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第八十八話 追いかけっこ



距離を置きながら後をつける。

目的の少女は、周囲を気にしながらトコトコと歩いていた。



「どこまで行く気だ・・・?」

「まったくだ。ずいぶん奥まで来ちまったな・・。」



少女に視線を向けながら林山は言い、周囲に目を向けながら義烈は答えた。

あれから二人は、少女の後を追いかけて、塀をのぼり、花畑を抜け、とある宮殿へと来ていた。

そこは、品のある装飾がされており、それなりの身分の者が生活しているらしい場所だった。

星蓮捜索のために宮中に来た林山達であったが、今やその目的はどこ吹く風か。

不審な少女の後をつけるのに必死であった。



「どこまで行くんだい、お嬢ちゃん?」



決して聞こえることのない距離で、聞こえるはずのない声でささやく義烈。

それは、完全にたわむれによるものだった。


「ふざけている場合かよ、義烈?」

「退屈なんだよ、尾行はよぉ。」


注意する青年に、男は軽口で返した。


「相手がイイ体した美女ならいいぜ?それ以前に、つらさえ分からないんだ。気楽に追うしかないだろう?」

「あのなぁ~・・・!」

「まぁ、俺好みの面だったら俺だって頑張るぜ?体はまだまだ成長過程だが、宮中にいるって点では将来有望だ!ゆ・う・ぼ・う。」

「・・・お前好みでも、相手がお前を気に入らなければ意味がないと思うぞ?」

「そうかもな。」


クックッと笑いながら言うあたり、真剣みがない。

この男に真面目に説教しても意味がない。

そう思いながらため息交じりに視線を返した時だった。


「あれ?」


玲の少女が立ち止っている。


「義烈!」

「ん?」


相棒の名を呼んでその様子を指させば、少しだけ目を細める。


「あんだぁ~?」

「どうしたんだろう?」


とある部屋の前で動きを止めていた。


「あの部屋に用があるのか?」

「こっちからじゃ、面が見えないから何とも言えねぇが~・・・」

「というよりも―――」




「「なにしてるんだ?」」




二人の口から出たのは、偶然にも同じ言葉。

というよりも、そう言わずにはいられない光景がそこにあった。


「なんだよあれ?犬かよ?」

「犬ってあなた・・・いや、でも確かに―――――」


もう一度見た少女は、不可解な行動をとっていた。

なんというか・・・迷うようにぐるぐると部屋の前をまわっていたのだ。

落ち着きなく部屋の前で動く姿は、仔犬と言えなくもなかった。



「どうしたんだろう・・・?」

「俺に聞くなよ・・・。」



互いに顔を合わせ、首をかしげる。

もう一度、問題の人物へ視線を戻そうとした時だった。


「おい!」


近況を知らせるような義烈の声。

それは声でなく、表情までも変えていた。


「どうし―――?」


その変化受けて何事かと尋ねる林山だったが、最後まで言い終えることはなかった。



「ヤバイだろうあれ!」

「は?」



そう言いながら言う義烈の視線の先を見る。

少女がいる場所からかなり離れた場所。

林山の目に飛び込んできたのは動く何かの姿。



「あれは――――!?」



人の姿。

まぎれもない人間だった。



「まずいぞ、義烈!このままじゃ鉢合わせに―――!」



林山の言葉に、小さく舌打ちする義烈。

そして動いた。

少女に向かって一直線に走りだしたのだ。

つられて走り、追いかけながら声をかけた。

相手の行動の意味を知るために。



「おい!?」

「近くまで行くぞ。」

「え!?」

「ヤバくなったら、落とす。」



―――やばくなったら、おとす。―――――



(つまりは、あの子が見つかったら、向こうから来てる相手を気絶させるということか!)



確かに、その方が無難かもしれない。

そうすれば、逃げ出そうとする少女を説得する手間も省け―――!


(・・・・・ん?)


そこまで考えてハッとする林山。



少女は真夜中に出歩いていた。

遠くの宮殿まで一人で来た。

部屋の前で立ち止まる。

部屋に入ることなく、うろうろしている。



「まさか―――?」

「どうした?」


何かに気づいたような口調でつぶやく林山に義烈が声をかける。

それに応じたというわけではないが、自然と口をついて出た言葉。


「なぁ義烈、もしかして―――」



否―――――



「あの女の子・・・誰かと逃げるために、こんな遠くの宮殿まで来たんじゃないか?」



感じたままのことを口にしていた。



「なに?」



林山の発言に、歩みは止めなかったが勢いよく振り返る侠客。



「だってそうだろう?こんな真夜中に女の子が一人で――――・・・理由もなく宮中内を動き回ると思うか?」

「そりゃぁ――――・・・・」

「それに、『宝仙宮』からここまでくる道中のはしごとか!あんな、いかにも『隠していました』っていうものを使って、ここまでくる理由はなんだ?宮中のさらに中心部で、俺達のいたところから、かなり距離がある場所にだぞ!?」

「確かに・・・・逃げんなら内側じゃなくて外側に向かっていくよな、普通は。」

「そうだろう?きっと、一緒に来た友達か何かと逃げる気かもしれない!」

「それなら男もありだろう?」



その言葉で体が震えた。

しびれるような妙な感覚。




おとこと、にげる。




自分がこれからしようとしていること。

あの少女の姿は、未来の俺達でもあるのか?

妙な不安が脳裏をよぎる。

それをかき消すかのように、大きく頭を振る。



(大丈夫だ!俺と星蓮は大丈夫だっ!)



一瞬ではあったが、自分に言い聞かせた。


俺達は大丈夫。絶対みんなで生きて逃げる。逃げ切ってやる!


だから、あのも俺が助ける。

なぜなら――――



「・・・他人事じゃないからな。」

「おお、ここまで首突っ込んだからな。危なくなってるしな~!」



自然と出た言葉は、疑われることなく会話として成り立った。

どちらにせよ、少女の側へ行くのが先である。

そんなことを考えながら、義烈の後ろをついては知っていたのだが―――




「!?隠れろっ!!」



自分にだけ聞こえる声でそう言われた。

走る速度を落とすことなく、自分の腕をつかむと、そのまま柱の陰へと引っ張り込まれた。


「ぎ―――!?」


名を呼ぼうとしたが口をふさがれる。


(なんだ!?)



最後に視界に映ったのは、同じように慌てて隠れている少女の姿。

彼女は、こちらへ向かってくる人影に気づいたらしい。


(よかった・・・!)


安堵したのもつかの間。


コツ、コツ、コツ。


廊下に響く靴音。


(誰から、こっちへ来てる・・・!?)


どうやら、今度は自分達がヤバい状況になっているらしい。

息を殺して気配を殺して身をひそめる。

すると、かすかな足音と会話が耳に届いた。



「・・・・・ほしい。・・・いて・・・・だ。」

「・・・・し・・・?」

「・・・が、・・・・・・・・しか・・・・。・・・できない。」




人の声。



(・・・これは男か。)



床に伸びた影の長さと、自分と似た質の声にそう確信する。


「・・・して・・・・か・・・・。・・・・たら、・・・と・・・・・!」

「・・・は・・・・」

「・・・ね・・・?」



一文字一文字しか聞き取れないような会話。

ただ、その話し方からして、誰かが誰かに何かを頼んでいるようだった。

気配が完全になくなってから、その者達が向かったらしい方角を見る。

月明りで見えたのは、そのうちの一人のものらしい影法師が、視界から消えていくところだった。



「衛兵か・・・?」

「こんな時間に宮中内を動き回る男はいないだろうな。」

「男だったのか?」

「ああ。」


林山の問いにあいまいに首を振りながら言う義烈。


「女の臭いじゃなかったからよ。」

「・・・・犬か、あなたは?」

「例えるなら、猟犬だろうな?」


ニッと口だけで笑うと、ピッと親指を立てながら言った。


「ヤローのことはともかくよ、お嬢さんの方が面白いことになってるぜ?」

「え?」


指を指しながら言う方向を見れば、自分達が尾行していた女の子は再び移動を始めていた。

それも、先ほどよりも足早に動いている。


(どうしたんだ、急に?)


「急げ!見失うぜ。」

「あ、待ってくれ!?」


疑問すら口に出来ぬまま、再開された追いかけっこ。

歩みを速めた相手に、こちらも追う速度を上げたのだった。



「そういうわけですので林山、林山の服、お借りしますね。」

「借りるのは、君の部屋に置いてある服だよ。そう・・・紅嘉殿にね。」

「よかったんですか、林山?虎に貸したりなん・・・ええ!?」

「アハハハ!君らしいね?では、ありがたくお借りするとしよう。」

「笑い事じゃないですよ、琥珀。」

「すまない。ああ、そうだ。ここにいる間の君の着替えだけど、私の服を使ってくれ。多少は大きいと思うが、寝ているだけだから、見てくれを気にすることもないだろう。」

「汗をかいたら、マメに着替えてくださいね?感冒かぜの原因になりますからっ!」

「飲み物と食べ物も、そばに置いて置くから。安静に・・・いいね?」

「あ!いいです!動かないでください!すぐに帰ってきますから、眠っていてくださいね。」

「寝ている時に悪かったね、林山。」

「ゆっくり休んでくださいね!おやすみなさい、林山。」


それだけ告げると、琥珀と共に部屋から出た。

そして、すごく自然な足取りで部屋から離れたのだが、


「空飛。」

「・・・はい。」

「動きが不自然だよ。」

「そ、そうですか?」


涼しい口調で言う友に対して、自分の声が上ずっていたのがわかった。


「仕方ないでしょう・・・こういうこと、初めてですし。」

「私もね。」


(そういうわりには、緊張してないじゃないですか・・・?)


のほほんという相手に目だけで訴えれば、ニッコリと笑い返された。

あれから、琥珀の指示に従い、林山がいるとされる琥珀の部屋へ向かった。

誰が見ているかわからないので、寝台で寝ているとされる林山と会話をしているかのようなやり取りを行った。




「もぉ~・・・!生きた心地がしませんでしたよ!?」



林山の部屋に入り、寝台まで行ったところで大きく息を吐く空飛。


「しかし、誰も見ていないようでよかったよ。」

「わかるんですか~そういうこと?」

「・・・感でね。」

「はぁ、そうですか・・・。」


疲れたと言わんばかりに椅子にもたれるように座る空飛に対し、琥珀はゆったりとした仕草で椅子に腰かけていた。


「でも琥珀・・・・あんなことまでする必要がありましたか?」

「あんなこと?」

「・・・寝台に置いた、林山の身代わりですよ。」

「ああ、あれかい?」

「何十枚もの服を丸めて丸めて人の体みたいにして、服で作った体と枕の頭をくっつけて、さらに服まで着せて・・・・あんなことしたら、琥珀の服がダメになるでしょう?」

「林山と同じ大きさの人形があれば、それを使ったよ。それがない以上、ああでもしないと、誤魔化せない。部屋に入ってもすぐにばれないように、頭から布団もかけたし・・・。仮に刺客が来て一突きしても、大丈夫だよ。」

「え!?やっぱり刺客は来るのですか!?」

「たとえ話だよ。備えあれば憂いなし・・・。来たら来たで時間稼ぎにもなるから。」


そんな理由で、琥珀の部屋の根台に林山人形を作ってから林山の部屋へと戻ってきた。

林山が命を狙われたのは間違いないことだから、身代わりを仕掛けておくのは当然だが・・・。



「あの身代わり人形で誤魔化せますかね・・・?」



お世辞にも上手とは言えない代物。

完成度の高くない身代わり人形を思い出して溜息つく空飛。

それに対して琥珀は落胆的だった。


「大丈夫。部屋の明かりは暗めにしたし、寝台に行くまでの道中、罠もしかけたじゃないか?」

「時間がなくて、簡単な子供騙ししかできてませんけどね・・・。」

「こういうのは、子供騙しのようなものの方が、意外と騙されやすいものだよ。」

「はぁ・・・だといいんですが。」


そう言われても、半分は不安な空飛である。

これ以上の励ましは無意味と判断したのか、琥珀はさっさと林山の持ち物へと手を伸ばす。


「さて・・・どの服を拝借するか。」

「あまり綺麗な服はやめた方がいいですよ。汚れてもよさそうなものにしないと。」

「汚れてもよさそうな服とは難しいね。林山の持ち物はどれも綺麗だ。」

「え?」


立ち上がり、服を物色している琥珀のもとまで行く。

その手元をのぞきこめば、綺麗に洗いあげられた衣装の数々があった。


「わぁ~意外ですね・・・!」

「ああ。林山のことだから、適当だと思っていたが。」

「失礼ですよ!琥珀。」

「ハハハ!これは失敬。」

「でも・・・いくら非常時とはいえ、私達の判断でお借りしてもいいのでしょうか?」

「今更迷っても仕方ないよ。さすがに下着なら、林山も怒るかもしれないけど。」

「それ、林山じゃなくても怒りますよ?」

「本当は、肌着の方がいいのだけどね・・・。直接触れている部分だから、臭いもよくしみこんでいると思うし。」

「なっなに言ってるんですか!?いけません!だめですよ!!動物のくせに!」

「動物だからこそ、嗅覚に頼る部分があるのと思うが?」

「そんなに臭いが嗅ぎたいなら、お香をつければいいんですよっ!!お香の匂いでも反応するって言っていたじゃないですか!?」

「そうなると・・・やはり、あの時来ていた服がいいかな?」

「あの時、とは?」

「林山と紅嘉殿が遊んだ時。」

「殺し合いをした時でしょうっ!?遊んだなんて、やめてくださいっ!!」


真っ赤になって怒れば、親友はくすくすと笑ってそれに答えた。


「もぅ!からかわないでくださいっ!」

「悪かったよ。しかし・・・本当にどれにしようかな・・・・」


そう言うと、笑みを消して真剣な表情で林山の衣類に目をやる琥珀。


「紅嘉殿に貸す以上、無傷で返ってきそうなものにしないと。」

「それは・・・難しいですね。」

「まぁ、いざとなれば、魏忠殿に弁償していただおう。これはどうかな?」


そう言って差し出したのは、ゴワゴワした生地の服。


「ん~手触りがちょっと・・・牙を研ぎそうな肌触りですね。」

「却下だね。じゃあ、あれは?」

「これは逆に生地が薄いので、じゃれようものなら破れますよ。」

「返却時には、ズタズタになってそうだね。それはどうかな?」

「え~?それ、高そうじゃないですか?いくら弁償してもらうとはいえ、魏忠殿のお給金でまかなえるでしょうか?」

「金欠になるね。」

「こちらはいかがですか?柄も綺麗ですし。」

「!?ダメだ!触ってはいけない空飛!!」

「え!?」

「それは林山が陛下から下賜された服じゃないか!?」

「わぁー!?なんでそんな高級品が普通の衣服と一緒に入ってるんですか!?」

「無頓着だからな、林山は・・・・!」

「ど、どうしましょう!?私触っちゃいましたよぉ!死刑ですかね・・・!?」

「いや、それぐらいじゃ死刑にはならないよ。それに、君が触ったぐらいじゃ林山は怒らないだろう。とりあえず、戻しておこうか?」

「は、はははは、はい!」

「空飛、服が傾いてる。」

「だっだだだだって!皇帝陛下からの下賜で・・・!」

「そんな震えた手じゃどうにもならないね・・・貸してごらん。私が戻そう。」

「こ、ここここはくぅ~!」

「はいはい大丈夫だよ。ここは手分けして、虎がじゃれてもよさそうな服を探そう。」

「はい・・・!」

「無難なところでいけば、上着あたりがいいだろうね。」

「わかりました・・・!」


こうして、林山の服が入った行李から、よさそうなものを探す二人。


いつもと変わらぬ動作で探す琥珀に対し、空飛は恐る恐るという感じだった。

普段着の中に、最高権力者からもらった服が混じっていたのである。

今の感覚で言えば、百均で買った服の中に、一億はする毛皮のコートを一緒に押し込んで入れているようなものである。扱いも自然と慎重になった。


(き、気をつけないと!)


カクカクと動く友を見かねてか、琥珀が声をかける。


「空飛、必ずしも下賜された服が混じっているわけじゃないから。」

「で、でも・・・!」

「じゃあ、そこの行李を探してごらん。そこには下賜された服は入っていないから。」

「え?なんでわかるんですか!?」

「その行李には、封がしてあるからだよ。皇帝が苦手な林山のことだ。封を切ってまで、入れることはないだろう?」

「確かに・・・」


言われた行李を見れば、ヒモで十文字に封がされていた。明らかに説かれた形跡のないもの。ヒモをといて行李を開ければ、中から林山のにおいがした。


「わぁ・・・」


数枚の服がその中に納まっていた。

そのうちの一枚を手に取り、広げてみる。


「これは・・・!」

「へ~なかなか良い色の青だね。」

「ええ・・・!林山に似合いそうです。」

「しかし、同じ青色なら、こっちの方が汚れても怒りそうに―――・・・いや、そっちの方がいいかな?」


空飛が広げた服に目をやった琥珀だったが、自分の手元にある似たような色の服とを見比べる。


「いやいや。青でなくても、もう少し地味な服の方が―――」


何着か引っ張り出し、吟味しながらぶつぶつ言う琥珀。

そしてそのまま、自分の作業へと没頭し始める。

そんな親友の姿に小さく笑うと、再度手にした林山の服を見つめる空飛。



(林山の服・・・。)



一件なんのへんてつもない普通の素材を使った服だったが、強烈に親友を連想させた。

青く澄んだ色は、颯爽さっそうとした彼が着れば似合うだろう。

髪留めと玉けつは緑にすれば似合うのではないか?

その上で、口元目元に化粧を施せば、きっと見目麗しい麗人になるだろう。

同性から見ても、林山はすごく魅力のある人。

もう少し着飾ってもいいのに、彼は目立つことを好まない。

行動では十分目立つくせに、自分の容姿が目立つことを拒むのである。



(あんなに綺麗なのだから、化粧ぐらいはしても良いんじゃないかな?仮にも、高級宦官だし。)



もちろん、化粧やらなんやらしなくても、林山は綺麗だった。そんな親友が自分は好きだった。それでも空飛は、思ってしまう。


(もったいない。せっかくの容姿なのに・・・・)


着飾って美しい者のと、着飾らなくて美しい者との美が同じなら、着飾らない方が優れているに決まっている。

自分達三人以外の高級宦官は、みんな化粧やらなんやらしている。

黄藩様でされ、口紅をしている。

陛下は、林山や他の者を見比べて美しい朕の花だという。



(そんなの違う!)



他の者は化粧をして美しくしてるんだ!

林山は何もしなくても美しいんだっ!!

だから、一番きれいな宦官は林山だ!!

私の親友が一番綺麗なんだ!




(林山が、一番なんだ・・・・!)




広げた服を掲げ、そのまま胸に抱きしめた。


(林山のにおい・・・。)


あったかい、の光のような優しいにおい。

忘れていた何かを思い出すようなにおい。

大すきなにおい。



(林山・・・・)



「・・・ので、林山があの時来ていた服にしようと思うんだが・・・いいかな?空飛?」

「え!?」


名を呼ばれ、思わず抱きしめていた服を背後に隠す。


「どうしたんだい?」

「べべべべ、べ、別に!」

「・・・そうかい?じゃあ、この服でいいかな?」

「え!?」


そう言って差し出されたのは、ボロボロで帰ってきた際に林山が来ていた肌着。

要は、虎の紅嘉と遊んだ際に身につけていた服だった。


「どうせ捨てるつもりだと言っていたし、紅嘉殿も覚えているであろう服だから、貸して汚されても困らないと思うんだよ。」

「あ!?え!?ああ!なるほど!それはいい考えですね!はい!」

「君も賛成してくれるなら、捨てる予定だというこの服にするけど・・・本当にいいかい?」

「もちろんです!私は、物の良しあしに鈍いから、琥珀のめがねにかなったのなら、それでいいと思うよ!!」

「めがねなんて、大げさだね?じゃあ、これにするよ?」

「はい!」


空飛の返事を得ると、用意していた布に服を包む琥珀。


「服はこれでいいね。後は、出した服を行李に戻しておこう。このままにしていたら、確実に起こられるからね?」

「ええ、そうですよね・・・。」


服をたたんではしまう動作をしながら言う親友に、空飛も慌てて手の中の服をたたむ。

空飛の心をつかんだ林山の服は、衣類の中の一番上へと彼の手によって置かれた。


「それじゃあ、行こうか?」

「はい・・・。」


琥珀の言葉で、彼の後について部屋から出る空飛。

行李のふたを閉める際、名残惜しげに見た青色の着物。

行李の外で見た時とは違う、別の青さになっているように空飛は感じたのだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!


私事ですが、毎回小説をアップするたびに思うのですが、サブタイトル考えるの大変ですね・・・(大汗)

ストーリーはすぐに思いつくのですが、サブタイトルは考えるだけで数日かかります。

ただでさえ、脱字・変換ミスが多いのに、お恥ずかしい限りです(赤面)



さて、今回の小説の内容ですが、林山&義烈の追いかけっこと空飛&琥珀の話となっています。

本来の目的そっちのけで、少女を追いかける林山達。

自分と似ている部分があると感じた林山は、義烈と共にさらに追跡します。

一方の空飛と琥珀は、林山こと星影の服を持って魏忠の元へと向かいます。

次回は、誰が出てくるのでしょう(笑)

興味ある方、引き続き読んで頂けるとありがたいです。



遅くなりましたが、ハッピーバレンタイン!!


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