表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/124

第六十一話 誇張(こちょう)噂(うわさ)はお断り!

部屋の奥には一人の婦人が座っていた。

見た目からして、馬と名乗る女性よりは若かった。

しかし、自分よりはかなり年配の女性。

そんな相手を一目見て、星影の警戒心は深まった。

なぜなら、女性の眼光からはただならぬ風格が漂っていたからだ。


「遅かったのぅ。なにをしておったのじゃ?」

「遅くなって申し訳ございませんでした。」


高めでありながら男のような力強い声。

二人のやり取りを見て星影は確信した。



目の前にいる女性こそが、




「――――――――――平陽公主様。」




―――――――――――皇帝の姉・平陽公主だと。




馬と言う女性に引きずられて、ある部屋の前に連れてこられた星影と玲春。

そして、強引に部屋の中へと押し込められる。

連れて行かれた先は、豪華な品が埋め尽くされた部屋。

その中央に、美しく着飾った中年の女性がいたのだ。


目だけで玲春に問えば、相手も目で答える。


この人が、平陽公主だと。


平陽公主様の視線は、馬と名乗る女性から星影達へと移った。


「なんですか、りょう?その宦官は。」


自分を連れてきた老女に問う元・皇女。


(りょう)()?)


聞き覚えのない名に、一瞬思考を停止する星影。だが、すぐに理解した。


(『りょう』とは、馬様の(あざな)か。)


意外にも可愛い名に、小さく笑う星影。しかしその笑いを、本人は見逃さなかった。


「無礼ですぞ!平陽公主様の御前で!」

「あ、すみません。」


しかりつける相手に、反射的に謝る星影。

それを呆れ顔で見ながら、()(りょう)()は言った。


「申し訳ございません。本来ならば、このような下賎を、平陽公主のお目に触れさせるのは、心苦しいのですが・・・」


こっちだって、見てほしくないよ。


(つーか、どうしてここの人間は、初対面の相手に『下賎』を連発するんだろう。)


馬瞭華の言葉に、怒りと疑問を感じる星影。

そんな彼女の思いをよそに、話の本題は進んでいく。


「それで?この宦官をわらわに見せる理由・・・・・?」


そこで平陽公主の言葉が途切れた。

その目が、なにかに気づいたようなものへと変わる。


「おや、玲春ではないか。」


平陽公主の視線が、星影の隣にいた玲春へと向けられる。


「どうしたんじゃ?宦官と仲良く並んで。」


それまでの強い口調が、柔らかいものへと変わった。

平陽公主を見れば、その目元が少しだけ緩んでいた。


“普段は、とてもお優しい方です。”


玲春の言葉が頭をよぎる。


(確かに・・・・玲春さんには、身近な者には優しいみたいだな。)


そんなことを考えながら、目だけで少女を見る。

そこには、平陽公主の言葉を受け、対応に困っている玲春がいた。

だがその体は、恐怖によって小刻みに震えていた。


「玲春さん。」


怯える少女を放っておけず、気遣いの声をかける星影。

そして、妹にするように、その手を両手で握ってさすってやった。


「あ、安様!?」

「・・・・・私がいるから大丈夫です。あなたは、なにも心配しなくていい。」


暖めるように、優しく玲春の手を握る。


(・・・・小さい。それに冷たい手だ。)


緊張のためか、恐怖のせいか。玲春の手はひどく冷たかった。



(星蓮も、こんな風に震えているのだろうか?)



星影の中で、玲春と妹・星蓮の姿が重なる。

それと同時に、ひどく悲しい気持ちになった。

未だに、妹を見つけられない自分。

己の不甲斐なさに、情けなくも悔しくなる。

それはまるで、相手の体温を通して、不安な気持ちが伝わってくるようだった。



しかし、それに同調するわけにはいかない。



(どうなるかわからないが、この子は私が守る・・・・・!器一つのために、人一人を殺させるものかっ!)



決意を新たにし、目の前の人物へと視線を向けた。


少女を守るために、己を奮い立たせた。



「フフ・・・。」



これに対して、上座にいる婦人は色めいた声で笑う。


「なるほどのぅ・・・。瞭華、そうならそうと言わぬか。」

「平陽公主様?」

「そうか。玲春も、そのような年頃になったか・・・。」

「年頃?」


(なんの年頃だ・・・?)


意味がわからず、少女を見る星影。

しかし玲春も、その意味がわからないらしく、小さく首を横にふった。


「お、恐れながら平陽公主様、おっしゃっている意味がわからないのですが・・・?」

「とぼけるな、瞭華。真面目なお前からすれば、こういうことは、わからぬ感覚かもしれんがのぅ。」

「わ、私にわからない感覚でございますか・・・・?」

「玲春、なかなか見栄えのよい者ではないか?お前も面食いのようじゃな?」

「へ、平陽公主様・・・・?」

「ホッホッホッ!しかも、仲良く手をつなぐなど、初々しいではないか?」

「初々しい・・・・・・?」



ここでも初々しい!?



高貴な婦人の言葉に、眉をひそめる星影。

同じように、困った顔の玲春と顔を合わせながら平陽公主の言葉の意味を思案した。


「ごらん、瞭華。あのように仲が良いのだから、そう目くじらを立てて怒るでない。」


怪訝(けげん)な表情の老女を(さと)すと、薄っすらと目を細めながら平陽公主は言った。



「まだまだ子供と思っていたが・・・・玲春、なかなかよい相手を選んだではないか?」



「平陽公主様!?」

「わ、私のあ、相手!?」

「てっ・・・・・・・・私?」


ニコニコしながら、自分を見る平陽公主。

己を指差しながら問えば、そうじゃ、と短く答えた。





「女官と宦官の恋、わらわは良いと思うぞ。」


「え・・・?」


「珍しいことではないからのぅ。宦官と女官が恋人同士になるのは。」




にょかんとかんがんがこいびと?

こいびと

コイビト

恋人

恋人・・・?

え?え!?恋人って・・・?恋人!?

え?それって・・・!?

え?え?え?えぇええ―――――――――――――――!!?




“宦官と女官が夫婦になれるんだよ。”




星影の中で、琥珀の言葉がよみがえった。



「「わ、私が」」



「玲春さんの」

「安様の」




「「恋人ぉぉぉ―――――――――――――――!!?」」




平陽公主からの言葉を受け、強い衝撃を受ける馬瞭華と徐玲春と・・・安林山こと劉星影。

動揺する三人をよそに、上機嫌で(おんな)(あるじ)は言う。


「そんなに照れなくてもよいではないか?愛いやつじゃのぅ、玲春。わらわに、自分の恋人を紹介して、認めてほしいとは・・・可愛いところがあるではないか?そう思わぬか、瞭華?」

「へ、平陽公主様!それは!!」

「見た目も良いし、玲春にも優しいようじゃ。宦官というが少々難点ではあるが、わらわは認めても良い。」


「み、認めるって!?あの・・・!」


相手がなにを思い、なんと発言しているのか認めたくない。

認めたくはないが、聞かなくてはいけない。

聞いて確かめて、誤解しているようなら、その誤解を解かなければいけない。


星影の問いに、真剣な表情で平陽公主は告げた。





「お主を、玲春の恋人として、認めても良いということじゃ。」




「「平陽公主様――――――――――――っ!?」」




やっぱ、誤解してるじゃ――――――――――――――ん!?





女二人の叫びと、宦官の心の声とが重なる。




(琥珀・・・・・どうやら私は、玲春さんの、女官の結婚相手と誤解されているらしい。)



友の言葉を思い出しながら、硬直する星影。

その横で、慌てふためきながら少女が叫んだ。


「誤解でございます!平陽公主様!わ、私とこちらの方は、そ、そっそ、そんな関係ではありません!」

「そうでございます!私がこの宦官を連れてきたのは、そのような浮かれ話をするためではありません!!」

「違うのか?玲春に恋人ができ、その相手をわらわに認めてもらうために、瞭華を通して連れてきたのではなかったのか?」

「違います!わ、私・・・恋人なんて、そんな!」


(ゆで)ダコのようになった女官に、つまらなそうに(おんな)(あるじ)はぼやく。


「なんじゃ、違うのか?まぁ、玲春の性格を考えれば・・・・・・・・まだ早いかのぅ。恋人を紹介すると言うのは。」

「平陽公主様ぁ!」

「ホッホッホッ・・・そう照れるでない。のんびり気長に待ってあげるから、早くいい相手を見つけてなさい。そして一番に、わらわの前につれてくるのですぞ?」

「平陽公主様・・・・!」

「お前は、わらわが一番目をかけている女官じゃ。だからこそ、変な虫に持っていかれぬか、心配でならぬ。」

「そんな!もったいないお言葉でございます・・・・・!」

「それならば、早く良い女になれ。男から、引く手数多の良い()()になっておくれ。それが、お前にとって、女にとっての一番の幸せになるのじゃよ?」


優しい声色(こわいろ)で告げる平陽公主。

その言葉を受け、嬉しそうに顔をほころばせる玲春だったが―――――――


「・・・・・・・私は、平陽公主様が望まれるような人間ではありません。」

「なに?」

「・・・・・・・・それ以前に、私は、良い女性になれる資格も寿命もありません。」

「どういうことじゃ?」

「その意味をご理解いただくためにも、こちらをご覧くださいませ、平陽公主様。」


玲春の代わりに、瞭華が主の問いに答える。

彼女は懐から布を取り出すと、それを恭しく平陽公主の前に差し出した。


「こちらの品に、見覚えがございませんか?」


その声と共に、布の包みが解かれる。


「なんじゃ?」


怪訝な表情で、その中を覗き込む平陽公主。


(なにをする気なんだ?)


星影も、そっと布の中へと視線を移した。



「わらわになにを見せたいのじゃ、瞭華?その布の中に、な―――――――・・・・!?」



先に中を確認していた主の表情が固まる。



「そ・・そそそ・・・それは――――――――!!?」



(茶器の破片じゃないか!?)



平陽公主同様、星影も中を見て絶句した。


布の中には、茶器の破片があった。

先ほど、星影と玲春の不注意で割ってしまった平陽公主が大事にしている茶器。

その一部を、いつの間にか拾っていたらしい馬瞭華。

老女のすばやい動きに感心する星影。

しかし事態は、星影の思いとは裏腹に緊迫していた。


「そ、それはっ!まさかわらわの―――――・・・・!?」

「はい。平陽公主様の茶器でございます。」


先ほどの星影達と逆転する形で、強い衝撃を受ける平陽公主。


「な、なんということを!?わ、わらわの!わらわの茶器が、何故・・・・・!?」

「玲春に、平陽公主様の大事な茶器であるので、大事に扱うように命じたのですが。」

「れ、玲春が割ったのか!?」


「違います!!」


とっさに、声を上げる星影。



「なにが違うのじゃ・・・・・・・!?」



声を出して、少しだけ後悔する。


星影の経験上、こういった場合の相手の反応は決まっている。

真っ赤な顔で怒り、声を荒げて攻め立てる。

あるいは、鬼のような形相でにらみつける。

暴言を吐いて、罵ってくる。

そう決まっている。

決まっているのだが――――――――――



「なにが違うのじゃ・・・・宦官?」



顔色を変えることなく、まっすぐ自分をにらむ女性。

その眼力が、並ならぬもの。


(武人が放つ殺気に近いな・・・・!)


一般人とは違う、何かを感じ取りながら星影は思う。


(あの陛下の姉だと思って、のん気に構えていたが・・・・その考えは誤算だったかもしれない。)


己の認識の甘さを反省する星影。

そうは思ったが、気圧(けお)されるわけにはいかなかった。


「突然の無礼をまずはお詫びします、平陽公主様。お詫びした上で、恐れながら申し上げます!茶器を割ったのは、玲春さんではありません!」

「では、誰が割ったというのじゃ?」

「この私が割りました!!」

「お前が!?」


星影の言葉に、怪訝そうな顔をする平陽公主様。


「平陽公主様が大事にされている茶器を割ったのは、玲春さんではなく、私です!廊下を走っていた私が、玲春さんにぶつかって割れたんです!」

「あ、安様!」

「私が割ったというのに、馬様は信じてくださいませんでした!玲春さんに罪はありません!ですからどうか、私だけを罰してください!」

「い、いけません!そんな―――――」

「お前が、玲春の代わりに罪をかぶると?」


玲春の言葉をさえぎるように、平陽公主が問う。


「その小娘の代わりに、死罪になるというのか?」

「代わりもなにも、玲春さんには罪はありません。私のような大おん・・大男(・・)が、小柄な彼女とぶつかれば、どんなに守り抜こうとも、茶器は壊れてしまいます。」

「ふむ・・・道理に合うな。」

「そ、そんな!違いま―――――――」

「なにが違うのじゃ?」


星影を庇おうとした玲春だったが、平陽公主の鋭い視線に口ごもる。

まさに、【蛇ににらまれた蛙】状態だった。


「あ・・・・。」

「なにが違うのじゃ?」

「・・・。」

「何故答えんのじゃ?」

「・・・。」

「なにか言わぬか?お前の口は飾りか?」

「・・・。」

「答えぬか!黙っておればよいというものでは――――」


「答えたくても、そんなに一方的に言われたら、返事ができませんよ!」


見かねた星影が助け舟を出す。


「だだでさえ、ご大層なご身分のあなた様のお側に仕えているのです!そんなに攻め立てられては、ますます何も言えなくなりますよ?」

「お前・・・わらわに口答えをする気か?」

「口答えなんかしていません。事実を述べているだけです。」

「それが口答えだというのじゃ!」


玲春のことを思って出した星影の助け舟は、あえなく撃沈する。

それも、相手の怒りをあおる形で。


「瞭華!この無礼な宦官は何者じゃ!?」

「はい・・・それが。」


主人の問いに、ばつが悪そうに言葉を濁す馬瞭華。

その様子に、あることを思い出す星影。


(そういえば・・・・馬様には、名乗ってなかったな・・・。)


名乗ろうと思えば名乗れた。

しかし相手の突然の登場に、自己紹介しそびれていたのだ。


(説明していないんだから、説明できるはずがない。)


玲春には名乗ったが、馬瞭華には名乗っていない。

だから、馬瞭華は平陽公主に説明などできない。


「瞭華、この宦官はなんじゃ?答えぬか。」

「は、はい・・・・。」


(怒る主人相手に、『わかりません』と答えるのだろうか?)


星影の中で、小さな疑問と意地悪な心が芽生える。


気性の激しいという平陽公主に仕える老女が、どのようにこの場を切り抜けるのか見たくなった。



眼力のみで、星影に合図する老女。

名乗りなさい、と、無言の圧力をかける馬瞭華からの命令。


星影はそれを―――――――――――




(知〜らないっと!)





無視した。



馬瞭華からの視線。

自分を見ているのはわかっていた。

わかっていたが、穏やかな表情を作る。

そして、目線を下に向ける。



見てみぬふりをしながら、馬瞭華から自然に視線をそらす星影。



この態度には、本人も横にいた玲春も動揺した。

普通に考えても、宦官・安林山と平陽公主付きの女官・馬瞭華では、後者の方が身分が上。

そんな馬瞭華からの命を無視するなど、ありえないことなのだ。


「あ、安様・・・!」


小声で玲春が言う。


「なにをなさっているのですか?どうか、名乗ってくださいませ・・・!」

「まだ、平陽公主様と馬瞭華様がお話の途中じゃないか?」

「ですが、馬様が、」

「なにも言って(・・・)ない(・・)よ、玲春。ここはお任せしよう。」


にっこりと少女に笑いかける星影。

宮中に入ってから、確かに無礼なことはしてきた。

実際に、無礼と言われてもおかしくない。

無礼者なのは事実だから。



「瞭華、この者の名と身分は?身に着けているものからすれば、高級宦官のようではあるが?」

「あ、はい・・・それは、」


名乗らない宦官のおかげで、主に攻め立てられる老女。


(この状況をどう切り抜けるの?)


期待しながら、聞き耳を立てる星影に馬瞭華は盲点をついた。


「・・・私よりも、玲春の方が詳しいと存じます。」

「なに?」


「玲春、平陽公主様にご説明しなさい。」



そうきたか!?



年齢と経験は同じ年数とは言うが、なかなかこの女も侮れない。


相手を冷静に分析しつつ、問われた玲春に視線を送る。


「あ、あの・・・。」

「玲春、その宦官は何者じゃ?」

「早くご説明しなさい、玲春!」


星影からの視線と、平陽公主と馬瞭華からの言葉で、混乱状態に陥る少女。

どうすればいいのか、わからなくなっていた。


「わ、私・・その・・・!」

「玲春!」

「早くお答えしなさい!」

「あ、も、申し訳ありません・・・!」


悪戯心はここまで。

これ以上、玲春を困らせるわけにはいかない。

だから、星影は口を開いた。



「それには及びません。」



そう告げて、玲春から手を離す星影。



「自分の名と身分ぐらい、名乗れます。」



少女を庇うように後ろに下げながら星影は言った。




「平陽公主様、度重(たびかさ)なるご無礼をお詫びいたします。私は、最近高級宦官になった者で、安林山と申します。」




「安、林山・・・・じゃと・・・!?」


「平陽公主様!あ、安林山とは・・・まさかあの――――――!?」



名乗った瞬間、二人の態度が一変した。


「お前が弟を・・・陛下をお助けした噂の宦官か・・・!?」

「は、はい、そうですが・・・?」


噂?噂って、玲春さんが言っていたあの噂のこと?


先ほど聞いた話を思い出す。


陛下を賊から助けた宦官武人だとか言われている・・・あれか?

私を (こう)()(仙女)のように美しく例え、素手で虎を殺せるとか、数万の書物を読破してるとか、いい加減な噂のことを言っているのか?



(この人達も、そう思っているのかな?)



そう思った星影あったが、その予想はあっさりと外れる。


「玲春、この者が『あの』安林山殿(・・・・)なのですか!?」

「『殿』!?」

「あ、はい・・・そうでございます。」


玲春の言葉を受け、すぐさま平陽公主に向かって叫ぶ馬瞭華。


「間違いございません、平陽公主様!この者が、『あの』安林山殿(・・・・)にございます!」

「なに!?この宦官が『あの』安林山か!?」

「あの、『あの』って、どのですか?」

「本当にお前が、『あの』安林山か!?」

「いえ、ですから、『あの』って、どういう意味ですか?」

「本人だと思われます、平陽公主様!この宦官の姿を見る限り、聞いた話と一致いたします!」

「え?話って・・・?」


戸惑う星影の前、馬瞭華はきっぱりと言った。



「この者こそ、再び陛下をお守りするために、天界から現世に舞い戻った、霍去病(かくきょへい)将軍の生まれ変わりでございますよ!」


「生まれ変わりぃ!?」



老女の言葉に驚愕する星影。それに対して、女主は頷きながらつぶやく。


「そうであったか・・・・!これが噂の去病の生まれ変わり。弟の、陛下の身を案じるあまり、急いで現世に戻ってきたという忠義者か・・・!」

「なんですかそれ!?誰が霍去病の生まれ変わりですか!?」

「それだけではございません、平陽公主様!生まれ変わる際に、陛下のお目を喜ばせるために、陛下好みの美しい(こう)()(仙女)になって戻ってこられたそうです!武烈宦官でございます!」

「間違いないのだな、瞭華!?美少年好きの弟のために、弟好みに生まれ変わってきたのが、この安林山なのじゃな!?」

「いやいや!私と霍去病将軍は無関係ですから!つーか、そんな気遣いしてませんよ!それ以前に、生まれ変わりじゃありませんから!!」

「左様でございます、平陽公主様!本来なら、女性として生まれるはずが、手違いで男に生まれてしまったそうでございます。」

「その話はわらわも知っている。仕方がないので、わざわざ男のものを切り落として、宮中に入ってきたそうじゃが・・・それには裏があったそうじゃのぅ?」

「はい!意地汚い、匈奴の策略だったのでございます!すべて、匈奴が・・・!」

「え?きょ、匈奴・・・・?」


突然出てきた異国の民族の名前に、虚をつかれる形になる星影。

一見、自分と関係なさそうな単語を、憂いをこめた表情で女達が語り始めた。


「本来なら・・・・霍去病将軍は、武官として陛下に再びお仕えするはずでした・・・!それが生前、霍去病将軍によって倒された折蘭王、盧侯王が恨みを晴らすために先に生まれ変わり、恐れ多くも霍去病将軍の男性を傷つけたのです!」

「はあぁあ!?」


(なにそれっ!?)


まったく身に覚えのない話。固まる星影の前で、更なる物語を彼女達は口にする。


「折蘭、盧侯めっ!産婆として生まれ変わって復讐するなど、まさに不意をつくやり方じゃ。いいや、卑しくも卑劣なやり方じゃ!おかげで去病は、武官ではなく、宦官になるしかなかったのだからな・・・。」

「私は悔しゅうございます、平陽公主様!腹黒い匈奴の策略で、霍去病将軍が辱めをお受けになったことが・・・!」

「よさぬか、瞭華!折蘭、盧侯の二王にしても、最後は去病が天帝から授かった『裁きの剣』によって、(ちゅう)されたのじゃから。」

「ちょ、なんなんですか、その話!?『裁きの剣』って、なぁに!?だれから聞いたんですか!?」


ここまでくると、大げさな作り話ではすまない。

笑ってすませる範囲を超えていた。


「ですが、匈奴の執念は只事ではありません。恨みを持った匈奴の共が、賊として生まれ変わって陛下を襲われたのですから!」

「ふむ・・・まさか数日前に弟を、陛下を襲った賊が、匈奴の生まれ変わりであったとは・・・!道理で、宮中に忍び込めるわけじゃ。」

「数日前って・・・え?」

「死霊となった同族と共に、宮廷兵を殺し、弟まで殺そうとした・・・。しかし、弟が、漢帝国の皇帝が死ぬことはなかった。」

「はい!それを撃退したのが、ここにいる霍去病将軍の生まれ変わり、安林山殿(・・・・)です!安林山殿(・・・・)は、陛下を襲った賊をことごとく皆殺し、息のある者も容赦なく(なぶ)り殺したそうでございます!」

「本当になんですか、それ!?やってませんよ!つーか、そんな恐ろしいことしてないですよ!」

「ホッホッ・・・知っておるぞ。取り残された賊共を、陛下に害をなした悪漢とし、生きたまま素手で皮を剥いだそうじゃのぅ・・・?」

「その上、陛下のために素手で虎を殺し、その毛皮と肉を贈ったそうでございますよ!賊にしても、安林山殿(・・・・)の強さに恐れをなし、命からがら逃げ去ったのですから・・・!」






なんかすっごく、尾ひれがつきすぎじゃない!?






そう思って、玲春を見れば、



「そうだったんですか・・・!?私、知りませんでした・・・!」



目を輝かせながら言う始末。



だぁれ!?そんなめちゃくちゃな噂を流したの!?

それじゃあ、ただの化け物じゃんか!?

尾ひれがつくにもほどがあるだろう!?



怒りを通り越し、疲れのような者を感じる星影だった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・・!!


小話なのですが、小説の中に出てきた「折蘭王」・「盧侯王」とは、霍去病将軍が、「驃騎将軍」になった年の春に、出兵した先で討ち取った王様達のことです。その際、兵士などを含めた八千余の首級を上げたそうです。さらに、その年の夏の出兵では、三万余の首級を上げて、小月氏の国まで攻めていったそうです。これにより、匈奴の「渾邪王」が漢に投降し、匈奴は急速に衰退していったのでした。このような活躍から、当時の民衆は霍去病将軍を支持したみたいです。




※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!ヘタレですみません・・・(土下座)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ