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第六十八話 猫と遊べば(中編)


驚く周囲を尻目に、星影は左手で自分の目の前に見える虎の首輪の上の部分をつかむ。

そして陽気な声を出しながら言った。


「こ〜う〜か〜ど〜の!」

「ガァア!」


力強く引っ張ったため、紅嘉がうめく。


「よ〜しよし!はじめましてぇ〜私は、安林山と申しま〜す!」

「グゥウ!ガゥウ!」


うめき声を無視して、利き手で紅嘉の顎の下の喉を締め上げた。


「ガァ!?」

「大丈夫、だいじょーぶ!怖くな〜い、怖くない!」

「グアァ!ガァ!!」


首の上下を押さえ込まれ、絞められたことで苦しむ巨大な猫。

星影をふりほどこうともがくが無駄だった。

彼女は紅嘉に乗った際、しっかりと両足の腿で紅嘉の腹を締め付けていたのである。


(なるほど・・・!馬にまたがる要領で、虎も(ぎょう)すればいいのか。)


紅嘉に、虎に乗るコツはつかめた。

あとは真珠の首輪をはずして、それを平陽公主に渡せばいいが・・・。



(・・・まずいだろうな。このまま簡単に渡すのは。)



ただでさえ、『賊を倒して陛下を救った武道派宦官』と言われているのである。

ここで、宮中の兵士達のいる前で簡単に首輪を奪っては怪しまれる。

一応自分は、『手傷を負って戦っている』という設定になっている。

後々のことを考えれば、手こずっている姿を見せておいた方が良い。

宦官らしく、非力的なところを見せておきたいが。


(それじゃあ、あの女に天誅できない。)


今までの、数々の対応を考えれば、はらわたが煮え繰り返る。

早い話が、人食い虎を自分にけしかけた相手への怒りが収まっていなかった。

仕方ない、ちょっと芝居を打つか。


(・・・・・・・殺さない程度に。)


腹黒く心の中で笑うと、紅嘉の上で行動を開始した。




「心配しなくて大丈夫ですよ、紅嘉殿〜?だから、そんなに暴―――――ウッ!?」





紅嘉が大きく上体をそらしたその時。

星影は、紅嘉の顎の下の喉にあった利き手を放す。

そして、その手で自分の腹を押さえながらうめいた。


「ぐぅ・・・!うぅ!!」

「安様!?」


異変に気づいたのは玲春だけではなかった。周りの兵達も眼の色を変えた。


「安様ぁ!?どうなさったのです!!」

「いかん!行くな!!」


駆け寄ろうとする少女を弓兵隊長が制した。それと同時に大声で叫んだ。


「第一部隊!平陽公主様を安全な場所へ避難させよ!第二部隊は女官達を!第三・第四部隊前方へ!!他の部隊は後方で待機!!」

「え!?ど、」


どういうことですか!?という玲春の問いかけが終わらぬうちに、紅嘉の雄たけびがこだまする。


「あ!?」


見れば、紅嘉がこちらに向って突進してきていた。

その上にまたがる宦官は、虎にしがみついたまま、ピクリとも動かない。


「安様!?」

「どうやら賊と戦った際、怪我を負っていたみたいだな!その傷が―――――痛み出したのか・・・!?」

「傷!?では、まさか・・・!?まだ怪我が癒えていないと――――!?」

「第三・第四部隊前列!構え!」


玲春の問いに微かに頷くと、部下に号令をかける弓兵隊長。


「何をなさるつもりですか!?」

「虎を、紅嘉殿を大人しくさせる!このままでは、あの宦官が死ぬからな。」

「お助けいただけるのですね!?」

「当然だ!」


尋ねてきた女官にそう答えると、彼は厳しい表情で口を開いた。

宦官を、星影を助けるために。



「威嚇用の弓を放――――――」


「放つな!!」



武人の命令を遮る声。


「弓を放ってはならぬ!」


救助活動を停止させた言葉。他ならぬ、虎との遊びを命じた本人。


「平陽公主様!?」

「紅嘉が怪我でもしたらどうするのだ!?弓を使わずに生け捕れ!」


そう言うと、兵達に混じっていた虎の世話係をにらみつけた。


「紅嘉を落ち着かせろ。」

「お、恐れながら――――それは難しゅうございます・・・!」

「なんじゃと?」

「紅嘉一人なら、すぐにでもなだめられますが、上に人が乗っているのです!あの人に降りていただかないことには・・・!」

「そんな!それでも虎のことを知り尽くした虎のお世話掛なのですか!?」

「虎の世話係でも、こんなのは初めてですよ!私だって、虎またがる人間を見るのは初めてなのですよ!?」

「そ、それはそうですが―――では、安様はどうなるのですか!?なにか方法はないのですか!?」

「いや・・・助ける方法が、ないわけではないんです。」

「あるんですか!?」


詰め寄る玲春に、虎の世話係りはうなずきながら答えた。


「餌を与えるのです。」

「餌・・・食事ですか?」

「はい。鹿肉でも、猪でも、熊でもウサギでもかまいません。紅嘉が食事に夢中になっている間に、あの宦官様を救えばいいのです。」

「よかった!それでは、急いで――――――」

「安林山を射落とせ。」

「平陽公主様!?」


肉を取りにいこうとした虎の世話係と女官は、その言葉で動けなくなった。


「い、今なんと・・・?」

「鹿肉も、猪肉も、熊肉も、ウサギ肉も、鳥の肉も・・・・取りに行かなくてよい。」

「で、ですが!そうやって気を引かねば、安様は―――」

「紅嘉に乗ったあいつが悪い。弓兵隊長、構わぬから射殺してしまえ!」

「ですから、ご冗談はおやめください、平陽公主様!」

「冗談はお前の方じゃ、玲春。単純に考えても、安林山一人が死ねば、この場は丸く収まるだろう?」

「・・・・本気で仰ってるのですか・・・!?」


信じられないという目で、主を見つめる少女。

それに答えるように、元・皇女は冷たく言い放った。


「宦官など宮中の奴隷。人の数には入らぬ。」

「平陽・・・公主様・・・・!?」

「あ、あの!無理にお命を奪わなくても、鹿肉か何かを放り投げれば、本当にすぐに大人しくなりますが―――――」


見かねた虎の世話係がそう言ったが、皇帝の姉はそれを鼻で笑った。


「お前、わらわの話を聞いていなかったのか?」

「え?あ、いえ・・。」

「わらわは、紅嘉だけが助かればよい。お前とて、手塩をかけて育てた紅嘉が、怪我でもしたら悲しいだろう・・・?」

「は、はい・・・それは・・・。」

「そんな!」

「うるさいぞ、玲春。冷静に考えてごらん。肉を取りに行かせている間に、ここの人間が先に食い殺されるわ。それならば、この場で肉を作った方が早いであろう。」


そう言った時だった。近くで紅嘉のほえる声。見れば目の前まで来ていた。


「弓兵、早く放て!」

「やめてぇ!殺さないで!!」

「弓兵隊長、いや、張願。なにをしている!早くおやり。」


弓兵隊長の名を口にしながら、平陽公主は催促する。それに玲春一人だけが反対した。


「おやめください、平陽公主様!弓兵隊長様も、安様を殺さないで!」

「むっ・・・。」

「安様は、命じられてしているだけです!それなのに、これはあまりの仕打ちでございます!」

「それは――――――」

「いい加減にせぬか!」

「平陽公主様!?」

「奥方様・・・。」

「一人殺すのをためらって、それ以上のものが死んでもよいのか!?」

「いえ・・・。」

「弓兵が戦うのは、敵の攻撃をそぎ、味方を守るためだ。お前は、それすらできぬのか?」

「なにを(おお)せられます!?」

「ならば雑念を捨てよ、張願!」


懇願する少女の言葉に、迷っていた武人。

だが、平陽公主の強い言葉で司令官の迷いは消えた。



「宦官に向けて・・・・構え!!」



ためらいがちの命令に、いっせいに弦の引く音。


「やめてっ!!」


駆け寄ろうとする玲春を、弓兵隊長が引き止めながら言った。





「放て――――――――――!!」


「やめてぇ――――――――――!!」




少女の叫びと弦がはじかれる音。


「安様ぁぁ!!」


その直後、異変が起きた。


「あ!?」

「な、なに!?」


兵達の定めていた焦点が消えたのだ。

否、狙っていた宦官ごと、虎が視界から消えたのである。

矢は、標的のない場所に落ちていく。

これには、兵や女官達も驚き、周囲を見渡したのだが―――――――





「みんな逃げろ―――――――――――――――!!」


「グォォアアァ―――――――――――!!」





聞き覚えのある苦しげな声。

滅多に聞くことのないうなり声。

それらを聞いた瞬間、全員に衝撃が走る。

声の発せられた方向。



「逃げて、くれ・・・・!!」



天を仰いで愕然(がくぜん)とした。



「きゃあぁぁ!?」

「う、上!?」

「と、虎が上から降ってきたぁ――――――!?」

「ガァァア!!」


怒り狂った紅嘉が、人々の集まった中心へと落下してきた。


「こ、紅嘉!?」

「平陽公主様!」

「危ない!!」


捕まえていた玲春を安全な方へ突き飛ばす。そして、固まる元・皇女とそのねえやを素早く抱えると、間一髪でその牙から救い出す張願。

しくじった虎は、標的を周りにいた兵や女官達へと切り替えた。


「グオァァア!!」

「きゃああ!!」

「た、助けてくれ!」

「ガァァァ!!」

「こ、殺されるぅ!!」

「食べないでぇ!!」


庭は大パニックと化した。

紅嘉は、近くにいた人間を手当たり次第襲い始めたのだ。

強靭(きょうじん)な歯で弓兵の武器を砕き、鎧を壊す。

女官の服の袖や裾を引き裂き、束ねられている髪に食いつく。


「ガゥゥウ!!」

「うわぁああ!?ゆ、弓が!?」

「矢束もやられたぞ!!」

「どいて!早く逃げなきゃ!」

「うるさいわね!私が先よ!」

「よせ!固まって逃げるな!散らばれ!」

「おい、そっちに逃げるな!こっちへ――――ぎゃぁぁ!!」

「ガァルゥウア!!」


我先にと逃げ出す女官。逃げる順番を争うものだから、さらに事態を悪くしていた。

それを守ろうと奮闘する兵達にしても、隊を乱されてしまい、うまく戦えない。

なによりも、頼りである武器を壊され、思うように太刀打ちできない。

次第に、兵達も逃げ腰になっていった。


「わぁぁあ!もうだめだ!」

「俺達も食われる!」

「ひぃ〜!わ、私の服が!?」

「いやぁ!こんなところで死にたくない!」

「落ち着け!落ち着くんだ!」


第一部隊に平陽公主達を守らせながら、必死で指揮を取る弓兵隊長。


「冷静さを失えば、そこで終わりだ!皆、落ち着いて行動するんだ!」


混乱する者達をなだめようと声を張り上げる。そして、部下へ指示を出した。


「第五、第六部隊!代わりに前へ!前に出て遠巻きに虎を包囲しろ!」

「は・・・ははっ!!」

「その間に、第三・第四部隊!隊を立て直せ!他の部隊は、退路を確保して女官達を非難させろ!」

「は、ははっ!!」


そう命じ、答えるものの、一度バラバラになってしまったものを元に戻すのは難しい。


「押すな!押すなって!」

「通してくれ!前に行かないと―――」

「俺は下がりたいんだよ!」

「よせ!これ以上前に行ったら虎が―――――!!」

「グォォオ!!」


「「「ぎゃぁああ!!」」」


まとまったと思えば、散らばってしまう兵達。

そんな彼らを横目で見ながら、虎の上の宦官は苦しそうに叫ぶ。


「や、やめろっ!紅嘉、殿・・・!!」


虎の上で、必死になだめようとする姿。


「頼むから大人しくしてくれ!他の人を襲わないでくれ!!」


その姿に、弓兵隊長は作戦を変えた。


「宦官殿!抑えられるか!?」

「も、申し訳ありません!腹に力はいらなくて・・・!」

「安様!賊との傷が癒えていないのですね!?」

「すまない・・・玲春殿・・・!」


そう言って顔をゆがめると、虎の動きがいっそう激しくなった。

自分の上に乗った宦官を揺さぶりながら暴れる紅嘉。

前足を交互に繰り出しながら、怒りの声を上げる。


「ガァルゥル!!」

「うわぁぁ!」

「ダメだ!前方が蹴散らされたぞ!」

「矢はもうないのか!?」

「矢どころか、弦すらないんだぞ!?」

「きゃぁあ―――――!!こ、こっちに来たわ!」

「助けて!死にたくない!」


逃げ惑う者達へ容赦なく攻撃する大きな猫。

それを押さえ込もうとする宦官。

しかしその動きは、周りから見てもぎこちなかった。


「安様ぁ!!」

「くそ!賊にやられた傷が・・・!」

「わかっている!とりあえず、虎から降りろ!」

「そうでございます、安様!そうしないと、安様を射殺すおつもりです!平陽公主様は!!」

「なに!?」


玲春の言葉に、星影の目がかっと見開く。

そんな宦官の姿に誰もが、怒りを(あらわ)にすると思っていた。

ところが、その口から出たのは周囲の予想に反するものだった。


「そんなことはどうでもいい!ご無事なのか!?平陽公主様は!?」

「安様!?」

「そ・・・『そんなこと』だと!?」

「紅嘉殿は、私がなんとか・・・抑える!だから早く避難させてくれっ!」

「宦官ど・・・!?」

「弓兵隊長!こうなっては仕方ありません!私にかまわず攻撃してください!!」

「安様!?なんてことを――――!?」

「わ、私一人の犠牲で、紅嘉が皆さんを襲わなくなるなら、その方がいい・・・・!!」


その星影の言葉で、張願の表情が変わる。


「平陽公主様を、陛下の姉君を安全な場所へ逃がしてください!!他の方達もです!できるだけ私から―――――私達から離れてください!絶対に、怪我をさせませんから!」

「安様・・・!」

「ちょっと、聞いた!?」

「自分を殺せという人物を、守ろうとするなんて・・・!?」

「大した宦官だな・・・!」

「なかなか骨があるぞ。」

「本当に・・・宦官にしては人が好すぎるわ・・・!」

「でも、陛下が気に入るわけだわ・・・。」


健気な姿に、逃げ惑う人々は感動していた。


「平陽公主様・・・。」

「・・・ふん。」


それに反して、皇帝の姉への視線は冷たくなる。

そんな視線に気づき、ねえやが恐る恐る声をかけると、本人は不機嫌そうに彼らを睨み返した。

目だけの威圧に、すぐに彼らはそれをやめたが、全員は見るのをやめただけ。


「なんてお方だ・・・。」

「私達がこんな目にあってるのに・・・。」

「・・・自分のことばかり。」

「それに比べて・・・あの宦官は・・・。」


怪我を負いながら、周囲を気遣う姿。

それは【善良な宦官】として振舞っていたのだが、それはあくまで建前である。


実際は・・・・



(このババァ!やっぱり計画的に殺すつもりだったのか・・・!!)



本心はだいぶ違うことを考えていた。

距離があったとはいえ、平陽公主と玲春達とのやり取りは、星影の耳にも届いていた。

あれだけ大声で話していれば自然と聞こえる。

多少、聞き取りづらいところもあったが、唇を読むことができたので会話は理解できた。


(即席・出来立ての肉を作れとは―――――――――――とんでもない皇族だな・・・!)


客観的に考えれば、平陽公主の発言は()にかなっていた。

時間短縮・被害縮小を考えれば、自分を射殺した方が都合もいい。

だが、周りはそれでいいかもしれないが、生贄にされるこっちはたまったものではない。


(大体、虎の餌に人間がはいってるのがおかしいじゃないか!?)


そもそも、この紅嘉なる虎は「人間を食べさせない」という条件の下に、平陽公主の夫が助けたのだ。

約束違反もいいところである。


(それにいくら罪人とはいえ、虎に人間を食わせるとはどういうつもりだ!?昔から、虎に食われた人間は、その魂が虎の奴隷となって、身代わりの人間を差し出すまでこき使われるんだぞ!?そんなことも知らないのか!?)


昔からの言い伝えを思い出しながら、さらに苛立つ星影。

自分は、虎の餌になるために宮中に来たのではない。

入れ替わって宦官になったわけではない。

妹を助けるために乗り込んできたのだ。


(星蓮と再会すらしないうちに、虎に食われてたまるか!!)


それを虎の食料にされるなど、笑い話もいいところである。

おまけに、【罪人】の烙印まで押されて差し出されるのだから、平陽公主の対応は自分を馬鹿にしているとしか思えなかった。

こんなところで、それもこんな女のために、死ぬつもりなど毛頭もなかった。


「なんとか紅嘉殿は、私が大人しくさせます!その間に、皆さん遠くへお逃げください!女官の皆さんはもちろん、平陽公主様を・・・!」


苦悶の表情で、暴れる虎にしがみつきながら叫んだ。

平陽公主を気遣う言葉を発してはいたが、これもほとんど芝居である。

紅嘉を大人しくさせようと思えば、大人しくさせることはできる。

虎への力加減はできるし、怪我をさせるようなヘマはしない。

だが、それでは星影の気がすまない。

約束を破られたことや、玲春への不適切な発言に対して平陽公主への不満があった。

怒りがあった。

緊迫した状況、現実味を出すために、星影は兵や女官の衣服は破かせたりした。


「きゃあ!?買ったばかりの服が―――!」

「うわぁあ!?鎧が!」

「服ごと鎧も喰いちぎられた!!」

「やめろっ!やめるんだ、紅嘉殿!女官の方々や兵の皆さんを襲わないでくれっ・・・!!」


逃げ惑う女官や必死に虎に立ち向かう兵達には悪かったが、紅嘉をおとなしくさせるつもりはない。

皇族ともなれば、それより上の身分は皇帝しかいない。

しかし皇帝は、彼女の弟である。

弟が姉を叱るなど、道徳的に考えてもあまりないだろう。

彼らの父母は生きていない。

間違ったことをしていても怒る相手はいないのだ。

約束を破られたことも許せない。

でもそれ以上に、人間を生餌として虎に与える元・皇女の感覚が許せなかった。

だから他の者達に悪いと思いつつも、抗議の意味も込めて芝居を続けた。


(これは天罰だ!己の所業が、どういった悲劇を招くのか・・・その身をもって思い知れ!!)




「お前死にたいの!!?」


本物の林山がこの場にいれば、本気で殴りながら注意するだろう。

それだけ、死罪に相当するだけの無礼を星影はこっそりと働いていたのである。


「やめろ――――――!紅嘉ど、のぉ・・・・!!」


必死で紅嘉を抑えながら、制止の声を上げ続ける宦官。

熱のこもった演技で、周囲を見事にだましていた。

だれも、わざと襲わせているとは思っていない。

逃げ惑うもの達の間をすり抜けながら、目標へと着実にコマを進める。


「ぐわぁあ!!」

「ぎゃ!」

「な、なにをしているのです!平陽公主様をお守りしなさい!」

「わかっておりま―――うわぁあ!!」


気高い熟女を守る壁をつき壊しながら進む。

もちろん演技も忘れなかった。


「やめ―――――!うっ!?・・・・うぅぅ・・・!!」


――――虎を押さえ込もうとしつつも、傷の痛みで思うように動けない宦官――――


それが周りから見たの宦官の姿。

しかし実際は、わざと元・皇女に向かって虎をけしかけた。


「やめ・・・ろぉ・・・!!」


と言いつつも、虎の腹に当てている足をそっと押し付ける。


「グォォァアア!!」


ジワリジワリと押し付け、痛みを与えていくものだから紅嘉はたまったものではない。

ひどく暴れ、兵はなぎ倒し、蹴り倒して大暴れする。


「グハ!」

「ガハッ・・・!」

「うわぁぁ!!」

「ガァルルル!!」

「落ち着け!頼むから暴れないでくれぇぇぇ!!」


そう言いながら、押さえている両足をグリグリとねじりながら押し付ける。

わざと、紅嘉が暴れるような行為をする。


「お早く、お早くお逃げください!平陽公主様ぁぁぁ!!」


それでいて、平陽公主を心配する言葉を発しながら、見事にそう思わせるだけの白熱した演技をした。


「グァオオ!!」

「ひぃい!平・・・お、お嬢様!!」

「落ち着け、瞭華・・・・!」


目標までは数メートル。

平陽公主と、その横に馬瞭華。

その前には、弓兵隊長と数人の部下。

彼らの数メートル横に、投げ出された玲春がいた。

星影が、それぞれの大体内地を確認した頃、彼女を乗せた大きな虎は飼い主の目前へと到着していた。


「紅嘉・・・」

「お、おやめなさい!紅嘉!!」


他の者には手を出さない。

飛びつくのは、元・皇女とそのねえや。

顔色を変える主従の姿に、心の中で星影は微笑んだ。

その心境は、悪戯を始める子供のような感覚だった。


(心配無用。脅かし程度に、服を少しだけ破かせていただだくだけですから。)


嘘つきの代償として、ちょっと露な姿になってもらいますよ。


(まぁ・・・熟女が『あはぁ〜んな姿』になっても、誰も喜ばないけどね〜)


紅嘉に抱きついたまま、その腹を瞬時に押す星影。

それを合図に紅嘉は、星影の目論見通り平陽公主へと向かった。


※最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・・!!


星影VS紅嘉(虎)の対決編の中編です。

我が道を行くのが星影です。

とりあえず、女らしく、女同士の喧嘩です。


余談ですが、たくさんのご感想をありがとうございました(嬉々)!!

これからも頑張って、読んだ人が楽しめる話を目指します!!


※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!ヘタレですみません・・・(土下座)


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