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第五十七話 真昼の訪問者(後編)

「さぁ坊や・・・自白の時間だ。俺に嘘や誤魔化しは通用しないぜ・・・?」



義烈からの言葉を受け、林山の体に緊張が走る。

自分よりも年上の男。

自分よりも世間をよく知っている人物。

危険についても、詳しく知り尽くしているであろう侠客。


だが、ここで取り乱してヘマをするほど、林山は子供ではなかった。



「自白ね・・・。こういう場合、俺が罪人で、あなたが獄吏ごくりということか?義烈殿・・・?」

「何度も言わせるな!義烈でいい。」

「じゃあ義烈・・・なにを根拠に、俺が()と会っていたというんだ?」


【彼女】とは言わずに、あえて【人】と言う。

そんな林山の言葉に、一瞬、つまらなそうな表情を見せる義烈。

何回かのやり取りで林山は学習していた。

義烈が、自分にカマをかけてくる方法を。



(奴は、『男は自分が最初だ。』と言った。それがら、わざわざ『女性』だという単語を出す必要はない。相手が言うまで、使わない方が無難だ。)



林山の判断は正しかった。自分のカマをかわした相手に義烈は、次の罠を仕掛けてきた。


「宿のおかみから聞いたのさ。何度も騒いで、最後の最後は、苦情を言った隣人の泊り客を一喝したそうじゃねぇか?」

「ああ、誤解だよ!寝ぼけると大変なんだよ、俺は。つい大声とか出しちゃうから。」

「嘘つけよ。一喝した声はは、()だったらしいじゃねぇか・・・!?」

「そっかぁ〜俺の声は女っぽいか。ああ、でも、寝起きだと、ちょっと高くなるかもしれないなぁ。」

「ほぉ〜そいつは是非とも聞いてみてぇもんだ。今夜泊まってもいいか?」

「いつも聞けるとは限らないんで、泊まるだけ無駄だと思うよ?」

「はっ!・・・・たいした減らず口だな!?」

「あなたには適わないさ・・・!?」


その言葉を最後に黙り込む二人。



(誤魔化せたか・・・・・?)



林山がそう思った時だった。


「なるほど。お前の話が本当なら、寝起きの声は女みたいになるのか?しかも腹話術までできるとはね〜?」

「腹話術?」

「この部屋のお隣さんの話じゃ、男の声がする途中で、何度も女の声がしたそうだぜ?逆もあったらしいが?」

「・・・勘違いじゃないか?そんなこと・・・」

「両隣のお隣さんが、同じこと言ってるんだぜ?両方の聞き違いだって言いたいのか?しかもその男女の声は、かぶる場面が何度もあったそうじゃねぇか?」

「夜中なら、寝ぼけていたんじゃないか?両隣の人達は?俺も俺で気をつけないとな〜変な寝言を言うのは。」

「おかみも聞いてたんだぜ?店の用事で早く起きてたんで、寝ぼけちゃいないぜ?」

「疲れて幻聴でも聞いたんだろう?」

「そうかな?おかみは男女が話してる会話のような声を聞いてる。話の内容まではわからなかったが、あんまりうるさいんで文句を言いに言った時に聞いたらしいぜ・・・・?」

「え?」

「劉星影の、泊まってる男の客以外の声。女のわびる声を聞いたんだと。」


義烈の言葉に、固まる林山。




「だから知らないよ、俺は。おかみさんの勘違――――――――!」


「星影っ!!!」





林山の声を遮るように発せられた罵声。思わず、声の方に視線を向ければ、鋭い目でこちらを見る侠客がいた。






「嘘は終わりにしようぜ・・・星影。俺は職業柄、相手の嘘を見抜くのは得意なんだ・・・!」



「・・・・・・・・・・・・・!!」






終わった・・・・・・・・・・・・・・。





(これ以上は・・・・誤魔化せないか・・・・・!!)





その一言で、林山の抵抗の一手は封じられる。




(くそっ!こんなところで―――――――――!!)





バレてしまうのか?




ここで真実を話せば、きっと芋づる式にすべてがバレるだろう。




俺が偽名を使っていたことも。

星蓮の兄ではなく、恋人であったことも。

自分の身代わりで星影が、後宮にいることも。



割れた花瓶を直しても、欠片の一つを取ってしまえば、中の水は流れ出す。

その水のように、漏れてはいけない秘密が漏れてしまう。





(俺がもう少し気をつけていれば・・・・!!)





バレることはなかったのに・・・・!!





力なくうなだれる林山。そんな彼の側に、そっと近づく義烈。





「話してくれるよな、星影・・・・・?」





聞いたことのないような、穏やかな声の義烈。自分の耳元で優しくささやく相手に、林山は拳を握り締める。




すまない・・・・!!




「誰にも・・・・」




星影・・・・!星蓮・・・・!




「誰にも他言しないと・・・・・」




ふがいない俺を、





「誓えるか・・・・!?」





許してくれ・・・・・・!!





「当然だ!俺の口は堅いし、値段が高いからな〜!?星影ちゃんの悪いようにはしねぇよ!」




軽口をたたきながら言う義烈に、林山は下唇をかむ。





(なんだ・・・!?その言い草は!?)





自分がこんなにも、絶望しているのに、相手はあっけらかんとしている。

こいつが、余計なことを嗅ぎ付けさえしなければ、こんなことにはならなかった。

しられたくない。

でも、隠し通せない。

それなら、それなら――――――――――!!





「もし・・・もしも・・・!このことをあなたが他言すれば、」



「他言すれば?」






(こんなことはしたくないが――――――――――――――!!)








「―――――――――――――――――――――お前を殺すっ!!!」








(俺達のために死んでくれ!!)








言ったと同時に、持っていた剣を抜く。




「なっ!?」



一寸の狂いもなく、相手に刃を突きつける林山。



「あ!?」



切っ先を義烈に向けたのだが―――――――――――――――――






「――――――――――遅い。」





耳元で、ささやく低い声。

義烈は、林山の剣を素早く交わすと、あっという間に懐に入り込んでいた。

そして、あっという間に林山をねじ伏せてしまった。



「うぁ・・・・!?」

「誰にも言わねぇーから、物騒なものをしまいな?」



子供を(さと)すような口調で言う義烈。その声にあわせるように、林山の手から離れる剣。


「くっ・・・・!」


林山のうなり声と、金属音とが重なる。


「お前なぁ〜相手見てから、刃物を抜けよ!俺じゃなきゃ、殺されてたぞ?」

「馬鹿言え・・・!」




(お前でなければ、殺せていたさ・・・・!)




顔をゆがめる林山に、呆れ気味に首を振る義烈。



「たくっ・・・・人を馬鹿にすんなよ・・・。」



そんな相手の態度と言葉で、林山は悔しさが増した。



あまりにもふがいない自分。

秘密一つ守れず、脅し一つまともにできない自分。

情けない自分に、悔しさ以上の怒りを感じていた。







「・・・・約束しろ・・・・!誰にも言わないと、約束しろ・・・・!!」







怒りと悔しさを押し込めて出した言葉。

それに対して、義烈はため息交じりに言った。



「お前のような真面目な奴は、初めてだぜ。」

「天地天命で誓え!絶対に言わないと・・・・!!」

「誓うよ。後が怖いからな?」



口だけで笑って見せると、林山から手を離す義烈。



「お前は大事な取引相手だ。天地天命で他言はしない。」

「必ず守れよ!他言すれば殺す!!」

「返り討ちにあっといて、よく言うな?」

「黙れ!それだけ、重要なことなんだっ!!」

「わかった、わかった!俺が悪かったから!!だから・・・なぁ?」



手を合わせて頼む義烈を睨みつけると、林山は大きく息を吐きながら言った。



「確かに・・・お前の、義烈の言う通り、昨夜は女性と会っていた・・・・。」

「それはわかってるよ!それで?どんな子なんだ!?」

「どんな子って・・・。」


言葉を濁す林山に、その先を尋ねる義烈。


「教えろよ!お前は、どんな女と憂さを晴らしてたんだ?」

「俺が憂さを晴らす・・・・?」


どちらかと言えば、憂さを晴らされていたんだが・・・?


義烈の言葉で、不快感を露にする林山。


「そんな顔するなって!それでさ、具体的にはどんなことをしたんだよ?どうだったんだ!?」

「どんなって・・・話をしただけだが?」

「馬鹿!そんなことは聞いてねぇよ!俺が聞きたいのは、その女となにをしていたかだ!」

「なにって、知ってるんじゃないのか?」

「想像はつくが、お前の好みは知らないかよ!」

「好み?」

「とりあえず、美人なんだろう!?」

「え?あ、ああ。美人は美人だが・・・・」

「やっぱりな!なぁ、今度紹介してくれよ!是非とも、一戦交えてぇからさ!」

「一戦交える!?」

「おう!」


林山の言葉に、興奮気味に訴える義烈。




「一戦交えるって―――――・・・あいつとか!?」




(星影と戦う気か、こいつ!!?)




藍田では有名な武の申し子と!?




義烈の言葉に、戸惑いを隠せない林山。驚く彼に、相手は言葉を続ける。


「男なら、やりたくなるのは当然だろう!?しかも美人とくれば、なおさらじゃねぇか!?」

「いや、いくら美人だといっても――――――やめた方がいい!悪いことは言わない!」

「なんだよ、病気でも持ってるのか!?」

「持病はないが、あの強さは男以上だ!下手をしたら、【百面夜叉】の義烈でも殺されるぞ!?」

「なっ・・・なにぃ!?それほどいいのかっ!?」


そう言うと、さらに興奮し始める義烈。


「信じられん!それほどの良い女がここにいたって言うのか!?俺の縄張りにか!?」

「え?いや・・・縄張りもなにも、ここの人間じゃないが・・・?」

「なんだ、よそから流れてきた女か!?それなら、俺が知らないはずだ!ここの美人は、あらかた味見をしたからな。」

「味見!?」


その言葉で、相手の態度に違和感を覚える林山。




「味見って・・・・ここの女性は、そういう人が多いのか?」




武術の達人が?

高貴漂う都にか?

そんな女性と戦うことを、味見というのか?

というか―――――




(なんか、おかしくないか・・・・??)




都では、手合わせをすることを【味見】と言うのか?



いぶかしそうに言う林山に、義烈は爆笑する。


「当たり前だろう!?ここは長安、天子様のいる花の都だぜ!?綺麗な花は手にこぼれるほどいるんだぞ!?」

「そうなのか・・・?」

「そうさ!ここはこの国の中心だ!一番最高の者が集まる場所だ!」

「そうなのか・・・。」


星影のような女傑が、都には多くいるのか?

もしそうなら―――――――・・・・・・・・・・考えただけでめまいがする。


思わず、額に手を当てる林山。



「そういうわけだから、洗いざらいしゃべっちまえよ!もうバレてんだから、隠しても無駄だぜ!」

「そうだろうな・・・。百面夜叉の義烈様の前では、隠し事など・・・・!」

「皮肉はいいって!うらやましいな、お前!よかったんだろう!?」

「よかったって?」

「とぼけるなよ!お前のことだから、お姉さんにお世話してもらったんだろう!?」

「え・・・?あ、ああ・・・。世話はかけたが――――――・・・。」

「やっぱりな!おかみから聞いてるんだぜ?夜中から今朝方まで、ずいぶんお盛んだったみてぇじゃねぇか〜!?」

「お盛ん?」

「どこで引っ掛けたのか知らねぇが、星影も好き者だな〜!?」

「引っ掛けた・・・・?」



お盛ん?引っ掛けた?



義烈の言葉を聞くうちに、深まっていく違和感。



どうも話がおかしい・・・。

この男は、俺と星影の話し合いを知っているはずだ。

それなのに、なかなか確信を聞こうとしない。

事が事だけに、周囲を警戒しているのか?

それとも、単にふざけているのだけなのか?

ガキだからと、俺を馬鹿にしてからかっているのか?

それならなぜ、卑猥な表現をするのだ?

下品ないかがわ―――――――――――――――――――――――!!!?




(ま、ままま、まさかこいつ!)




そこまで考えたところで、ある考えが林山の頭をよぎる。





(俺が星影にも手を出してると思ってるのか!?)




星影が、俺を訪ねてきたのを夜這いだと思ってる!?



そう考えれば、相手の表現は納得できる。

義烈の態度に納得はできたが、林山の気持ちは納得できなかった。




(もしそうなら、めちゃくちゃ迷惑な勘違いだ!!)




自分が愛しているのは星蓮だけ。

いくら世の中で、姉妹をそろって妻にする男がいるといっても一緒にしないでほしい。

星蓮を真剣に、一途に愛している自分からすれば、かなり失礼な話だ。

なによりも、星影は大事な親友なので、色恋の対象にされるのは許せない。

だからこそ、それを確かめるためにも林山は言った。


「ちょっと待て!なにか勘違いしてないか、義烈!?」

「勘違いなものか!お前が女を連れ込んだのは、事実だろうが!?」

「その表現自体が、間違ってるってっ!!」

「嘘つけ!おかみが嘆いてたぜ。娼婦を連れ込んで騒いでたんだろうぉ〜!?」







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」





しょうふ



ショウフ



正麩



しょう・・・・・!?







「娼婦ぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」







「そうだよ!昨日は、どんな美人のお姉さんとよろしく犯ったんだぁ〜!?」




絶句する林山を、小突きながら言い放つ義烈。




「誤魔化すなよ!他の泊り客も、女のあえぎ声がうるさかったってごねてたぜ?」

「あえぎ声ぇぇ!?」




出してねぇよ!つーか、罵声しか言ってねぇよ!




「おまけに文句を言ったら、女の方がそれを黙らせたそうじゃねぇか?行為の邪魔だとかでよ〜?」




いや、確かに黙らせたけど!でも、行為とかはしてないけど!?




「お前金持ってるから、さぞかし良い女を買ったんだろうな〜!?俺も、味を見たかったなぁ〜!」






てっ!!味見って、そっちの味見かよぉぉぉぉ―――――――――――――――!?






(一体どこでそんな誤解に・・・・・・・・・・・!?)



混乱する林山だったが、義烈から発せられた次の言葉で、その謎は解けた。





「この宿は、娼婦連れ込み禁止なのによ!おかみが、怒ってたぜ!?『最近の若い者は我慢が足りない』って!」





(犯人はおかみかぁぁぁぁぁぁ!!!?)



・・・・おそらく、宿のおかみと両隣の客達が勘違いしたのだ。

特に宿のおかみさんが。

その勘違いした情報を義烈が聞き、それを信じて俺を冷やかしているのだろう。




(だとしても冗談じゃない!!名誉(めいよ)毀損(きそん)にもほどがあるだろう!?)




冷静に考えをまとめ、再度怒りが湧き起こる林山。






「違うんだ義烈っ!!俺は娼婦なんて―――――――・・・・・・・・・・・・・!!!」






そう言いかけたところで、林山は気がついた。




(・・・・・・待てよ、このまま誤解させた方がいいかもしれない。)




事情はどうあれ、義烈は俺が昨夜、人と会ったのを知っている。

宮廷兵の身なりの者ではなく、娼婦と会っていたと思っている。

それなら、そう思わせておいた方がいいのでは・・・・・?

下手に否定して、せっかくの誤解を相手がといてしまっては困る。




(真実に気づかれては困る・・・・!!)




「どうした!?急に黙り込みやがって〜?図星か星影〜!?」



事実を知られるくらいなら、汚名をかぶる方がいい。

それが星影や愛しい星連のためになるなら。



「俺は・・・・!」



女遊びはしない。

星蓮がいるからしない。

彼女を裏切りたくないし、なによりも、星蓮以外で欲情しない。

本当に愛しているのは星蓮だから。

劉星蓮だから―――――――――――!!!








「・・・・・・・・・・・・・・女性を買ったのは、初めてだったんだ・・・・・・・・・」








(彼女を助けるためにも、汚名を着ようじゃないか・・・・・!!)





「ハッハッハッ!!ようやく、真実を白状したなぁ〜!?」




助平な笑みを浮かべる義烈に、引き笑いを作る林山。



なにが真実馬鹿やろう!!

俺は買ってない!

本当は買ってねぇよ!!

浮気してないけど、そう言うしかないだろう!?





(この屈辱忘れまい・・・・!!絶対に、この恨みを晴らしてやるぞ、郭勇武・・・!!)





目の前の人物ではなく、こうなった元凶に対して怒りを再燃させる林山。

顔で笑みを浮かべ、心で泣く林山。




「まぁ、女を買うのは、男として当然だ!恥じることはねぇぞ!」

「そ・・・そうですか・・・?」

「しかし、初めて買った女が、激しい性質というのも珍しいな!?よかったか!?」

「え、ええ・・・まぁ・・・。」

「そうか、そうか!よかったな、おい!この好き者めぇ〜!!」




真実を知らない義烈は、助平、助平とはやし立てる。

それを無言で受け入れる安林山。

その後、話題は女性の話で大いに盛り上り、二人だけの飲み会は夜中まで続いた。

そして林山は、改めて郭勇武への復讐を誓うのだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・・!!



真実はバレなかったものの、義烈にからかわれる結果となった林山。

そんな彼を、今後も応援してあげてください。お願いします(平伏)






※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!

ヘタレですみません・・・(土下座)


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