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第四十七話 義姉弟喧嘩(後編)

意外な仲介者(ちゅうかいしゃ)達(!?)からの制止により、最悪の空気を回避した(りゅう)星影(せいえい)安林山(あんりんざん)

両側の壁に耳をつけ、隣人達の寝息といびきを確認する二人。

それらを聞き届けると、壁から耳を離して席へと戻る星影と林山。

そして、完全に周囲が静寂になったところで二人は口を開いた。


「とりあえず・・・お前には、もうなにも言わないようにするよ、星影。」

「な、なんだよ、急に?」

「お前には、あまり常識は通用しないからな・・・。怒るだけ、無駄なことだよ。」

「義理の姉に、失礼なことを言うな!!」

「だから大声を出すな、星影!!」

「お前もうるさいぞ、林山。」

「もういい!あーあ、馬鹿らしい・・・。」


そう言うと、湯の入った器を口に運ぶ林山。


「まぁ、いいけどな・・・。」

「なにが?」

「少し叫んだら、すっきりした。・・・もういいよ。」

「・・・なに?」


すっきりしただ?


その言葉を聞き、思わず相手の方を見る星影。


「お前がいろいろあって苛立(いらだ)っていたように、俺も・・・苛立(いらだ)っていたんだよ。」

「り、林山・・・?」


それまでの激しい口調とは打って変わって、落ち着いた声で言う義弟。そこには、いつもの穏やかな林山の姿があった。


(毒気が抜けてる・・・。)


そんな親友を食い入るように見つめる星影。この義姉からの視線を受け、林山は静かな口調で言った。


「・・・・俺はな、星影。お前が陛下に気に入られたことを、逆手に取ろうとしている姿勢が心配なんだよ。」

「心配って・・・?」

「お前は、陛下に気に入られたことを利用して、星蓮の居場所に関する情報を聞きだす気だろう?だけど、あの皇帝は一筋縄で行くご仁ではないぞ。」

「あの変態が?」

「変態言うな!・・・陛下は、十六で即位してから数十年、歴代皇帝の中でも、名君として君臨しているんだ。いくら、お前が知恵を働かせようとも、このまま嘘がバレないはずがない。」

「え?でも、偽の涙に騙されたよ。」

「成功例は忘れろ!最初が上手くいったから、次も上手くいくと考えるな!それが、失敗の元なんだぞ?」

「自信を失わないためにも、覚えておく必要があるよ。」

「安心しろ。お前は十分自信に満ち溢れすぎている!とにかく、陛下が本気を出せば、赤子の手をひねるように、お前を殺すことだってできるんだからな・・・?」

「殺すって・・・。」


ちょっと、大げさじゃない?・・・そう、顔で訴えかければ、林山は首を振りながら言った。


「今の皇帝は、自分の思い通りにならない人間を一番嫌うお方だ。もし、お前が自分の言いなりにならないと思った時、『命を奪う』という、強硬手段に出る可能性があるんだぞ?」

「言いなりって・・・。」

「心当たりはあるだろう?・・・・・・・二度も襲われているなら。」

「あ・・・!そう言えば・・・・。」


誘われたし、襲われた。

直球の台詞で、誘いを受けた。


林山の言葉で、嫌な記憶がよみがえる星影。


最初は陛下を助けた時。

危なかったけど、騒ぎを聞きつけた宮廷兵のおかげで、なんとか逃げることができた。

二回目は高級宦官として再会した時。

かなり危なかったけど、琥珀と空飛が来てくれたおかげで、なんとか途中やめになった。


「どちらも未遂ですんでよかったが、これからはそうとも限らないぞ?二度あることは三度あるんだ。また、狙ってくるぞ・・・?」

「うん・・・。」


林山の言い分ももっともだとばかりに、相手の言葉に頷く星影だったが・・・。


「大丈夫だよ!いざとなったら、李延年を利用するから!」


あの嫉妬深い恋人(?)を使えばいい。

陛下が、強引に関係を迫ってくれば、延年のことを言えばいい。

『延年様に申し訳ない。』とか『裏切り行為をしてほしくない。』と言えば、あの最高権力者はやめるはず。

それに、そういう雰囲気になるとわかれば、あの手この手で、その場に延年を呼びつければいい。

そうすれば、私に手出しするはずないし、出せるわけがない。


そんな考えをめぐらせる星影に、林山は意外な発言をした。


「では・・・その男寵も、お前を利用してきたらどうするんだよ?」

「利用?」


(あの軟弱者が、私を?)


「話を聞いた限り、李延年は・・・かなりの切れ者だぞ。下手をすれば、陛下よりも厄介だ。」

「・・・確かに、陛下がいる時といない時じゃ、性格が全然違うな・・・。」

「そんな人間だからこそ、隙あらば、お前を陥れようとするぞ。今後は、後宮でのお前の行動にしても、逐一で調べるだろう・・・!」

「え〜調べるかな・・・?」

「調べるさ。自分の男寵としての地位を、脅かそうとする『安林山』のことをな。・・・・最悪の場合、お前を殺すかもしれないぞ・・・!?」


低い声で、ささやくように言う林山。その言葉に、星影は呆れ気味に言った。


「おいおい、まだ頭が寝ているのか?私は、あんな軟弱者にやられるほどやわじゃないぞ。」

「馬鹿!お前を消すために、自分の手を汚すわけがないだろう?刺客やらなんやら雇って、汚い手段で殺すだろう。」

「刺客なんて、林山〜」

「ああ!お前なら刺客の二、三十人ぐらい、平気で倒すだろうな!だが、毒でも盛られれば、どうなるかわかったもんじゃないぞ?」

「毒って・・・。後宮で毒が使われるなんて、(まれ)じゃ――――――」

「―――――――ないだろう?現に、宮中で毒が使われているところをお前は見たはずだぞ。」

「・・・あっ・・・!」


その言葉で、陛下を助けた夜のことを思い出す星影。自ら毒をあおって死んだ男達。秘密を守るために死んだ暗殺者達。


「後宮では毒を使った殺しが一番多いんだぞ、星影。」

「確かに、毒で死ぬところは見たけど・・・・毒を使ったのは、外部の人間だったよ?」

「星影のは特殊な例だ!普通に宦官として仕えていても、陛下が暗殺されかける場面に遭遇する確立はないに等しいものだぞ・・・!?」

「じゃあ、私って運がいいんだな〜」

「まぁ・・・普通は、巻き沿いを食って死ぬんだけどな・・・。」

「普通じゃないって言いたいのかよ!?」

「運がいいなって、褒めたんだけど?」

「もういいよ!つまりお前が言いたいのは、延年が毒を使って私を殺そうと(たくら)んでるってこと?」

「否定はできないだろう?」

「そりゃあ・・・嫌われてるのは自覚してるよ。でも、そんな簡単に毒を宮中に持ち込めるか?」


「金があれば可能だろう?あそこの人間は、平気で毒のやり取りをするらしいからな・・・。」

「え〜冗談だろう!?いくら金があっても、宮中はこの国の中枢機関なんだぞ?そんな簡単に、毒が持ち込めるわけが・・・・!」

「・・・持ち込めるさ。李延年が噂通りの高級宦官ならな。」

「・・・職権(しょっけん)乱用(らんよう)ってことか?」

「ああ。それに・・・そういった真似をするのは宦官だけじゃないしな。」

「なに?他にも、劇薬を使う奴がいるのか!?」

「・・・いるよ。後宮の大半を占める女官やお妃様方が―――――・・・自分達のために劇薬を使うんだよ・・・。」

「なに!?女官や奥方が、毒を使うのか!?」

「馬鹿!声が大きい・・・・!」

「いや、だって・・・!毒だろう?毒を使うんだろう・・・女性が・・・!?」

「・・・ああ、使うらしい。」

「あの可愛い女官や、陛下の奥方が使われるのか・・・?」

「・・・ああ。見たことはないが、その(・・)可愛い女官や陛下の妃達でさえ、時と場合によっては使うらしいぞ。」


信じられない、というような顔で、自分を見る親友兼未来の義姉。その視線を受け、頭痛を覚える林山。


「普段から、『人は見かけによらない。』って言っているのは、どこのどなただったかな、星影?」

「疑り深いのも考えものじゃないか、林山?てか・・・そんな話聞いたことないよ。」

「昔話で聞かなかった?つーか、歴史を習ったなら思い出せ!敵国からの刺客の話とかを思い出せ!似たような話があるだろう!?」

「あ・・・!そう言えば・・・。」


(そんな話があるったようなぁ〜)


古い記憶を掘り起こし、なんともいえない気持ちになる星影。


「思い出したか?」

「・・・思い出さなきゃよかった・・・。」


女達の残酷な伝説を思い出し、彼女は顔をしかめた。そんな星影に林山は言った。


「お前の話が本当なら、桂蓮みたいな奴が宮中にいるということか?」

「ま、まぁ・・・そうだな。」

「嘘だろう・・・!?後宮には入れるくらいの女性が、そんなことをするはずがない・・・!」

「するさ。陛下に近い立場の女性ほどな。」

「私は信じないぞ!後宮にいるのは、高貴な女性達だろう!?教養が高くて、気品あふれる才覚と美しさを備えた美女なんでしょう!?」

「だから、自分の手を汚さないために、自分の子飼いである女官や宦官にやらせるんだろう?それが、後宮で女達が出世する一番早い方法らしいぞ。」

「・・・詳しいんだな?」

「常識だろう?これぐらいのことは、みんな知っていることだぞ。」

「そうなのか?」

「そうだよ。」

「ぶっそうなんだな・・・後宮って。」


てか、女の楽園じゃなかったの?

陛下専用の女性の花園じゃなかったの?

そんな場所で、女達の潰しあいとかがあるわけ?

かなり危険な、女の戦いがあるわけ?

それが、宦官とかによって、危険地帯にされたりするわけ?


林山からの話を聞き、改めて宦官以外の後宮の人々について考える星影。


「つーか、誰か宦官を取り締まれよ・・・。」

「無理だろう。その宦官を甘やかしているのが、陛下なんだろう?」

「それはそうだが・・・。」

「ついでに、そんな宦官を(かば)っているのがお妃様達だ。」

「・・・でもさ、それはあくまで過去の王朝や、昔の皇帝の時代だろう?今でもあるとは、思えないけどな〜毒殺とか、そういうこと・・・。」

「・・・確かに、俺も断定はできない。見たわけじゃないからな。お前に話したことだって・・・あくまで予想でしかない。」

「だったら、うかつなことは言わない方がいいぞ!星蓮と結ばれないうちに、お前が死んだら困る!」

「俺はそう簡単に死なないよ!でもな――――――・・・・まったくないとは言えないだろう?少なくとも、『過去の事例』で、そういうことがあったんだ。今がないはずがない。」

「あ、それもそうか・・・!」

「そうだろう?それに、みんな・・・口には出さないが、あるとは思っているんだぜ?」

「なんだよ、それ?不越罪になるから言わないってか?」

「違うよ。それも半分あるけど―――――・・・そういう証拠がないから、誰も言わないんだ・・・。」

「そっか・・・!証拠がなければ、白を黒にも、黒を白にも出来るからね?」

「そういうことだよ。」


林山の話を聞き、星影は嫌な気分になった。

完璧な女性しかいないといえる場所に、桂蓮のような意地の悪い女性達がいる。

そう思うと、これから会うであろう陛下の妃達に会いたくなくなった。

顔を合わせる前に、星蓮が見つかればいいと思った。


「宮中は・・・嫌な男だけじゃなくて、嫌な女もいるのか。」

「ああ・・・。民間とあまり、大差ないんだろうな。足の引っ張り合いの程度とかも・・・。」

「つまり、憎い相手を蹴落とすためなら、どんな手段も選ばないってか?」

「・・・そうだろうな。寵愛を()るために、命の奪い合いをする。それが後宮って場所じゃないのか?」

「・・・。」


林山の言葉を聞き、顔色を変える星影。


(・・・なんだかんだ言って、星影も女性なんだな。)


そんな義姉の姿に、密かに安堵感を覚える林山。


皇帝をめぐる女達が争う話。

悪女の例として、例えられた女性達。その存在を、男である林山もある程度は知っていた。

悪女の話を聞き、『こんな女性には気をつけろ』と、言われたことも多かった。

男の自分から聞いても、むごいと思う話を、女性が聞けばかなり嫌なはずである。

現に、自分の恋人である星蓮に話した時、かなり嫌そうな顔をしていた。

今回、そういった話を星影としたのは始めたったが・・・・。


(やっぱり、星影も女性なんだな。)


顔色を変えて黙り込む星影。恋人と同じ反応をした親友。

男勝りな彼女のことなので、元気よく笑い飛ばすかと思った。

それだけに、今の反応は意外なものだった。


(この姿を見れば、他の奴だって、星影にも女らしいところがあると思うはずだ。)


だから星影に悪いと思いつつも、女性らしい親友の姿に林山は少し安堵した。

そんなことを考える林山に、生気(せいき)のない声で星影が話しかけた。


「林山・・・。」

「うん?」

「・・・怖いな、後宮って・・・。」

「ああ・・・怖いみたいだ。」


子供のような感想を述べる義姉に、笑いを堪えながら返事をする林山だったが――――


「そんなところに、私の可愛い妹がいるのか?」

「え?」

「そんな場所に、私達の大事な星蓮がいるんだよな・・・・?」

「―――――――――――――――!!」


この言葉で、林山から笑いは消える。


「どうしよう・・・星蓮いじめられてないかな・・・!?」

「せ、星影・・・!」

「平気で毒を使う女共がいるんだろう?そこに星蓮がいるんだよな?」

「いや、そうだけど・・・」

「そんなところに、星蓮のような優しい子が行ったら――――――いじめの的じゃないか!?」

「な、なに言ってるんだよ!?」


(そうだよ・・・!なに言ってるんだ、俺は!?)


星影からの言葉を受け、自分の失言に気づく林山。


「どうしよう・・・!いくらあの子がしっかりしてても、所詮(しょせん)・・・私達は田舎者・・・!都の人間は、意地が悪いというじゃないか?」

「待てよ、星影!」

「都会の人間は冷たいとか言うだろう?それが、身分の高い人間ならなおさらじゃないか!?」

「星蓮はしっかりしているから、大丈夫だよ。」

「本人がまともでも、周りがまともじゃなければ意味ないだろう!?」

「それは―――・・・!」

「どうしよう・・・早く見つけないと・・・!星蓮・・・!」



動揺する星影の姿に、林山は痛感した。

自分の発言で、相手を不安にさせたということを。

それと同時に、自分自身も不安にかられていた。


なに言ってんだよ・・・俺・・・。


(星影を不安にさせるようなことを言ってしまうなんて・・・。)


いや、不安になったのは星影だけじゃない。

俺自身も、自分の言葉で不安になっていた。

話を聞く側だった星影はまだしも、話をした側の自分が不安になるなど・・・自業自得もいいところである。


「星蓮・・・星蓮・・・!」


青ざめた顔で、妹の名前を何度も繰り返す星影。

原因を作ってしまっただけに、その姿に罪悪感を覚える林山。

そして、罪滅ぼしとばかりに、陽気な声で星影に言った。


「しっかりしろ、星影!俺の言い方も悪かったが、そこまで不安になる必要はない。今は星蓮の身に、なにもないことを祈るしかないだろう・・・!?」

「祈ってどうにかなる問題か!?助けた方が早いだろう!」

「居場所がわかれば、すぐにでも助けに行くさ!それがわからない以上・・・祈る以外に方法があるか?」


厳しい口調で言う林山に、思わす視線をそらす星影。そして、少しかすれた声で言った。


「・・・・すまない林山。私が不甲斐(ふがい)ないばかりに・・・。」

「ほ、星影?」

「私が早く、星蓮を見つけられないばかりに・・・!私が―――――・・・!」


(長子である私が、しっかりしていないばかりに・・・!!)


こうしてるうちにも、星蓮はいじめられてるかもしれない!

先輩である妻達に、『あんた、可愛いからっていい気になってんじゃないわよ?』と、いびられてるかもしれない!

藍田にいたころなら、私がそんな馬鹿女共をぶちのめせばよかったが、今のあの子には味方が(おそらく)いない!

星蓮は、野に咲く一輪の花のような子だ!!

その場にいるだけで、人目を引くぐらい可愛い子!私の自慢の妹!!

あの子の側にいたら、他の花が見劣りしちゃうからな〜

それで逆恨みされて、嫉妬とかされちゃったりしたら・・・・!!

女って、男よりも陰湿(いんしつ)な部分があるからな・・・。

部屋に閉じ込められたり、ご飯の中に虫とか入れられてるかもいしれない!

あの子は・・・星蓮は、涙をこらえてそれに耐えてるかもしれない・・・!!




『助けて・・・!星影姉さん・・・!!』




(私の名前を呼び、助けを待っているはずっ!!)



「・・・星影?おい星影、星影っ!」


急に黙り込む親友の姿に、心配になって声をかける林山。


「星影!大丈夫か、星影!」

「林山・・・・。」


その呼びかけに星影が気づき、ゆっくりと顔を上げる。


「どうしたんだ?急に黙り込んだりして・・・。」

「ねぇ、林山・・・。」

「なんだよ?」





「・・・・・・死体さえ出てこなければ、何人殺しても罪にはならないよね?」


「なに真顔で、恐ろしいこと言ってんだよっ!?」





真剣な星影の態度に、冷や汗をかく林山。そんな義弟に、必死の形相で義姉は言った。


「だ、だってだって!星蓮が・・・可愛い妹が、年増の女達にいじめられたんだぞ・・・!?」

「落ち着け!それお前の中の妄想だ。」

「私の妹に、虫の入った食事を強要したんだ!殺しても罪にはならないはずだ・・・!そう、法律で決まっているはずだ・・・!!」

「どんな法律だよ!?それ、お前の妄想限定の法律だろう!?」

「心配するな!証拠が必要なら、こちらが適当にでっち上げればいい・・・!そうすれば、あの性悪共は豚の餌だ・・・!」

「過保護にも程があるだろう!?気持ちはわかるが冷静になれ、星影!星蓮は、いじめられてなんかいないさ!」

「なんで断言できるんだよ!?見たのかよ!?見たのか?見れるわけないだろう!?」

「うるさい!それぐらい見なくてもわかる!」

「なんだよ、いつのまに透視を身につけたんだ?」

「身につけてないし、持ってないよ!そんな能力!!」

「じゃあ、なんでだよ!?」

「お前の妹だからだ、星影。」

「え!?」


その言葉で、星影の言葉は途切れる。

そして、それと入れ代わる形で、今度は林山が口を開いた。


「劉星影の妹だからこそ、ちょっとやそっとのことじゃ、星蓮は負けない。そうだろう?」

「林山・・・。」

「俺は、星蓮のことはもちろん心配だ。でも、星蓮がどんな女性かわかっているから、安心している面もある。」

「それは・・・そう、だが・・・。」

「星影・・・俺は、星蓮同様に、お前のことも心配だ。」

「え?」

「お前の話を聞いて、後悔してるんだ。後宮に行かせたことを。」

「いまさらなにを言ってるんだ、林山!?」

「ああ、本当にいまさらだな。でもな、後悔してるのは事実だ。」

「・・・お前が今頃反対しても、もう遅いんだぞ?私は、やめるつもりはないからな・・・!?」

「わかってる・・・。とめても無駄だし、俺も・・・・とめたくないからな。」

「なんだよ。わかってるならそんなこと―――――」

「――――――言わせてくれよ。親友として、言っておきたいんだ。」

「・・・林山?」

「宦官のことばかり言って、その他のことをお前に言ってなかったよな・・・?だから・・・他の事も言っておきたいんだ。」

「他のこと・・・?」

「ああ・・・後宮は美しい世界じゃないってことだ。美しい分、醜い部分も多くある。」

「そう言われれば、変なとこが・・・多いかな?」

「多いと思うぞ。・・・これから先、お前はもっと嫌な分部を見ると思う。陛下、女官、妃達はもちろん、同僚や部下、上司の悪い面を見るかもしれない・・・。」

「なんか、悪いことばっかり言っていない?」

「仕方ないだろう。そういう話しか知らないんだ。気をつける話として・・・な?」


そう言うと、困ったような笑みを浮かべる林山。


「俺が思うに、結局外も内も・・・高貴な連中と俺達も、やっていることは同じなじゃないか?」

「私達庶民と、高貴な連中がか?」

「ああ。身分さえ取り除けば、ほとんど同じだと思う。実際見て、星影はどう思った?」

「そうね・・・。確かに、身分の厳しさを除けば――――――」


同じかもしれない。


そう目で訴えれば、林山は軽く頷く。そして、真剣な表情で星影に言った。


「俺は・・・・星影が権力争いに巻き込まれてほしくない。」

「なんんだよ、急に?」

「急でもないし、取り越し苦労でもない。お前が、陛下のお気に入りになった以上、その地位をめぐった争いが起きるはずだ。現に今、起きているだろう・・・?」

「そうだけど・・・別に、私は陛下のお気に入りとか興味ないよ。」

「お前がそうでも、周りはそうもいかないだろう・・・。今後、宮中にとどまる以上、それを利用しようと近づく輩が増えるはずだ。その時・・・お前がどう対処するかだ。」

「星蓮を助けるまでは、私はどんなことでも耐えて見せる。正体だって、隠し通して見せるさ・・・!」

「そうじゃない、星影。俺は―――――」

「心配しなくても、欲に目がくらんだりしないよ。」

「星影・・・。」

「私は、そのために宦官になったんだぞ?目的を見失うわけが―――――」

「―――――見失ってもいい!そのために、お前が命を落とすようなことになるなら、見失ってくれた方がいい・・・!」

「林山!?」

「お前が死んだら、星蓮が悲しむだろう?」

「え・・・・?」

「俺は、星蓮に恨まれたくはない。それに、俺も、大事な親友を失いたくない。」

「・・・林山。」

「仮に、今回失敗しても、諦めなくてもいいだろう。逃げ延びて、もう一度機会をうかがってやるさ!」

「林山、お前・・・・。」

「あくまで、三人(・・)で(・)都から脱出することが目的だろう?だれか一人でも欠けるのは、嫌だろう・・・?」

「林山・・・・!」

「だから無茶をしないでくれよ、星影。お前になにかあったら、俺達(・・)夫婦(・・)は気が気じゃないからな?」


(夫婦ってこいつ・・・!)


もう、そのつもりでいるのかよ。


林山の言葉に、思わず笑みを漏らす星影。


「心配してくれたのか・・・林山?」

「星影の命が心配だからこそ、いろいろ言ったんだけど?」

「そ、そうなんだ・・・。」

「まぁ、いいや。それより・・・ほら、これ使えよ。」


そう言って、星影に布を差し出す林山。それはさきほど、星影の服を拭くようにと、林山が懐から出したものだった。そして、星影が乱暴に払い落としたものでもあった。


「林山・・・。」

「借り(・・・)なんだろう?濡れたまま返したら、さすが小心者も、犯人探しをするかもしれないぞ?」


優しく星影に語り掛けると、再度、布を星影に差し出す林山。星影はそれを、ゆっくりと受け取りながら言った。


「・・・ごめんなさい、林山。あなたの身分で、むちゃくちゃなことばっかりして。」

「お互い様だろう?俺も・・・ちょっと、言い過ぎたよ。ごめんな。」

「い、いや・・・私が悪かったよ。本当にごめんね、林山。」

「ああ・・・俺の方こそ。ごめんな、星影。」


そう言って、笑みを見せる林山に、星影も笑顔を見せる。一応は、一段落する星影と林山の喧嘩。最後は、性格的に一歩大人な林山が、折れる形で星影をなだめた。これに対して、謝られることが苦手な星影は、素直に自分の非も認め、謝罪の言葉を述べたのだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!

義姉弟喧嘩の後編です。林山が、大人になることで、喧嘩を鎮めるという形で書いてみました(苦笑)とりあえず、【林山が星影を心配している】というところを表現できるように書いてみました(笑)


更新が、大変マイペースでごめんなさい(土下座)

おそらく今後は、マイペースに行くと思います・・・。こればかりは性格なので、ご了承ください・・・(平伏)


※誤字・脱字・漢字の間違いがありましたら、こっそり教えていただけると、ありがたいです・・・!!


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