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第二十四話 それぞれの夜〜迷惑な訪問者達〜

琥珀の話に黙り込む星影。その心中は、かなり複雑(ふくざつ)なものだった。


「林山、気持ちはわかるが―――――」


「もういいよ!わかったからなにも言うな!!」


とりあえず、不満を口にしてみる星影。


「わかってくれたのなら、それでいいんだけどね。」

「つまり陛下は、真面目(まじめ)が嫌いで、不真面目(ふまじめ)が好きってことだろう!?」

「林山!」

「どうせ私は不真面目だよ!」


そう言って、そっぽを向く星影。


「そんな自棄(やけ)を起こさないでくださいよ・・・。」

「元々こういう性格だ!だけど、これだけは言っておく!私は(よう)(りつ)(めい)(りょ)文京(ぶんきょう)とは違う!媚を売るようなまねはしない!!」

「これはまた・・・身近でわかりやすい例を出すね。」

「これでも違いのわかる人間だからな!大体あいつらは性格が悪いからいけないんだ!今度ふざけたこと言いやがったら、一発ぶん殴っ―――――――!」


「その必要は無い。」


()めた口調で琥珀は言った。


「そんなことしなくても、彼らは君に忠実だよ。」

「どういう意味だ?」


星影が尋ねた時だった。部屋の戸が叩かれる。


「失礼いたします。」

「あ!お前は―――」


(うやうや)しくお辞儀(じぎ)をしながら部屋に帰ってきたのは、彼ら三人の天敵とも言える楊律明と呂文京とその取り巻き達だった。


「どうしてここに・・・!?」


驚く彼女をよそに、彼らはニコニコしながら言った。


「安林山様、先ほどはありがとうございました。」

「ありがとうございます、林山様。」

「林山様、感謝いたします。」


「り、林山様!?」


いっせいに頭を下げる彼らの姿に、背筋(せすじ)が凍りつくのを感じる星影。突然の『様付け』に、全身の血の気が引く。それと同時に、全身に鳥肌(とりはだ)がたつのがわかった。それは、星影に抱きついたままの空飛も同じだった。どちらともなく、互いに顔を見合わせる星影と空飛の二人。ただ一人、琥珀だけが、涼しい顔でそれを(なが)めていた。


「い・・・いや、いいよ別に・・・。それよりどうしてここに?」

「はい、黄藩様のご命令でお届け物を持ってまいりました。」


そう言って、合図(あいず)した彼の後ろから現れたものは――――――――


「あ、それは!」

「これはなんと・・・。」

「すごい・・・!」


琥珀と空飛が感服(かんぷく)するのも無理はなかった。そこには金と銀の山があったからだ。


「これってまさか・・・。」

「はい、先ほど皇帝陛下から賜った金二千両と銀二千両、それから・・・・。」


呂文京が手を叩くと、大きな箱を抱えた、二人の宦官が姿を現す。二人がかりで、箱の両端(りょうたん)を持っていた。その表情は終始(しゅうし)笑顔で、恭しく星影の前に箱を置いた。


「・・・なにこれ?」

「一千両分の翡翠(ひすい)や真珠、水晶などの宝物でございます。」

「宝物!?」


驚く星影達の前で、箱は開けられる。そこには、見事の細工が施された翡翠や真珠などがあった。他にも、金や銀で出来た装飾品があった。


「どういうことだ!?私が頂いたのは、金銀あわせて四千両のはず・・・。」

「それなんです!!」


星影の声にあわせるように、大声を出す楊律明。


「陛下は、林山様にご褒美をお与えなさる際に、『金銀をあわせた数が、四というのは数が悪い。』と、(おお)せられまして!」

「『金銀とは別に、宝物を一千両分与えれば、数が悪くない。』と、いうことになったのでございます!」

「そうなの!?」

「はい!ですから、お気になさらず、受け取るようにとのことでございます!!」

「気にするなって・・・・!」


その言葉に、顔をあわせる星影達三人。


小銭(こぜに)ならまだしも・・・一千両分の宝物って・・・!」


(縁起を(かつ)いだ結果、褒美(ほうび)を増やされるって・・・・。)


呆気に取られる星影の耳元で、空飛が小声でささやく。


「林山!これ全部、皇族の方しか持つことが許されないものばかりですよ・・・!」

「なっ!?・・・・本当か、空飛!?」


それに星影も小声で答える。


「普通そうですよ!見てください、この翡翠・・・!それに、この金で出来た首飾りも!」

「そうなの?そうなのか!?」

「さすがは皇帝陛下だ。気前がいいな。」


動揺する星影と空飛を尻目に、のほほんとした口調で琥珀は言う。


「よほど陛下は、高級宦官である安林山様をお気に召したようですね?」

「よせ琥珀!お世辞はいい!」


からかうように言う琥珀の言葉を、星影は激しく否定したのだが―――


「いいえ!安様が忠義者ですので、陛下のおぼえもよろしいのですわ!」

「本当に、さすが林山様!文京憧れますわ〜!!」


否定した星影の言葉を、大げさに褒めちぎる楊律明と呂文京。彼らの態度に、再度凍りつく星影。


なんなんだこいつらは!?昨日まで、敵意(てきい)丸出(まるだ)しで嫌味を言ってたのに!

なんだよ、この変わりようは!?言い方もなんかうそ臭い!!


(どうしよう、鳥肌が立ってきた・・・!)


相手のあまりにも、腰の低い物言いに身震(みぶる)いする星影。


「そ、それはどうも・・・。」


顔を引きつらせつつ、とりあえず返事をする星影。横を見ると空飛の目が点になっていた。

無理も無い・・・あんな言い方されたら、本人でなくてもショックは大きいよな。

とにかく、彼らにはさっさと帰ってもらおう。


「えーと・・・あの、わざわざ運んでくれてどうもありがとう。その、お疲れ様・・・。」

「当然のことをしたまでです。もったいないお言葉ですわ!」

「本当に!恐れ入りますわ!!」


ニコニコと笑ったまま、その場を離れない楊律明・呂文京一行。


「うん、わかった・・・もういいから。みんな仕事があるでしょ?」

「そんな、お気遣いしていただけるなんて!本当にお優しいですのね、林山様!!」

「私達のことまで心配していただかれなんて!さすが皇帝陛下をお救いした英雄です!!」


そう言ったまま動かない、楊律明・呂文京一行。


「あのさ、黄藩さ・・・殿からは、なんて言われてここに来たの?」

「はい、陛下からのを林山様の元に運ぶようにいわれ、ここまで参りました。」

「あ!気になさらないでください!皆で運びましたので、そんなに重くなかったですから!!」


それでもなお、その場から立ち去ろうとしない楊律明・呂文京一行。そんな彼らの様子に、とうとう星影は痺れを切らした。


回りくどい言い方をしても無駄だ。はっきりと彼らに言おう。


「・・・悪いけど、用が済んだのなら帰ってくれない?」


途端(とたん)に、悲鳴(ひめい)にも近い声が部屋に響く。


「そんな・・・林山様!私達に帰れと!?」

「あんまりですわ!あんまりですわ!!」

「あんまりって・・・そんなひどいことは言ってないだろう?君達も忙しいだろうから、帰っていいよって言っただけで・・・。」

「そうは参りません!私達にもなにか、林山様のお世話をさせてくださいませ。」


「世話!!?」


(なんでお前らに、私の世話をしてもらわないといけないの!?)


「はい!安様、なにかお飲み物でもお持ちいたしましょうか?」

「林山様、果物はいかがでございますか?」

「肩はこっていませんか?お揉みしましょうか?」


そう言って星影に近づいてくる。



「いっ・・・いいいいい!いい!いい!!いらない!!!私には琥珀と空飛で十分だ!!!」



「まあそんな!遠慮なされずに、林山様。」



遠慮(えんりょ)なんてしてないから!!お願いですから、今すぐ帰ってください!!!」



低姿勢(ていしせい)敬語(けいご)を使いながら、自分に寄って来る相手を怒鳴りつける星影。彼女の怒鳴り声によって、部屋の中は静かになる。おびえたような目で星影を見つめる沢山の目。


(これで奴らも帰るだろう・・・!)


と、思ったのだが―――――――


「本当に謙虚なお方ですね!」

「もう、恥ずかしがりやなんだから!」

「・・・。」


(・・・・こいつらは本当に人間なのだろうか・・・・。)


何故言葉が通じない!?さすがに殴るわけにはいかないし・・・。


この状況(じょうきょう)に、さすがの星影もお手上げとなる。そんな彼女を見かねて援軍(えんぐん)出動(しゅつどう)した。


「楊律明様、呂文京様、それに皆様も。あとは、私達がやりますのでお引取りください。」

「まあ、王琥珀!身分もわきまえないその振る舞い!」

「やめてください!とにかく、もうお帰りください!」

「ちょっと!私たちが邪魔だとでも言いたいの!?」

「私達はただ、林山様のことを誤解していたから仲良くしたいのよ!」



(・・・・私は仲良くしたくない。)



怒ったように言う楊律明に、即座(そくざ)に空飛は反論する。


「でも、林山は帰ってほしいと言っています!気持ちはわかりますがお帰りください!!」

「空飛、あなた・・・!!」

「私と琥珀は下級宦官、あなた方は高級宦官。皆さんはこれから先いくらでも林山と話す機会があるじゃありませんか!?大体、散々林山をいじめておいて・・・調子が良すぎます!!」


いつも温厚な空飛の強気な発言に、その場にいる全員が黙り込む。驚いた表情でしばらく動けなかった楊律明・呂文京とその一行だったが・・・。


「お側にいられなくなる下級宦官が、ずいぶん生意気な口をきけるわね!?」

「お前・・・下級宦官の立場でありながら、高級宦官になられた安林山様を『林山』ですって・・・!?」


楊律明の言葉に、空飛は顔色を変えた。


「お前こそ、気安く林山様を呼び捨てに出来る身分ではないのよ!」

「そ、それは私が悪かったです!でも――――」

「あんたのそういう言い訳がましいところが、気に入らないの!本当に目障(めざわ)りね!!」

「弱いくせに生意気なのよっ!!」


そう言って呂文京は、空飛めがけて平手打ちをしようと手を上げた。

それまで我慢していた星影だったが、空飛に手を上げようとしたところで見ては黙ってはいられない。



「やめろっ!!」



素早く空飛を(かば)うように、二人の間に割って入った。


「いい加減にしてくれ!お前達が迷惑なんだよ!!」

「林山!?」

「林山様!?」

「なにが私のためだ!?なんで空飛を叩こうとした!?」

「そ、それはつい――――」


バツが悪そうに言う相手に、星影はきつい口調で言った。


「空飛は私の友達だ!空飛が優しいからっていい気になるな!そうやって自分より下の身分のものには偉そうにして・・・!ご機嫌取りは沢山だよ!!」


「林山・・・そこまで私のことを・・・?」


「悪いけど出て行ってくれ!!お前らの顔なんか見たくない!!」


言うと同時に、近くあった金銀を(つか)むと投げつける。


「きゃあ!?」

「り、林山!?なんてことを――――!?」

「そうですわ、林山様!」


驚く空飛同様、声を荒げながら楊律明達は言った。


「なんてもったいないことを!!」

「これだけで、当分遊んで暮らせるというのに!!」

「ああ!宝物が!貴重な宝が〜!!」


そう言って、星影が投げた金銀を大急ぎで拾う一同。


「なんてことなの!?せっかくの宝物がこんなに汚れて・・・・!!」

「林山様、せっかくの金銀が台無しではありませんか!?」


そして、拾った金銀を(すそ)(みが)きはじめる楊律明達。


「おっ!お前らぁ―――――――・・・・!!」


その姿に、星影のなにかが切れた。


「・・・・・・せつか・・・!?」


「え?」

「り、林山?」


「そんなに―――――その塊が大切かっ!!?」


「り、林山!?」



「くれてやるから即行(そっこう)、出て行けぇぇぇ――――!!!」



両手で金と銀の入っている箱を持つと、彼らに向かって勢いよく投げつける星影。


「きゃあああ!!」

「痛―――い!!」


それは大きな音を立てて、星影に()びる者達に命中(めいちゅう)した。



「出て行け!この恥知らず共!!ほしけりゃくれてやる!!」



()()けんばかりの、星影の怒鳴り声が響き渡る。そして、部屋一面に金銀がばら()かれた。金銀の硬いものがあたり、彼らは一瞬、苦悶(くもん)の表情を見せるのだが――――――


「安様のお許しが出たわ!!」

「ちょっとそれは私のよ!」

「どいて!拾えないわ!!」

「私の金銀よ!!」


我先(われさき)にと金銀を拾う一同。一心不乱、必死でお宝を拾う宦官達。なかには、拾った金銀を奪い合う者達までいた。そんな彼らの姿が、ますます星影の怒りを(あお)った。




「こっ・・・!こ、こ、こ、この恥知らず知らず共ぉ!!()せろっ!二度と来るなぁぁぁ―――――――――!!!」




言うより早く、彼らに向かって(こぶし)を向ける。

それをいち早く察知(さっち)し、止めに入る空飛と琥珀。


「林山、落ち着け!」

「暴力はよくないですよ!!」

「そうだぞ、林山。部屋を壊すのはよくない!」

「てっ、問題はそこじゃないだろうが、琥珀っ!!」


琥珀の手を振り切ると、近くにあった(たな)を掴みそのまま持ち上げる。棚の上にあった高価な(つぼ)などが、大きな音をたてて床に落ちた。



「わあぁぁぁ―――――――――!?り、林山ダメ!!」



空飛の声と、壷の割れる音と、星影の棚を持ち上げる姿。これにはさすがの楊律明・呂文京と、その取り巻き達も(あわ)てて逃げ出す。




「待ちやがれぇぇぇ―――――――――!逃げるなぁ!!」




我先(われさき)にと逃げていく一行。もちろん金銀は、ちゃっかり持って行った。そんな楊律明達の背中に向かって、星影は何度もほえるのだった。


小説の感想をいただけると嬉しいです。読んでもらって、楽しい・面白いと、思っていただける話を目指しております!主人公・星影を、もう少し生かせるように頑張りたいと思います・・・!!


余談ですが、衛青仲卿が、武帝に(けむ)たがられていたのは事実らしいです(汗)衛青が常に、低姿勢(ていしせい)で謙虚に振舞(ふるま)ったことが、「媚びている」と、見えてしまったらしいです。元々、衛青将軍が、下級層出身者ということもあり、目上に対する接し方が、少し大げさすぎたからとも言われています。悪く言うと、召使が、主人にへりくだる的な(大汗)個人的には、衛青将軍が好きであります。武帝との出会い方はどうあれ、彼の場合、自分の経験と努力で大将軍まで出世した人ですから!

以上、竜門のつぶやきでした。

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