第九十四話 災い転じて福となる・・・か?(1)
※この度、東北地方太平洋沖地震で、被害にあわれた皆様のご冥福と、早期のご回復を心から願っております。同時に、原発作業に尽力を尽くしてくださっている【東京電力の作業員】皆様の無事を切に願っております。
竜門弥生は、現知事のエゴ強行可決された、公平さに欠けた法案「東京都青少年健全育成条例」 http://mitb.bufsiz.jp/ に断固反対いたします。※
自分に合わせるように紅嘉は走ってくれていた。
(やっぱりこの先に何かあるんだわ!)
紅嘉に頼まれ、引っ張られながらそのあとについて行く玲春。
「どこまで行く気なんだ、あの虎は?」
そんな玲春の後ろを、間隔をあけながら追いかける林山と義烈の二人組。
「真夜中に出歩いているだけでも危ないのに・・・それを猛獣と一緒に夜の散歩なんて。宮中の女性は本当に怖いもの知らずだな?」
少女と虎のことばかり口にする林山に、義烈は目を細めながらつぶやいた。
「・・・気配が増えた。」
「え?」
「どうも・・・素人のもんじゃねぇな。」
「なにがだ?」
「殺し屋の臭いがするってんだよ。」
「え!?」
ぞっとするような目でつぶやく男。林山の体に鳥肌が立った。
その目に、見覚えがあったからだ。
かつて、自分を打ちのめした賊と同じ目。
星影によって叩きのめされた血を好む男の瞳に酷似していた。
「人でも殺すつもりか?」
気付けばそう聞いていた。それに侠客は、驚いたように目を見開いた後で笑った。
「いいや・・・そういう意味じゃねぇ。」
クックッと笑うと楽しそうに告げる。
「遊べるかもしれないからよ・・・!」
嬉々とした表情で、殺伐とした殺気を放つ男。
それでどういうことか理解できた。
「ここは宮中だぞ?」
「そうだな。」
「皇帝のいる宮殿に・・・殺り合わなければいけないほどの敵がいるのか?」
「護衛兵とか衛兵とかじゃないのは確かだ。どっちかっつーと、俺に似た種類だな~」
「義烈?」
「まぎれてるぜ。裏稼業の連中がよぉ・・・・!」
そう語る男は、戦闘態勢に入っていた。
手元にあるのは、懐に入れることができる大きさの短刀のみ。
(戦いになったら、こんな小さい得物で戦えというのか?)
困惑しつつも、男の言葉通り、万が一に備える林山。
ふいに、鋭い殺気を感じた。
(ヤバイ!)
反射的に身を隠せば、義烈も同様に物陰に隠れた。
ただならぬ気配がする方を見れば、黒衣に身を包んだ人影。
(なんだあいつら!?)
見るからに怪しい者達。
作りかけの庭の庭園から様子を伺った。
人数は全部で三人。
怪しいと思った決め手は、手にしている大きめの弓矢。
(こんな真夜中に、闇にまぎれやすい黒装飾で、弓矢片手に闊歩してれば、誰が見ても怪しいよな・・・。)
側にいる相方に目配せすれば、同じようなことを考えていたのだろう。いぶかしそうな表情で頷いた。
(なにをしているんだ?)
追いかけていた少女も気になったが、幸い彼女は連中に見つかることなく行ってしまった。今はこの、いかにも宮中の外から無断でやってきましたという連中を見張った方がいい。
そう判断して、連中へと視線を向けていた。
「おい。」
小声で義烈に呼ばれた。顎だけで、向こうを見ろと指された。
どうしたのかと思い、庭園から見える遠くの景色へと目をやる。
「え・・・・!?」
目に映った光景に、体が凍りついた。
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「星影姉さまは・・・私の誇りです。」
真っ赤な目で泣きながら妹が言う。
「町の人が、偉いお役人様が、身分の尊き方がなんと言おうが、姉さまは私の一番大切な姉。尊敬すべき方です。」
なぜ、妹がそう言うのか。
ああ、そうだ・・・。
私達に言い寄る山賊を倒した直後だった。
今まで私達にちやほやしていた者達が、友達が、私達を化け物のように扱ったんだっけ。
星蓮はそうでもなかったけど、私はかなり嫌煙された。
『凶悪な山賊を倒した恐ろしい女』
それが、私達を山賊に差し出し、生け贄にして、助けもしなかった連中の決めた価値観。
それを知った妹が、泣きながら私に言ったのだ。
・・・謝ってきたのだ。
「星影姉さまだけを・・・ひどい女にしてしまいました。私が、私が武芸を習っていれば・・・!」
ごめんなさい、ごめんなさい。自分だけ何も言われなくて。自分だけ安全な場所で、ぬくぬくとしていて。同じ生け贄になったのに、私だけ・・・!と。
そう言って泣きながら詫びる星蓮。
どうして泣くの、妹よ?可愛いお前は何も悪くない。悪いのは私達を見捨てた連中だぞ?優しいお前が泣くことはない。悲しむことはない。罪悪感を覚えることはない。
星蓮、お前はただ花のように笑っていればいいの。それだけで私は満足なの。
今の自分を不幸だとも、哀れだとも思わない。周りがそう言っているだけ。周囲の言葉に惑わされてはいけないよ、星蓮。
姉さまは、お前が幸せになってくれることが何よりも幸せなのよ?
私達は幸せを守ったのだから。
それに見合う形の幸せを手に入れましょう。
私の言葉に愛しい妹は、私にすがり付きながら小さく頷いた。
「私は・・・・そんな姉さまが大好きです。」
必死で笑顔を作りながら。
(星蓮・・・!)
瞬きをするように、そんな記憶が頭を駆け抜ける。
(私は死ぬの?)
敬うべき少年に抱き着かれ、憧れる大将軍に抱きしめられ、動かぬ体で奥歯をかみしめる。
天井から、皇太子の命を奪おうとする刺客が落ちてくる。
早いはずの動きが、ひどくゆっくり見えた。
絶体絶命、という言葉ふさわしい状況。
面白いように体が動かない。毒のせいだと思っていたが、それだけではないようだ。
(この私が・・・女傑だのなんだのと言われた私が!)
恐怖に近いような感覚で、どうしていいかわからない状況で、石像のように固まってしまうなんて!!
(なんて情けないのだろう、星影?)
悔しくて、笑みさえ浮かんだ。
完全に逃げ場を失った状態で、どう戦えばいいのか?
捨て身で皇太子と大将軍をかばえばいいのか?
そんな力は残ってないし、今ここで彼らの盾になって死ぬわけにはいかない。
(そうなったら、星蓮を救えない。)
それでもー
(なんとかしないとっ!!)
諦めてはいなかった。
諦めてはいなかったが、体が動かない。
視界の片隅に月のない黒い空が見えた。
だが、一番強烈に映っていたのは自分達に向かう凶器。
「死ね衛青!!劉拠!!」
銀色の刃が振り下ろされた。
「あぁああ!!」
星蓮っ!!林山っ!!
その場にこだまする絶叫。
「ぎゃっ!?」
「ぐっ!?」
「うわぁ!!」
鈍い音と、連続的な悲鳴。
その音で、薄めだった星影の目が開かれる。
「え!?」
「なっ!?」
「なに・・・・・・・?」
思わず漏れてしまった声。
しかし、今の彼女にそんなことは些細なこと。
自分の失態を気にするよりも、目の前の光景に意識が注がれていた。
「ぐぅう・・・!」
一声ないて倒れる影。
(え、衛青将軍!?)
その影は、自分が慕う大将軍・衛青ではない。
「これは・・・」
星影が心配する人物は、困惑気味につぶやくと床に倒れた相手・・・
「どういうことだ・・・・!?」
自分達を襲ってきた敵を見ていた。
床に倒れている賊は1人だけではなかった。
頭上から降りてきた数名が、1人を残して全員床に倒れていたのだ。
「うぅ・・・!」
「ぐ・・・。」
幸か不幸か、賊達は死んではいなかった。
しかしみな、完全に伸びている状態だった。
(一体なにが!?誰が!?)
戦闘不能になっている男達を注意深く見れば、その周囲にはがれきの残骸。
(誰かがこれを、こいつらにぶつけてくれたのか!?)
つまり、助けが来たということ―――!?
「叔父上!」
星影がそう結論付けた時、声が上がる。
この中で一番年若い少年の叫びだった。
それを合図に、敵も味方も気が付いたかのように止めていた体を動かす。
「拠様!お怪我は!?」
真っ先に衛青将軍が動いた。
庇っていた皇太子の体を抱き寄せると、何度も背をなでながら叫ぶ。
「大丈夫でございますか!?ご無事ですか!?お怪我は!?拠様!」
「私は平気だ!叔父上こそ、無事でよかった・・・!!」
「拠様・・・!」
「無事ではないぞ・・・・!」
互いを労りあう、叔父と甥へ憎々しい言葉が向けられた。
「ずいぶん舐めた真似をしてくださいましたな・・・!」
そう言ったのは、唯一がれきをよけた賊だった。
「お頭。」
駆け寄る仲間の言葉が耳に届く。それで、この男が曲者共をまとめている頭目とわかった。
「用心したはずだったが、まさか仲間がいようとは・・・!」
つばを吐きながら言うと、周囲の仲間に命を下した。
「こいつらの仲間が近くにいるぞ!殺せ!!」
その指示で、数名が、がれきが飛んできたらしい方角へと音もなく向かった。
・
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「良かった間に合って!!」
「よかねぇーよ!このお節介っ!!」
安堵した直後、後頭部を殴られる本物の安林山。
「仕方ないだろう!?ああでもしないと、彼らは殺されていた。」
「だからってな、怪しい奴らのとこに割って入って攻撃するのもどうかと思うぜ!?」
「そうしないと間に合わなかったんだ!」
「俺がいなきゃ、オメーの命が間に合ってなかったぞ!?」
忌々しそうに義烈が地面を一踏みすれば、うめき声が漏れる。
見れば、二人の足元には黒衣の賊が三人転がっていた。
最初、その光景に目を疑った。
姿かたち、状況がどうあれ、見間違うはずはない。
何年一緒にいたと思う?
そうとも、絶対に間違えるなんてありえない!!
賊らしい集団に襲われていたのは、なにをかくそう親友兼義理の姉である劉星影だったのだ。
「あ・・・・!?」
あの馬鹿!!何してんだっ!!?
そう叫びたくなるのを我慢して。
いろいろツッコみたいところはあったが我慢して。
怒りたいのを我慢して林山がしたこと。
というよりも、気づいた時には体が自然に動いていた。
「うおっぉおお!!」
叫びながら突進すると、
「なっ!?」
「なんだ貴様!?」
「なにものだ!?」
曲者の質問に答えることなく、その足元へと利き足を繰り出した。
「やぁあああ!!」
林山の動きに、賊たちは攻撃されると思って身をひるがえす。
それで、林山の視界は開いた。
今まさに、正面に見える親友・星影の命が消えようとしている。
(消してなるものか!!)
ろうそくの光じゃないんだ!!
そう心の中で怒ってから、彼は行動に出る。
彼は後方へと上げた足を大きく前方へと動かす。
そして狙いを定めて、転がっていた瓦礫を力いっぱい蹴り飛ばしたのだ。
「あ!?」
「な、なに!?」
「しまっ―――――――――――――――――!」
それでようやく、林山から離れた賊たちは理解した。
彼の本当の狙いが、自分の仲間達を攻撃することだということに。
瓦礫は人のこぶし大ほどだったので勢いよく飛んだ。
「でぇやぁああ!やっ!やっ!やっ!やぁぁあああ!!」
どれだけ蹴り飛ばしたかわからない。
とにかく連打で両足を使って蹴りまくった。
それは目的の者達へと次々と命中した。
「ぎゃっ!?」
「ぐっ!?」
「うわぁ!!」
静かな空気を通して、親友に襲いかかる賊の悲鳴が聞こえた。
すべては命中したかのように見えたのだが、
「あ!?一人かわしたか!?」
蹴り終わった後で凝視すれば、一人だけ平然と立ち尽くしているものがいた。
一発不発に終わったこと忌々しく思ったが、星影なら一人ぐらいどうということもなく倒すだろうと思い、これ以上の攻撃はしなかった。
「よかった・・・。」
そうつぶやいて、ほっと安堵した林山だったが、
「き、貴様!」
「よくも我らの仲間を!」
「死ねっ!」
「え・・・?」
戸惑いと怒りの音色を混ぜた怒声が、三方向から攻撃として炸裂した。
「しまっ・・・!?」
(ヤバイっ!!)
一息ついてところでまさかの不意打ち。
不意打ちだと思いつつも、まぁ当然の結果だろうと心のどこかでのんきに考えていた。
(いきなり姿を現して攻撃して、ハイそれで終わり、というわけもないよな・・・普通は。)
そう思い、これは無傷じゃ済まないだろうと、覚悟した直後。
「ぎゃっ!」
「ぶっ!!」
「え?」
左右の男が倒れた。
それに驚いて目をやる林山と残りの賊。
「ど、どうなって――――!?」
「見ての通りだよ。」
「あ。」
状況を理解できずにつぶやいた最後の一人。その背後には義烈の姿。
「おまっ!?」
「――――――てめ~も寝ろ。」
「がぁ!?」
良い音がしたと思ったら、そのまま地面に崩れ落ちる賊。
義烈の上段蹴りが決まった証拠だった。
「義烈!?い・・・」
いつの間に!?と、言い終わらないうちに後頭部にこぶしを落とされた。
「この馬鹿っ!!」
ついでに雷も落ちる。
「いてぇ~!?」
「お前馬鹿か!?なにやってんだよ!?いきなり飛び出して!」
こうして、お説教を受けることとなり、現在に至るのである。
「お前さ、いくら自分の腕が経つって言ってもな、敵の前でその仲間を倒し終わった後で、のんきにホッと一息ついてるなんていう、無謀なバカ見たのは初めてだぜ!?馬鹿だお前は!!」
「そんな言い方ないだろう!?急がないと向こうの人が死にかけたんだ!あそこまで駆けつけてる時間もなかったし、手ごろのがれきがったから・・・!」
「このクソややこしい状況で不通も何もあるか!?飛び出すだけでも悪いのに、
「人助けのためだから仕方ねぇだぁ!?そういうことは、テメー一人の時にしやがれ!ぞんなことしてっと、そのうち人助けで死ぬぞ!?一銭にもならねぇのに馬鹿じゃねぇのか!?」
「あれしか方法がなかったんだ!見殺しにするわけにはいかないだろう!?つーか、あんた金しか頭にないのかよ!?」
「悪いかよ!?なんで俺が金にならねぇことしなきゃなんねぇんだよ?お前だって、こんなことしてる場合じゃねぇことはわかってるだろう!?」
「それは・・・」
「そんなに、風景の一部が大事なのかよ?」
「そりゃあ、あなたにとっては風景画に出てくる登場人物かもしれないが――――」
俺にとっては愛する女性の姉になる肉親。
それも、最恐・最凶・最強の三拍子のそろった最高の親友。
(もちろん、そんなことは言えないけど・・・)
口ごもる林山を見ながら、義烈は大げさにため息をつく。
「もういい馬鹿が!見ろ、お仲間が来ちまったぜ?」
言われて、攻撃した方を見れば、ハヤテのごとくこちらに向かってくる集団。
「反省会は後だ。ほれ、使え!」
そう言うなり、無造作に何か投げてよこした。それを受け取ってギョッとした。
「剣じゃないか!?どうやって持ち込んだんだ?」
「足もとで寝てる奴から取った。」
そう言いながら、二本の剣を見せびらかす侠客。
「パクッたのかよ!?」
「漢民族の特権だからな?」
クックッと笑いながら答える。
「さぁ~て。星影のおかげで面倒なことになっちまったが・・・」
舌なめずりをしながら剣を抜くと、嬉々とした声で言った。
「運動の時間と行こーか!?」
まるでおもちゃで遊ぶかのような口調。しかし、それに反する凍りつくような殺気を義烈は放っていた。
そんな男の側で林山も、剣を抜いて構える。
(なにがあったのかわからないが。)
騒ぎの中心にお前がいるということは、
(また、とんでもない事件に巻き込まれたってことかよ?)
それが星蓮に関わることであろうとなかろうと。
期待してるが、期待はしてない。
がっかりするのは慣れている。
ただ、その内容が、いつも並はずれだから、俺もつい怒ってしまう。
前回の、陛下襲撃・救出事件や安林山男娼愛妾話なんていうものからしてもな。
(でもな―――――)
昔からお節介で、世話焼きで、義侠心のあるお前のことだ。
(誰のためにしてる事だって、俺はわかってるよ。)
俺は信じてからな、星影?
(だって俺達、親友だろう?)
今までもこれからも―――――
うっすらと笑ってから、キュッと口元をしめる林山。
神経を研ぎ澄ませれば、無数の殺気がこちらへ向かってくる。
「き――――――」
「きたな。」
義烈がそう言う前に、静かな口調で言った。それに侠客は少し目を大きくしたが、すぐにいつものニヒルな笑みを作りながら告げる。
「良い顔してるな・・・お前。」
一言告げると、獲物めがけて一歩踏み出した。
それに続くように林山も前へと進んだのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・(土下座)!!
危機一髪の星影達を救ったのは、林山&義烈でした。
二度目の賊の襲撃に、不自由な体で星影はどう立ち向かうのか?
次回も続きますので、良かったら読んでみてください。
ストーリーとは関係ありませんが、いつもサブタイトルを考えるのに悩みます・・・。
今回も、サブタイトルに悩んでアップが遅くなってのでした・・・(赤面)
優柔不断ですみません。
※誤字・脱字がありましたら、こっそりでいいので教えてください(平伏)
私自身も、なくせるように精進いたします・・・!!