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第八十五話 寝起き加減はいかがですか?

※竜門弥生は、「東京都青少年健全育成条例改正問題」に断固反対いたします。※


29日に都内でこの問題について会見を開かれた、ちばてつや先生、秋本治先生らにエールを贈ります!!


信じられない。

冷たい。

ひどい。

親切とはいえ、あんまりです。



「親切とはいえ、あんまりです・・・!」



心の中だけで言っていた言葉が、最後の最後で言葉になってしまった。

うっかり口に出してしまったことに気付き、慌てて口をふさぐがー



「確かに今回は大きなお世話だったかもしれないね。起こさないようにした親切が。」


「あ・・・!」


「本当にすまなかった。」



遅かった。

聞いた相手は困ったように微笑みながら謝ってきた。



「違います!私ーーー」



どうしよう・・・困らせるつもりはなかったのに・・・。



「すみません・・・琥珀。」



心底申し訳ないという声色で言う相手に、琥珀こと王琥珀は首を振りながら答えた。


「いいや。君は悪くないよ、空飛。だから、謝らないでほしい。」


自分の名を出されてそう言われ、空飛こと張空飛はしょんぼりと肩を落とした。





ここは、高級宦官用に割り当てられた個室の一つ。

そこにいたのは、この部屋の主の親友・王琥珀と張空飛の二人だった。

先ほどまでこの部屋には、五人の人間がいた。

彼らの元上司で現同僚の黄藩。

漢帝国大将軍・衛青。

そして、部屋の主である安林山と彼らの五人。

しかし今は、琥珀と空飛の二人だけ。

それには理由があった。


本日の夕方、毎度のことながら騒ぎを巻き起こす親友・安林山が、再び騒ぎを起こして帰ってきた。

今回は、皇帝陛下の実姉平陽公主様ともめ事を起こしてしまったのだ。

危うく、平陽公主様の命で、命を奪われかけたが、なんとか命拾いして戻ってきた。

そんな親友に空飛は二度目の説教をし、林山も気を付けると約束してくれた。

その後、陛下から賜ったお酒と干した果物を肴にささやかな酒宴を行った。

生きて帰ってきてくれた親友のため、高級宦官という立場を存分に発揮して、さかなのアテとして干した果実を用意した。

皇帝から下された品は、限られた身分の者しか飲めないという『ぶどう酒』という西域のお酒。

親友が干した果物を好きだというのを聞いてのことだったので、酒のつまみに会うかどうか不安だったが好きな食べ物ならば、会う会わない以前にそれだけでもおいしく食べてもらえるだろう。

喜んでくれれば、それでいいと思っていた。

だからーーーー



「空飛も飲もう!!」



そう言われた時、正直戸惑った。

宮中に来てから、新年の祝いの席以外で、酒はおろか干した甘い果物さえ食べたことがなかった。

なので、最初から自分も食べれるなどという考えはなかった。


これは林山のために用意されたもの。


元々卑しい身分の私などが、彼と同じものを口にしていいはずがない。

そんな資格は自分にはない。

だから給仕としてささやかな宴会に参加するつもりだった。

それで十分だった。


ところが、林山の方はそうではなかった。



「君も飲むべきだ!」



皇族でも、限られた人間しか飲めない『ぶどう酒』を彼は自分も飲んでいいと言ってくれた。


嬉しかった。


それが、高価なお酒が飲めるという意味で嬉しいのではない。



「杯とは、気心の知れたもの同士で交わすもの!私達は友達なんだから、何事も共有しないと!」



林山が自分を親友だと言ってくれたことが嬉しかった。




「三人で乾杯しよう。」



自分を仲間に入れてくれたことが。

対等に扱ってくれたことが。

親友だと言ってくれたことが。


空飛は嬉しかった。

自分を人扱いしてくれる林山。

自分を友達だと言ってくれた林山。

自分を助けてくれた林山が、大好きだった。


宦官になった時、自分の世界は絶望とあきらめのみとなっていた。

今まで、暗い気持ちで生きてきた。

強いものに怯えながら生きてきた。


だから。


大好きな林山が無事に帰ってきたことが嬉しかった。



(なのに・・・)



林山は倒れた。




突然、酒を飲むなと叫んだ直後、倒れてしまったのだ。

琥珀が言うには、毒を盛られたというのだが・・・



(一体誰が林山を!?)



林山を殺したい人。

殺して得をする人。



(・・・・誰だろう?)



林山は、皇帝にも好かれるだけあって、すごく良い人物だった。

だからその半面で、妬みや嫉妬を覚えている者もいた。

あの李延年様ですら、自分の立場を脅かすかもしれない林山を敵視している。

それはどうしようもないことかもしれないけど-----




(だからと言って、私は犯人を許さない・・・!!)



大事な友達を傷つけたやつ。

大事な親友を苦しめるやつ。

大事な林山の命を奪おうとするやつ。




(林山をこんな目に合わせたやつを、私は許さない。)




幸い命は取り留めたが、高熱で苦しんでいた。

琥珀の処置のおかげで、この程度で済んだらしい。

琥珀は、林山の症状が安定するや否や、『信用できる人を呼んでくる』と言い残して部屋から出て行ってしまった。

後には、私と林山だけ残された。



「・・・林山。」



名前を呼んでも、答えてくれない。

荒い呼吸を繰り返していた。


「林山、死んじゃやだよ・・・・!」


眠る友に縋り付き、何度もそう言いながら泣いた。

熱を帯びた顔を冷ますため、なんども冷たい布を額にあてた。

手で、そのやわらかい頬を何度も撫でた。




「林山・・・。」



なんて、綺麗なんだろう・・・。



普段は帽子の中にしまわれている黒い艶のある髪。

絹糸のような髪に指先で触れれば、指の間から簡単に滑り落ちる。

頬徴した頬は、頬紅をしているようで、唇は紅をさしているように赤い。

まっすぐと人を見据える目は、今は閉ざされている。

閉ざされてはいるが、その瞳を彩る長く整ったまつ毛は呼吸のたびに小さく揺れる。


とても、同じ同性とは思えないぐらい綺麗だった。



「林山。」



こんなにきれいで優しい人が



「林山・・・!」



こんなところで死んでしまってよいのですか?




「りん・・・ざん・・・!」




よいのですか、天帝よ?




お願いします。


お願い致します。


どうか、天帝よ!


今この場で私を見ているのなら、私の願いをお聞きください。


私の残りの今生が、どれだくつらく苦しい一生になっても構いません。


来世が、畜生に生れ落ちようともかまいません。


ですからどうか、どうかお願いします!!




「私の友を・・・林山を助けてください・・・・!!」




もしお救いくださったなら、この命を差し上げても構いません。


私は卑しい身分の者で、何の財産も有りません。


高価なものは持ち合わせていません。


ですから、差し上げられるものと言えば、この命しかありません。


だからどうかお願いします。



私のこの命と引き換えに、安林山をお助けください・・・!




「お助けください、私の林山を・・・・!」




泣きながら、何度も天を仰いでお願いした。

林山の頬に自信の頬を摺り寄せながら、懇願した。



「林山を助けてください・・・助けてください・・・!」



そして私は眠ってしまった。





気づいた時には、なぜか寝台で眠っていた。



(どうして?なぜ?林山は!?)



親友が寝ていたはずの場所に自分が寝ていた。

慌てて飛び起きれば、もう一人の親友が視界に入る。



「やぁ、起きたかい?」


目にしたのは親友の王琥珀。

彼の姿を認めてから、部屋の中へと視線を送る。



(いない!琥珀しかいない!?)



林山は!?



「琥珀!!林山は!?」



穏やかにいう彼に、私はつかみかかっていた。



「林山はどこ!?ねぇ、林山は!?まさか・・・!まさかぁ-------!!」



病気の同僚が、いつのまにかいなくなる。

それはここではよくあること。

ここではそれが、永久の別れを意味していること。

みんな、知っている。



(死んだーーーー・・・・・・!?)



「林山はどうしたんです!?なぜ、いないのですか!?」



だから、必死で聞いた。



決して受け入れられない結末。



「林山はどこ!?どこですか!?ぶじなんですよね!?」



胸によぎった最悪の事態を否定しながら聞いた。

子供のように同じ単語を繰り返しながら問うた。



「林山はっ!!?」



林山が、どうなったのか。



「落ち着いて。」



荒れる自分の声とは対照的な静かな声。



「大丈夫だよ、空飛。」



子供をなだめるような優しい口調で彼は言った。



「林山は、もう大丈夫だよ。」

「どう大丈夫なの!?どこにいったの!?」

「君の部屋。」

「えっ!?」



意外な答えに、思わず思考が停止した。

そんな私を見ながら、自分を掴んでいた手をゆっくりと説きながら琥珀は言う。



「君が・・・林山の手当てで疲れて眠っている間に、黄藩殿と衛青将軍がいらっしゃってね。」

「衛青大将軍が!?」



意外な人物の訪問に、さらに驚いた。

琥珀は私に、林山が完全に助かったので大丈夫だということと、林山が何者かに狙われていると告げたうえで、



「当分は、安静にしていなければいけない体だから、しばらく君の部屋で林山の治療をすることになった。」

「私の?」

「ああ。犯人が分からないうえに、相手は林山を諦めてはいないだろう・・・。そうなると、再び、林山を狙ってくる。そうなると、この部屋に忍び込んでくる可能性もある。」

「犯人が・・・?」


その言葉に鳥肌が立つ。


林山のを狙う人物が彼を襲いに来る?



(また、今日みたいなこと蛾林山に起きるかもしれないと・・・!?)



「本人が来るかどうかは怪しいが、その手先は来るだろうね。だから、君には申し訳ないが、しばらく君の部屋に林山をかくまうということで合意したよ。」

「・・・林山はそれを承知したの?」

「いいや。また寝てしまったみたいだから、合意は得ずに勝手に決めさせてしまった。もっとも、林山がその命令を断る理由はないと思うしね。」

「命令・・・」


(そうですね・・・。)


命令とでも言わないと、林山のことだから自分犯人探しとかしそうだよね。



「そういうことならわかりまし・・・」


(・・・・ん?)



そこまで考え気が付いた。



「どうしたんだい、琥珀?」

「『また』って?」

「え?」

「『また寝てしまった』てどういう意味ですか!?」



琥珀は、林山はもう大丈夫だと言った。

心配ないと言った。



(その上で、また寝たっていうのはーーー!?)



「林山は目を覚ましたということですかっ!?」



再度、琥珀の胸にしがみつけば、相手は困ったように告げる。


「いや、起きて寝たのを見たわけじゃないけどー」

「じゃあ、なんで断言できるんですか!?根拠は!?理由は!?」

「落ち着いてくれ、空飛。」

「落ち着けますか!?どうして起こしてくれないかったんですか!?」


自分が寝ている間に林山は目を覚ました。

眠りこんでいる自分を見て、彼は何と思ったか。



ーーーーーー自分が苦しんでいる間に、のんきに寝ていたのか?ーーーーーー



「そう思われたかもしれないじゃないですか!?」

「な!?空飛??」


看病していなかったように見られていたら。

心配していなかったように思われたら。

そんな私に愛想つかされてしまったら。


嫌われてしまったらー!?



(そんなのいやだ!!)



それなのに、目の前の友人はー




「どうして起こしてくれなかったんですか!?」




怖くて悲しくて、気づけば叫んでいた。

普段あげることのない声を出してしまった。

肩で息をしながら、震える唇から何度も息を吐く。

その様子を、琥珀は少し目を見開いて見ていた。

しかし、すぐにいつもの穏やかな表情に戻すと静かに言った。


「どうしてもなにも・・・君があまりにも心地よく眠っていたから・・・」


相手の言い分はわかった。

わかったが納得できなかった。

一番肝心な時に起こしてくれなかったのが、気遣いによるものだというのが嫌だった。



「だとしても起こしてくださいよ!!」



そういった後で、罪悪感に襲われる。

だからそれを誤魔化すために別の言葉を紡いだ。


「わ、私!大将軍に寝顔を見られたということですか!?それって・・・恥ずかしいじゃないですか・・・!?」


これに対して琥珀、いつものようにゆったりとした口調で答える。


「大丈夫。きれいな寝顔だったよ。それに見たのは大将軍だけじゃない。」

「琥珀と黄様もと言いたいのでしょう!?」

「私や黄藩殿、それに大将軍よりも前に林山が見ている。」

「だから、琥珀はその現場を見ていなかったんでしょう?どうしてそう言い切れるんですか!?」

「部屋の状況からして、そう言い切れるからだよ。」

「状況?」

「ああ。部屋を出る時に起きていた君は、体に何もかけていなかった。しかし戻った時、林山にかかっていたはずの布団を君がかけて眠っていた。そればかりか、林山はそんな君をいたわるように折り重なりながら寝ていたんだからね。大方、目を覚まして、寝ている君を気遣ってかけてくれたんだろう。」

「じゃあ、林山は・・・!?」


(私を気遣って自分にかかっていた布団を・・・?)


「・・・林山が気遣って起こさなかったのなら、私も起こさない方がいいと思ってね。林山のせいにするつもりはないが、悪気があったわけじゃないんだよ。」

「琥珀・・・。」

「君が林山を心配していたことは、誰よりも私が一番理解しているつもりだ。そんな君を蚊帳の外にするような真似をしたことは、本当にすまないと思っている。」


そういわれた瞬間、心の中が羞恥心であふれた。


「そんな!そんな・・・琥珀は、琥珀は悪くないです!!私が・・私が子供みたいに駄々をこねたのが悪いんです・・・!」



なにをやっているんだろう。

友の一人は、自分のことを、自分がどれだけ林山を心配したか気づいていた。

わかってくれていたのに、八つ当たりのように怒って叫んで。



「ごめんなさい・・・琥珀。本当に申し訳ありません・・・!」



そう言って頭を下げれば、そっとその頭に手を置かれた。


「わかっているよ。あやまらないでくれ、空飛。君が林山を心配していた気持ちを思えば、謝る必要はないから。」

「でも!」

「私達は友だろう?だったら、詫びる詫びないはここまでにしよう?」

「琥珀・・・。」


相手の心の広さを感じ、無言で何度も頭を上下させた。

するとふいに、外から人の声・・・というよりも、くしゃみと鼻をすする音がした。

それも、自分達がいる部屋の前からだ。


「・・・誰でしょう?」

「黄藩様ではなさそうだね・・・。」


険しい顔で答える親友。

真夜中に人の部屋を訪ねてくる。

それも、毒を盛られた林山の部屋に。

そこまで思って、ふとある考えにたどりつく。


「ま、まさか!?林山を狙う刺客では・・・!?」


可能性は十分あった。

口に入るものを使って、人の命を奪う輩である。

どこからか、星影が助かったという情報を得て、とどめを刺しに来たと考えてもいい。



「・・・琥珀。」



不安を交えて聞けば、親友は表情を崩すことなく答えた。


「・・・・それにしては、まったく気配を消せてないよ。」


そう言いながら立ち上がる琥珀。

そのまま、入口へと歩き出した。


「あ、危ないですよ!琥珀!」


何か武器をと思いつつも、ここには剣や弓はない。

そもそも、宮廷内で物騒なものが各部屋に常備されているはずもなく・・・



「これで・・・!」



とりあえず、近くになった枕を抱えて後を追った。


「待ってください、琥珀!」



(いざとなればこれを投げてー!!)



戦おう!

林山を守るためなら、どんなことでもしますよ私は!!



そうやって気張る空飛に比べると、琥珀はひどく落ち着いていた。

いつもと変わらぬ様子だが、少しだけ足早に戸口に近づいて立ち止まる。

口は閉ざしたまま、無言でその場に佇んだ。

どうやら、相手の出方をうかがっているらしい。


「こは・・・?」


名を呼びかけた時、首だけでこちらを見る。その口元には人差し指が添えられていた。



静かに。



そう語っていた。

それに従い、空飛は無言でうなずくと、グッと口を閉ざして動きを止める。

辺りは静寂に包まれ、音をなくす。

しばしの沈黙の末、自分たち以外の声が上がった。



「夜分遅くすみません。安様。」



そう呼びかけたのは、男の声。

これに空飛は反応し、持っていた枕を高らかとかかげる。


(刺客は男!?)


林山を狙ってきたのなら、これをぶつけてやる!!


怒気を含ませながら構える空飛。




その心意気はいいが、枕にどこまでの攻撃力があるかは怪しいところであった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!



最近、更新が遅くて申し訳ありません・・・!!

本当は、「良い夫婦の日」のゴロ合わせに合わせて11月22日にアップ予定でしたが、「東京都青少年健全育成条例改正問題」が再び定義されたことで、そちらがきになってしまい・・・それ+サブタイトルで悩んでしまったことも原因でして・・・

すみません・・・!!


小説に関してですが、今回は張空飛と王琥珀のお話となっております。

というよりも、空飛視点です。

彼が安林山こと劉星影をどう思っているのか書いてみました。

次回には、訪ねてきた人が分かりますので、しばしお待ちください。





※見直しはしたのですが、誤字・脱字・漢字の間違いがありましたら、こっそり教えていただけるとありがたいです・・・!!

ヘタレですみませんっ!!



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