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第二十五話 それぞれの夜〜友情っていいものだよ〜

暴れる星影を、二人がかりで必死に(おさ)える琥珀と空飛。



「ほら林山!もういなくなったぞ!」

「そうですよ!落ち着いて、(たな)を下ろして下さい!!」



その声で、ようやく星影は棚を下ろす。二人になだめられ、渋々(しぶしぶ)ではあるが破壊(はかい)行為(こうい)を中断する星影。しかし、星影の怒りが(おさ)まったわけではなかった。



「ふざけやがってあいつら・・・!」



(なんて欲深(よくぶか)い連中だ!)


私が(もら)った金銀が欲しくて、しつこく居座(いすわ)り続けたんだな・・・!!


「なんであんな奴らが高級宦官になれるんだ!?こんなことなら、助けてやるんじゃなかった!!」


柱を叩きながら怒り散らす星影。その横で、割れた(つぼ)破片(はへん)を拾いながら琥珀は言った。


「それは彼らが、世渡り上手(じょうず)で、へつらいが上手(うま)いからだよ。なによりも金がある。」

「金があるのに、私からせびったというのか!?」

「金品が多すぎて困ることはないだろう?彼らみたいな高級宦官もいるということだ。」

「忌々(いまいま)しい・・・!!いくら、世渡り上手だからといって、あんなのを高級宦官に選ぶほうがどうかしてる!!」


(採用者は、なにを考えてるんだ!?)


「仕方ないよ。彼らの場合は、実家が裕福(ゆうふく)だからね。」

「裕福ぅ〜!?」

「そう。賄賂を贈れば、身分を買うのは簡単だからね。」

「それ違法じゃないか!?」

「そうだよ。」

「そうだよって・・・琥珀!!宦官になる者は、生活に困っているから宦官になったんじゃなかったのか!?」

「まさか。高級宦官の多くは、それなりにお金のある家なんだよ。」

「はぁ!?宦官になる者は、家が貧しい者か異民族かのどちらかじゃないのか!?」

「それは偏見(へんけん)だよ、林山。宦官になる者の半分は出世が目的さ。」

「出世って・・・!?」

「出世するための近道・・・というところかな。お金に余裕(よゆう)がある野心家や一般庶民はもちろん・・・前科(ぜんか)持ちの者とかもね。」

「前科って・・・犯罪者か!?本当なの、空飛!?」


星影の問いに、片づけをしていた空飛が顔を上げる。


「事実ですよ。刑罰の一つに、『宮刑(きゅうけい)』があるでしょう?」


(宮刑・・・そういえば、林山がそんなことを言っていたな。)


空飛の言葉に、林山とのやり取りを思い出す星影。


「じゃあ、宮刑になった人は、全員宦官になるんだね。」

「それって、みんな宦官にならないといけないの?」

「そうでもありません。宮刑を受けられたお方でも、宦官になっていらっしゃらないかはいますし―――――」

「『受けられたお方』?」


空飛の言葉に、聞き返す星影。


「身分の高い方で、そういった人がいるのか?」

「い、いえ・・・それは―――」


星影の問いに、口ごもる空飛。


「太史令、司馬遷・・・司馬子長様だよ。」


黙る空飛の代わりに、琥珀がはっきりとした口調で言った。


「司馬遷、様・・・?」

「琥珀!?」

「現在は、故事旧志の編集をされていらっしゃるそうだよ。ある将軍を弁護したがために、それで陛下のお怒りを買い、宮刑を命じられたお方だ。」

「将軍の弁護!?それはどういう――――――」


「――――――いけません!!」


星影の言葉を(さえぎ)るように、怒鳴り声を上げる空飛。


「く、空飛!?」


怒鳴らなくてもいいじゃないか、そう言いかけて、口を閉じる星影。なぜなら、空飛が怖い顔で星影を(にら)んでいたからだ。



(お、怒ってる!?)


初めて見せる怒りの表情に、言葉を(にご)す星影。そして、低く小さな声で空飛は星影に言った。


「林山・・・司馬様のことは、決して・・・!決して、陛下にお尋ねになってはいけませんよ・・・!!」

「え・・・?なんで?」

「司馬様の話を出した私もいけませんでしたが・・・名前を出してはいけませんよ・・・!!」

「空飛・・・?」

「琥珀も、林山に変なことを教えないでください!!」


空飛の態度に、ただならぬなにかを感じる星影。空飛の言葉で黙る星影とは対照的に、琥珀はいつも通りの口調で言った。


「私は林山が、知らないままでいると、危険だと思ったから教えただけだよ。」

「知らずにいた方がいいですよ!琥珀は一言多いです!!」


真っ青な顔で、琥珀を怒鳴りつける空飛。


「とにかく林山!!この話は、陛下の前でもどなたの前でも、絶対に禁句ですからね!!」

「き、禁句って・・・。」

「わかりましたか!!?」

「・・・はい。」


空飛の並ならぬ気迫に、わかりましたと(うなず)く星影だったが・・・・


(そういう中途半端なことされると、気になって困るなじゃない・・・!)


心の中の【疑問】という名の(きり)が、晴れることはなかった。

宮刑がどういう罪状で処せられるものかは知らないが、男という性別を奪われる刑である。

言いかえれば、それだけの大犯を犯したということだ。そんな者達を、高貴な人々の世話をさせるという考えが納得できなかった。


「しかし、危なくないか?犯罪者を、皇族関係者がいる宮廷で働かせるなんて・・・。」


(また犯罪が起きるんじゃないか・・・?)


自分の中にある疑問を、相手にぶつけてみる。星影の直球の質問に、空飛が速球で答えた。


「ですから、働いてもらうのですよ。天下人である陛下のお側で、功徳(くどく)を学び、罪を()(あらた)める・・・それが、宮刑の真意(しんい)なのです。」

「なるほど・・・そういう意味だったのか・・・。」

「そうですよ!労働が過酷(かこく)なのも、それだけの罪を自分が犯したと自覚させるためです。それ理解したうえで、しっかり働けば、教養のある身分のある方々が、その行いをわかってくださるということですよ。」

「・・・と、いうのは建前であり、言い方を変えれば理想論(りそうろん)。実際は、悪人共が悪知恵を働かせて、出世をもくろむというものだよ。」

「え?理想論?」

「ちょっと琥珀!?なにを言っているのですか!?」


星影と空飛のやり取りに、琥珀が皮肉(ひにく)めいた口調で乱入(らんにゅう)した。


「事実じゃないか、空飛。宦官として後宮に入って、陛下に気に入られれば、出世は思いのままだよ。」

「なるほど・・・!いかにも、悪人が考えそうなことだな!」

「だから林山も!それで納得しないでください!!琥珀も、林山に変なことを教えないでください!!」

「宮中の、『表』ばかり教えても意味がないじゃないか。『裏』もきちんと教えておく必要があると思うけど?」

裏表(うらおもて)の問題ではありません!琥珀の言い方は、聞く者によっては誤解をあたえます!」

「私は林山のために言っているんだよ。空飛は少し、過保護(かほご)()ぎないかい?」

「私だってそうです!林山のことを思えばこそ、教えているのです!琥珀は無責任過(むせきにんす)ぎます!」


そう言って、(めずら)しく互いの意見を(ゆず)らない琥珀と空飛。(にら)みあう二人に、初めて星影は静止をかけた。


「よせよ、二人共!その話は次の機会にしてさ〜」

「林山!」

「林山、私と空飛は君のことで――」

「だから私が悪かったって!しっかし、わからないよなぁ〜」


二人の注意を自分に向けるように、声高(こえたか)らかに星影は言った。


「犯罪者はともかく、金がある一般人がどうして普通に仕官をしないの?」

「普通に仕官って・・・」

「それは――――」


星影の言葉に、琥珀と空飛は(にら)みあいをやめた。それを確認すると、星影は言葉を続けた。


「普通に役人として仕官して、出世を目指せばいいだけの話じゃないか?」

「だから宦官の道を選ぶのだよ。」

「男を捨ててまで?」

「そうだよ。文官になるにしても学問がダメ。武官になるにしても才能が無い。あるとすれば金がある。今出て行った人達がその例さ。」

「私達には、理解できないことですけどね。」


そう言って、部屋の片付け作業を再開する空飛。


「お金のことしか頭にない方々の考えなど、下級層(かきゅうそう)出身(しゅっしん)の私には理解不能です!」


少し不機嫌そうに、床に落ちている金銀を拾う空飛。


(下級層じゃなくてもわからないよ・・・。)


これには、さすがの星影もなにも言えなくなった。正確には、二人から聞いた高級宦官の実態に(あき)(かえ)ったといっていい。


「金さえあれば・・・なんでもできるってか?同じ高級宦官でも、黄藩様の方がましだな。」


星影の脳裏(のうり)に、安林山の悪口を(いさ)めた黄藩の姿が浮かぶ。


「当然だよ。高級宦官にも(うえ)から(した)まである。そのなかでも黄藩様と君は『(じょう)』、楊律明と呂文京やその取り巻き達は『()』といったところだよ。」

「例え奴らが、高級宦官の中で『()』だとしても、高級(・・)宦官(・・)であることに変わりはないじゃないか?」

「いいじゃないか。彼らは、君に逆らうことはない。それどころか・・・甘い(しる)()おうと(たくら)んでるだけだよ。」

「冗談じゃない!お断りだよ!!」


げっそりとした顔で言う星影。


(二度とあいつらの顔なんか見たくない!だが・・・また押しかけて来る可能性もあるかもしれない・・・。)


「・・・金をやったんだから、もう来ないよね?」


部屋に散らばった金銀を拾い集めている空飛に尋ねる星影。真偽(しんぎ)を確認するには、空飛に限ると星影は思っていたのだ。星影の問いに、空飛は作業をやめて言った。


「どうでしょう・・・。むしろ、また(もら)えると思って来るんじゃないんですか?そういうところがありますし・・・。」

「それって空飛の予想?」

「ええ。長年の経験を元にした予想です。」

「うわぁ〜・・・・・。じゃあ、確実に来るな・・・。」

「だから、とめたのですよ・・・。」


肩を落とす星影に琥珀は言った。


「それはいいが、林山。君は少々短気すぎる。いくら彼らの態度が悪かったとは言え、皇帝陛下から賜った金銀を投げつけたのは感心できないな?」

「だって、近くにあってお手ごろだったから・・・。」


星影の答えに、目頭を押さえる琥珀。大きくため息をつきながら言った。


「林山、頼むからあまりめった事はしないでくれ。これ以上目立っては・・・・私がやりにくい・・・・・。」


消え入るように(つぶや)かれた最後の言葉。その言葉に、(はじ)かれたように琥珀を見る星影。


「なにか言ったか・・・?」

「――――いや、なにも・・・。」


かすかに動揺する琥珀。

無意識のうちに(つぶや)いたようだったが、星影は、はっきりと耳にした。


“私がやりにくい”


(まさか琥珀―――――――!?)


星影が昨夜目撃した、琥珀と黒服の男とのやり取りが浮かぶ。


(琥珀の奴・・・陛下を襲う機会をうかがっているのか?)


つい、不安そうな顔で琥珀を見る星影。

そんな星影に、なにも知らない空飛が優しく声をかける。


「林山、琥珀が言いたかったのは『心配をかけさせないでくれ』と、いうことですよ!」

「さすが・・・空飛だね。私の気持ちがよくわかっている。」


にこやかに笑う空飛と琥珀。どうやら空飛には、琥珀の最後の方の言葉が聞こえなかったらしい。星影には琥珀が空飛の話にあわせているように見えた。


(誤魔化しているな・・・。)


琥珀の怪しい行動を見ただけに、その点に関して星影は見抜いていた。


「そうだな・・・空飛の言う通りみたいだし。」


(今は、そういうことにしておこう・・・。)


変なことを言って琥珀を刺激すれば、自分にまでとばっちりがくる危険があった。


「ごめんな、琥珀。心配をかけてしまって。」

「気にしなくていいよ。私たちは友なんだから・・・そうだよね、空飛?」

「当たり前ですよ!友達なんだから。」


目の前でにっこりと笑う空飛に、つられて星影も微笑んだ。そんな星影を見ながら、空飛は穏やかな口調で言った。


「本当に・・・友達って、いいものですね。さっきの林山の言葉・・・・すごく嬉しかったですよ。ありがとうございます・・・。」

「急にどうしたの、空飛?」

「だって・・・初めてだったんですよ。あんなやさしい言葉・・・。」


空飛の言葉に、気恥ずかしくなる星影。よせよ、と声をかけて、星影は固まった。なぜなら、目の前にいる空飛が泣いていたからだ。


「ど、どうしたの、空飛!?なんで泣いてるの!?」

「だ、だって・・・!私のことを、人として扱ってくれたのは、林山が初めてで・・・!」

「空飛・・・。」

「ありがとう、林山。ありがとう・・・!」


何度も、ありがとう、と繰り返す空飛。その目から、涙がとまることなく流れ続けた。

そんな空飛の姿が、ひどく星影の胸に()()さった。


(よほど・・・つらい思いをしてきたのね・・・。)


星影は、泣き続ける友の肩を優しく抱くと言った。


「大丈夫だよ、空飛。私達は友達だから。空飛がいじめられていたら、私が助けるからね。」

「そんな、林山・・・。私も、私も林山を助けます!これからは林山のために――!!」

「ただし、友達としてね?見返(みかえ)りを求めるような友情はナシだよ。」

「私は楊様達とは違います!そういうつもりは――――!!」

「知ってるよ。初めて会った時のこと覚えてる?」

「え?」

「空飛は、私を助けてくれたよね?」


楊律明・呂文京とその取り巻き達に因縁(いんねん)をつけられた時、空飛は新人宦官である安林山(・・・)(かば)ってくれた。


「私が仕掛(しか)けるより先に、あいつらが私に喧嘩をふっかけてきた時だよ。あれはさ、純粋に私を助けるためにしてくれたんだろう?」

「じゅ、純粋というか・・・そこまで考えていなかったので―――」

「――――――私も、そういうつもりで言ったんだよ。」

「え?」

損得(そんとく)考えずに、思わず新入りの宦官を助けたんだろう?他の連中は、みんな自分の身が大事だから黙って見ているだけだった。でも空飛は、自分を犠牲(ぎせい)にして安林山を助けてくれた。」

「そんな!私は――――・・・・」


真っ赤な顔で、あたふたしている空飛に向かって星影は()げる。



「私は、他人を思いやる張空飛の心意気(こころいき)が好きなだ。」



真っ直ぐに、空飛を見ながら星影は言った。



「だから、もっと自信を持ってよ!空飛は、優しい人間なんだから。それに、人がいいから、利用されたり、そんな役回(やくまわ)りを押し付けられる。そして、それを文句も言わずにする。」

「あ・・・はい、確かにそうです・・・。」

「誤解しないでよ、空飛!今のは悪口とかじゃない。私は、そういう人の良い人間が好きなんだ。」

「好きって・・・。」

「そういう奴、嫌いじゃない。いや・・・嫌いになれない。だから、これからも空飛を頼るよ。」

「なっ・・・なにを言っているのですか、林山!?あなたは、もう高級宦官なのですよ!?私のような下級宦官に―――」

「だって空飛は、私の先輩じゃないか?私より、宮中のことだって詳しい。琥珀も知識があって頭がいいけど、宮中に関しては初心者だしさ。」


星影の言葉に、琥珀は無言で(うなず)く。それに対して、空飛は首を振りながら言った。


「・・・林山は、私を美化しすぎですよ・・・!私はあなたが思っているほど、立派な人間ではありません。無駄に・・・この七年間を過ごしただけです・・・。」

「私は無駄だとは思わない。」


卑屈(ひくつ)な態度をとる空飛に、星影はきっぱりと言った。


「空飛が今まで宮中で過ごした七年は、これから意味を持ってくると思う。今は、下積(したづ)みをしているだけなんだよ。」

「下積みなんてとんでもないです!私は・・・昔から不器用ですし、いつも失敗ばかりで、どうすればいいかと悩む始末で・・・!」

「それだよ、空飛。」

「は・・・?」

「無駄な時間があるとすれば、『悩む時間』だよ。」

「ええ!?」


星影の言葉で、()せていた目を上げる空飛。そして、星影に疑問をぶつけた。


「悩む時間が、なぜ無駄なのですか!?自己反省をし、なぜ間違いを犯したかを考えることが、なぜ無駄なのですか!?」

「うん、悩むことは良いことだよ。でもね・・・悩みすぎるのもよくないんだ。」

「え・・・?」

「悩んで、考えて、それで答えが出るならいい。だけど、考えて答えが出ないなら、考えるのをやめればいい。」

「考えるのをやめる・・・!?」

「そうだよ。だってさ、悩むってことは、なにか問題があるから悩むんだろう?『自分がなんで悩んでいるのか』、『悩む原因がなんなのか』、そう考えた時って、たいてい過去のことを思い出すじゃないか?」

「え・・・ええ、同じ過ちを繰り返したと・・・・反省するのですが・・・。」

「それが無駄な時間だ。考えたって失敗するなら、そこで終わらせたらいいさ。難しく考えるより、前向きに単純に考えた方が気持ちも楽じゃない?」

「確かに・・・そうかもしれませんが・・・。」

「終わった過去を、後悔し続けること・・・・それぐらいさ、無駄(・・)という言葉を使っていいのはね。」

「林山・・・。」

「人生の経験を、無駄だと表現するもんじゃない!すべては、天から与えた試練(しれん)だと思えばいいんだよ!」

「試練・・・?」

「いろんな体験をして、人は強くなれるんだ。力ではなく、心が強いんだよ。その証拠(しょうこ)に、空飛は強い心を持ってるよ!」

「私が!?」


空飛の視線(しせん)を受け、星影は相手の目を見ながら言った。


「そうだよ。さっきだって、私のために楊律明達と戦ったじゃないか?私、すごく嬉しかったんだから!」

「そ、そんなこと・・・!あれは、無礼(ぶれい)を働いてしまっただけで、」

「無礼なものか!あいつらの態度が無礼だ!私の(もら)った金品が目的だったんだよ。空飛は、強い心であいつらと向き合ったんだ。」

「いえ、それは林山が困っていたから―――」


必死の形相(ぎょうそう)になる空飛に、星影は悪戯(いたずら)っぽく言う。


「ほら、やっぱり空飛は良い人間だよ。見過(みす)ごしてもいいものを見過(みす)ごせない。相手よりふりな立場であっても、勇気を持って私を助けてくれたんだ。」

「勇気なんて・・・私は――――」

「じゃあ空飛に聞くけどさ、友達になる前の私をどうして助けてくれたの?」

「え?」

「明確な理由を、四十字以内で述べてください。」

「四じゅ・・・ええ!?そんな、理由なんて・・・・!」


星影の問いに、難しい顔で考え込む空飛。そんな相手に星影は言った。


「ないだろう?空飛が、友達になる前の私を助けたのだって、無意識にしたことなんじゃない?」

「・・・ええ。」

「木に例えれば、根っこは同じなんだよ。無意識に考えて、私は空飛とは友達でいたい。誰かを好きになるのに、いちいち理由なんていらないだろう?」


そう言うと、空飛の頭に手を置く星影。



「だから張空飛は、私の自慢の友達だよ。」



「林山・・・!」

「空飛が困っていたら、私が助ける。友達として、空飛のことが好きだからね。」

「私のことを・・・そこまで思って・・・?」

「それだけ私は、空飛のことが大事だよ。ねぇ、琥珀?」

「・・・林山の言う通りだよ。」


黙って聞いていた琥珀が口を開く。


「私も林山と同じだ、空飛。」


星影と空飛を見ながら琥珀が言った。


「空飛だけじゃない、林山に対してもそうだよ。私達は(えん)があって、この場に一緒にいるんだよ。その(えん)を大事にしよう。」

「琥珀・・・。」

「いいこと言うじゃないか!」

「お互い様だよ、林山。単純に考えて、私も二人と友達になれてよかった。」

「琥珀・・・!」

「私からも頼むよ、空飛。もっと自信を持っていいからね。林山と離れても、私が側にいるよ。だから、自分を低く考えるのはやめにしよう?」


琥珀の言葉に、空飛から大粒の涙が落ちる。


「こ、琥珀・・・林山・・・!」

「泣かないでよ、空飛!琥珀も、泣かすようなことを言うな!」

「泣かすつもりはなかったんだけど・・・。」

「ち、違いますよぉ〜嬉しいんです・・・!」


そう言うと、星影の胸に顔をうずめる空飛。そんな空飛を星影は、よしよし、と言いながら抱きしめる。


「空飛って、涙もろいんだね?」

「違いますよぉ〜もぉ――――なんで林山ってばぁ〜!」

「どうやら、かなりつらい七年を過ごしてきたようだね・・・。」

「そうなのか、空飛?」


星影の問いに、泣きながら首を縦に振る空飛。


(まぁ・・・人生の半分を、存在(そんざい)否定(ひてい)されて過ごせば仕方ないか・・・。)


性別で差別され、職業で差別され、儒教で差別される。それに加えて、毎日の重労働。

心身ともに疲れ果てるだろう。


「私達にはわかるよ、空飛。あなたの苦労がわかる。」

「り、林山・・・!」

「空飛は一人じゃない。私も一人じゃない。琥珀も一人じゃない。」



そう言って、力いっぱい抱きしめる星影。それにあわせるように、空飛も星影にしっかりと抱きつく。抱き合う星影と空飛に苦笑しながら、琥珀もそんな二人を抱きしめる。妙な抱擁ではあったが、星影は不快にならなかった。むしろ、その状況を楽しんだといっていい。



「友達だよ。私達三人は・・・・友達だからね。」



だからこそ、こぼれんばかりの笑みで星影はそう言ったのだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!


少し、友情場面を表現してみました。ご感想をいただければ嬉しいです(笑)


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