第五十話 噂についての討論会
林山から聞かされた話の中で、こんなに嫌な思いをしたのは初めてだった。
「今なんて・・!?」
「・・・民衆は、衛青将軍が李広将軍を殺したと思ってるって言ったんだよ。」
林山の言葉が、胸に深く突き刺さる。心臓が、嫌な音を立て始めた。
「な、なんで・・・?なんでみんな、衛青将軍が殺したなんて思って――――――・・・・・!?」
「別に、みんながみんな、衛青将軍が李広将軍を殺したと思っているわけじゃない。衛青将軍を好きな人もいるから、『悪』としてはまとめられることはないが――――・・・・」
一息おいてから告げられた、親友からの言葉。
「・・・この事件に関する衛青将軍の評判はあまりよくない。李広将軍の死を語る上で、衛青将軍が『悪人扱い』されるのは事実なんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、言い知れぬ怒りが湧き起こる。星影はその思いを、言葉として外に吐き出した。
「――――――――馬鹿言うなっ!李広将軍の死と衛青将軍は無関係だ!!私、聞いたんだから!」
「聞いたって・・・・・誰から聞いたんだ?」
「琥珀に聞いたんだよ!衛青将軍は、絶対にそんなこと出来ないって・・・!」
「琥珀って・・・・・『伯燕』という別名がある奴か?」
「そうだよ!あいつは、そういうことに詳しいから・・・!」
「星影お前―――――・・・・そんな怪しい奴を信用してるのか!?」
「素性は怪しいが、あいつの話に嘘はない!信じる価値はある!!」
「なに言ってるんだ!?なんの根拠もないのに、そんな相手を信――――――――」
「琥珀のことはどうでもいい!今は、衛青将軍の話が先だ!」
そう言うと、話を聞けと言わんばかりに机を叩く星影。
「誤解しないでくれ、林山!何度も言うが、衛青将軍は人の悪口を言うような人じゃない!それどころか、相手のことを思うあまり、自分がひどい目にあっても、隠してしまう人なんだ!!」
「そうなのか?」
「そうだよ!だって――――――」
“衛青将軍は、人の気持ちのわかる方・・・。それゆえに、父をなくした李敢様の怒りが痛いほどわかったんだよ。『李広将軍の単独行動を止められなかった自分にも責任がある』と・・・李敢様の行為に口を閉ざしたんだ。”
「・・・・李敢のことも、『李広将軍の単独行動を止められなかった自分にも責任がある』って言って・・・!陛下に訴えなかったんだから!!」
「李敢・・・?」
「李広将軍の息子だよ。父親が死んだのは衛青将軍のせいだと逆恨みして、暴行した馬鹿息子だっ!」
「あぁ!『あの』李広将軍のご子息か?」
「どういう意味の『あの』かは知らないけど、李広将軍の息子だよ・・・。」
「あの李敢、と言えば、霍去病将軍が天罰を与えた李広将軍の息子しかいないだろう?」
「天罰ぅ!?」
「そうだよ。霍去病将軍が事故を装って、李敢を単独で裁いてしまった話だだろう?誰でも知ってる話じゃないか?」
「そうなの!?」
「ああ。『霍去病将軍の名裁き』として、藍田の子供達も、よく話していただろう?」
「え・・・?」
「知らなかったのか?」
「・・・・・・・・・・・!」
「・・・・知らなかったみたいだな?」
呆れ気味に言う林山の声は、星影には届いていなかった。
この時、彼女の心中を占めていたのは、琥珀から霍去病の話を聞いた時と同じ思いだった。
(なんてことだ・・・!)
ここでも霍去病は、英雄・・・いや、善人扱いか!?
衛青将軍の思いも理解しないで、勝手な振る舞いをしたというのに!
わだかまりを解こうとする叔父の思いを無視した甥。
衛青将軍の気遣いを無駄にした、高慢な若将軍。
話を聞く限り、わがままな印象しかない武人。
てか、罪を犯しても、褒め称えられるのは何故!?
霍去病は、なにか特別な免罪符でも持っているのか!?
(霍去病なんかよりも、衛青将軍の方が何百倍もかっこいいじゃない・・・!!?)
実際の衛青将軍を知るだけに、低評価されることが納得できない星影。
一方、そんな親友の様子に、林山は複雑な気持ちになっていた。
目の前で衛青将軍のことを話す星影は、いつもの彼女とは違っていた。
目はかすかに赤みがさし、頬は桃色に染まっていた。
唇もわずかに震えており、どこか落ち着きがない。
はっきり言ってこんな星影を、林山はこれまで見たことがなかった。
(・・・・やはり、星影は衛青将軍のことを――――――)
取り乱す星影に、林山は何度も聞こうとした。
その事実を聞きたくて、確かめたくて・・・・。
しかし、それを口にすることはできなかった。
林山が言葉にする前に、彼女が口を開いてしまったからだ。
「霍去病のことも、今はどうでもいい!!問題は、李広将軍とその息子だ!」
「星影・・・。」
「親子そろってわがままなんだよ!衛青将軍を勝手に誤解して、敵視して、馬鹿にして・・・!!」
「・・・仕方がないだろう?李家と衛家では、仲良くしろと言うのが難しい話だ。あの両家は不仲なんだから。」
「それって、身分が原因なの?」
「身分もそうだが、陛下も原因の一つだ。」
「なにしたんだよ、あの変態!?」
「聞いた話じゃ、接し方に差があったらしいぞ。」
「接し方に?」
「ああ。父親の家臣よりも、自分の家臣の方が大事だったみたいだ。」
「それが、李親子の自尊心を傷つけたってこと?」
「親子というよりも、李家全体に不満を持たせたんだろう。高貴な方々は、気位が高いって言うだろう?」
そう言うと、湯の入っている器を手に取る林山。
「もしそうなら・・・・衛青将軍が李広将軍を殺したって話も、李家が広めたんじゃ――――――!?」
「半分はそうかもな。ただ・・・実際に広めたとなると、李家の者ではなく、その取り巻きの仕業と考えた方が理に適ってる。」
「つまり、ご機嫌伺いとして広めたのか!?」
「媚びかどうかは知らないが、李広将軍は人望があった。仮にも、『飛将軍』と称えられた武人だ。憧れる奴だって多い。李広将軍の名誉を守るために、衛青将軍を悪役にしたとしてもおかしくない。」
「・・・・・・・・・それって、『軍令違反で死んだ』ってことに、してほしくなかったってこと?」
「そうじゃないか?案外、李敢を狂気へ駆り立てたのも、そんな連中の一言だったりしてな。『あなたの父上を殺したのは、衛青将軍ですよ。』みたいなことを言ってさ?」
「それを信じて、衛青将軍が悪いって決め付けたってか!?」
「余計なことを吹き込んだ可能性はあるだろう?」
「信じられない!!普通は、きちんと調べてから、事の真偽を見極めるものだろう!?自分の父親のことなんだから・・・・!」
「若気の至りってやつじゃないか?気持ちばかりが急いで、父親の死の真相を、きちんと確認できる余裕がなかったんだろう。だから、冷静な判断が出来なかったんだ。」
「もしかして衛青将軍は、そんな状況を知っていたから、陛下に訴えなかったんじゃ・・・!?」
「・・・・そうかもな。どちらにせよ、李家側が衛青将軍に仕掛けた嫌がらせに変わりないんじゃないか?」
「それじゃあ衛青将軍が、馬鹿みたいじゃないっ!?」
李敢の思いを知って、暴行事件を口外しなかった衛青将軍。
叔父が受けた暴行を知り、不問にしている意味を考えずに仕返しをした霍去病。
わだかまりを解こうとしたこと衛青将軍の努力は、無駄に終わった。
その結果、李敢は悪とされ、霍去病の名声は高まった。
そして、衛青将軍が李広将軍を死に追い込んだという話が、真実として定着してしまった。
気遣いでしたことが、人の命を奪い、自分の評判を悪くしてしまったのだ。
「割に合わなさすぎだろう!?」
それを思うと、腸が煮えくり返る星影。
「皮肉な話ねっ!!李家が流した誤報を、多くの民衆が信じているなんて・・・!」
「無理もないさ。情報が少ない上に、その伝わり方に問題があったんだから・・・。」
「・・・なにそれ?情報の多さが、その人の良し悪しを決めると言うのか!?」
「だから衛青将軍も、『李広将軍を殺した』と、誤解されたんじゃないか?」
「どういうこと・・・・?」
「庶民(俺達)には、『衛青将軍が原因で、李広将軍が死んだ。』という情報しか伝わっていない。衛青将軍や李広将軍を知る者が聞くのと、知らない者が聞くのとでは、捉え方が違うはずだ。」
「捉え方が?」
「『衛青将軍が原因で、李広将軍が死んだ。』と、聞いただけじゃ、いろんな可能性を考えるだろう?彼らを知る者なら、どんな経緯でそうなったか、大体の想像はつく。ところが、知らない者が聞けば、衛青将軍が李広将軍を殺したと誤解するんじゃないか?」
「――――――――――あっ!」
(そうかもしれない・・・・・!!)
『衛青将軍が原因で、李広将軍が死んだ。』って聞いただけじゃ、普通の人は単純に考える。
衛青将軍が原因=原因である衛青将軍が悪い=衛青将軍は悪人。
・・・・・・・・・・・・・と、いう、方程式を弾き出すだろう。
「そっか・・・。情報が曖昧だと、良くも悪くも想像できる・・・・・!」
「しかも相手は大将軍だ。日常生活の中で、大将軍と民間人が触れ合う機会なんてないだろう?あったとしても、相手の本質を見抜くまでの付き合いなんてできるわけがない。」
「ええ。そうなれば、自分達で好きなように想像するしかないわね・・・。」
「だから『衛青将軍が原因で、李広将軍が死んだ。』と聞けば、どうしても衛青将軍の方を悪く思ってしまったんだ。」
「じゃあ、衛青将軍が悪者扱いされるのは、人々の妄想が付け足された結果なのか!?李広将軍をいびり殺したとか、見殺しにしたとか、置き去りにしたとか――――そういう濡れ衣を着せられたってこと!?」
「内容までは知らないが、まぁ・・・多分、そんなところだろう。それが慶事ならともかく、凶事となれば――――・・・人の恨みや妬みも加えられる。」
「恨みや妬み?」
「ああ。李家同様、寒門出身の衛青将軍をよく思わない人間の嫌がらせだよ。現にお前、郭勇武が、衛青将軍に突っ掛かってるところを見たんだろう?」
「!!」
林山の言葉で、星影の記憶は逆流する。
彼女の頭に浮かんだのは、衛青将軍に言い負かされ、悔しそうにする天敵の姿。
「―――――――見た!憎々しげに、突っ掛かってた!!」
思い出したことを口に出せば、やっぱりな、と頷く林山。
「そういう連中が、噂を悪い方に煽ったりするんだよ。」
「その通りだ!余計な知恵の働く奴らだから、悪評にするのは簡単だわ・・・!」
「しかも、人の死に関する情報なら、間違いがあってはいけない。だから、『衛青将軍が原因で、李広将軍が死んだ。』という話の内容にも、『間違って伝わってはいけない。伝わるはずがない。』と、思うだろう?」
「それじゃあ――――そんな人間の先入観を利用して、嘘の情報をばら撒いたってこと!?」
「おそらくな。だから誰も、『衛青将軍が、李広将軍を殺した。』という話を疑わなかったんじゃないか?無論、俺も含めて・・・・!」
「つまり、心理作戦を使ったということか!?四面楚歌みたいな!?」
「それとこれとじゃ、意味は違うが―――――――・・・・まぁ、作戦的には似てるかな・・・?」
「そういうことだったのか・・・・・・・・・・!」
苦笑しながら言う林山と、わかったとばかりに頷く星影。しかし―――――――
「だけど・・・・・・それはそれで、おかしくない?」
「なにが?」
「なんで誰も、そんないい加減な噂を注意しなかったの・・・?」
衛青将軍がどういう人間か知っていれば、その噂が間違っていることに周囲は気づいたはずだ。そうなれば、でたらめな噂をしている奴らを叱りつけることが出来るはずである。
『衛青将軍が、李広将軍を殺した。』という噂を、民衆に広がることはなかっただろう。
そんな星影の疑問に、湯を口に運びながら林山は言った。
「そりゃあ俺達みたいに、気心の知れた仲なら言うぞ。でも、大将軍ともなるとそうはいかないだろう?」
「なにそれ?大将軍になると、教えてくれる友達がいなくなるわけ?友達が減るって法則でもあるの!?」
「そんな法則はない!だけど・・・大将軍と親しく出来る相手となると限られてくるだろう?」
「交友範囲が、狭くなるってこと?」
「狭くじゃなくて、高くなるだろう!?交友範囲は!」
「そうなのか?」
「そうだろう!?付き合う相手が、大将軍に近い地位の高官や皇帝とかになるんだからさ。」
「やっぱり狭い範囲じゃん!?」
「出世するってのは、そういうことだろう?だから驚いたんだよ、俺は!衛青将軍が、星影を助けたことに・・・・!」
「驚くことかぁ〜?人助けが?」
「驚くさ!身分にうるさい宮中で、宦官であるお前を衛青将軍は助けた。それも、賊の疑いが強い奴をだ!仮に、陛下の気を引こうとした行為だとしても――――――・・・失敗した時のことを考えれば、かなりの代償を払わされるってのに・・・。」
「じゃあ、危険を冒してまで、私を助けてくれたってこと・・・!?」
「・・・そうなるな。」
林山の言葉で、嬉しそうにハニカム星影。それを横目で見ながら、湯をすする林山。
「俺も詳しくは知らないが、上流階級の人間は、『はしたない』という理由で、あまり噂話をしないらしいぞ。」
「なっ!?衛青将軍の話が、はしたないって言うのか!?」
「そうじゃない。よけいなおしゃべりはしたくないってことさ。高官って言えば、年配の者ばかりだろう?そういうハジけた話よりは、国政や外交についての話を、熱心にしたがるものだ。」
「そっか!年寄りに冗談は通じないからな・・・!」
「そういう言い方するんじゃない!目上に対して・・・!」
「別にいいんじゃない?土地は変われど、年寄りはどこも同じってことでしょう?藍田みたいに。」
楽しそうに言う星影の言葉で、故郷でのことを思い出す林山。
藍田きってのじゃじゃ馬娘・劉星影は、藍田の長老達の悩みの種だった。
彼らはことあるごとに、いつも星影を非難していた。
しかし、星影も星影で、彼らの話に耳を傾けることはなかった。
いつも、話半分で聞いていた。
ああ言えば、こう言い、ここ言えば、ああ言う。
結局根負けしてしまい、みんな星影の好きなようにさせていたのだ。
口喧嘩で彼女に勝てる相手など、そうそういないのである。
(まぁ・・・自分を見捨てた人間からの指図なんて、誰も聞きたくないがな・・・。)
諸々の事情も思い出し、一人沈痛な面持ちになる林山。
「でもさ、親しくする相手が限られてるって言っても、下の者との交流がまったくなかったってことはないでしょう?」
そこへ彼の思いなど知らない義姉が、新たな問いを発する。それに答えるため、再び口を開く林山。
「・・・まぁな。衛青将軍ほどの御仁なら、勝手に近づいてくる人間もいるだろう。」
「・・・・・それって、取り入ろうとする奴らとか?」
「そんな連中ばかりじゃないぞ!純粋に衛青将軍に憧れて、慕っている人間だっているだろう!?」
「じゃあさ、そういう者達が伝えたりしないの!?『尊敬する衛青将軍のでたらめな噂が、流れてますよ!』って!?」
「言ったかどうかは、わからない。ただ・・・仮に伝えたとしても、肝心の衛青将軍が動かなければ、意味がないだろう?」
「動かないって?」
「誤解を解こうとしなければってことだ。」
「なに言ってんだよ、林山!?どこの世界に、自分の身の潔白を証明しない人がいるっていうんだ!?」
「・・・・いるだろう。星影が話した通りの衛青将軍なら・・・。」
「どういうこと・・・!?」
「衛青将軍は、周囲に気遣う優しい性格なんだろう?あまりにも気遣いすぎるから、媚びていると誤解されるくらい。」
「そうよ。謙虚なだけなのにさ!」
「しかも衛青将軍は、李敢に逆恨みで殴られた時だって、皇帝に訴えなかったんだろう?」
「うん。馬鹿息子の気持ちを考慮してね。」
「それでいて、基本的な性格が、周囲への気遣いときている。」
「だから?」
「そうなれば、自然と争いごとを好まない、事を荒立てるようなことはしないだろう?」
「・・・・なにが言いたいんだ、林山?」
「衛青将軍は、争いごとを防ぐためには、自分を犠牲にする人じゃないのか?そのためなら、自分が悪者になってでも、平和を保とうとするんじゃないか?」
「あ・・・・!」
林山の言葉で黙り込む星影。
親友の推測は、現実味のあるものだった。
常に周囲を気遣う衛青将軍なら、その変化を嫌うはずだ。
和を乱すようなことを、避けたがるような気がした。
「そう・・・ね。そうかもしれない・・・。」
「だろう?そう考えれば、李敢の行動だって説明がつくぞ。」
「行動って・・・李敢が衛青将軍を殴ったこと?」
「ああ・・・・・。もしからしたら李敢は――――――――――衛青将軍が殴り返さないと踏んで、殴ったかもしれない・・・。」
「わざとやったってこと!?」
「それも、八つ当たりの意味を込めてしたかもしれない。」
「八つ当たりだぁ〜!?」
「そうだよ。名門の家柄でありながら、寒門の出である衛青将軍に手柄を持っていかれたんだ。身分も、李家を上回る速さで出世した。」
「それに身分は関係ないだろう?実力ある者だけが、功績を残せるんだから。」
「手柄だけじゃない。李広将軍の死後、李家は完全に活躍の場所を失ったんだ。なによりも、偉大な父親を奪われたんだぞ?・・・・・衛青将軍を恨まないはずがないだろう?」
「それじゃあ李敢は・・・・衛青将軍の性格を見抜いたうえで、殴ったってことかよ・・・!?」
「あくまで仮説だけどな。」
「信じられない!!もしそうなら、私は李敢の墓を暴いて、その死体を辱めてやるっ・・・・・!」
「やるな、怒るな!俺達は、想像で話してるんだぞ?そういう可能性もあったんじゃないかと、推測で話しているだけなんだからさ。」
「そうだけどっ!」
「どうせ、今となってはわからないことだろう?本人は死んだんだからさ。」
「そうだけど・・・。」
そう・・・死んでしまったら、その人間がなにを考えていたなんかわからない。
李敢が、どんな思いで衛青将軍に暴力を振るったのかなんてわからない。
でも・・・衛青将軍の登場で、李家が没落したのなら・・・恨んでいた可能性は高い。
「・・・今となっては、わからないってことか・・・。」
死人に口なしとはよく言ったものだ。
李敢の気持ちなんて、李敢しかわからないだろう。
ただ、事故を装って殺されたことは、李敢でなくても無念だったろうけど・・・。
「父親が自害で、その息子が殺害・・・それも射殺されるとはね。」
「まぁ・・・家の栄華なんて、そう長くは続かないって事だろう?」
「そうだね。没落のきっかけが、血気盛んなじーさんの身勝手なんだから。」
「だから、『飛将軍』をじーさん言うな!つーか、お前・・・・李広将軍がどんなお方か知らないだろう?」
「知ってるよ。人の話を聞かない慌て者だろう?」
「馬鹿!誰が慌て者だ!?やっぱりお前、あの人をきちんと理解してないぞ!?」
「してるよ!だって、琥珀が――――――――・・・・・・・・!」
そう言いかけた星影だったが、彼女の言葉はそこでとまった。
“陛下が、李広将軍を衛青将軍の指揮下に置いたのは、衛青将軍が匈奴について一番良く知っていたからなんだ。衛青将軍は、匈奴の戦法や地理的に詳しかったからね。だから陛下は、衛青将軍を匈奴討伐の総大将にしたんだよ。ところがそれを、李広将軍は理解していなかったんだ。”
星影の脳裏に、琥珀の言葉がよぎる。その瞬間、彼女の心に一つの疑問が生まれた。
「・・・理解してたのかな。」
「はぁ?」
「林山・・・陛下は言ったのかな?」
「なにをだ?」
つぶやくように言う星影。その声を聞き取ろうと、聞き返す林山。
「陛下は、『衛青将軍の方が、匈奴の内情・戦法に詳しい』ということを、きちんと李広将軍に説明したのか?」
「はい・・・・・・・・・?」
真顔で尋ねる星影に、林山は呆気に取られるのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
「衛青仲卿が嫌われ役になっている」という設定について、小説の内容とは少しズレますが、ちょっと書かせてください(大汗)
いつの時代かは忘れたのですが、李広を主人公にした後世の時代小説で、「悪役=衛青」という内容のものがありました。その小説の中で、李広将軍を死に追いやった将軍として、衛青は紹介されていました。どうやら、衛青が悪者役にされていた時期があったようです。
それを今回は、書いてみました。
※誤字脱字を発見された方、こっそりでいいのでお知らせください・・・・!!
よろしくお願いいたします(平伏)