第七十九話 これがホントの、顔から火が出る
※竜門弥生は、「東京都青少年健全育成条例改正問題」に断固反対いたします。※
重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのは黄藩だった。
淀んだ空気を清浄化するように、少しだけ明るい声で茶化すように言ったのだ。
「目立つことは、宮中ではあまり良いこととは言えません。しかも、陛下に気に入られたとなれば、妬む者も多いというのに。」
「悪気があるわけではありません。それだけはお察しください。」
そんな黄藩の声にあわせて、星影を弁護したのは琥珀。
「悪気がないってねぇ・・・」
「お節介な性分が強いのですよ、安殿は。そのお節介ゆえ、周囲を巻き込んで知らないうちに迷惑行為をしているだけです。」
「そのお節介で迷惑行為をされたらたまりませんよ!」
「無自覚でしているだけで、悪気があってしているのではございません。無自覚ゆえに、すべて許して頂きたいとは申しませんが・・・そういう性格ですので、ご理解だけはしていただきとうございます。」
(お前それ・・・かばってるのか?)
ちょっと疑いたくなるような弁護に、星影の心は冷める。
そんな星影の気も知らずに、親友はスラスラとしゃべる。
「平陽公主様のことに関しましても・・・義侠心と申しますか、それゆえの暴走でしたので。」
「そんなもののために、毎回暴走されてはこっちのみが持ちませんよ!?まったく・・・私も数十年宦官をしてきましたが、こんな子は初めてですよ・・・!!」
大げさにため息をつく黄藩。そんな宦官に、高潔の武将がなだめながら言った。
「黄藩殿の気持ちはわかるが、そう怒ってやる。義侠心とは、『正義を重んじて、強い者をくじき、弱い者を助ける』ということ。なかなか誰にでも持てるものではない。」
「ですが、大将軍!」
「安林山殿の場合、悪気云々ではなく、ただ少し―――・・・・・素直すぎるだけではないのか?」
え?
(素直?)
「素直・・・でございますか?」
「そうだ。彼は、私から見ても純粋すぎる。もう少し・・・意地が悪くてもいいと思う・・・。」
(素直で純粋って・・・!?衛青将軍!!)
そんなもったいない!!私なんかに、そんなお言葉・・・・!
憧れの人物からの思いがけない言葉に、気持ちが高ぶる星影。その耳に聞き慣れた声が届く。
「大丈夫でございます、衛大将軍。」
自信たっぷりに琥珀は言った。
「ああ見えて林山は、なかなかの性悪ですから。」
(喧嘩売ってんのか琥珀ぅぅぅ!!?)
衛青将軍になに言ってんの!?
私の印象が悪くなるだろう!?
つーか、お前がさっきから言ってる言葉私の弁護じゃない!!
悪口に近いぞっ!!
友の失礼な物言いに怒る星影。だが、暴言を吐いたのは彼だけではなかった。
「おや、よくわかっているではありませんか?」
「黄藩殿。」
「初めて会った時から、どうもうんさんくさい感じがしていたのですよ。」
「と、申しますと?」
「私は今でも、あの子が厠を探しているうちに、陛下の危機に遭遇したのだとは信じていないということです。」
「まさか黄藩殿は、安殿を賊とお疑いなのですか?」
「そうではありませんが・・・なにか引っかかるのです。長年の私の感がそう言っているのです!只者ではない・・・と。」
(このジジィ・・・・!)
変なところで勘がいいじゃないか!
伊達に、長く宮中に巣くってないってか!?
「なるほど・・・それがあなたの意見ですか・・・。」
黄藩の言葉に、なにか考えるようにつぶやく皇帝の義弟。
(まずいな!)
会話のやり取りからして、衛青将軍は黄藩殿のことを信頼している。
信頼しているゆえに、やつの言葉を信じて私を疑われてはたまらないな・・・!
ズクン
心臓が、変な動き方をした。
(どうする?)
今この場で目を覚まして、会話を断ち切ってしまおうか?
それとも、しばらく様子を見た方がいいか?
これ以上、余計なことを言われてはたまらないし・・・
(厄介だな、クソッ!!)
内心で悪態をつく星影だったが、それは無用のものとなる。
「どうやら・・・二人の意見と私の意見は食い違うみたいだな。」
つぶやくような調子ではかれた言葉は、大きく星影の心に響いた。
(え?)
「衛大将軍?」
「私は、そうではないと思う。」
友や元・上司の言葉をすべて聞いた上で、大将軍はそれらを否定したのである。
「性悪ではなく・・・・少し子供なのではないか?」
(子供?)
これには、星影以外の二人も反応した。
「子供・・・で、ございますか?」
「仰る通り、私達よりも子供ではございますがー・・・」
「年齢的なことではない。」
「では、性格的なことですか?」
間髪いれずに琥珀が問えば、あぁ!と納得の声を上げながら黄藩は言った。
「それなら合点行きますね!ほっとぉ~~~~に!!お子様ですから!!ホホホ!!」
「ですから黄藩殿、本人にはその自覚がないだけです。」
「でも、お前はあの子がお子様だとわかってはいるのでしょう?王琥珀?」
「それは・・・」
「そうでなくては、『性格』と声に出さぬはず。」
「いや・・・ハハハ。これは一本とられましたね。」
「当然でしょう?ホッホッホッ!」
「アハハ」
(お~ま~え~ら~ぁ~!)
軽妙なかけあいをする友と元・上司に、ワナワナと怒りが込みあがる星影。
「まぁ・・・自分を陥れようとする相手を助けるあたり、まだあの子は甘ったるいのでしょうけどね。」
「甘いは甘いかもしれませんが、それは安殿の利点でありまして。」
「甘すぎるのですよ!馬鹿正直もいいところではありませんか?」
「仰る通り、林山殿は馬鹿正直ではあります。しかし、悪気はありません。」
「本人はそれでいいですが、周囲は大変でしょうが!・・・・正直、あなたには同情してます。ここだけの話ですが。」
「大変ですが、友ですので。ただ・・・一緒にいて生きた心地がしない・・・というのは、ここだけの話でございますが。」
「そうでしょう・・・。普通はそうですよ。」
「そうですか・・・・やはり、そう思ってしまうのは仕方ないのですか・・・。」
「馬鹿正直だけならいいんですけどね~」
「はい、馬鹿正直だけならありがたいのですが・・・。」
そう言うと、しみじみと顔をあわせてうなずく二人。
いつの間にか、意気投合していた。
(こいつらっ・・・!)
人が黙って聞いてりゃぁ、好き勝手言いやがって!
馬鹿正直で悪いか!?
えぇ、えぇ、そうだよ!その通りだよ!!
これでもけっこう、腹黒いんだぞっ!!
なんなら、お前らの言う謀略で目に物見せてやろうかっ!?
思わず、こめかみに力が入りかけたのだが、
「そういうわけではない。」
落ち着いた、安定した低い音色が部屋に響く。
「そういう意味の、子供ではないよ。」
(衛青将軍!?)
そう言った口調はどこか呆れているようだった。
「え、衛大将軍!?」
「では・・・どういう意味でございますか?」
戦歴ある男の言葉の意味を図りかねて、問いかける宦官二人。それに答えるように彼は淡々と語り始めた。
「性格といえば性格だが・・・あなた達が受けた安林山殿の印象と、私が受けた印象は違うということだ。」
「衛青大将軍は、どのように見られているのですか?」
「・・・・変な言い方になるが、『楽しそうにしているこども』だと言う印象を受けた。」
「楽しそうにしている・・・」
「『こども』!?・・・・ですか?」
「あぁ。上手く言えないのだが―――――・・・『いたずら好きなこども』だという印象です。」
(いたずら好き!?)
「いたずら好きでございますか・・・?」
「そうです。私にはあの子が、『いたずらが好きな小さなこども』に見えます。」
そう言った声は、どこか優しい音を含んでいた。
「初めて見るもの、聞くものに対して、楽しく接している。初めて出会うものすべてに喜びを覚えている。言ってしまえば、好奇心旺盛、天真爛漫だと思うのです。」
「それは――・・・少々無知ということですか?」
「・・・『天真爛漫』には、そういう意味もある。しかし私が言いたいのは、『無邪気で憎めない』ということ。」
(無邪気?憎めない?)
聞きなれない言葉に、思わず聞き入る星影。
「無邪気ゆえに、思った通りに動いてしまう。そこには悪意や欲、私利私欲というものが感じられない。あの子の行動は、自分一人だけが得をするというものではなく、皆が平等に幸せになれるようにという動きをしている。」
「皆が平等にですか・・・?」
「・・・心当たりがあるのではないか?王琥珀?」
「・・・仰るとおりです。初対面の時、安殿は私が止めるのも聞かず、苛められていた同僚を助けました。それにより、自分が標的になるとわかっていながら助けたのです。」
「楊律明と呂文京のことですね・・・!」
「しかしそれは、あなたも同じではないのか、王琥珀?」
「・・・いいえ、私はそこまでしていません。関わったのは、後になってからです。」
「それから、彼らと共にいると?」
「あなたも変わり者ですね~?なに好んで、あのような無茶苦茶な子と・・・。」
「・・・そこがわからないのです。正直に申しますと――――・・・私は損得で動く性質です。ところが、安殿と一緒にいたいと・・・頭ではなく、感情で動いてしまいました。」
「その結果、いつも三人でいると?」
「はい。」
そう返事をした琥珀は、どこか嬉しそうな声だった。
「なによりも林山・・・いえ、安殿は、自分の命を顧みずに、陛下をお助けしています。そこは、一番評価すべきだと思います。」
「それは、誰でも認めますよ。ただ・・・お助けするべき相手が陛下であれば、誰でも助けると思いますがね。」
「陛下だとわかって助けたのなら当然のことだと思います。しかし安殿は、陛下と気づかずにお助けしたのですよ?」
「・・・やはり、気づかずに助けていたのか?」
「はい・・・」
「本当に申し訳ありません!!かつての上司として、これほど無礼なことはございませんのに・・・!」
お恥ずかしい限りでございます!と言いながら、陛下の身内に謝る宦官。
「下級宦官の許された出歩く範囲から出たばかりか、下級宦官立ち入り禁止へ入り込んだ挙句―――――・・・!!」
見えなかったが、相手が頭を抱えているのがなんとなくわかった。
「私に謝らなくていいですよ。なによりも、そう気にすることはない。陛下とて、お気になさってはいませんでしたから。」
「そうでございますよ、黄藩殿。陛下もご無事だったのですから。」
「ええ!ええ!!おかげで、本来受けるはずだった罰は免れましたが、『黄藩様の部下は『迷子の英雄』』とからかわれるようになり・・・!!」
「そうなんですか?」
「そうですよっ!!『あなたも迷子になって、功名を立てられるのですか~?』などと言いやがって・・・!!」
「まぁまぁ、黄藩殿。」
「これというのも、安林山めぇ・・・!!」
かすかに聞こえてくる歯軋りと男らしい口調に、相手が怒っているのがなんとなくわかった星影。
「言うこときかねぇし、陛下に直訴に行こうとするし!」
「黄藩さ・・・いえ、黄藩殿?」
「玉も種もねぇのに、武人の情けとか言いやがるし!」
「・・・黄藩殿?」
「たくっ!あの小僧だきゃぁ・・・!!」
「「・・・黄藩殿。」」
「あぁ!?なんだって―――!!?・・・あ。」
自分より若い男達の問いかけで、元に戻る(!?)高級宦官。
「あ、あらいやだ!オホホホホ!!」
誤魔化すように、笑う相手に、武人は少し口調をやわらかくしながら言った。
「では、みなにそう言わぬように注意しておこう。黄藩殿をからかわぬように。」
「そんな!これ以上のお気遣いは無用でございますよ!!恐れ多い・・・!」
見えなかったが、相手がすごい勢いで何度も頭を下げているのはわかった。
かすかに起こる小さな風によって。
「もぉ・・・!!これ以上の恥の上塗りはようございます・・・!!」
「だからこそ、厳しく私から言っておこう。きっと、あなたを妬む心無いものがそんなことを言っているのだろうから。」
「ですが―――!」
「才あるものが花咲かせるには、その肥やしとなる土や水がしっかりしているからだ。根付くための手本となるべき土である・・・・あなたがしっかりしていたからこそ、安林山殿は開花したのだよ。」
「え、衛大将軍・・・!」
「もちろん、水である君達もだ。王琥珀、張空飛。」
「もったいない・・・お言葉でございます。」
眠っている空飛の分も込めて、丁寧な言葉で礼を述べる琥珀。
「ええ・・!ええ・・・!!身に余るお言葉でございます・・・!!」
そう言うと、ここでようやく黄藩も頭を上げる。
見えなかったが、規則的に起こっていた風がやんだので、そうなのだと思った。
「本当に・・・とんでもないあだ花のおかげで、衛大将軍にはご迷惑を――――!」
「あだ花ではない。」
「は?」
「いろいろ、苦労があったみたいだが・・・あの子は、災いの花ではないでしょう。」
「・・・では、衛青大将軍は、り・・・安殿をなんとお考えで・・・?」
「新しい花、かな。」
(新しい花・・・?)
心地のよい声から聞かされた、何度目かになるあまり聞く事のない言葉。
自分へ向けられることのない言葉。
「今咲いている花とはどこか違う、見たことのない花・・・。その花に惹かれ、それまで訪れることのなかった蝶や小鳥達がやってくる。上手く・・・言えませんけどね?」
「それはつまり・・・安殿によって、宮中に変化が起きつつあると?」
「かすかだが、良い方へと動きつつある。それが必ずしも良いことだとは言いきれないが、あの子の動きによって、宮中に変化が起きていることは確かだよ。」
(私のやったことが、良い方へ??)
そう聞いて、それまで自分がしてきたことを思い出す星影。
・・・・。
(・・・・ロクなこと、してないな。)
宮中に妹を取り返しに来てから、その目的を果たすために様々な攻防戦を繰り返しているばかりだった。
(賊と戦い、陛下から操を守り、陛下の姉と口論し、虎と戦い・・・・。)
だからだろうか。
(未だに星蓮を救いだせないのは・・・。)
ごめんね、星蓮。
姉さんが不甲斐ないばかりに、あなたを助け出せなくて・・・!!
本物の林山がいれば「不甲斐ない以前の問題だろーが!」と、言うかも知れないが。
「それは・・・私も認めますよ、衛大将軍。驃騎将軍・霍去病将軍の死後、落胆気味だった陛下が以前のように活力を戻されれたことは事実です。しかし・・・大将軍の奥方様の不況を買われたのは事実です。」
「その半面で、女官や兵は宦官である彼に良い印象を持っている。」
「・・・ええ、ありがたいことではあります。彼のおかげで、人扱いされにくい下々の宦官まで、宮中の者から優しい声をかけられるようになりましたから。」
星影の知る黄藩らしくない、ひどく優しい声が聞こえた。
その声のまま、元・上司は言葉を続けた。
「下級宦官の中には、私のような高級宦官になれば、人として扱われると勘違いしているものもいます。ですが、それは大きな間違い・・・!宦官は所詮宦官。名称や肩書きがどれほど良くなろうと、男でも女でもない中間者であることに変わりはありませんから・・・。」
「黄藩様・・・。」
「王琥珀、あなたも覚えておきなさい。宦官として今生を終えると決めたい上、人としての当たり前の喜びなど、『男』と共に失ったと思いなさい。」
「黄藩殿。」
「ここにいらっしゃる衛青大将軍のように、我らを扱ってくださる方など、いないと思いなさい。私達は、そういう世界にいるのですから・・・!」
「黄藩殿、それは――!」
「どうか『黄藩』とお呼び下さい、大将軍様!本来ならば、私達のような卑しいに敬称などつけてくださらなくてもいいのです。それを・・・!」
そこで、星影の天敵の声は詰まった。
(泣いているの・・・?)
男泣きをしている。
男のモノがないとわかっていたが、そう思わずにはいられなかった。
「やはり、安林山殿の上司ですね。」
「だ、大将軍・・・?」
「きっと、そういう優しさが似ているのですよ。あなた方は。」
「また、そのような・・・。」
(うん、そんなことないですよ・・・。)
衛青の言葉に、黄藩共々、照れくさい気分になる星影。
「・・・私も口下手だからね・・・。本当に上手くはいえないが、あの子は素直なんだと思うよ。」
恐縮しまくる相手をほぐすように、少しだけ声を高めながら大将軍は言った。
素直・・・・。
「安林山殿は、良くも悪くも素直なのだろう。総合的に見れば、よい意味での素直さが際立っている。それはきっと、あの子の人徳によるものだと思う。欲にとらわれない姿が、誰から見ても好ましく思えるのだろう。」
自分のことを言われているのだと気づいた時、相手は次の言葉を発していた。
「あるがままの姿で、素直な心を解き放っている・・・私はそう思えて仕方ないのだよ。」
(この私が・・・素直??)
今まで、好奇心旺盛だとは言われることはあったが、天真爛漫で素直なんて言われたことはない。
嫌味で、無知だという代名詞で天真爛漫だとささやいた女がいた。
後ろから蹴り飛ばしてやったら、親を引き連れて訴えてきたので、その女の秘密を暴露してやった。
それはさて置き、大将軍が語る自分という人間は、とても良い人物のように聞こえた。
「誰かの気を惹くためではなく、自然に振舞った結果、人を惹き付けてしまう。それが、安林山殿という人間でしょう・・・。」
そう言いながら、慈しむように星影の頭を衛青大将軍は撫で続けてくれた。
あたたかい。
(この方は、お言葉も、お手も、全部があたたかい・・・。)
自分の心を癒すかのような、労わるように動く手。
(本当にあたたかい・・・気持ちいいなぁ・・・!)
永遠に続いてほしかった行為だが、手の主の一言によってそれは終わりを告げた。
「とにかく・・・このままではいけない。」
(え?)
そう言うと、自分から手を離す衛青大将軍。
(あっ!・・・あ~あ・・・。)
残念・・・・。
もう少しだけ、触れてほしかった。
名残惜しさはあった。
だけど―――・・・
(残念だけど、離れてくれてよかった・・・!!)
相手の動きに、多少の安堵を覚えた星影だった
(いつまでも、そうはいかないよね?)
この動作に多少の未練はあったが、すぐに踏ん切りをつけた。
気持ちを切り替えた。
そして、次のことを考えた。
(このまま、狸ね入りを続けるか。それとも、ころあいを見計らって目を覚ますか・・・。)
早く起きるか、遅く起きるか。
全員がいるところで目を覚ますか、覚まさないかである。
そんな思案をする星影の頭上から、再び憧れの人の言葉が聞こえた。
「毒は抜けたはいいが・・・このままでは危ないな・・・。」
(危ない?・・・・私がか?)
「えぇ・・・一応、その子は狙われたわけですから。」
「あぁ・・・ならば―――――後は引き受けよう。」
(―――――え?)
途端に、体が空飛から離れ、中を浮くのがわかった。
え?
え!?
えぇ!!?
ええええぇぇぇぇええええ!?
(お、お姫様抱っこ!?)
耳に当たる分厚い胸板の感触に、星影は顔が厚くなるのを感じた。
「衛大将軍!?」
「なんと!大将軍自ら、なんと恐れ多い!!」
「・・・気にしません。それより御覧なさい・・・。いつからこの体制で寝ていたかどうかはわからないが、顔が少し赤い・・・。」
(そ、それは病気の赤ではないですぅぅぅぅ!!)
恥じらいの赤であった。
(てっ!?自分に恥らう感情があるなんて!!)
混乱する頭でそんなことを考えつつも、必死で狸寝入りを続ける星影。
憧れの人の言葉に、火を噴出しそうなくらい恥ずかしくなる。
そんな彼女の思いを代わりに解釈したのは同僚だった。
「恐れながら・・・これは風邪ではないと思われます。」
「そうなのか?」
(まさか!?起きているとバレたか・・・・!?)
背中に冷たいものが走るのと、琥珀が口を開いたのとはほぼ同時だった。
「はい。きっと、毒の副作用で発熱しているものです。」
(た、助かった・・・・!!)
彼らが自分の都合のいいように解釈してくれたことに、そっと胸を撫で下ろした。
「そうか・・・まだまだ予断は許さないか・・・。」
琥珀の言葉に納得したようにつぶやくと、星影を抱えたまま、きびすを返す大将軍。
その動きに、思わず宦官二人は待ったをかけた。
「お待ちくださいませ、大将軍!あなた様のお考えはよくわかりましたが―――――・・・!!」
「安林山をどこへ連れて行かれるのです?」
「・・・張空飛の部屋へ。」
「はっ・・・?そ、それはまた―――――なぜでございます?」
「理由はどうあれ、安林山殿が、危険な立場にあることには変わりない・・・。このまま、この者の部屋に寝かせておけば、寝首をかかれるやも知れない・・・!」
「・・・なので、安殿の寝所で眠っている張殿と入れ替わる形で張殿の寝所で休ませるということですか・・・?」
「その通りだ、王琥珀。」
「まぁ・・・そうでしたか!」
「そういうわけですので、張のことは任せたぞ、王。」
「・・・は?任せるとは――」
「もし『敵』が、こちらの予想に反し、安殿の寝所に忍び込んできた場合を考えて見なさい。そのままそこで張を寝かせておけばそうなる?」
「!?―――――かしこまりました。」
琥珀の声が、床に反響する。頭を下げながら答えたのだとわかった。
「頼みましたよ。」
低い声が耳の側でした。
声の振動が顔に伝わったようで、耳が熱くなるのが判った。
しかし、その熱さもすぐに感じなくなった。
頬に当たる冷たい風で、部屋から廊下に出たのだとわかった。
「・・・晴れたな。」
心地よい声にあわせて、体に月の光を浴びるのを星影は感じた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!
今回は、黄藩と琥珀が意気投合したようです。
琥珀はともかく、星影のおかげで何かと苦労したらしい黄藩の話を書いてみました(笑)
星影は星影で、衛青将軍に引き受けられました。
※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!ヘタレですみません・・・(土下座)
小説のストーリーとは関係ありません(!?)が、今後の更新に関係がありますので後書きでも一言。
竜門弥生は、「東京都青少年健全育成条例改正問題」に反対いたします。
「『東京都青少年健全育成条例改正問題』ってなに??」
と思われた方、詳しい詳細は下記の通りとなります。
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