上、こんな奴らに大きな顔はさせられない。
(毒でうまく体が動かないけど・・・やるしかない。)
星影の中ではすでに、衛青将軍と共に戦う決意はできていた。
敵も味方も自分が起きていることには気づいていない。
ならば、不意を衝いて形勢逆転に持ち込めるかもしれない。
(姿を消した賊の頭目を打てば、それも簡単だが・・・)
困ったことにその人物が隠れてしまってわからない。
よほど手だれた暗殺者なのだろう。
すっかり気配を消していた。
なので、ここで自分が下手な気配の探り方をすれば、皇太子より先に冥府に送られる可能性があった。
「叔父上危ないっ!!」
その言葉で星影の思考は中断された。
何かに気づいたかのように皇太子が叫んだ。
鈍い音に続き、衛青の唸る声がした。
大将軍めがけて、何かが飛んできたのだ。
(今のは―――――――鞭か!?)
一瞬だったのでよくわからなかったが、それが衛青に致命傷を与えたのは間違いなかった。
「くっ・・・!?」
「お、叔父上!!!」
「今だ!かかれ!!」
「ハッ!!」
姿を消した頭目の合図で、波のようにゆらめいていた敵達が一斉に衛青に襲いかかる。
「よくもっ!」
少し離れた場所から衛青の呻き声がした。
やっぱり!今の攻撃は――――!
(衛青将軍と皇太子を引き離すためだったのね!?)
「拠様!拠様ぁ!!」
だんだんと遠ざかっていく声に合わせて、自分の体を抱きしめる皇太子の力が強くなる。
「拠様!」
「さぁ、ここで余興を一つつけてあげましょう。」
衛青の叫び声と頭目の声とが重なる。
その時、鼻にきな臭いにおいが流れ込んできた。
「け、煙!?」
少年の言葉で、これが煙幕だと理解する。
(煙幕を張ることで、私達の視界を完全に経つのが目的・・・!今は月が雲に隠れていて真っ暗だが、隠れている時間は限られている。月が晴れても問題ないように、念には念を入れてということか!?)
衛青将軍の側から、皇太子を引き離すのが目的だったのね!?
なんて、念入りなことだ!!
「拠様、どこですか!?拠様!」
「叔父上!?叔父上!!」
周囲はどんどん煙で視界が悪くなっていく。
賊のもくろみ通り、衛青と宦官付きの皇太子は、完全にお互いの姿を確認できなくなった。
聞こえてくるのは、衛青が皇太子を叫ぶ声と、金属のぶつかる音のみ。
「叔父上!大丈夫ですか!?叔父上!?」
「こ、これしきのこと・・・!それよりお逃げください!」
返事を聞く限り、あまり大丈夫そうではない。
どんなに気丈な返事をしていても、それがやせ我慢だと星影にも皇太子にもわかった。
「叔父上・・・・・!」
少年の声色から、絶望が読み取れた。
「逃げてください!拠様!」
「逃げてどうされますか!?また、犠牲者を増やされますか!?」
「私は・・・!」
「一番早いのは、あなたがお手持ちの刀でご自分を一突きすることですよ。」
「黙れ!聞いてはいけません、皇太子殿下!あなたは皇太子殿下なのですぞ!?」
「私は―――――!」
「代わりの皇太子候補の子供はたくさんいるというのに、まだ生きることに執着なさいますかっ!?」
「――――――黙れっ!!」
皇太子の声から、絶望の色が消えた。
「私は・・・七代皇帝劉徹の嫡男、劉拠。」
そうつぶやくと、しっかりとした動きで立ち上がる。
「不当な悪には、決して膝を曲げぬ!賊よ・・・相手をしてやる。かかってまいれ!!」
宦官を自分の足元に丁寧に寝かせた。
そして剣を引き抜きいて、戦う姿勢をとったのである。
そんな甥の言葉を聞いて、衛青が絶叫する。
「いけません!!いけません皇太子殿下!!逃げてください!!」
言うなり、駆け寄るような靴音がしたが、
「貴様の相手はこっちだ!」
「くっ!?」
足止めを食らっていた。
「れ、拠様!逃げてください!どうか、戦わないで!!」
「無理だよ・・・叔父上。この煙では・・・。」
苦笑しながらつぶやきつつ、周囲へと目を配る。
その時だった。
「うわっ!?」
煙の風をかき消すように、なにかが皇太子に向かってきた。
「そこか!?」
叫んで剣を振る。
手ごたえを得た音が響く。
「やったか!?」
「拠様ぁぁ!?」
安堵する皇太子の声と、驚く大将軍の声。
(いや――――――――――・・・・・違う。)
「あ!?」
ほどなくして、皇太子の声はこわばったものへと変わる。
「これは―――――・・・・うさぎ!?」
肉を切ったと感じた皇太子。
確かにそれは肉ではあったが、人のものではなかった。
(やはり、おとりだったか!)
襲ってきたと見せかけただけだった。
「――――謀ったか!?」
それに気づいて叫べば、高らかとした笑い声が響いた。
「勇気と腕前はお見事なこと。料理人の素質があるのでは?」
その言葉で、ドッと周囲から拍手と爆笑が起こる。悔しそうに顔を真っ赤に染め、肉に突き刺した剣を抜こうとしたのだが、
「なっ!?け、剣が離れぬ!?」
剣が外れなかった。見れば、肉の中に無数の鋼が仕込まれており、それが歯に引っかかって抜けなくなっていた。
「こ、この!」
必死で自分の目の前で、剣を引き抜こうと四苦八苦する少年。
その姿に星影はひやひやした。
(ちょっと!敵に囲まれた状態でなんて無防備な体勢してるの!?危ないでしょう!?なにやってるのよ!?)
このままじゃいけない!
これはもう、私がなんとかしないと!
(でも、どうすればいいいの?)
姿を見せない相手をしとめるの至難の業。
健全な状態なら問題ないけど、毒でやられた体はうまく動かない。
がむしゃらに動いても体力を奪われるだけ。
(ちくしょう・・・!どうすれば!?)
こんなときどうすればいい!?
厳師匠なら、どうされた!?
――――人には3つの目がある。顔についている目と、心についている目の3つだ。――――
記憶の奥深くから飛び出した言葉。
そうだ!あれは―――――――
(いつの話だったか・・・!)
それで、1つの過去が星影の中で蘇った。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・(土下座)!!
危機一髪を救われた星影達でしたが、そう簡単にはいかないというのが、今回のお話です。
危ない状況で星影が思い出したのはなんだったのか?
答えは、次のお話となりますので、良かったら読んでやってください。
ストーリーとは関係ありませんが、いつもサブタイトルを考えるのに悩みます・・・。
今回も、サブタイトルに悩んでアップが遅くなりました(赤面)
優柔不断ですみません。
※誤字・脱字がありましたら、こっそりでいいので教えてください(平伏)
私自身も、なくせるように精進いたします・・・!!