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第八十四話 準備不万端


場違いだ。



痛々しいぐらい、痛感した。



れん様、学問の方はいかがですか?」

「ちゃんとしていますよ。武芸の方も、きちんとしています。」

「将来のことを考えますれば、学問をしすぎてはいけないということはないと思います。ですが・・・武術は護身程度にとどめておいてくださいませ。」

「護身程度しかできないのでは、みなに笑われないか?」

「あなた様が強くなりすぎては、守る者の立場ございませんよ。」

「ハハハ!そうだったね?危うく、叔父上達の仕事を取りかけましたかな?」

「いえ、そういうわけでは・・・」



自分の側で、楽しそうに話す叔父と甥。

もとい、大将軍と皇太子殿下。


その近くでそんな会話を聞く私は間違いなくお邪魔虫。




(場違いすぎるだろう・・・・!)




かたや商人のふぜいの娘が、皇族達の会話を聞いていていいのだろうか?

そもそも、国の大将軍という将軍の中でも一番の位にある方の腕の中にいること事態、不届きなのではないだろうか?


そんな思いから、非常に居心地の悪い思いをしながら大将軍の腕に抱かれていた。


安全のためという理由で空飛の部屋へと運ばれていた星影。

運んでくれていたのは、憧れの衛青大将軍。

その腕の中で浮かれていたら、とんでもない者のが現れた。




「お戯れを、拠皇太子殿下。」




未来の皇帝とも言える劉拠りゅうれん皇太子ある。

彼は叔父である衛青将軍と語りたいという理由で、空飛の部屋までついていくと言ってきたのだ。

衛青将軍が危ないからと言ってもまったく聞かない。

最初は断っていた衛青将軍も、最終的には甥っ子の頼みを断りきれず、こうして今に至るのであった。


「それでね、その時母上は・・・!」

「ほぉ・・・姉上がそのように?」

「ああ。お父上にも、頼まれてね。私もその方がいいとー」

「そうでございましたか。さすが陛下ですね。」

「うん。でも私としてはー」

「そうおっしゃられますな。陛下にもお考えあってのこと。例えば、ある戦の際に・・・・」

「そうなの?でも、それでは負担が大きかったのでは?」

「いいえ・・・。国民と皇帝陛下と、ひいてはあなた様のために戦う・・・。それこそ、私の役割なのですから。」

「わかってますよ、叔父上!それよりも、あの戦の話が聞きたいです!」

「ああ、それでしたらー」


たわいない身内の話から、皇太子が最近習った学問の話し、衛青将軍の出た戦の話など。

話題はさまざまだが、二人は楽しそうに語り合っていた。



「ハハハ!左様でしたか?」



時折耳元に、心地よい笑い声が響いた。



(衛青将軍・・・笑う時はこんな声なんだ・・・。)



自分が見る限りの衛青将軍は、寡黙で無口で落ち着きのある大人の男。

優しさは見せても、笑い声など聞かせてくれなかった。



(やっぱり、身内だからかな・・・?)



素の自分を見せられるのは。



(・・・そうかもしれない。)



私だって、本当の自分を見せるの家族の前だけ。

大事な妹と信頼できる友の前のみ。

それ以外に、本音をさらすなんてできない。

自分の立場に置き換えれば、衛青将軍の今の仕草は十分納得できる。

信用できる相手、気心を許せる相手にしか本心は明かさない。

それは、誰でも当たり前のことだけどー



(羨ましいな・・・。)



衛青将軍の楽しそうな口調や声を聞くたびに、そんな思いが何度も胸をよぎった。

その笑みや気遣いを、私に向けてもらえたら。

怒るような褒めるよう拡張で話しかけてもらえたら。

人には見せない姿を、見せてもらえたら。



(どんなに幸せだろう・・・。)



独りよがりな高望みが、星影の胸を焦がしていた。




「ところで叔父上・・・・父上は大丈夫なのですか?」




そう皇太子が聞いたのは、会話が最高潮まで弾んだ時だった。


「・・・大丈夫と申されますと?」

「宮中内で、賊に襲われたでしょう?それはもう、大丈夫なのですか・・・?」


拠皇太子の言葉を最後に二人の会話がとまった。

しばらくして、口を開いたのは衛青だった。



「申し訳ございません・・・。」

「そうじゃないよ。私が聞きたいのはそんなことじゃないよ?」

「ですが、陛下を危険にさらしたのは、武官である私の責任もございます。」

「叔父上一人が悪いのではないのですよ?そもそも、叔父上に罪を問うというのは見当違いでしょう?」

「いいえ。・・・・この国で一番高い武官の地位にいるのは私です・・・!」

「違います、叔父上!それに、私が聞きたいのはそんな言葉じゃないのです!」

「・・・賊のことですね?」



小さく息を吐くと衛青は答えた。



「陛下を襲った賊は、すべて死亡しました。賊を率いていた男も、陛下の前で自害したそうです。」

「叔父上・・・」

「なので拠様。あなた様がご心配なさることはなにもございませんよ?」

「・・・つまり、黒幕はわかっていないのですね・・・?」



少年の言葉に、星影の足を抱えていた方の手が不自然に痙攣した。



「父上を狙っている本当の悪人は、まだわかっていないのですね・・・?」

「拠様。」

「誤魔化さないでください。でも、叔父上達のことです。目星はついているのでしょう?」

「あなた様が関わっていいことではございません。」

「父上が狙われたのなら、次は私でしょう?」

「拠様!?」

「父上には、私以外に男子の子供がいる。私は、たまたま一番早く生まれただけの子供。それでも覚悟はできています・・・!」



そう語る皇太子の口調はどこか寂しそうだった。



「あなたのお気持ちはわかりました。ですが、そのような軽率なことはおっしゃらなー」

「最近、私の身の回りの世話にと、新しい宦官がつけられた。」



叔父の言葉をさえぎるように皇太子は言った。



「新しい宦官は、それはそれはよく私を助けてくれる。私が困っているとすぐに駆けつけて助けてくれる。」

「それは・・・良いことではございませんか。良い者が、お側につかれたのですね。」

「うん。まるで、四六時中私を監視しているかのような動きだよ・・・・!」



それまでとは一変して、強い口調で言う皇太子。



(監視・・・?)



少年の言葉に、衛青だけではなく星影も何かを察した。



「拠様、それは・・・あなた様が皇太子殿下だからでしょう。あなた様に何かあってはいけないので・・・」

「私の書状まで盗み見ることがか?」



あざ笑うように彼は言った。



「最初から、違和感はあったんだよ。気のせいだとも思っていた。でも・・・少々度が過ぎる。それにね、あの者達が来てから私の周りでおかしなことが起きるようになったんだ。」

「おかしなこと?」

「だから、逃げてきたんだよ・・・」



小さくため息をつく皇太子。



「つまり・・・・今宵、拠様が供もつけずに私の元へきたのはー」

「調べてほしいことがあったからだ。」



(調べてほしいこと・・・?)


声を潜めながら言う少年に、星影も思わず聞き耳を立てる。



「私に何を調べろとおっしゃるのですか・・・?」

「聞いてくれるか?」

「そこまでお聞きした以上・・・・必ずや。」

「ありがとう、助かるよ。なんせ、あの宦官共は油断も隙もないから・・・。きっと私の行動も、逐一で報告しているんだろう。」

「・・・恐れながら拠様、それはいったい誰のご推挙によるもので・・・?」

「ああ、それがー・・・・」



叔父の言葉に甥が答えようとした時だった。




星影の背中に冷たいものが走る。




(なに!?)




そう考えたのは一瞬のこと。

悪寒と同時に、体中に鳥肌が立った。

その理由を星影は瞬時に理解する。





(---------------殺気!!)






星影が自覚するより早く、彼女を抱えた武人はそれを感知していた。







「ーーーーーーー危ないっ!!」


「えっ!?」




(え、衛青将軍!?)





すばやく星影を小脇に抱え、皇太子に覆いかぶさった。





「お、叔父・・・!?ーーーーわぁあああああ!?」


「ーーーー!!」





とっさに叫びそうになったのを星影は我慢する。

代わりに、少年の驚いた声と雄叫びが響く。

それに続いて、何かが廊下の床に刺さるの音がした。




(金属音!?)




音からして、短刀が数本投げつけられていた。




「大丈夫でございますか、拠様!?」

「う、うん!」



幸い衛青は、甥に気を取られてこちらを見ていない。

星影の予想通り、先ほどまで自分達のいた場所には短刀が数本刺さっていた。

大将軍の背中越しで、殺気を感じた方を見る星影。




(あれは・・・・!)



細めた目に、黒ずくめの集団がいた。




(ヤバイ・・・!)




それを目にした時、悪い予感がした。

悪い予感というよりも、



”・・・計画に、抜かりないだろうな?”

”はい。・・・奴を殺すには十分です。”



琥珀と黒ずくめの男とのやり取りが、星影の脳裏によみがえった。



(似てる・・・!あの時の黒ずくめと同じ服装だ。)



薄目で様子を伺えば、その集団は二十数名からいた。



(まさか・・・琥珀の手の者か?)



ある程度は信用していたが、琥珀への疑いが晴れているわけではなかった。

彼は、誰かを殺す話し合いをしていた。

それが陛下ではなく、衛青将軍だったということも十分考えられる。

しかし、どちらかといえばこの場合はーーー




(皇太子狙いだろうな・・・!)




「叔父上・・・!」

「大丈夫です、拠様・・・!」



不安げにいう皇太子にそう告げる大将軍だったが、星影を抱える腕の筋肉が固くなっていた。

武人の筋肉が張るのを、衣服越しに感じながら思う。



(三人でこの人数を相手にするのは無理だろう・・・。)



正確に言えば、皇太子と自分は、今の現状のままでは頭数には入らない。

よって、衛青将軍のみで戦うとなるとかなり不利である。



(いやいや!これでも私は、藍田では名の通った武人(!?)じゃないか!いくら毒にやられていても加勢ぐらいは・・・!)



そうは思っていても、やる気があっても、体がついてこなければ意味がない。

事実、今の自分は毒が完全に抜け切れていないからだ。

体は火照っていて、重く感じられる。

風邪を引いているかのような状態だった。


(なんとか、逃げ道はないのか!?)


薄目を凝らして、気配を探るが脱出経路が見つからない。

完全に四方を囲まれてしまっていると言っていい。


(くそ!どうしてこうなる前に気付かなかったんだ!?)


いくら、毒でやられてるとはいえ、こいつらの気配がわからないなんて!



(あなたそれでも武人なの、星影!?)



ひどく自分が情けなく思えた。

情けなく、無力に思えたが、後悔はしていられない。



(-------毒が抜け切れていないからってなによ!?)



それを理由に、戦わないというわけにはいかない。

こいつらが陛下を狙ったように、皇太子を狙ってきたのと同類の刺客のなら、私たち全員を皆殺しにするだろう。

だったらーーー



(戦わないで死ぬよりも、戦って死んだ方がまだマシ!)



つーか、なにが悲しくて二度も皇族を狙う刺客の襲撃に巻き込まれなきゃならないの!?

ここ宮中でしょう!?

鉄壁の守りで、外部からの侵入を防いでるんじゃなかったの!?

こんな物騒な連中を簡単に忍び込ませるとか、どういう警備体制してるのよ!?



(衛青将軍が、宮中の警備に文句をつけた気持ちがわかるわ・・・。)



まぁ・・・でも。



(その甘っちょろい警備のおかげで、林山に会いに行けたし・・・。)



行き帰りの往復が出来たのだ。

それを思えば、強固な鉄壁でなかったことに不満は言えない星影。



(もういいわ!二度あることは三度あるんだから!)



戦う覚悟を決め、敵を見ながらどう攻めるべきかと思案する星影。


(あれ・・・?)


それに気づいたのは、賊の人数を数えている最中だった。


(・・・なんだろう?)


自分達を取り囲む集団に、違和感を覚える。



(この黒ずくめ達から、なにか近いものを感じる・・・?)



星影の嗅覚が、かすかに彼らから、自分に近い何かを感じ取れた。



(いやまさか!私がこいつらと同じわけはーーーー・・・・・!)



こんな多勢に無勢な卑怯者達と。

コソコソと人の見ていないところで人を殺そうとする狡い輩と。



(私が同じはずないわ!!)



理性がそれを否定したが、彼女の本能は相変わらず肯定し続けていた。


(なぜ?)


何が同じなの、私の本能よ?


(まさか、私と同じでみんな妹がいるのかな・・・?)


いやいや!


その程度で、こんな悪人共に近いものを感じないだろう!

そう思い、細めた目を凝らしながら見ればー



(あ。)



そういうことか。



自分が察した近いものに気づく。

それはひどく簡単で、わかりやすい、親近感によるもの。




(女性が混じっていたのか・・・!)




見れば数人・・・・体つきなどからして女性らしい者達がいた。

胸はもちろんなかったが、それが布などで抑えているのだと星影にはわかった。



(上手く隠したつもりだけど、こっちにはバレバレだよ!)



普段から男装しているだけに、そういう誤魔化しは彼女には通用しなかった。


(しかし参ったな・・・。)


敵に女性がいるとなるとー



(戦いづらい。)



異性なら、容赦なく殴るける出来るが同姓となると・・・。



(気が引けるな・・・。)



どうしたものかと目を閉じれば、耳元で武人の怒声が上がった。




「貴様ら何者だ!?こちらにいらっしゃるのを、次期皇帝、拠皇太子殿下と知っての狼藉か!?」




沈黙のにらみ合いの末に発せられた衛青の言葉。

彼の問いかけに誰も答えなかった。

代わりに、さらに三人を取り囲んだのだ。




「答えろっ!何が目的だ!?」




皇太子と星影をかばうようにして、腰の剣を抜く。

すると、どこからともなくくぐもった声が響いた。






「拠皇太子殿下と知って狙ったのだ。」






頭上から聞こえた声。




「なっ!?」




衛青将軍の怒りと焦りの声。





(上から声ーーーーー敵は上か!?)





意識を上へ向ける。

薄目で見上げた視界。






「目的は皇太子の命を奪うこと!」





そこに声の主はいた。

天井に張り付く数名の男達。

そのうちの一人が発した声。





(女はいない!)





月明かりを頼りに、瞬時にそれだけ判断できた。

上に潜んでいた敵の数を把握する前に、月の光が消える。




(まずい!来る!!)




月明かりが見え隠れしたのは、ほんのわずかの時間。

星影の予想通り、敵は月が雲に隠れたと同時に動いた。





「ーーーーーーー死ねっ!!」





天井にいた黒ずくめ達が、こちら目掛けて落下してきたのだ。





「おのれっ!」


「叔父上っ!」


「っーーーーーー!!」




襲い掛かってくる男達のその体躯はみな立派で、手にはそれぞれ鋭利な獲物を持っていた。




(------まずいっ!!)



必死で、頭の中で有効な攻撃手段を割り出すが、この襲撃を防ぐ方法が見つからない。思いつかない。

前後左右を敵が囲み、下は固い床である。



(せめて皇太子だけでもーーーー!!)



そう考え、動こうとした矢先、強い力が星影の体を拘束する。



(え!?)



なに?



(衛青将軍!?)



星影の動きを封じたのは、彼女が慕う大将軍。

自身の胸の中に、二人を抱き込んでいた。



(ちょ、だめ!この大勢だと、衛青将軍は串刺しにーーー!!)



自分達を抱きかかえる武人の力が強くなる。

その動きは、皇太子はもちろん、星影をも守る動きだった。



(まさかーーーー死ぬ覚悟で、私達を守る気!?)



皇太子はともかく、宦官という身分の私まで!?

だめっ!

そんなの絶対にだめぇ!!




(無茶です!衛青将軍っ!!)




まさかの奇襲に加え、毒の後遺症でいまだに上手く動けない星影。

ふがいない自身に、彼女は強く奥歯をかみ締めた。





最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!


二度目の襲撃に、さすがの主人公もピンチです。

おまけに今回は、体も自由に利かないので上手く戦えません。

打つ手なしの星影達の運命はいかに!?








※小説を読んでいて、誤字・脱字・文章のつなげ方がおかしいよ、という箇所を見つけられた方!


こっそり教えてください(苦笑)・・・・ヘタレで、すみません・・・!!


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