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第五十九話 何とかが歩けば、危険に当たる

類は類を呼ぶ。



優しい者の側には、優しい者が。

真面目な者の側には、真面目な者が。

ふてぶてしい奴の側には、ふてぶてしい奴が来るという。



「琥珀、いくらなんでもそれはまずいぞ。陛下の名を語ったとなれば重罪になる。」

「君が言わなければね。密告するかい?」

「いや、そんなことはないが、」



薄っすらとした笑いを浮かべながら問う、恩人・王琥珀。

これに対して、グッと言葉を詰まらせる安林山こと劉星影。

女官達に囲まれ、質問攻めを受けて難儀していたところを、琥珀に救われた星影。

助けてもらったまではよかった。


よかったのだが――――――――




「陛下が、私を呼んでいるなんて嘘をつくのは―――――――――まずいだろう?」




自分を助けるための手口が問題だった。



そうなのだ。琥珀は友である自分を助けるために、ありもしない陛下からの呼び出しという名目を偽装したのである。



「それじゃあ君は、あのまま放置された方が良かったのかな?」

「いや・・・それは――――――――」

「しつこく迫ってくるご婦人方に、されるがままにされていた方がよかったかい?」


それは困る。


あのまま彼女達に、わけのわからないことを言われ続けてはたまらない。

言葉を濁す友に、琥珀は言った。


「返事が出来ないということは、助けてよかったと言うことみたいだな。」

「・・・・・・すまない。礼を言う。」

「そうかしこまらなくていいよ。君も大変だね。女官に人気があるのも?」

「人気がある!?私がか?」

「なんだ、知らないのかい?今彼女達の間では、君の話で持ちきりだよ。『美少年宦官・安林山』として。」

「び、美少年・・・!?」


自分の顔が引きつるのがわかった。



(美少年・・・喜んで良いのか悪いのか。)



性別を偽っているだけに、複雑な思いになる星影。



「みんな君に気に入られたくて、なんとかお近づきになろうと必死なんだよ。だから、さっきみたいに積極的に誘うんだ。」

「馬鹿言うな!単にからかわれただけだよ。」

「へぇ・・・君はそう思っているんだ?」

「そうだよ!からかわれているとしか、考えられないだろう!?」

「じゃあ聞くけど、なんと言ってからかわれたんだい?」

「それは―――――――・・・・恋人にするなら、どんな女性が好みかとか。」

「で、どんな娘が好みなんだい?」

「そうだなぁ〜やっぱり私は――――――――――――・・・て!なに言わせんだよ!?」

「安林山の好みの女性。」


星影の問いに、涼しい顔で答える琥珀。




「そうじゃない!!なんで――――――――!!」





女の私に、好みの女なんてことを聞くんだ!!?





「――――――――――――・・・・・・!!」




そう言いたかったが、喉まででかかった言葉を飲み込む。



「『なんで』・・・の、後はなんだい?」

「な・・・・なんで!そんな馬鹿馬鹿しいことを聞くんだよ!?馬鹿馬鹿しい!!」



上手い言葉が見つからなかった星影は、馬鹿馬鹿しいと、何度も連発した。



本当のことを言いたかったが、言うわけにはいかない。

言ってしまえばそこで終わり。

女だとバレれば、自分だけでなく、妹やその婚約者である親友も終わってしまうのだ。

それを思い出し、苦虫をかみ殺したような顔で耐える星影。

その姿に、笑いこらえながら琥珀は言った。


「フフ・・・からかってすまなかったね。()がない者に、好みの女性を聞くのは酷だった。」

「だったら聞くなっ!」


自分だってないだろうるが!と、不機嫌そうに言えば、琥珀は笑みを抑えながら言う。


「念のためだよ。男を捨てたのに、男としての欲が残っていては怖いからね?」

「欲もなにも、きれいさっぱりないんだから、いかがわしい真似はできないだろう!?」



(私は元から、ついてないけど。)



胸を張りながら言う星影。その言葉で、琥珀の笑みは消える。




「・・・君は、そう考えているんだ?」




意味ありげに言うと、そこで口を閉ざす琥珀。



「どういう意味だよ・・・・・・?」



嫌な予感がした。

また、聞いて後悔するような話なのか?

(うわ)ずった声で聞けば、琥珀は小さく首を振る。


「私が言いたいのはね、林山。女性問題に、巻き込まれないでほしいということだよ。」

「巻き込まれないよ!つーか、巻き込まれてたまるか!!ありえないよ、そんなこと!」

「自覚してないんだね。・・・己のことを。」

「十分自覚してるよ!私のどこに、女性に好かれる要素があるっていうんだ!?文官や武官でもない、宦官なんだぞ!?」

「武官でも倒せなかった賊に、勝ったじゃないか。」

「それとこれとは関係ない!」

「頼もしい男性は、すべての女性が好むじゃないか。」

「違う!私はそんなに頼もしくない!」

「そうだね。行き当たりばったり出動いた結果、たまたま成功してるだけだよね。」

「喧嘩売ってんのか!?テメェェェ――――――!!」

「君の意見に賛同しただけじゃないか?」

「もういい、黙れ!!」


吼えるように怒鳴る星影と、耳をふさぎながらそんな相手を見る琥珀。


「びっくりするな、急に大声を出して。しかし・・・本当に君は、とても面白くて興味深い。女官達が騒ぐのも、無理はないね。」

「しつこいぞ、琥珀!」

「そんなに照れなくてもいいんじゃないか?女性に口説かれるなんて、(おとこ)冥利(みょうり)に尽きるぞ。」

「・・・本当に変な奴だな、琥珀は!いくら身分が上がっても、男と女の中間に、女性がときめくわけないだろう!?」

「結婚相手としては、魅力的だと思うよ。」




「はぁあ!?結婚っ!?」




琥珀の言葉に、悪寒のような身の毛がよだつような、妙な感覚を覚える星影。




「・・・・・・・毎度のことながら、やはり知らなかったみたいだね?」


「し、知らなかったって・・・まさか、おい・・・!?」




その先を尋ねる星影に、加虐的な笑みを浮かべる琥珀。




「男の機能がなくても夫婦にはなれる。ここでは珍しくないことだ。」



「ええ!!?」



「つまり、宦官と女官が夫婦になれるんだよ。」




「ええええ!!?」




夫婦になれる!?

宦官でも!?

宦官も結婚できるの!!?





「宦官も―――――――――結婚ができるのかっ!!?」



「出来るよ。」




目を丸くして聞く星影に、同じように目を丸くしながら答える琥珀。




「君は、そんな『当たり前』のことも知らなかったのかい?」


「あ・・・当たり前なのか!?」




新たな事実に、硬直する星影。


本当に後宮はなんでもありなのだな!

つーか、ある意味ここの方が、外よりも危険地帯じゃないか! ?

しかし、宦官でも結婚できるなら―――――――――――




(本物の林山を、宮中に送り込んでもよかったかも・・・・・・・・。)




本人がいないのをいいことに、頭の片隅(かたすみ)でとんでもないことを考える星影。



「フェークシュンッ!!」


星影がそう考えた同じ頃、本物の安林山が高らかにくしゃみをしていたりする。


「・・・・風邪かな?」


無論自分の知らないところで、親友兼義姉がとんでもないことを考えていたことを、林山が知る(よし)もない。


さてさて。縁起でもないことを考える星影だったが、本気でそう思ったわけではない。

多少、林山への腹いせもあったが、そんな馬鹿なことをさせるつもりはない。

だから、林山の振りをして宦官になったのだ。

星影にとって、林山も妹・星蓮同様大事な身内なのである。


「まぁ・・・ここではそれが常識だけどね。」

「常識って・・・・宦官の結婚が?」

「そうだよ。子供は出来ないが、自分の身内を養子にする場合が多いね。あるいは、子供を作ってから宦官になったりする人もいる。」

「そうなの!?」

「ああ。だから、親子で宦官というのも珍しくはないよ。」

「奇特な人もいるものだな・・・!宦官と結婚してくれるような娘さんがいるのか・・・!?」

「いたじゃないか。さっきまで君の周りに?」

「え?」



サッキマデキミノマワリニ?



「そ、それってまさか―――――――――――――!?」




「そう、あの女官の方々だよ。」



「ええぇえ!!?」



(あ、あの女官達が!?)



「じょ、冗談だろう!?」

「真実だよ。彼女達は、『君好みの恋人』になりたくて、いろいろ聞いていたわけさ。」

「それって、私と結婚したいがために・・・・か?」

「そうだよ。」

「そんな!それはつまり―――――――――愛に身体的な障害は関係ないってことか・・・・!?」



(知らなかった!宮中の女性は、精神的な愛を(とおと)む純情乙女達だったのか・・・!!)



欲望にまみれた愛の泥仕合(どろじあい)ばかりを見てきただけに、純粋な愛の形に一人感動する星影。

だが、所詮は幻想・・・彼女の早とちりだった。



「う〜ん・・・中には、本気でそう思っている人もいるかもしれないが・・・・。」



渋るように言う琥珀の言葉で、幻想の世界から帰還する星影。



「え!?ということは―――――――・・・やっぱり、からかっていただけなのか・・・。」

「一人、二人は、本気でそう思っている人もいるかもしれないが・・・・。」

「そっか、そうだよな〜そんなことだと思った!」

「でも、大半は違うよ。たぶん君を利用しようと考えているんだろう。」



「利用!?」



宮中に来てからよく聞く言葉。それが琥珀の口より発せられる。


「利用って――――――ちょっと待てよ!私を利用して、いったいなになるというんだ!?」

「得になるから、君を利用するんだよ。考えてもごらん。周りから見れば、君は延年様と同じ立場の宦官。あわよくば、君を自分の虜にして、『陛下のお情け』を頂こうとする腹黒い者がいてもおかしくないだろう?」

「お情けって・・・・!?」


聞き慣れたくない言葉が耳に入る。


「そう、お情けだよ。身分はどうあれ、子を産めば、奥方様になるわけだからね。」

「つまり、私を出世の踏み台にしようってか!?」

「宮中で女性が生き残るのは、大変だからね〜」

「詐欺じゃねぇかぁぁぁ!!」




前言撤回!!




純情の【じゅん】の字も、ここの女にはないということか!?




「まぁ、断定はできないけどね。ただ・・・はっきり言えることは、これから先、宮廷中の女官達が君の取り合いで争いが起こるということだよ。」

「そんな断定いらねぇよ!てか、なんで宮廷中なの!?大げさすぎるぞ!」

「大げさじゃないよ。君の噂は、かなり広範囲で知れ渡っているんだから。」

「馬鹿言うなよ!私はここに来て、まだ一ヶ月も経ってないだぞ!?いくらなんでも、話の伝わりが早すぎる!」

「残念ながら、伝わるのが早いんだ。元々宮中は、閉鎖的な上に、入ってくる情報も少ない。限られた話ししか入ってこないから、みんな新しい情報に飢えてるんだよ。だから、」

「だから?」

「君のような『変り種』の話は、良い話のネタになるんだよ。おかしな話だよね、『種がない』のにさ?」



普通の者とは違う、変わった点のある人物を意味する【変り種】

種は種でも子を産むための元である【子種】

この二つをかけて話した琥珀。

言ってしまえば、言葉遊び。




「なに上手いこと言ってんじゃねぇよ、この腐れ馬鹿!!怒る気がそれたわっ!!」




笑いを取ろうとして言った琥珀だったが、相手は真っ赤な顔で怒るばかり。



「怒ってるじゃないか?」

「こ・れ・で・も、怒りが半減してんだよ!笑えない冗談言いやがって!!」



星影の言葉に、うけなかったか〜と、ぼやく琥珀。


「いい加減にしろよ!変な予想ばっかり言いやがって!!」

「あのね、林山。私も、(まじない)い師のような真似をするつもりはないよ。でもね、事前に本人がそれを知っていれば、いくらかの醜い争いを防げるじゃないか?」

「それ私のせい!?私のか!?つーか、宮廷の女性に問題があるんじゃないの!?」

「そういう気にされる君も、半分は悪いよ。ここに入る前に言われなかったかい?宮中での行動には気をつけると。」

「言われたけど、これは想定外だ!そこまで、知れ渡っているはずがないだろう!?」


そう言うと、大げさにため息をつく琥珀。


「惜しいかな・・・・林山。宦官ではなく、武官にでもなっていれば・・・。」

「その台詞、前にも聞いたぞ!とにかく、冗談はそこまでだ!!俺は女官達を誘惑するためにこんなところに来たんじゃないんだからな!!」

「では、何のために宮中へ?」

「なにって――――・・・へ、陛下のお側で働くためさ!!それ以外なにがある!?」

「・・・そうか。私はてっきり、他に目的でもあってきたのかと思っていたからな・・・・。」

「え?」



(まさか・・・・・・・・・・・・・・バレた?)



琥珀の言葉に、身の危険を感じる星影だが――――――――――



「出世したいのかと思ってた。」



その言葉で不安はかき消された。





「俺をそこらの欲物共と一緒にするな!!」





不安と入れ替わる形で、怒りが湧き起こる星影。



なにが出世だ!

驚かせやがった!!

大体、それが友達に言うことか!?

いや、それよりも――――――――――



(こいつは、そういう目で私を見てるのか!?)



そう思うと、憤慨、やるせない気持ちになる。

怒気を含ませながら、琥珀より一歩前に進む星影。そして、琥珀から離れるように歩き出す。



「待つんだ、林山!そんなに早く歩いては、人とぶつかるぞ。」



琥珀の注意を無視して、()を早める星影。

そのまま廊下の角を曲がった時だった。彼女は勢いよくなにかとぶつかった。







「うわ!」


「きゃあ!!」



悲鳴に続いて、高い音が当たりに響く。それと同時に、星影は軽い衝撃を受ける。衝撃とともに、自分の上になにかが乗ったのを感じる。



「林山!どうした!?」



声と音を聞きつけ、琥珀も慌ててやってきた。




「大丈夫か、林山!それに――――――――――――お嬢さんも!」




お嬢さん?


その声で、星影は自覚する。自分は人と・・・お嬢さんというのだから、女性とぶつかってしまったのだと。視線を前に向ければ、目の前に一人の女性が座り込んでいた。

女性というよりは、少女と言った方が正しいかもしれない。



「す、すまない!よく前を見てい―――――――――!?」



そういいかけて、星影は口を閉じた。彼女の近くに粉々になった茶器が転がっていた。

どうやら彼女が運んでいたらしいが、その破片が彼女の衣服についていた。



(大変だ!破片で怪我でもしたら――――――――――!!)



「大丈夫かい!?怪我は――――――――――!?」



慌てて破片を払いのけると、少女を抱き起こしたのだが―――――――――


「きゃあ!?」

「痛っ!?」


相手は小さな悲鳴を上げると、思いっきり星影の手を叩く。

少女の肩を抱いていた手は、無常にも弾かれた。


「ちょ・・・ちょっと?」


(な、なんで・・・・!?)



救いの手を拒むの・・・・・・・・・!?



呆気にとられる星影。一方少女は、それを見るなり、蚊の鳴くような声で謝った。


「あ・・・!?ご、ごめんなさい・・・・。」

「え・・・いや・・・」


親切で抱き起こしたのに、相手は真っ赤な顔で自分の手を払いのけた。

意味のわからない星影だったが、すぐにあることを思い出す。



(しまった!今の私は、一応男なんだった・・・・・・・・・・!!)



男性器を取り払ったとは言え、男は男。宦官といえども、男性という枠には入るのだ。

この時代、男女が手を触れ合うなど、はしたない行為の一つとされていた。

だから、少女の反応は当たり前のこと。

それに気づいた星影は、何度も謝った。



「申し訳ない。気安く女性に、あなたのような可愛らしいお嬢さんに触れてしまって・・・。」



優しく語りかけるような口調で言えば、少女は無言で首を振る。


「それより、お怪我はありませんか?大丈夫ですか?」

「は・・・はい。だ・・・大丈夫で―――――――――・・・・!?」


そこまで言ったところで、少女の声は途切れた。

そして、真っ青な顔でガタガタと振るえはじめた。


「ど、どうしました?顔色が随分悪―――――」

「どうしよう・・・。」

「え?」

「どうしよう・・・!どうしよう!!」


そう言った少女の視線は、壊れた茶器に向けられていた。


「す、すまない!私のせいで、茶器を割ってしまって・・・!」


少女に再度謝ると、茶器の破片を拾う星影。そこへ、琥珀が手伝いに入るのに、時間はかからなかった。破片を拾いながら、星影は改めて少女を見る。


内気だが優しそうな子供・・・といった感じだった。

見たところ、年はまだ十三、十四だろう。

顔形は整っており、大人になれば間違いなく美女になるほどの容姿をかねそなえていた。


「どうしよう・・・どうすればいいの・・・。」

「お嬢さん?」


少女を(なが)める星影の耳に、相手の声が届く。

そんな彼女が発した言葉は、星影を驚かせるのに十分だった。



「私・・・殺されちゃう・・・・!」


「こ、殺される!?」



物騒な単語に、星影は相手を見る。そこには、恐怖に顔を引きつらせる少女がいた。



最後までくださり、ありがとうございます・・・・(平伏)!!


余談ですが、小説中に出てくる【降嫁】とは、【皇族の娘、皇女が、皇族の籍から外れて、家臣などのところにお嫁に行くこと】を言うそうです。

上の身分から、下の身分の人のところに行くので、【降下】ともじって【降嫁】らしいです。

個人的には、ややこしいなぁ〜と思います(汗)



※誤字や脱字がありましたら、ご連絡ください(土下座)


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