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第六十二話 人間、思い切りが大事。

新年明けましておめでとうございます。

86日にわたる長期連載停止をしてしまい、申し訳ありません・・・(大汗)!!

今年も、『破天荒列伝』をよろしくお願いいたします(土下座)!!

少女が星影に見惚れる一方で、平陽公主は馬瞭華に問うていた。


「それで瞭華、どこから安林山を連れてきたのだ?」

「私ではなく、玲春でございます。」

「玲春が?」


平陽公主の美しい眉が釣り上がる。


「どういうことじゃ、玲春?」

「あの、それは――――」

「まさか、お前、安林山の恋人になったのか!?」

「違います!私と玲春さんは恋人じゃありません!」


玲春の代わりに星影が答える。


「陛下を助けたという点のみは、仰る通りの安林山です!」


弁護と共に、誤解を解きにかかる星影。


「霍去病将軍の生まれ変わりとか、陛下好みに生まれ変わってきたとか、賊を惨殺したとか、素手で人の皮をはぐとか、虎を倒すとか、そんなこと出来ませんから!それらは間違いです!!」

「では、お主と玲春の関係はなんじゃ?」


宦官の言葉を受け、(いぶか)しそうに女主は聞く。


「それはこちらでございます。」


そう言って、馬瞭華が先ほどの破片を見せる。

彼女のこの行動により、話は元へ、緊迫した空気へと戻る。


「・・・・・・・・瞭華。」

「はい。」

「・・・・・認めたくはないが、これは・・・・。」

「はい。平陽公主様が大事にしていた器物(きぶつ)でございます。」

「これが・・・わらわの茶器か・・・・?」


問うというよりも、呟くように声を漏らす女主。


「はい。そして、こちらの茶器が・・・器物が壊れていた現場に、玲春と一緒にいたのが安林山殿です。」

「なんじゃと・・・?」

「安林山殿が申すには、茶器を割ったのは自分だというのです。」



「なんじゃと!?」


「違います!」



平陽公主の叫びを、違うという叫びが遮った。


「玲春?」

「違います!平陽公主様!茶器を割ったのは、私でございます!」


瞭華の言葉を否定する玲春。


「前を見ずに、ボーと歩いていた私が悪いのです!私がよけていれば、茶器は割れませんでした!私に責任がございます!」

「なにを言うんだ、玲春さん!」


(この期に及んで、私を庇おうというのか!?)


相手の優しさに、嬉しさはよりも、苛立ちのようなものを覚える星影。

その苛立ちを言葉にすれば、少女は大きな声で言った。


「事実でございます、安様・・・!私に非があったのです。もうこれ以上、なにもおっしゃらないでくださいませ・・・!」

「馬鹿言うんじゃない!平陽公主様の茶器を壊したのは私だよ!廊下を走った挙句、君はぶつかった私が悪い!体格から考えても、大柄な私が悪いに決まっているだろう!?そうですよね、平陽公主様!?」

「なっ・・・・!?」

「いいえ!茶器をしっかりと守らなかった私が悪いのです!前を、前を見ていなかった私が悪い・・・・そうでございますよね、平陽公主様!?」

「・・・それは・・・」

「それが違うんだよ!仮にそうだとしても、君に責任はないよ!悪いのは、ぶつかってきた私なんだから!そうでしょう、平陽公主様!?」

「う・・・うむ・・・?」

「いいえ!私が悪いのです!そうでございましょう、平陽公主様!?」

「こ、これ、少し落ちつ――――」

「違う!悪いのは私だ!玲春さんは無実ですよね、平陽公主様!?」

「安様が無実なのです、平陽公主様!非があるのは私のみでございます!」

「いや、私だ!平陽公主様!」

「私です!平陽公主様!」

「私だって!」


こうして、第三次庇いあい戦をはじめる二人。

普通では、宮中という場所ではありえない争い。

しかも間に、元・皇女を挟んで繰り広げる戦い。

若い二人に問いただされ、困惑気味に高級宦官とお気に入りの女官を見比べる平陽公主。

はっきりと答えない彼女を追い詰めるように、次第ににじり寄って来る星影と玲春。


「どっちらでございますか!?」

「どっちが悪いと判断されますか、平陽公主様!?」


今まで、いろいろな裁きをしてきたであろう元・皇女。

だが、どちらが悪いか決めてくれなど言う仲裁を受けたことはないはず。

答えに困る中年女性の前で、庇いあいは最高潮を向かえる。





「しつこいな!」


「それはあなた様です!」





「「だから悪いのは――――――――――!!」」
















「庇いあいは、おやめなさ――――――――――いっ!!」











声と共に、体が後ろに下がる感覚を覚える星影。

見れば、自分と玲春の首根っこを瞭華がつかんでいた。



「なんですか!平陽公主様の御前で、無礼ですぞ!?」



見かねた瞭華が助けに入る。


「平陽公主様を御覧なさい!あまりのことに、大変お困りではありませんか!?」


老女の言葉どおり、呆気にとられる女主人がいた。

その姿を目にし、恥ずかしそうに下を向く玲春。

対する星影は――――――――――


「困っているのではなくて、悩んでらっしゃるだけだと思います。どちらが悪いのかで。」

「屁理屈は結構です!」


子供じみた発言をしたのだった。


「なんなんですか、あなたは!?なんて無礼でむちゃくちゃなんですか!?」

「安林山ですから。」

「意味がわかりませんよ!『劉陽』のように、男色の代名詞にでもなりたいのですか!?」

「いや〜私、男色とかの趣味はないんで。」


笑顔で手を振りながら、瞭華の意見を否定する星影。


「なんですか!?その言い草は!本当になんて無―――――――!」

「――――――もうよい、瞭華。」


額に青筋を立てる老女を止めたのは、上座にいる元・皇女だった。


「そんなに叫べば、お前の声がつぶれるだけじゃ。はしたなくもあるから、おやめ。」

「し、しかし、平陽公主・・・。」

「その宦官は、あの皇帝陛下がお気に召した者じゃ。理屈が通るわけがあるまい・・。」


その言葉で、ようやく口を閉ざす瞭華。それを横目で見ながら平陽公主は言った。



「わらわの大事な茶器が割れたというのに、肝心の犯人がこれじゃ。」



気だるそうに言うと、椅子の腕に頬杖をつく女主人。


「犯人が名乗り出たのはよい。手間が省けるからのぅ。だが・・・名乗り出た者同士がかばいあうなど前代未聞。」

「さ、左様でございますね・・・。罪を擦り付け合うというのは、前例がありますが、」

「安林山も玲春も、己に非があると言って引かぬとは・・・・。」


目を細めると、ジッと星影と玲春を見つめる平陽公主。




「どう思う?」




しばしの沈黙の後で、そばにいた瞭華を見る。


どちらが悪いか。


主の問いに、老女は恭しく答える。


「恐れながら・・・・・この宦官が、玲春をたぶらかしておるのだと思います。」


「馬様!?」

「私が玲春さんをたぶらかしただ!?」


瞭華の言葉に、二人の顔色が変わる。

自分が悪いとされることに、星影は構わなかった。

それで、玲春が殺されないならよかった。

でも、『たぶらかした』という発言が納得できなかった。


「恐れながら馬様、『たぶらかした』というのは、あまりのお言葉ではありませんか!?私は、玲春さんに害を与えてはいません!」

「そうですわ!安様に非は――――――――」

「非は私にあります!そう言われても、一向に構わない。でも、彼女を騙したりはしていません!」

「安様!またそのような―――――!」

「―――――いいから君は黙っていなさい。」


なにか言おうとする玲春の口を、そっと指でふさぐ星影。途端に、真っ赤な顔で幼い女官は固まった。


「玲春さん、君は悪くないんだよ。だから後は、私に任せて・・・!」


玲春の口をふさぐ、人差し指と中指に力を込めながら告げる星影。

相手が反論しないのを確認すると、女主人の方へと視線を戻す。


「平陽公主様。私の話をお聞きください。」

「・・・言ってみよ。」

「茶器を持っていたのは、間違いなく玲春さんでした。それを落としたのも、彼女に間違いありません。」

「なっ!?なんですか、その言い草は!?まさかあなた―――――今になってから玲春に罪をっ!」

「最後まで話をお聞きください、馬様!」


顔色を変えた老女を制すると、平陽公主を見たまま星影は言った。


「柳がなびくのは風が吹くからと言います。では、彼女が茶器を落としたのは、風があたったからではありませんか?」

「つまり、その風がお前と言うことか?」

「突風に耐えられる柳はまれでしょう。ましてや、儚い花であれば、その花弁を壊してしまいます。」

「玲春が花か?」

「淡き霧の中で見つけられる、色鮮やかな大輪かと。」

「それがお前の申し開きか、安林山?」


射抜くような視線。平陽公主の瞳とぶつかる。

それに答えるように、星影もそらすことなく言葉を続けた。


「左様でございます。私の望みはただ1つ。玲春さんを咎めないでいただきたいのです。」


挑むように見れば、相手も鋭くこちらを見る。

そのまま沈黙が続く。

先に、無言を破ったのは平陽公主だった。


「・・・・いいでしょう。安林山、お前の自首を受け入れよう。」

「平陽公主様!?」

「そして、お前が玲春をたぶらかしていないということものぅ。」

「わかっていただけましたか?」


納得したように、表情を和らげる宦官。対する女官は、顔面蒼白で言った。


「あんまりでございます!平陽公主様!安様を、安様を、殺すおつもりですか!?」

「なにを言うのですか、玲春!平陽公主様が大事にされていた高価な茶器を割ったのですよ?」


(・・・・高価な茶器ね。)


馬瞭華の言葉に合わせるように、問題の器物へと視線を落とす星影。


(あれ・・・・?なんかおかしくない?)


割れた破片を見るうちに、星影はある矛盾に気づく。


(どうして、彼女は・・・平陽公主様は陶器を使われているんだ・・・?)


元・皇女であり、皇族である平陽公主が陶器を使うこと。

それは、現代の私達から見れば、なんらおかしいことはない。

だが、漢時代はそうではなかった。

この時代の陶器は、青銅器の代わりであり、代用品とされていたのだ。

そのため、形はもちろんのこと、色までも青銅器そっくりに作られていたのである。

しかも、陶器を使うのは下級層の身分の者がほとんど。

平陽公主のような元・皇女兼皇族という上流階級ならば、青銅器を使うのが普通である。

それがわざわざ陶器を使っているのである。


(いくら、異国の珍しいものだからといっても、庶民が使う陶器を皇族が使うのかしら・・・?)


彼女が疑問に思うのは当然であった。

こうして、その謎を追求しようと、さらに破片を凝視する星影。


改めてみる茶器・・・陶器は、赤いつやを帯びた器物だった。

口や底の方に帯状の模様はなく、青銅器のように突起した飾りなどもない。

どちらかと言えば、『無装飾の器物』であった。

『無装飾の器物』とは、当時の漢で、全1世紀頃から流行していた装飾のない物のことである。使いやすいということもあり、シンプルな造りの器物を好んで使っているのだ。


(平陽公主様も、無装飾がお好きなのだろうか?)


赤い破片を見つめながら、ぼんやりと考える星影。

その断片的な破片の絵柄から、そこに描かれていたであろう鳳凰の姿。

パッと見る限る、その陶器は西域の最も東にある大帝国ローマから来たものだとわかった。


(割った割らないの話ばかりで、あまり茶器を見ていなかったが―――――――・・・・)


老女の手の中にある器を見ながら考える星影。

その器には、大商家の娘の感を刺激するなにかがった。



(―――――――――――これはっ!?)



その『なにか』に気づくのと、目の前の女主が口を開いたのはほぼ同時だった。



「なにか言いたそうじゃな、安林山?」



若い宦官の様子から、なにかを察して声をかける皇帝の姉。

真剣に破片を見ていたこともあり、平陽公主への返事が一瞬遅れた星影。


「あ・・・いえ。・・・そんなことは。」

「誤魔化すでない!なにもないというはずがないだろう!?」

「平陽公主様・・・、」

「なにを企んでおる?皇帝の姉を謀ろうとは、ふてぶしいこと極まりないぞ・・・・!?」

「いえ、私は―――――」

「もうよい!まぁ・・・最後(・・)に聞いてやらぬこともないぞ・・・?」

「最後?」


訝しそうに聞き返す宦官を見ながら、あざ笑う様な口調で平陽公主は告げる。


「なにか言いたいことがあるならば、言ってみよ。遺言くらいは聞いてやろう。」

「へ、平陽公主様!?」


悲痛な玲春の声にあわせるように、小さく笑う女主。


(遺言って・・・。)


それって、私の死罪は確定ってことか?


「平陽公主様、そのお言葉はさすがに・・・」


遠慮気味に言うねえやに、元・皇女は笑いながら言う。


「なにがまずいことでもあるか?仮にもこの安林山殿は、『霍去病将軍の再来』と言われる者。それほど高名なお方が、よもや命乞いなど口にするはずはなかろう?」






カチン。







頭の中で、金属同士がぶつかるような音がした。



(や〜めた・・・・!!)



霍去病が嫌いな星影。

自分は、『霍去病将軍の再来ではない』と言ったのに、それを信じてくれない平陽公主。

その上で、『お前は霍去病将軍の再来なのだから、情けない真似等できないだろう?』的なことを口にした皇帝の姉。

早い話が馬鹿にしてきたのである。



(こんな相手を気遣う必要なんかない!)



平陽公主の余計な一言が、星影の良心を消し去ってしまった。


「・・・・わかりました。」


目の前で微笑する女主人。それに答えるように、星影も微笑みながら言った。



「大変なご無礼とは存じますが、そのお言葉を受けまして、恐れながら申し上げます。」




恭しく上半身を下げると、頭だけ上げながら女主に問うた。


「恐れながら、平陽公主様に再度お尋ねしたいことがございます。」

「許す。申してみよ。」

「はい、こちらの平陽公主様がお持ちになっていた茶器は・・・・本当に高価な物だったのですか?」

「なに?」

「無礼者!なんと言うことを言うのじゃ!?」

「そうでございますよ、安様!こちらの茶器は高価だと、お話したではありませんか?」

「これ(・・)が?」


布の中身を指差しながら問う星影。


「『これ』・・・だと?」


それまで、星影の行動を大目に見ていた平陽公主だったが、さすがにこの行動は癪に障ったらしい。星影を見る目が鋭くなる。


「わらわの、平陽公主の持ち物に対して、『これ』とはなんじゃ?」

「すみません、『こちら』の品がですか?」

「言うまでもない。貧乏人は高価なものに目がくらむというが・・・見すぎて目が使い物にならなくなったかぁ?」


目だけでなく、言葉まで鋭くなっていた。

この険悪な空気を受け、側にいた女性二人が口を開いた。


「安林山殿、あなたにはわからないかもしれませんが、高価な物ですよ。玲春からどこまで聞いたか知りませんが、それは漢のものではなく、西域の陶器なのです。」

「そうでございますよ!仮にも、平陽公主様がお持ちになっている物です!まがい物のであるはずがありません!」

「つまり・・・西域でも、特に高価な陶器・・・もとい、茶器ということですか?」

「そうじゃ。この茶器は、西域の商人に頼み、特別に取り寄せた物。めったに手に入らない逸品じゃ。」


二人の言葉を受け、自慢げに告げる元・皇女。


「高価なのですか?」


それに対して星影は、疑いの言葉をぶつける。


「・・・お前はなにを聞いていた?」

「馬様と玲春さんとあなた様のお話です。」

「ならば、聞くまでもなかろう!?高価に決まっておる!」

「高価ですか?」

「高価じゃ!わらわのためだけに選ばれ、漢にはない異国の高級品!それだけ、価値がある・・・!」

「命よりもですか?」


その言葉に、一瞬場の空気が固まる。

特に玲春は、これ以上ないというぐらいに目を丸くする。


「人の命よりも、高価な茶器なのですか?」


再度、言葉を足して問う星影。


「・・・玲春が、そう申したのか?」


それに気づいた平陽公主の言葉で、玲春の体が震えだす。


「そういうことを、玲春さんに言ったんですか?」

「質問に質問で答えるな。わらわの質問に答えよ!」

「申し訳ありませんが、私と玲春さんは、今日が初対面。ご主人であるあなた様のお話など、聞く暇がないと思いますが?」

「若造っ!!」

「安、林山です。短気はお体に触りますよ、平陽公主様?」


そう言うと、馬の手の中にあった茶器を手に取る星影。


「な、なにをするのです!?その茶器は―――」

「よい。」


星影の動きを注意した瞭華を、平陽公主が制す。


「いまさら鑑定でもする気か、安林山殿?」


それでも星影はなにも言わなかった。答えない宦官に、皇帝の姉は茶化しながら言った。


「好きなだけ見ればいい。それが今生でお主が最後に見る高級品じゃ。なんせその茶器は、人より高価な品・・・。玲春はもちろん、奴隷数十人分よりも高価な物。それだけ価値がある茶器なのじゃからのぅ?」




(・・・・この茶器が、人の命以上の価値があるだと・・・!?)



無言で茶器を見ていた星影だったが、平陽公主の言葉に顔をゆがめる。


「・・・玲春さん。」

「は、はい!」


ようやく口を開いた星影。真っ先に呼んだのは、高貴な皇女ではなく、側仕えの女官であった。


「この茶器が、あなたの命よりも高いと、あなたも思いますか?」


あまりにも単純な問い。そんな若い宦官の問いに、玲春はもちろん、その主や上司でさえ、言葉を失ってしまった。


「そ、それは・・・・」


星影の言葉に戸惑いながらも、若い女官は言った。


「そうなのでございましょう・・・?平陽公主様はもちろん、馬様も、そうおっしゃって―――――――」

「では、馬様にお聞きします。この茶器は、馬様・・・あなたの命よりも高いのですか?」


玲春の言葉を遮ると、今度は少女の上司に聞いた。


「なにを馬鹿なことを・・・!?高いに決まっているでしょう!?平陽公主様が、この茶器を買われる場に、私もいたのですから。」

「たまたま、居合わせたのですか?」

「偶然ではない。」


瞭華の代わりに平陽公主が答えた。


「瞭華は、わらわが幼い頃より仕えている、わらわのねえやじゃ。女官頭であり、わらわが一番信頼しておる者である。」

「平陽公主様・・・!」


もったいないお言葉です、というねえやに、元・皇女は首を振った。


「本当のことじゃ。だから、瞭華よりも高いと言うのは癪。瞭華の代わりはおらぬ。それを茶器と比べるなど、不快極まりないぞ、安林山・・・!?」


「だったら、玲春さんを含めた他の人だって、不快に決まっているでしょう?」


声を荒げることなく、静かに怒気を含ませながら告げる星影。


「あ、安様!?」

「自分の大事な相手と茶器を比べることには不快を感じ、それ以外の者では不快に思わない。なるほど、大した公平なお気持ちをお持ちだ。」

「安林山よ・・・お前は、身分というものがわかっておらぬようだな?」


渋い顔をしながら平陽公主は言った。


「わらわとお前では、身分が違う!韓の若造の例を知らぬのか?」

「陛下の弟君兼あなた様の弟君を土下座させた方がなにか?」

「あの若造は、陛下の寵愛をいいことに無礼を働いた。今のお前は、あの男娼と同じじゃ。」

「違います。」


ひどくまじめな声で、星影は反論した。


「あの方は、自分のために身分以上のことをしました。ですが私は、他の誰かのために、己の身分以上の行いをしています。」


「他人のためにじゃと・・・!?」


怪訝そうに、眉を吊り上げる元・皇女。玲春やその上司も目を見張っている。


「あまりにも、あなた様がお気の毒になりましたので、私の首をかけて申し上げます。」


本当なら、無視してもよかった。だが、それを言わなければ、自分の家業に傷をつけることになる。両手でしっかりと、破片になった茶器持つ星影。



「人の命よりも高価だと申された、平陽公主様お気に入りの茶器。」



そして彼女は行動に出た。














「これのどこが高価だぁぁぁ――――――――――――――!!!?」















絶叫するなり、持っていた破片を力いっぱい床に叩きつける星影。










「「「えええ―――――――――!!?」」」











三種類の異なる声と、高い音が部屋に響く。





「わっわらわの茶器がぁぁぁ――――――――――!?」


「へ、平陽公主様の茶器がぁぁぁ―――――――!?」


「あ、安様ぁぁ―――――――――――!?」





金縛り状態で絶叫する三人に、宦官服の若者は言った。





「この茶器に、ふさわしい対応をさせてもらっただけです。」





悪びれることなく、平然と言い放つ星影。

気違いとも言える高級宦官の行動に、狼狽する三人の女性。

彼女達の瞳に映るその姿は、『気違い』よりも『気迫』の方が勝る姿であった。


※最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・・!!


小話なのですが、小説の中で出てきた「劉陽りゅうよう」とは、春秋時代に実在した「美少年」のことで、中国では「男色」の代名詞でもあります。記憶があいまいなので、詳しくは覚えていないのですが、確か「りゅうよう」と読んで「劉陽」と書いていたように記憶しています。もしご存知の方で、「読み方や漢字が違う!」と思われた方、お手数ですが、ご連絡ください(平伏)物覚えが悪くてすみません・・・(大汗)!!

ちなみに、「元気な老人」の代名詞とされるのが、三国時代の英雄『黄忠』・『超雲』です。日本では、老人のイメージのない「超雲」ですが、中国では「元気でしっかり者のおじいさん」だそうです。



※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!ヘタレですみません・・・(土下座)


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