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第八十二話 直感は大事

※竜門弥生は、「東京都青少年健全育成条例改正問題」に断固反対いたします。※


最初に踏み込んだ部屋は、春らしい花の臭いがする場所だった。



「どうだ?いるか・・・・!?」



夢の世界の住人となっている娘達を見ながら義烈が問いかけた。

同じように、林山も眠る娘達の顔を見る。


「ーーーー・・・・いいや・・・」


(ここにはいない。)


星蓮はいなかった。

その答えに義烈は、そうかとつぶやいた後で、


「次いくぞ。」


と、林山を部屋から連れ出した。

再び廊下に出て、薄布の右端を見る。

八つほど進んだ部屋に、次の針が刺さっていた。


「ここだ。」

「ああ・・・」


義烈の後に続いて、部屋の中に入った。

ここは、かんきつ類のにおいのする部屋だった。


「どうだ?」

「・・・・違う・・・。」


一通り、娘達の顔を見た後で林山は首を横にふった。


「次だ。」


林山の答えを聞くや否や、次の部屋へと向かう義烈。

それに、顔の確認をしていた林山も続いた。

針の刺さっている部屋を探しては、部屋の中の娘の顔を確認する。

周囲の様子を伺いながら、



(きりがない・・・。)



希望を持って部屋に入る。

期待を込めて顔を見て、失望のうちに部屋を後にする。

それを何回も繰り返し続けた。

地道な作業である。


「どうした?もうへばったか?」

「大丈夫だ。」


時折、自分を気遣う義烈の言葉に林山は平気な顔で答えた。

ここに来るまでのことを思えば、どうということはない。

林山の様子に、相手もそれ以上は言わなかった。

二人は無言で黙々と星蓮探しをした。


「ここにもいなかったか。」


若草の香り漂う部屋から出ながら侠客はつぶやく。

それにあわせて林山からもため息が漏れる。

息を吐き切ったところで、彼は義烈に尋ねた。



「あと何部屋ぐらいあるんだ、義烈?」

「ん~半分は終わったな・・・。それを思えば、予定よりは早いな。」

「そうか。それなら・・・宮妓のところも探せるか・・・?」

「だめだ。」


恐る恐る聞いた林山の言葉を、即答で拒否した。


「今日は宮妓のところには行かねぇ。」

「どうしてだ?」

「お前焦ってるだろう?焦ってる時に仕事しても失敗するんだよっ。」


そう言うと、軽く林山の額にこぶしを当てた。


「お、おい!」


痛くはなかった。肩を軽く叩くような感覚で当てられた。

子供をあしらうような態度にむっとする林山。

それを横目で見ながら林山は口だけで笑う。


「まぁ・・・・場所の下見ぐらいはしてもいいが、探すのは次の機会だな。」

「次の機会って・・・そう何度も、宮中に侵入できないだろう?」

「馬鹿。夜の商人として入れば簡単だろうが。」

「ま、またそれか!?」

「それしかないだろう?大丈夫だ。ああみえて玉蘭はその道の達人だからな。」

「そうだが・・・」

「あいつも、奉仕活動でしてるわけじゃない。ちゃんとお前からもらった金を渡してる。いわゆる商売だ。」

「商売といわれても・・・」


やはり、女性に卑猥なことをさせるのは気が引けた。

今も彼女は、複数の兵士相手にその体を開いているのだろう。


(一人でも多くの邪魔者をひきつけ、俺達の仕事の妨げにならないようにと健気に・・・!)


そう思うと、胸が締め付けられた。


「まじめに考えすぎなんだよ、お前。」


そんな林山に義烈は言った。


「女がほしいから買う。女を買いたがってる男がいるから春を売る。需要があるから供給があるんだ。目的果たすために、きれいも汚いもないだろうが?」


そう言った男の表情は真剣そのものだった。

なによりも、言っていることが理にかなっていた。



「お前も、覚悟決めたならぶつくさ言うな。お前の優しすぎる性格は問題だぜ?」

「優しいって、別に俺は普・・・」

「普通じゃねぇな!変なところで優しいんだよ、お前。中途半端に優しすぎるから失敗するんだよ。」

「ちゅ、中途半端って!」

「どちらかと言えば優柔不断になるのかね?けど、その性格治した方がいいぞ。テメーだけじゃなくて周りに迷惑かけるんだからな?」

「うっ・・・」


だから、義烈の言葉に言い返せなかった。

心当たりがあったので、黙るしかなかった。

そもそも、星蓮が宮中に召された原因を作ったのは自分にあるようなものだった。

優柔不断な性格。

桂蓮とのことをあいまいにした自分。

己の作った不安は、二人の姉妹を不幸へと巻き込んでしまった。


星影は、自分が俺を巻き込んだと思ってるみたいだがそうじゃない・・・。


(巻き込んだのは、俺だろう・・・。)


すべては俺の性格が問題。

優しいかどうかわからないが、自覚はしてる。

優柔不断な自分の性格。

自覚はしてるが、


「まぁ、優柔不断ってのは簡単に治るもんじゃないから治せって言うのも無理な話かね~?」


ケラケラと笑いながら言う男。


・・・・わかってはいたが、こうもはっきりと親友以外に言われてしまうと傷つく。


「とにかく、今日は妻候補の中だけから探すぞ。後は後日だ。」

「・・・・わかった。」


あれもこれもと欲張れば、上手くはいかない。

今日のところは、妻達の部屋に星蓮がいるかどうかの確認をするぐらいで終わらせた方がいいだろう。

だから、義烈の言葉に従った。


「しっかしよぉ~こうも女が多いと、使う香の種類も多いんだな~」


自身の衣服をつまみながら忌々しそうに義烈がぼやく。

彼の言う通り、いろんな匂いをかぎすぎてはな変になるのを林山は感じていた。


「仕方ないさ。香を焚くのは上流層のたしなみでもあるし・・・」

「だとしても、移り香がすげーぞ!完全に衣服にしみこんじまってる。」


そう言いながら、自分の服のにおいをかぐ男。

それにつられて、林山も利き腕の袖を鼻に近づけた。


「うっ!?」


な、なんだこれ・・・!?


甘いようなむせるような、果物が腐る寸前の悪臭のような臭い。

頭痛を起こすようなわけのわからない香り。

気持ちが悪くなった。


「これはー・・・・!!」


(いろんな香が混ざった結果か!?)


思わず顔を背ければ、同じようにそっぽを向いていた義烈と目が合った。


「うえぇ~ひどいな、これ?」

「ひどいというか・・・お香で吐き気を覚えたのは初めてだよ・・・!」

「高価なお香は香りが強いからな~」

「混ざったら、上品な香りも台無しだ・・・。」


体の臭いを気にする林山に、義烈は盛大なため息をつきながら言った。


「俺はよぉ・・・汗かいた素肌から香るほんのりとした甘い匂いが好きなんだけどなぁ~」

「どんな匂いだよ!?」

「汗かいた後の匂いかね~」


どういう意味の汗をかいた後の匂いかは、にやける男の顔で想像できた。


「お前はいやか?女の柔肌の素のにおい。」

「下品だぞ、義烈。」

「ホント、真面目だよな?いいなぁ~女の肌の匂い!運動した後の女の匂いはいいぜ!なぁ!?」

「あ、ああ・・・。」


同意を求められ、乾いた笑みでうなずく林山。

実際は、まだ互いの肌すらあわせていないのだが・・・。

とはいえ、こんな匂いをつけて戻れば、周囲に怪しまれないだろうか?


「心配すんな、星影!」


そんな林山の肩を叩きながら侠客は述べた。


「どうせこの服は、隠密行動のためのものだ。脱いだ後で、湯をつけた布で体を拭けばいい。そんでもって、体拭いた上から別の香をつければバレねぇーよ。」


口に出したわけではないのに、林山の考えていた不安要素を言い当てた義烈。

その上で、解決策を口にしたのである。


「・・・・顔に出てたか?」

「面白いぐらいに。」


(悪かったな・・・!)


相手の言葉に、離してくれと肩の手を振り解く林山。

それと一緒に、視線を義烈からそらした時だった。



(あれ?)



遠くの視界に、何かが動くのがわかった。

半分月が隠れていたため、それはぼんやりとしか見えなかった。

廊下を照らす明かりの横を、黒い何かが通り過ぎるたびにその炎がゆれていた。


(動物?いや、動物だとしたら檻にいるだろう。大きさにしても大きすぎる。)


じっと見つめていれば、かげっていた月の半分が顔を出し始めた。

その光により、黒い何かは形付けられ、はっきりと輪郭を現し始めた。


(・・・・人だ。)


動物だと思った黒いものは人間だった。

それも女性だった。



(いや。女性・・・というよりはーーーーー・・・・・少女?)



何故こんなところに女の子が?

ここにいる人間は、義烈のおかげで起きてこないようになっている。

それが、目に映っている少女はチョロチョロと動き回っている。


(もしかして・・・義烈の協力者か?)


そう思いながら女子を見ていた。

ふいに、少女が振り返った。



(まずい!)



思わず、義烈の腕をつかんで物陰に隠れた。


「!?・・・どうした?」


その行動に身をゆだねながら、小声で問いかける侠客の親分。


(考えて答えが出るわけじゃないし・・・聞いてみるか。)


そう思ったので、林山も義烈に尋ねた。


「なぁ・・・あの子、義烈の協力者か?」

「あん?」


依頼人の言葉に、訝しそうに侠客は眉をひそめる。

顎でさす林山に促され、その先に目をやる男。

少女の存在を確認すると、目を細めながら答えた。


「あんなガキじゃねぇよ・・・。」

「じゃあ、違うのか?」

「つーか・・・ありゃ、ここの女官じゃねぇなぁ・・・。」

「え?」

「宝仙宮の女官じゃない。あの服は・・・別の宮殿の女官のものだろう?」

「服って・・・」


そう言われても、林山の目から少女の服装までわからなかった。


「わかんねぇか?」

「わからない。」

「なかなか良いもの着てるぜ、あのお嬢ちゃん。」

「そうなのか・・・?」

「おう。」


目を凝らしてみるが、真夜中の月明かりだけでは限界があった。


(この男、ずいぶん夜目が効くんだな・・・。)


感心しながら少女を見ていた。

服装はわからなかったが、やはり少女は周囲を気にしながら走っていた。

程なくして、自分達の視界から消えてしまった。


「行ったな。」

「ああ・・・。」

「よかった。こっちにでもこられたら、妹を探しどころじゃないからな。」


安堵の笑みを浮かべる林山とは対照的に、義烈の表情は険しかった。


「義烈?」

「・・・なんか、引っかかるな。」

「なにが?」

「あのお嬢ちゃん・・・荷物抱えてどこに行く気だったんだ?」

「荷物?それじゃまるで家出をすーーー・・・・」


そこまで言いかけてはっとする林山。

宮中において、女官は皇帝のものとされている。

それと同時に、国の重要な情報がある場所とされるのも宮中である。

古来から中国では、一度宮中に入った女官のほとんどは死ぬまで宮中から出られなかった。

宮中の中での出来事を外部に漏らさないため。秘密を守るために。

中国史の記録に残っている女官の最期によると、宮中での仕事を終えた女官は一箇所の宮殿に集められ、そこで死ぬまで過ごしたとされている。

故郷に帰れるでもなく、家族に会えるでもなく、最期まで閉鎖された空間に押し込められる。

すべては、宮中での出来事を外部に流さないために。

だから、万が一女官が逃亡した場合は強制的に連れ戻され、その後には『死』が待っているのだ。


「まさかあの子!ここから逃げる気じゃ・・・!?」

「どうだろうな。」


焦る林山を見ることなくのんびりとした口調で答える義烈。


「どうだろうなって・・・!。つかまればあの子は殺されるんだぞ!?」

「逃げてるってわかるわけじゃないだろう?聞いたわけじゃあるめーし。」

「だとしても、こんな夜中に出歩くなんておかしいだろう?」

「逢引の途中なら、おかしくないだろう?」

「茶化すなよ!」


怒鳴ったところで、ようやく義烈は林山の方を見た。


「じゃあなんだ?お前、あの子を助けるって言うのか?」

「それはー」

「妹助けに来て、他所の娘を助けてどうするんだよ!?」

「いや、でも・・・」

「テメーのために玉蘭は、文字通り体張って兵共の相手してるんだぞ!?その作戦を散々非難しといてなんだ?テメーのしようとしてることは!?」

「あ・・・その、」



「わけわかんねぇことしてんじゃねぇよ!!」



義烈の怒声は、静かな廊下にひどく響いた。

その言葉は廊下だけではなく、林山の心にも響いていた。


(そうだよ、俺・・・!なんて馬鹿なことを・・・。)


相手の言うことは正論で、反論の余地などない。余地はなかったが、


「だ、だけど・・・見殺しにはできない・・・・。」


殺されるかもしれないと予想できるならば、そんな可能性があるならば、



「助けたいと思うのは・・・いけないことか・・・・?」



自分を睨む侠客を見据えながら言った。

これを受けて相手は、はき捨てるように言った。


「これだから、お坊ちゃんの甘ちゃんはよぉ・・・!」


顔を大きくゆがめながら林山を非難する。

それに感情を抑えながら、言われた本人は答えた。


「そうだ・・・俺は、あんたが言うように甘ちゃんで優柔不断だ。世の中を知らないさ。でも、あの子はもっと知らない。だけど、俺達と同じでわかったんじゃないかな?」

「あん?」


少女が消えた方角を見ながら林山はつぶやく。




「ここが最高に特別なところだけど、最高に胸糞悪いところだってことに。」




清らか過ぎる水では魚は生きられない。

清らかなようで、泥水のように汚いこの場所。

綺麗であってひどく汚いところだとわかったのではないだろうか。


「単に、家族や元いた世界が恋しくなったのかもしれない。でも中には、俺達が感じたような違和感を覚えたのかもしれない。」


完璧で正常な世界に。



「綺麗で気持ちの悪い場所だとわかったんじゃないか?それを感じて、逃げたのだと思えば----」

「助けるべきじゃないかって?」



クックッと肩で笑う男。

次の瞬間、その目が大きく見開いた。




「そんな奇麗事言やぁ寄り道できると思ってんのかっ!!?」




再度怒鳴りつけ、林山の胸倉をつかむ。



(殴られる!?)



思わず身構えた林山に突きつけられたもの。






「合格だ、星影。」






いつもの意地悪めいた声。



「・・・・・・・・え?」



そして意外な言葉。




「あのお嬢ちゃんを追うぞ、星影。」


「へ・・・?」




ポカーンとしている林山の胸倉から手を離すと、さっさと歩き始める侠客。


「ちょ、ええ!?な、なんで・・・!?」


妻候補達の部屋から離れる義烈の背に呼びかけた。


「待てよ義烈!星蓮は・・・妹探しは!?」

「あ?オメー、あのお嬢ちゃんを助けたいんじゃないのか?」

「そうだけど、待てって!」


自分を追いかけてくる依頼人に、義烈は淡々とした口調で言う。


「心配すんな。予定よりは早く物事は進んでるんだ。ちょっとぐらい寄り道しても間に合うだろう。」

「それはそうだが・・・さっきまで反対してたじゃないか!?」

「おう。いつもなら、あそこまでだ。けど・・・今はちと、勝手が違う。」


なんとか追いついた相手の横に並べば、義烈は林山を見ながら言った。


「俺達が見たお嬢ちゃん、わけありみてぇな気がしてな。」

「わけあり?」

「俺は宝仙宮に忍び込むにあたって、ここにいる連中におねんねしといてもらうように裏で根回しした。ところが、そんな宝仙宮に平気で動き回るガキがいた。となれば、普通の女官じゃないだろう。」

「それはまさか・・・間者のようなものか?」

「間者というか・・・・他の宮殿の女官で間違いない。」

「他の宮殿の・・・?」

「告げ口でもするのかと思ったが、どうもそういう感じはしなかった。つーか、宝仙宮の異変にすら気づいてなかったしなぁ・・・」

「よくそこまでわかるな?あんな遠くにいたのに、そこまでわかるのか?」

「人間第一印象が大事だぜ。なによりも、俺の直感が言ってんだよ。『あのガキを追え』ってな・・・!」


片目を閉じながら答える侠客。


「直感で判断したってお前・・・」




(星影じゃないんだぞ・・・・!?)




自分の身近にいる直感で動く、該当者を想像しながら思う。

そうは思ったが、少女のことが気になったのでこれ以上はなにも言わなかった。


「あのお嬢ちゃん、ずいぶん急いでたがどこに行ったのやら~」

「それもそうだな・・・。見失ってしまったし。義烈、このまま闇雲に進んでもー」

「平気だ。こっちだって、俺の直感がそう言ってる。」


嬉々とした顔で足早に進みながら義烈は言うばかり。


(大丈夫かな・・・。)


侠客の足は、朧な明かりのある廊下を降りて、神々しい光に照らされた庭へと移動していた。

宝仙宮は、こぎれいな庭園になっていた。ところどころに小さな川と小さな橋が架かっている。

幼い妻達もいるせいか、子供から大人まで庭で楽しめるような造りとなっていた。

ていも豪華というよりは可愛らしく、内側の彩画は花々や動物が描かれていた。

そんな庭園の中を、男二人が足早に進んだ。


「あそこ見てみろよ。」

「え?」


そう言いながら指差す場所を見る。

宝仙宮を囲む意思の壁の一角。


「ほら。」

「ーーーーあ!」


それを見て声を上げる林山。


「はしごじゃないか・・・・!」


庭の手入れなどに使われるはしご。

それが無造作においてあった。

否、無造作というわけではないが、草木の陰に隠すように置いてあったのである。


「これは・・・」

「庭師の忘れもん・・・て、わけじゃなさそうだな。」


そう言いながら、壁の側に座り込む義烈。


「見ろよ、星影。土がえぐれてるぜ。」


地面に二箇所、並んであいている浅い穴があった。


「はしごを立てた時に出来た後だろう。」

「・・・みたいだな!はしごの足の部分に、土がついている。」


土の湿り具合からいって、はしごを使って間がないとわかった。


「どうやらお嬢ちゃんは、このはしごを使って壁の向こうに行ったらしいな・・・。」

「廊下もあるのに?一体なんのために?」

「そうしなきゃいけない理由でもあったんだろうよ・・・!」


楽しそうな笑うと、隠してあったはしごを手に取る。


「せっかくのおいかけっこだ。お嬢ちゃんに付き合おうぜ。」

「おいおい、危なくないか?」

「人の気配はしない。それによ、ここらを守る兵士はうちの美姫が引き付けてるだろーが?」


ニッと口元を緩めながら言う義烈。


「ほらいくぞ。さっさと見届けて帰らねぇーと、妹見つけられないだろうが?」


そう言うと、さっさとはしごを上り始めた。


「わかってる!待てよ。」

「それと!こっからは小声のみだぜ~?」

「わかってる・・・!」


小声で返事をすれば、よしよしと言いながらはしごを使って壁を乗り越えてしまった。

それに林山も従い、壁の上に立った。



「わぁ・・・」



壁の上に座り込んだ上体で下を見る。

隣は、平地になっており、じゅうたんの様に小さな花々が咲いていた。


(綺麗だな・・・。)


月明かりに照らされ、おぼろげに浮かぶ花のなんと美しいこと。



「星影、何ボーとしてるんだ?」



下から義烈が声をかける。


「早く降りろ!はしごは、こっちに渡せ。」

「え!?義烈に?なんで?」

「なんでも糞もあるかよ?行きではしご使ったんなら、帰りもはしごがいるだろう?じゃなきゃ、どうやって宝仙宮に帰るんだよ?」

「あ・・・!」


言われてみればそうだ。

こんなに高い塀を、自力で何の道具も使わずに登るのは不可能である。


「妹探しを途中やめにして帰るって言うなら、渡さなくてもいいけどよ?」

「そんなわけないだろう!今渡す!」


茶化す相手を小さく怒鳴ると、はしごを引き上げて地上にいる義烈へと渡した。

相手が受け取ったのを確認すると、周囲を見渡してから地上へと舞い降りる林山。

そのわずかな間に侠客の親分は、受け取ったはしごを手際よく近くの小さな木々の間に隠した。


「これでよし。ちゃんと倒せたみたいだな。」

「ああ。それにしても、あの子は一体どこに・・・?」


見失ってから、塀を乗り越えるまで時間がかかってしまった。

もしかしたら見つからないかもしれない。

そんな思いでつぶやいた言葉に呆れながら義烈が答えた。


「下見てみろ、下。」

「下?」

「ほら。花を踏んだ跡がついてるだろう?」

「あ・・・!」


じゅうたんの様に割いた花々の一部が、踏み潰されていた。

その踏み跡は均等に、道しるべのごとくついていた。


「これを辿ればすぐだろう?」

「あ、ああ・・・。」


(すごい洞察力だな・・・!)


見つけられるか不安だった林山の気持ちは、無用のものとして終わった。

花の上につけられた跡を足早に辿る。

音を立てないように、見つからないように、木々の陰や柱の影に異動しながら進んだ。

そして、




「お。発け~ん!」




腕を引っ張られ、物陰に引きずられながら聞いた侠客の陽気な声。


「あ!本当だ・・・!」


辺りを気にしながら、小走りに廊下を歩く少女を見つけた。

相変わらず、挙動不審な動きをしていた。


(やはり、逃げるのかな・・・。)


その後姿を見ながらそう思う林山。

少女のことを心配しつつも、違う心配もしていた。



(思わず、あの子を助けたいとは言ったが・・・・どうか早く終わりますように。)



間違っても、男との逢瀬で急いでましたーという結末にはなりませんように・・・!



こうして、妹ならぬ恋人探しを中断した林山と義烈は怪しい少女の尾行を開始したのだった。




(こんなことしてちゃ、星影に偉そうなこと言えないな・・・。)




問題の少女を尾行しながら、自分も星影に文句を言える立場じゃないと痛感する義烈だった。









最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!



また、サブタイトルをつけるのに時間がかかってアップが遅くてしまいました・・・(大汗)

・・・すみません。


小説についてですが、話の中で出てきた「亭」とは、読み方が「てい」というのは怪しいですが・・・わかりやすく言うと、日本で言う「東屋」になります。

つまり、休憩する場所のことです。

中国をはじめとする朝鮮・ベトナムなどの東アジアでは、「亭」あるいは「亭子」と言い、庭園を造る際は一緒に建てられていた伝統的建築物です。

その歴史は古く、中国では周時代から「亭」は存在していたとされています。漢代、「亭」は見張り塔や地方政庁の建物として利用されており、数階建てが普通だったようです。ただし、一階分は壁がない場合が多く、その理由が周囲を見張りやすいようにというものだったようです。それが時代の流れと共に、庭園に配置されるのにぴったりな造りへと変化したようです。

「亭」での過ごし方として、休憩はもちろん、景色を眺めたり、季節の移りをみんなで見て楽しんでいたようです。

その造りは、見張り台の名残を残し、周囲には壁がない屋根と柱だけという開放的な造りとなっていました。

内装は、柱に詩句を、内部に彩画を装飾したそうです。

ちなみに屋根は、「宝形造」・「入母屋造」という形状があり、宝形造だと、平面が六角形、八角形、円形などの形があります。

また、庭園だけでなく、寺院や廟宇、水上にも造られました。

水の上に建てられている亭は「榭」・「水榭」と名前を変えて呼ばれています。





※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!ヘタレですみません・・・(土下座)

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