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第四十四話 真実に気づいた時・・・。

部屋から立ち去る丁一族の悪巣達。後には、一部の丁夫人の一族、劉家一族、喬家一族、安家一族だけとなった。この時になってようやく、丁夫人は泣き言を()らした。


「・・・・馬鹿にして!!安家の正妻である私を馬鹿にしてっ!!」

「・・・鳳娘・・・!」

言葉巧(たく)みに、私の林山を思う心を利用して・・・!それにつけ入るなんて・・・!!取り入るなんて!!」

「鳳娘さん・・・。」

「母心をあの連中は利用してぇ―――・・・!!悔しい・・・私・・・悔しいわ・・・!!」

「・・・丁夫人。」

「本当に情けない・・・!まさか・・・まさか、よりによって、厳先生の言葉なんかで、正気に返るなんて・・・・!」


袖を握り締めて、肩を震わせる林山の母。それにより、部屋の中は気まずい空気となる。

不機嫌になる丁夫人だったが、気分を害したのは彼女だけではなかった。


(演技っていう免罪符で、好き勝手なこと言ってくれるな・・・!)


『なんか』呼ばわりされた厳飛龍も、かなり不快な気分になっていた。


気に入らない者達の鼻を明かせたのはよかったが、丁夫人の機嫌を悪くしたのは失敗だった。ただでさえ、扱いにくい女性を、ますます扱いにくくしてしまったのだ。その証拠に、目の前にいる母親は、面倒くさい状態に(おちい)っていた。


「息子には幸せになって欲しかったの・・・!宦官になるなんて思っていなかったのよ・・・!!」

「鳳娘・・・。」

「私のどこがいけなかったの?世の中、どうにもならない事だってあるのに・・・!そこまで、あの子は星蓮殿を・・・!?」

「気にしてはいけないよ、鳳娘・・・!」


妻を気遣い、丁夫人の肩に手を伸ばす夫。しかし彼女は、そんな夫の手を振り払うと、無言で椅子に腰掛けた。


「ほ、鳳じょ―――――・・・!」


額に手をあてながら、深いため息をつく林山の母。妻に声をかける安家当主だったが、彼の言葉は途中で途切れる。なぜなら、丁夫人の体から、【私にかまわないで頂戴オーラ】が出ていたからだ。


(完全に、ふてくされてるなぁ・・・。)


こうなってしまっては、後は癒遜殿に任せるしかないか・・・。唯一、丁夫人の機嫌を直せる男・・・夫だからな〜。


そんなことを考えながら、安家当主に視線を向ければ、黒雲(こくうん)を放つ女性の機嫌を取っていた。丁夫人の機嫌は相変わらずだが、あのまま続ければ、彼女の機嫌が良くなるのは確かだった。


(さすが、【粘りの癒遜】の異名を持つ男だ。)


よく真面目に、対応できるよなぁ〜

いくら妻だとは言え、面倒くさくならないのかね?

まぁ・・・愛する妻相手なら、そんなに苦にならないだろうが・・・。


(それはそれとして、この芝居はいつまで続くんだ・・・・?)


いい加減、演技することに飽きてきた飛龍。そして、今回の話し合いの主催者である劉伯孝に視線を送る。相手は、飛龍からの目配せに気づくと唇を動かした。



“も・う・す・こ・し・が・ま・ん・し・て・く・だ・さ・い!”


(『もう少し我慢してください』・・・か。)


劉家当主のこの言葉に、飛龍はその言葉の意味を考える。


(なるほど・・・つまり、不機嫌な丁夫人をなだめてから親族を帰し、その後で、われわれだけで話し合いをするということか・・・!)


心得(こころえ)た!”


自分のいいように解釈し、口パクで答える飛龍。

星影の父からの返事を、武術の師匠がばっちりと誤解したことは言うまでもない。




「あ・・・あの!あとは・・・私達だけで話し合いませんか?」


そんな中、悪くなった状況をなんとかしようと喬夫人が口を開いた。


「星蓮と林山殿の件については、親である私達だけで話した方がいいと思いますの。」


場の空気を良くしようと、明るい口調で言う劉家正妻。彼女の言葉に、夫である劉伯孝も同調した。


「うむ、桜華の・・・妻の言う通りだ!どうでしょう、癒遜殿、鳳娘殿!?」

「おお!いいですな!その方がいいでしょう!なぁ、鳳娘!?」

「・・・・・・・・・・・・好きにすれば?」

「あ!いいです、いいです!!是非、そうしてくだされ!!」


投げやりで答える妻の言葉をかき消すように、大声で叫ぶ安家当主。

そんな親達の姿に、他の親族達も納得する。


「そうですね・・・。その方がいいですわ。」

「星蓮殿が、後宮に行った以上、縁談は成り立ちませんし・・・ね?」

「同感です。今日は、これ以上話し合うことはないでしょう。」

「林山殿や星影殿ことは、ご両親が決めた方がいいですからね。」

「それに・・・丁夫人もお疲れのようですから、これ以上の話し合いは(こく)ですし・・・。」

「我々は、伯孝殿と癒遜殿の判断に従いますよ。」


納得したというよりも、丁夫人に対する同情が、それぞれの一族を動かしていた。


「すみません!そう言っていただけると、助かります・・・!」

「とんでもありません、癒遜殿。今日のところは、これにて失礼しますね。」

「急にお呼びして、本当に申し訳ありませんでした。」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。伯孝殿のお呼びとあれば、いつでも参りますよ。」

「そうですよ。それでお役に立てるなら、喜んで伺いますから!」

「ありがとうございます、皆さん。そう言っていただけると、気が楽になります。」

「本当に・・・返す言葉もありません。」

「そんなに恐縮少なされないでください。伯孝殿にも、癒遜殿にも、桜華殿にも、鳳娘殿にも非はないのですよ!」

「そうですわ。伯孝殿達は、被害者なのですから・・・!」


男親子言葉に笑顔で答えると、飛龍に冷たい視線を向ける一同。


(残りは残りで、変な感じで団結してるな・・・。)


女性達の視線を受け、飛龍は苦笑いするしかなかった。そんな武術の師匠に目もくれず、彼女達は丁夫人の元へと集まる。


「鳳娘さん、お気をしっかり持ってくださいね!」

「厳先生には、負けないで下さい。」

「私達は母として、あなたの味方ですから!」

「・・・。」

「ひどいことを言われたら、いつでも私達を呼んでください。」

「その時は、私達が丁夫人をお助けしますから!」

「飛龍先生の毒気に、耐えてくださいね。いつでも、お力になりますから!」

「・・・。」


口々に、丁夫人を励ます劉家の女性陣。しかし、先ほどの身内からの裏切りが答えているらしく、丁夫人が彼女達に返事をすることはなかった。


「鳳娘、みなさん、君を心配してくださっているのだよ?なにか、お返事しないと・・・?」

「・・・。」

「・・・鳳娘。一言だけでも、お返事をしないと、失礼じゃないかい・・・?」

「・・・。」

「鳳娘・・・。」

「そんなに仰らないであげてください、癒遜殿。」

「そうですわ。鳳娘さんも、お疲れだと思いますし・・・ね?」

「私達が、一方的に言っていることですから。」

「すみません、皆さん!妻に代わって、お礼申し上げます・・・!」


そんな妻の代わりに、夫・安癒遜が丁寧に礼を述べる。女性陣も女性陣で、丁夫人の気持ちを察し、気にすることなく声をかけ続けた。


「それではこれで・・・。またご連絡くださいね。」

「私達はいつでも力になりますから!」

「お大事にしてください。失礼します。」

「桜華さん、鳳娘さんのこと、よろしくお願いします。」

「もちろんですわ。皆さん、ありがとうございます。」


こうして、まともな女性陣は、丁夫人に優しい言葉を残すと部屋から出て行く。もちろん彼女達は、去り際に【諸悪の根源・厳飛龍】を睨むのを忘れなかった。


(本当に女とは、執念深い生き物だよな・・・。)


そんな女性陣のアイコンタクトに、飛龍は苦笑するしかなかった。しかし、微妙な笑みを浮かべたのは彼だけではなかった。


「いやはや・・・女性とは怖いものですな〜」

「ハハハ・・・!まったくです。我妻ながら・・・頭が上がりませんね。」

「怖いもの知らずというか・・・団結すると怖いですね、女性は?」


彼女達の夫・・・男性陣も、苦い笑みを浮かべていた。飛龍に気遣うように、そう言うと帰り支度を始める。


「では、我々も失礼しますか?」

「そうですな〜妻達が行ってしまったので。」

「伯孝殿、なにかあったらお知らせください。」

「そうですぞ!仮にも、身内なのですからね?」

「ありがとうございます。皆さんのお気遣い、本当に感謝します・・・!」

「星影殿と林山殿の無事を、心から祈っておりますぞ。」

「失礼しますよ、伯孝殿、癒遜殿。」

「はい、本日はお忙しい中、ありがとうございました。」


女性陣の後を追うように、男性陣も、口々に別れの言葉を述べると、一人、また一人と部屋を後にする人々。程なくして、広い部屋の中には、星影の両親と林山の両親、そして厳飛龍だけが残された。


「いや〜・・・なかなか気の利くご親類ですなぁ〜」

「・・・・・・・・・あなたにも、それぐらい気が利けば、林山は宦官にならなくてすみましたでしょうね・・・!?」

「鳳娘!?」

「鳳娘さん・・・!?」

「あなたといい勝負じゃないですか、無骨者の厳先生?」



静かな部屋で、様子見の意味も込めて言う飛龍。それに対して、ようやく口を開いた丁夫人。優しい声ではあったが、怒りが込められた負の言葉であった。そんな母親の言葉に、息子の師匠はいつもの口調で言った。


「ハハハ・・・厳しいお言葉ですな?」

「あら・・・これでも、優しく言っているのですが?」

「わしは人に媚びるのは得意ではない。あなたのご親族は、かなり得意で上手みたいですがな?」

「飛龍殿!!」

「本当のことでしょう、伯孝殿?あれを、獅子身中の虫と言うんじゃないですかなぁ〜?」



「大きなお世話ですっ!!!」



飛龍の言葉をかき消すように叫ぶ丁夫人。その目は、真っ赤に血走(ちばし)っていた。


「あなたに・・・・先生に言われなくても、私の親類が悪いことぐらいわかってますよ!!」

「ほ、鳳娘・・・!」

「わかっていますとも!ええ!!・・・私は嫌な母親ですわ!!」

「そんな・・・鳳娘さん!誰もそんなことは言っていませんわよ・・・!?」

「嫌な女ですよ、どうせ!林山と星蓮殿の縁談にしても・・・金銭的な取引があるとわからなければ、二人を一緒にしていませんでしたわ!」

「丁夫人・・・。」

「星影殿の妹だから――――――女性らしく振舞えない彼女だから・・・(こころよ)く、安家の一族に迎える気になれなかったんです・・・!」

「鳳娘さん・・・。」

「あの子の将来を、人生を完璧なものにしたかった!だから・・・星影殿を、彼女を理由に、星蓮殿との婚約を許さなかったのよ・・・!」

「・・・鳳娘さん。」

「ひどい話でしょう!?息子の婚約を、二度もすれば、あの子の名前に傷がつくと思ったのよ!!縁談をだめにすれば、林山にバツをつけることになるから―――――!!」

「・・・わかりますわ。婚約破棄は、そう簡単にしてはいけないものですから・・・。」

「かばわないでください!!桜華さん達からすれば、ひどい話なんですから・・・!」

「そんな、私は―――――・・・!」

「星蓮殿が、李家のお嬢さんよりいい子だとわかっても、私は反対したわ!傷をつけたくなかったから・・・・!でも、その反対自体が無意味だったわ!李家の親子が、あんなのだったんだから!!」

「鳳娘さん。」

「大商家の家名を守りたいばっかりに、他の事が見えていなかった!林山のことだけ見すぎて、周りの人間をきちんと見ていなかっいた!!あの子の心を見て――――――!!」


そう言うと、甲高く笑う丁夫人。


「ひどい母親でしょう?そうでしょう、厳先生!?」

「ちょっと、ちょっと。わしはそこまで言ってませんぞ?」

「白々(しらじら)しい!不満のないふりをして、すまし顔で誤魔化すなんて・・・!林山もそうだったんでしょう!?」

「なにがです?」

「あの子から、私の話を聞いたんでしょう!?」

「どんな話ですか?」

「とぼけないでください!星蓮殿が連れて行かれた日、私はあのこと喧嘩をしたのです!」

「喧嘩ぁ?」

「あの子は・・・ずっと星蓮殿のことばかり言って・・・。だから私、林山に言ったんです!」

「なんと?」

「『この世の半数が女性なのですよ!今は星蓮殿が、一番いいかもしれませんが、そのうち、もっといい人が出来ます。早く忘れなさい!』・・・・と、息子に言ったのですよ!!」

「はぁ〜それは、ひどいですね。」

「そうよ!あの子もそう言ったのよ!『母上はひどい!』って!でもね・・・人の心は変わるものよ!?離れてしまえば、永遠にその思いが続くはずがないでしょう!?」

「そうですな、続くことはないでしょう。『綺麗な思い出』として残るでしょうが・・・。」

「『綺麗な思い出』!?」

「現実的な考えも大事かもしれませんが、物事を割り切りすぎるのも、考え物ではないですかね?固い人間になるだけで、柔軟性にかけますぞ。」

「――――――やっぱりあなたが、林山に余計なことを吹き込んだのね!!?」

「はぁ?なんですか・・・一体!?」

「言ってることが同じなのよ!!あなたが言った言葉すべてが!!」

「同じ・・・?」

「そうなんですよ、厳師匠・・・。」


顔をしかめる飛龍に、癒遜がそっと耳打ちした。


「あなたが今仰った『ひどい』や『綺麗な思い出』や『物事を割り切りすぎる』とかいった言葉は――――――最後に息子と言い争った時、あの子が妻に言った言葉なんですよ・・・。」

「林山がですか?」

「ええ・・・。普段は穏やかな子なんですが、妻の言葉で、売り言葉に買い言葉で、ひどい口論になりまして――――・・・。」

「まぁ・・・星蓮のことが絡めば、聞き分けのいい林山も変わるでしょう・・・。」


(つーか、好きな女が絡めば、理性を失うのが男だろう・・・?)


林山の父の言葉を聞きながら、口元を緩める飛龍。


「なにをコソコソ話してるのですか!?」


そんな男同士のやり取りに、丁夫人が食いついた。


「私に隠れてなにを話しているのですか、旦那様!?」

「あ・・いや、鳳娘・・。」

「厳師匠に、林山のことを言わないでください!そんな人に、教える価値はありません!」

「鳳娘!なんて失礼なことを―――」


「―――――――――したのは厳飛龍殿ですっ!!」


そう叫ぶと、拳を机に叩きつける林山の母。


「もういや!わけがわからない!!なんなのよ、この男は!」

「ほ、鳳娘・・・!」

「嫌いよ!大嫌いよ!厳飛龍なんか!!嫌いよ!」

「丁夫人!?」

「鳳娘さん、落ち着いて!」

「大嫌い!・・・返してよ・・・!林山を返して!!林山っ!!」

「鳳娘さん・・・!」

「林山を・・・安家の跡取りを!私の息子を・・・!林山・・・!!」

「しっかりしてください、鳳娘さん!」



「りんざぁぁぁぁ―――――――――――――――ん・・・・・!!」



そう言って、大声で息子の名前を呼ぶ母親。(ただ)ならぬ彼女の姿に、慌ててなだめ役にまわる喬夫人と安家当主。それを見ながら、飛龍と伯孝は言葉を()わす。


「これでは、話し合いになりませんな・・・。」

「そうですな。このままでは、殺し合いになりますね。」

「誰が原因だとお考えですか・・・?」

「わしが悪いと言いたいのでしょう、伯孝殿?」

「わかっているなら、もう少し謙虚な態度をとってくだされ・・・!・・・丁夫人の手前もあるのですから!」

「いやいや、申し訳ござらん。」


小声で注意する夫達に、飛龍も小声で答える。


「しかし、一応は終わりましたね。」

「・・・なにがですか?」

「だから、親族の前でのやり取りですよ。一件落着ですな。」

「一件落着なわけがないでしょう?まだ、星影と林山殿が見つかっていないのですよ・・・!?」

「・・・は?」

「それに飛龍殿、あなたは関係者の一人であることには変わりありません!責任を取って、娘の捜索に付き合っていただきますぞ!?」

「見つかってない・・?捜索・・・?」

「ふざけている場合ではないのです!?ただでさえ、丁夫人が心労で衰弱しているというのに・・・!」

「あれは衰弱とは言いませんぞ?凶暴化してるだけじゃないですか?」

「〜心が乱れていることには変わりないでしょう!?」


怒気を含ませて言う劉家当主に、飛龍は首をかしげる。


「・・・そういう筋書きなんですか?」

「は?筋書き?」


飛龍の問いに、今度は伯孝が首をかしげる。


「筋書きとは・・・どういうことです?」

「だから、台本のことですよ。」

「台本・・・。」

「それはもういいですよ。幸い、丁夫人のおかげで、部外者達は帰ったわけですからな。今後の方針については、『林山が宦官になったことと星影が尼になったことは、こちらから指示を出すまで、他言無用にしてください。』と、命令すればいいでしょう。」

「・・・飛龍殿?」

「丁夫人が林山のことを怒るのはわかりますが、わしが焚きつけたわけではないのですぞ?それはあなたも、知っているでしょう?」

「そうなんですか・・・?」

「そうなんですかって・・・そう聞いているんでしょう?」

「なにを?誰からです?」


飛龍の言葉に、動揺しながら聞き返す伯孝。その姿を見た時、彼は初めてこの場への違和感を覚える。


(・・・これも、演技なのか・・・?)


そう思い、口を閉ざす飛龍。そんな相手に、狼狽(ろうばい)しながら星影の父は言った。


「飛龍殿、誰からなにを聞いているんですか!?星影から、(ことづけ)でもあるのですか!?」

「え、いや・・・。」

「飛龍殿!なにが打ち合わせなんですか!?なにかあるんですか!?」

「ど、どうなさったんですか、あなた!?」

「飛龍殿!?」

「その男に、なにか無礼なことを言われたんですか!?」


娘の師匠に詰め寄る劉家当主。その劉家当主の態度に、なにかあったのかと尋ねる劉家正妻と安家夫婦。


「飛龍殿・・・!やはり妻が言った通り、今回の娘達の件には、なにか裏があるのですか!?」

「裏って・・・それは―――――」


(あなた方も知ってることだろう?)



入れ替わり強奪作戦に関する話を―――――――?



そう思った彼は、辺りを見回しながら言った。


「・・・ここにはもう、わしを含めて、五人しかいませんぞ?」

「だからなんですか!?」

「星影から聞いていませんか?出て行った前後に・・・?」

「え・・・?『尼になる。』と言って、飛び出していきましたが・・・?」

「・・・その後は?」




「「「「その後!?」」」」




声をそろえて聞き返す、弟子の親達。それを見た瞬間、すべてを理解する厳飛龍。それは彼にとって、信じたくない事実だった。



間違いない・・・!!




(親達は、星影達の入れ替わり奪回作戦を知らないのかぁぁぁぁ!!?)




そう考えた瞬間、ところどころで感じた違和感も合点できた。あれは、演技などではない。



(本気で、怒っていたのか・・・!?)



そうと知らず、かなり無神経なことを言ってしまった。

ひどい人間だと思われても、無理はないが――――――――・・・・!!






(まぁ・・・元から丁夫人には、よく思われていないから・・・・いっか?)


少し落ち込んでみるが、持ち前の前向きな考えで、すぐに立ち直る武術の師匠。

そして、この状況になった理由を考え始めた。


(親達が知らないということは・・・星影が問題の書簡を出していないのか・・・?)


てっきり、親族用の猿芝居に付き合わされているのだと思っていた。しかし、話を進めるうちに、演技とは思えない点がいくつかあった。演技で心配していたのではなく、本気で心配していたのだ。二人の弟子の親達は。


(単に、まだ届いていないだけかもしれないが〜・・・・)


それにしては、時間がかかりすぎている。ならば、出していないと判断した方がいいだろう。


(出していないと考えると・・・作戦を変更したのかもしれんな。)


入れ替わり奪回作戦は、藍田にいる時点での作戦である。

都に行ってから、なんらかの理由で、その作戦を変えたとも考えられる。

入れ替わりが困難と判断したか。

あるいは、都で別の方法を見つけたか。


(捕まったという、最悪の事態も考えられるが・・・。)


もし星影達がヘマをしたのなら、藍田に役人が来ているはずである。弟子達の家族を捕まえに来ないということは、入れ替わりがばれたというわけではないだろう。


(そうかと言って、知らせるのをやめたわけではないだろうし・・・。)


星影はともかく、親思いな林山が、それを許すはずがないだろう。

どちらにせよ、星影が作戦を両親に知らせていないのは変わりない。そうなると、後のことは自分がどうにかするしかない。

奔放(ほんぽう)な弟子の尻拭(しりぬぐ)いを、師匠である自分がしなければならないのだ。



(厄介な問題を置いて行ってくれたな、あいつらは・・・!)



目の前で、自分を問い詰める星影と林山の両親にうんざりする厳飛龍。すべては、自分の差配(さはい)一つにかかっているのだと実感する。それと共に、(おのれ)の発言次第で、ここにいる人間の首が飛ぶということも理解したのだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!

ようやく、厳飛龍が真実に気づきました。結構、にぶいお師匠です。

責任ある立場にありながらも、どこかのん気に構えています。

それが、厳飛龍という人間であり、星影・林山の師匠の良いところです。


余談ですが・・・丁夫人を書くのが大変でした。気性が激しい人なのですが、息子・林山が関係してくると怖くなります(笑)浮き沈みの激しい正確だと思っていただければ幸いです(苦笑)ただ・・・小説の中で、そう表現できているかどうかが心配です(大汗)

よろしかったら、コメントください・・・(平伏)


※誤字・脱字・漢字の間違いがありましたら、こっそり教えていただけれると、ありがたいです・・・!!


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