第七十話 種明かし
かしずき、頭を下げる宦官。
その手には、大きな真珠のついた首輪。
そんな宦官の前には、見栄えも美しく、高貴な風貌をした女性が一人。
「紅嘉殿から真珠つきの首輪を借りれば、私の罪は不問とのことでしたね?」
穏やかな笑みを浮かべる宦官・安林山こと劉星影。
宦官の言葉に、周囲は次第にどよめきだした。
先ほどまで彼女は、人食い虎相手に格闘していた。
身軽な体と天性の武勇、彼女得意の知略(?)が功を奏し、虎がはめていた首輪を奪うことが出来た。
その報酬は、自分にかけられたいた『死罪』を『無罪』にすること。
晴れて約束を守った宦官に、普通なら非難は上がらないのだが――――――
「・・・なにをしたのじゃ・・・?」
非難というよりも、責めるような言葉がかけられた。
「なにをでございますか、平陽公主様?」
声の主は、現皇帝の姉・平陽公主だった。
虎と戦って勝った宦官に納得ができず、不平をもらし始めた。
「とぼけるでない!紅嘉に、なにか叩き付けたであろう?」
開いていた扇を閉じると、それで指差しながら言った。
「かんざしか?くしか?耳飾か?首飾りか?紅嘉の顔になにか叩きつけたのを、わらわは見ていたのだぞ!?」
「お、落ち着いてください、平陽公主様!今調べさせませるゆ――――――」
「その必要はありません。」
ねえやの言葉を遮りながら星影は言った。
「平陽公主様がご所望いたしておる品は、これです。」
そう言って、一同の前に差し出された星影の手。
「な!?」
「これは――――――!?」
宦官が見せる物体。それは、その場の全員が驚く物。
「お香です。」
匂い袋に入った香だった。
「・・・・確か。」
「お香でございますね・・・。」
香の入った袋はの口は開かれ、中には乾燥した匂いの元が顔を覗かせていた。
玲春の持っていた香は、当時としては一般的な香草を使ったお香だった。
実はこの時代、春秋戦国・秦・漢と言った古代中国の頃は、香草で出来たお香を使っていた。
木片のお香が中国に広まるきっかけとなったのは、仏教の伝来と深く関係していた。
元々お香とは、漢方の一種であり、大半は良い芳香を持つ香原料だった。
それは、薬膳を食す僧侶にとって、切っても切れない存在。
仏教の布教を通して、自然にお香も人々に伝わっていったのだ。
なので、中国に本格的に仏教が入ってきたのは南北朝・五胡十六国時代。仏教の基盤が出来た時期であり、シルクロードを通して木片のお香がインドから伝わってきたのだ。
これ以後、最も花開いたのが唐時代である。
唐時代は芳香文化が最も栄えた時期であり、高価で上品な香りは宮中などの限られた人間がつけるものだった。それゆえ、皇帝・皇后に近いものは、彼らの移り香によって、同じように良い香りがしていた。良い芳香がする=地位のある人間とされたのだった。
前漢の時代、まだ仏教の影響がそれほどなかったこともあり、使われる香は香草であった。主なものとして、中国産の『ネイティブハーブ』を使用していた。
ただし、玲春の使っていた香は、『ネイティブハーブ』ではなかった。
香草の一種、藤袴という川べりや土手などに咲いているものを香にしたものだった。
淡紫色をし、可憐さ風情のある美しい花は、桜餅のような甘い香りが特徴だった。
そのため、香草としてはもちろん、葉を湯に入れたり、衣服や髪につけたりもしていた。
ちなみに、日本にお香が伝わったのは、538年の古墳時代。
その後、中国の僧侶・鑑真によって広まっていった。
先にあげた藤袴も、日本には奈良時代に伝わって『香水欄』と命名され、日ノ本の女性達に大変愛されたのだった。
「甘い匂いじゃ・・・。」
なんともいえぬ穏かな香気に、平陽公主は少しだけ冷静さを取り戻す。
「これを・・・紅嘉に叩きつけたのか?」
「とんでもございません。かなり苛立っていたので、気を落ち着かせていただこうと、匂いを嗅いでもらっただけです。」
「ふざけるでない。何がかがせたじゃ・・・?香を鼻に叩きつけただけであろう?」
「そう見えたかもしれません。私といたしましては、飛んだり跳ねたりする紅嘉殿の動きにあわせるうちに、ついうっかり、強く押し付けてしまったかもしれません。そんな気はまったくなかったのですが・・・・。」
「なんと白々しい・・・!あの動きが、うっかりだと?」
「的確に狙って叩きつけていただけではありませんか、安林山殿!?」
「これはこれは手厳しい・・・。まぁ、あなたを傷つけたことには間違いありませんね、紅嘉殿?」
そう言うと、その頭を撫で始める宦官。
先ほどまで自分を脅していた人間の動きに、最初は警戒した紅嘉。
しかし、優しい手の動きに、その体から力が抜けていった。
安心したように、紅嘉が警戒心を解いていたのは誰の目から見ても明らかだった。
そんな星影の動きにあわせ、妖しくも、ひどく甘美な空気が辺りに漂う。
「叩きつけたのは、香だけか?」
あたりに広がり始める香りの中で、元・皇女は宦官に問う。
「お前が叩きつけたのは、本当にこの香だけか?」
「はい。それ以外、使ってはおりません。」
焦ることなく、落ち着いた口調で答える星影。
「玲春さんにお借りした香で、紅嘉殿の気持ちを落ち着かせたまでです。」
そうは言ったが、実際は落ち着かせるために使ったのではない。
動きを封じるために使ったのである。
動物の嗅覚というのは、人間よりもはるかに優れている。そのため、人間にわからない臭いでも動物にはわかってしまう。餌を隠しても見つけてしまう猫のように、飼い主を臭いで判断する犬のように、生活の中で嗅覚を頼りにしている。
そんな『におい』に敏感な鼻の側で、独特の臭いを持つもの、臭いのきついものをかがせるとどうなるだろうか?
(香を使ったのは、強い臭いをかがせることで嗅覚を使えなくするため。)
つまり―――
(獲物である自分の臭いをわからなくさせるため。)
だから、玲春が匂い袋を落とした時、閃いたのだ。
(これを使えば、虎も自分も傷つくことがない!)
策はそれでよかった。
問題は、実行に移す瞬間。
難しかったのは、香を使う時期だった。
物が物なので、投げてしまえば風で飛ぶ。
なので、香を使うためには接近するしかなかった。
乾燥した香草を掴み、片手で細かく潰す。
それを、紅嘉の鼻を狙って叩き付ける。
目に当てて眼球をつぶさないように、口に当てて腕を食いちぎられないように気をつけた。
それらのことを経て、星影の作戦は成功したのだった。
「これは、玲春さんからお借りしたもの。量が減ってしまいましたが、お返ししますね。」
そう言って、少なくなったお香を返す星影。
「お借りしたものということで扱いには気をつけたのですが、紅嘉殿を前にしたら、恐怖で手元が狂ってしまい・・・」
半分以上を使ってしまいましたと、すまなそうにわびる星影。そんな宦官の姿に、少女は大きく首を振りながら答えた。
「とんでもございません!安様がご無事なら、こんな香など惜しくありません!」
「玲春さん。」
「――――――ご無事でよかった!」
わっ!と、泣きつく女官に、困ったような笑みを浮かべる星影。
「申し訳ない。あまりにも、この香のにおいがよかったので、是非とも紅嘉殿にもかいでほしかったんですよ。」
「安様ったら、またそんなご冗談を・・・!」
「笑わせるな!」
感動的な二人のやり取りを元・皇女が遮った。
「平陽公主様?」
「笑わせるな・・・安林山。」
「何が・・・おかしいとおっしゃるのですか?」
「おかしいであろう?わらわは、紅嘉と遊べといったのだ。なぜ、周りの兵や女官達を巻き込んだ?」
そう言うと、ボロボロになった弓兵と女官達を扇で差す。
「お前が、紅嘉の上に陣取ったおかげで、わらわの侍女達は服を裂かれて大恥をかかされた。」
「平陽公主様!?」
「奥様・・・!?」
女主人の言葉に、顔を合わせる侍女達。
「弓兵達はもちろん、それを指揮する張願まで大怪我をしたのだぞ!?」
「奥方様。」
「奥様・・・。」
「平陽公主様・・・。」
兵士はもちろん、名を呼ばれた弓兵隊長は渋い顔をする。
「安林山よ、お前はやりすぎたのだ。もはや、許す許さぬの問題ではない・・・・・。お前の首は城門に乗せる。」
「ええ!?」
(嘘つきぃ!!)
助けると約束しておいてこの仕打ち。
約束違反。
あまりにも身勝手な命令に、
(やっぱり事故に見せかけて始末しておけばよかった!!)
と、思う星影。その一方で、すぐにその考えを否定した。
(いやいやいや!いくらなんでも、皇族になにかしたら、すぐに身元を調べられる。なによりも、無益なことをしないというのが私の信条!)
とりあえず、命乞いを試みる星影。
「お待ちください!それはあまりにもひどうございます!私は、あなた様のお言葉に従ったまでですよ?」
「黙れ。わらわの茶器を壊し、玲春をたぶらかし、紅嘉をいじめ、わらわに大恥をかかせたお前を生かしておけるほど、わらわは馬鹿ではない!」
「そんな!あんまりでございますわ、平陽公主様!」
「うるさいぞ、玲春!いい加減に、」
「―――――いい加減になさるのは、あなた様でございます!」
低い声が、平陽公主の声を阻む。
「張願?」
「いい加減になされませ、平陽公主様。」
平陽公主から、星影に威嚇や殺害をを命じられた弓兵の隊長・張願だった。
自分を支える部下から離れると、痛みを我慢しながら弓兵隊長は言った。
「あなた様は、ご自分の侍女達や私の部下がこんな姿になったのは、安林山殿が悪いと思っていらっしゃるのですか?」
「なんじゃと?」
「女官が服を裂かれ、兵が武器を壊され、それらが怪我を負ったのは、あなた様が安林山殿に紅嘉殿をけしかけたからではないのですか?」
「お前・・・・わらわが悪いと言いたいのか?」
「兵が怪我を負ったのは、その力が未熟だったゆえ。あなた様の侍女達が怪我をしたのも、私達の力が及ばなかったためです。」
「・・・なにが言いたい?」
「このような事態になったのは、兵としての役割を果たせなかったわが部隊の責任。ひいては、この兵を指揮する私にあります。どうか、罰を与えるとおっしゃるのなら、私にお下しください。」
「張願様!?」
「そんな、隊長!」
「張願お前・・・!」
「本気でおっしゃっているのですか!?」
武人の言葉に、一同が驚く。無論、星影もその一人だった。
「待ってください!張願様、それではあまりにも・・・!」
「君は怪我を負いながらも、平陽公主様の命に従って約束を果たした。それどころか、私の兵や女官達を守ろうとしたではないか。」
痛々しい体でそう告げる弓兵隊長。
その姿に星影の良心は痛む。
「しかも君は、平陽公主様に射殺されると聞いても、動じることなく人食い虎をなだめた。それどころか、自分を殺そうとしている相手を逃がそうとした。」
「それは――!」
相手の態度に、さらに良心が痛む星影。
(お芝居であって、本心じゃなかったし・・・。)
口ごもる宦官に、武人はハッキリと言った。
「それだけ真を尽くせる人間を、見殺しになどできない。」
「張願様・・・。」
「馬鹿馬鹿しい!だから、己一人が罰を受けると・・・?お前は、本当に救えぬ馬鹿じゃのぅ・・・!」
「なんだと!?」
思わず声を上げた星影。その声を受け、目を細めながら女主人は言った。
「なんじゃ、その口の利き方は?お前は卑しい宦官。わらわのように高貴な者とに対し、その存在自体が無礼なのだ・・・・控えぬか!!」
「な・・・!?」
なんてババアだ!!
見下してくる相手に、怒り心頭の星影。そんな彼女の前を影がよぎった。
「え?」
一人の兵が、自分に背を向けて立っていた。
(なんだこいつ?)
そう思った星影の前を、またもや影がよぎる。こちらも、張願が率いていた若い兵だった。先ほどの兵と同じように、平陽公主と星影の間に立つと動かなくなる。
「なんじゃ?」
二人の兵に向けて、元・皇女が口を開く。それに対して兵達は、代わる代わる答えた。
「兵たるものが、役目を果たせなかったのは兵自身のせいです。」
「それゆえ、張願隊長に罪はございません。罰するなら、我らを罰してください。」
「安林山殿と、私達の不始末はまったくの別物でございます。」
「どうか、その点をご考慮ください。」
「・・・・・なに?」
「お前達!?何を言っておる!?」
自分達の隊長の問いに、彼らは力強い声で言った。
「張願様同様、安林山殿に罪はないと申しているのです。」
「隊長一人に責任を負わせるなど、俺達にはできません。」
「なんですと!?」
あまりのことに、声を上げる女主人のねえや。そして、兵士二人を指差しながら言った。
「正気とは思えぬ!そんなことをすれば、お前達の首は落ちるのですよ!?」
「私達の隊長は馬鹿と評されたのです。ならば、その部下が馬鹿であるのは当然です。」
「俺達も、張願様と同じです。最後まで、尊敬する隊長にお供するまでです。」
若い兵の言葉に、女官達からざわめきが起こる。残りの兵達は何も言わずに見守っていた。
「面白い。では、望みどおり処罰しよう。」
「平陽公主様!?」
兵達の覚悟の言葉を受け、事務的に言う平陽公主。
(冗談じゃない!)
このままでは、自分のせいでとばっちりを受けた三人の人間が死んでしまう。
(私は星蓮を助けに来たのであって、他人を冥土に送るために来たんじゃない!)
そう思った時、彼女の口は動いていた。
「これ以上はおやめください、平陽公主様!気に入らないのは私だけでしょう!?」
「安様!?」
「この方達こそ、あなた様の命令で動いただけではないですか!?それに、そう命じるきっかけを作ったのは私です!私だけ罰すればいいじゃないですか!?」
「では、なぜ命乞いをする?」
「あなた様のおっしゃることがコロコロ変わるからです!」
「ほぉ・・・わらわが悪いというのか?」
「だから、そう言うわけではなく――――」
「もうよい!!」
星影の言葉に応じることなく、彼女は言い放った。
「先にこの三人を射殺せ。」
「えぇ!?」
「なぜです、平陽公主様!?」
気に入りの少女の言葉に、彼女は笑みを浮かべて答える。
「不越罪じゃ。のぅ、瞭華?」
「・・・間違いございません。」
「だからって、あなたを守った人達を殺せと!?」
「お前が悪い。」
間髪いれずに言う女主人。星影だけを睨み付けると、真顔で彼女は言った。
「お前が逆らったからこうなったのだ。」
「そんな・・・無茶苦茶ですよ!」
「その態度が悪い!さぁ、者ども遠慮はいらん。こやつ等を殺した者を次の弓兵隊長にしてやろう。」
「ちょっと!?」
「一兵卒から昇進できるのだ。戦では千の首を取らねばかなわぬことを、三つ取ればかなうのじゃ。簡単であろう?」
全体に聞こえるような声で問いかける女主人。
それにざわめき立つ兵士達。
「さあ、安林山の目の前で、無礼者を射殺してしまえ!」
その言葉で、場の戦局は動いた。
それまで、様子を静観していた他の兵達が動き出したのだ。
「なっ!?」
我先にと動き出す千の兵。彼らの動きに、星影は衝撃を受けた。
「下がれ!」
「え!?」
「いいから、下がれ!」
「下がれって・・・?」
「宦官殿を守れ!」
「見殺しにはさせないぞ!」
そう言うと、星影を庇うように前に立つ兵達。
「張願様を守れ!」
「宦官を守れ!我等の隊長を守れ!」
「隊長や仲間を殺すというなら、我らも殺せ!」
「お前達、なにを―――――!?」
「ここには、隊長と宦官殿を殺す兵はいないと言うことでございます!」
負傷した上司の体を支えながら、部下達は言った。
兵の半分は星影の側へ、残り半分は張願を守るために動いた。
そして、平陽公主に立ちはだかったのである。
「なんということを―――――!?」
これには、女官頭の馬瞭華は声をふるわせながら叫んだ。
「平陽公主様に対して何たる無礼!!こんなことが許されるはずがありません!」
そう言うと、側にいた女官達に向かっていった。
「お前達、他の者を連れてきなさい!このような輩、一刻も早く処刑しなくては!」
上司の言葉に互いに顔を見合わせる女性達。
「さぁ、早くお行き!早く!」
しかし、誰もその言葉に動こうとしない。互いの顔を見るばかりだった。
「なにをグズグズしているの!?さっさとお行き!!」
「・・・行けません。」
ふいに、一人の女官がポツリとつぶやく。
「先ほど・・・紅嘉殿に襲われた際、足をくじいてしまいました・・・・。歩けません。」
「なら、お前には頼まぬ!そこのお前!行っておいで!」
怒鳴りながら言うねえやに、指名された女官は小さく答えた。
「・・・私も行けません。紅嘉殿に、服を裂かれてしまい、動けば脱げてしまいます。」
「もういい!それならば、お前はどうだ!?」
その隣にいた女官に問えば、こちらも同じように告げる。
「私は・・・紅嘉殿の前足のつめを受けました。立っているだけで、精一杯です。」
「じゃあ、お前は!?」
「足を叩かれました。痛くて動けません。」
「お前は!?」
「私も、動けば服が脱げます。」
「私は太ももを引っかかれました。」
「私なんて、血が止まらず、死にそうに痛いです。」
「私も行けません。動けません。」
「私も血が止まりません。痛みが増してきました。」
「怪我が痛くて行けません。」
「服がひどくて動けません。」
どの女官達も口々にそういって動こうとしない。
それは、ねえやだけでなく、元・皇女さえも苛立たせた。
「そんなに行きたくないか・・・!?」
冷たく怒りを含んだ声で問えば、女達は視線を下へと向ける。
しかしどの顔にも、はっきりとした不満が表れていた。
“ご自分は、お怪我がなかったからいいようなものを・・・。”
“私達が襲われたことを、怒っているという態度をとってはいるけど・・・・”
“心から私達を思っておっしゃった言葉じゃない。”
“安林山様が、賭けに勝ったことが気に入らないからそう言ってるだけ!”
“奥様は、私達が虎に襲われている時、なにもおっしゃってはくれなかった・・・!”
“それどころか、体を張ってお守りした張願様まで殺そうとするなんて・・・!”
“下手をすれば、私達でさえ、殺してしまうおつもりよ・・・”
“きっと、私達のことも、張願様達弓兵のことも、平陽公主様にとってはどうでもいいのね・・・”
“その証拠に、こうして場が収まっても、労りの言葉一つかけては下さらない・・・!”
“私達の主人は、私達の命がどうなろうと、なんとも思っていないのだわ――――――!!”
彼女達の表情からは、怒り、悲しみ、戸惑い、苦痛、不安、不信感といった不の感情がにじみ出ていた。
(・・・・そういうことか。)
そんな兵や女官達の反旗を見ながら、星影は気づいた。
(彼らを動かしていたのは、理不尽と言う心か・・・・。)
芝居とは言え、自分は彼らを気遣う言葉を発した。
しかし、主人である彼女は、それらの言葉を一切口にしなかった。
それどころか、その原因がすべて安林山にあるかのように語った。
ことの成り行きを見ていた一同は、そんな平陽公主のやり方に不満を持ったのだ。
それが結果的に、安林山を庇うと言う共通の行動を起こさせたのであった。
「信じられない!平陽公主様のありがたみを忘れるなんて!!」
「・・・・この恩知らず共めっ・・・・!」
そうつぶやくと、人を呼ぶために女主人は声を出した。
「誰か!誰かおらぬか!?誰か誰でもいい!今すぐこの場にいるこの恥さらしを、安林山を殺し――――――!!」
「安林山殿を殺してはなりません!!」
平陽公主の甲高い声と、低い声が重なる。
「え!?」
聞き覚えのある声。
(この声は、まさか――――――――――!?)
まさか、まさか、まさか――――――!?
「あ!?」
声の先にいたのは、マントを翻し、屈強な兵を従えた男。
(――――――――衛青将軍!?)
星影の憧れる、大将軍・衛青だった。
※最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・・!!
星影が紅嘉に使った武器は、お香でした(笑)
動物は、鼻がよくきくと言うので独特のにおいのあるお香を使いました。
また、動物は人間よりもよく鼻がきく分、臭いを強く感じやすいのです。
なので、鼻を鈍らせて動きを封じました。
ラストに衛青将軍が登場です。
本文とは関係ありませんが、去年の今日(8月8日)に小説をアップしていたことに気づきびっくりです。あまりの更新の遅さに(大汗)
※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!
ヘタレですみません・・・(土下座)