第二話 姉心と妹の恋心
藍田の町が見渡せる小高い丘。辺りは小鳥のさえずりと、柔らかい風によってもたらされる新緑の香りが漂っていた。そんな静かな場所に、似つかわしくない豪快なくしゃみが響きわたる。
「あ〜風邪でもひいたかな?」
「単に、誰かが噂しているだけじゃないの?」
鼻をすする音と、小さな笑い声。そこには二人の若者の姿があった。
この二人、年の頃は十七、八くらいで、一人は薄い桃色の着物を着ており、金の花を掘り込んだ真珠の髪飾りを一つ付けていた。その容貌は香蛾(天女)のごとく美しく、美女と呼ぶのにはふさわしかった。そしてもう一人は、薄い青色の着物を着ており、腰には見事な剣を下げていた。そして、こちらの容貌も整っており、なかなかの美男に見えるのだが、
「お父様達が、星影姉さんのことを言っているのかもね。」
「そうかもな。『嫁入り前の妹を連れ出して!!』とか言っているかもしれないね、星蓮。」
そう、彼女達こそ言わずと知れた『藍田の蝶花』劉星影・星蓮姉妹だったのだ。
この姉妹、藍田では知る人ぞ知る名物姉妹だった。有名だったのはその外見だけではない。内面的にも有名だったのだ。
妹の星蓮は今年で十六になる娘だが、その性格は温厚で優しかったうえに、教養を備え上品でおしとやかな才女であった。また、儒教の教えを守る奥ゆかしい女性でもある。そのため、女性の教養とされる舞や琵琶はもちろんのこと料理などが得意で、その腕は藍田でも一、二を争うほどであった。そして、その美しい容貌から彼女に求婚を求める相手が後を絶たないほどだった。
それに対して、姉の星影の方は今年で十七になる娘だが、その性格は活発で男勝りであり、その立ち振る舞いは男性的であった。また、この時代の女性にはめずらしく武芸・剣技の使い手でもあった。そのため、動きやすいという理由で普段から男装をしており、腰には虎模様の入った鍛冶屋特注の『虎勇剣』を下げていた。このことから人々は彼女のことを『女虎傑』と呼んでいた。しかし、その容貌は妹に劣らぬもの美しいもので、彼女が女性の服を着たと聞けば、それを見るために多くの人が集まるのだった。
「それにしても本当にいいのか?失敗しなきゃいいけどさ。」
「うん。ねえ、星影姉さん・・・私、上手くできるかしら。」
「いやなら止めてもいいのだよ。結婚を間近かに控えたお嫁さん。」
いたずらっぽく笑う星影とは対照的に、星連は暗くどこか沈んでいた。実は、今日二人が家を抜け出してきたのには理由があった。町が見渡せる丘に来たのも、その先にある【薬妙寺】で、ある計画を実行するためだった。
「しかし、黙って出てきたから父上達は怒っているだろうなぁ。」
「ごめんね、星影姉さん。私のわがままのせいで・・・。」
「気にしなくていいさ。確かめたいのだろう?『林山の噂』を。」
「そうだけど・・・・。」
自信なさげに呟く星蓮を見ながら優しく星影は囁く。二人が話す『林山』とは本名を『安林山』と言って、劉家と同様大商家・安家の息子であり星蓮の婚約者の事である。林山は、文武両道に秀でており、特に武道の腕は星影も一目置くほどだった。また、思いやりの深い優しい性格で義侠心にも厚かった。そのうえ容貌も端整な顔立ちをしており、地元ではかなりの美男で知られていた。付け足しておくならば、彼と星影は同じ武門の門下生――つまり兄弟弟子でもあった。なによりも、彼と劉家の姉妹とは幼少からの幼馴染だった。この時代には珍しく、お互いの家を行き来し、家族ぐるみの付き合いも少なからずあった。そんな中で林山と星蓮はお互いに少なからず思いあうようになっていったのだ。そのことについては星影も知っていたので、二人の結婚が決まった時は手を叩いて喜んだものだった。
「まあ、こんなことをしなくても、林山は星蓮のことを本気で愛しているよ。その噂にしたってあいつのことを好きな女達が流したデマに決・・・。」
「でも、はっきり違うとは言い切れないわ!!」
大声を張り上げる妹に星影は困ったように首を傾げる。普段上品でおとなしいだけに、怒った時の迫力はすさまじい。まあ・・・あれだけの修羅場の上に結ばれたのだから心配しなくてもいいのに、と苦笑いしながら星影は思う。
安林山と劉星蓮の縁談話。一見、順調に決まったかのように見えるが、ここに来るまでにはかなりの難問と苦労があったのだ。というのも、この時すでに林山には親の決めた婚約者がいた。相手は、今は同じ大商人だが、元は金貸しをしていた李海金の娘・李桂蓮だった。難問となったのがこの親子だった。
父親の李海金は、金貸し時代かなりあくどいやり方で金儲けをすることで有名だった。それは今の商売でもいえることだ。その李海金の娘である彼女も、容姿は美女の領域に入るのだが、父親に輪をかけたような性格の悪さで、美人であることを鼻に掛け、自分の思い通りにならないことがあると平気でわがままを言う女性だった。しかも、ことあるごとに『藍田の蝶花』である星影、星蓮を敵視する負けず嫌いでもあったのだ。そんな彼女も林山のことは好きだったらしい。だから林山が、婚約破棄を自分の両親と桂蓮親子の前で言った時、林山の両親以上に激怒したのが桂蓮だった。
冒頭でも話が出た通りに、安家の母親と親戚達の反対ぶりと言ったら凄まじかった。
いくら星蓮が才色兼備を備えていても、その姉は山賊を倒すほどの武芸の達人。早い話が、縁談を反対される理由は自分にあった。まさに修羅場中の修羅場。
このような状況で何故二人が婚約できたかと言うと・・・。
「でもな、『あんな卑劣なこと』をするような連中を、もう相手にするはずがないだろう。林山の両親も言っていたし。」
「・・・・確かに『あんな卑劣なことをする人の娘と息子は一緒にさせない。』って、お義母様達はおっしゃってくださったわ。」
星影達が言う『卑怯なこと』とは、林山・星蓮の婚約が決まる三日前のことだった。その日も林山の親戚に婚約についてのことで(正確には星影の素行のことで)呼ばれ、激論した末、家に帰る途中だった。劉家の主人に大事な話があるから戻って欲しいと、追いかけてきた安家の親族の使いに言われ、渋々(しぶしぶ)ではあるが父・劉伯孝と途中で別れ、二人で暗い山道を歩いていた時だった。そこへいきなり、覆面をした男達が現れ星影達に襲いかかってきたのだ。
統率の取れた集団だったが、星影の前では敵ではなかった。偶然にも、劉家に向かう途中だった林山も現れ、あっという間に二人がかりで覆面の男たちを倒したのだが・・・・。そんななかで星影は見てしまった。木の影から去っていく桂蓮と数人の男達を。林山と星蓮が止めるのも聞かずに、逃げる桂蓮達を捕まえると、そのまま李家に乗り込み李家の主人のまえで彼女に剣の切っ先を突きつけると怒気を含ませどなりつけた。
「いいか、これは忠告だ!今度私の妹と弟弟子に手を出してみろ!その時はお前ら親子の首を叩き切ってやる!!」
幸いこ事件は穏便に済まされ、二度とかかわらないと約束させたのだったが・・・・。
後で調べてわかったことなのだが、実は覆面の男達を使って星影姉妹を襲わせたのは、安家の親戚と李海金が結託した計画的犯罪だったのだ。なんとこの親戚、李海金に借金をしており、それを帳消しにしてもらう条件として李海金に協力したのだという。しかもその内容は星蓮と林山の婚約を邪魔することであり、星蓮を傷物にするというものだった。
安家の親戚の使いが、劉伯孝に言った大事な話にしても、星影と星蓮を父親から引き離すための真っ赤な嘘。わざと二人だけで帰らせるための口実だったのだ。ここまで用意周到に計画していた李親子の唯一の誤算は、星影の強さを甘く見ていたことだろう。それを知った星影をはじめとする劉家一同と、林山が怒ったのは言うまでもない。しかしこの事件は、後に意外な展開で終結するということを誰が予想しただろうか。その事実に対して、彼女達以上に、烈火のごとく真っ先に激怒したのが、林山の母・丁鳳娘だった。
「安家一族の家名に泥を塗ったばかりか、罪のない娘を辱めようとするとは!!おまけに安家の嫡子の縁談が借金の帳消しのために持ちかけられたとあっては末代までの恥!!それだけだけでも許しがたいと言うのに・・・・!!」
彼女を怒らせた理由はそれだけではなかった。自分の親戚達が林山と桂蓮の婚約話をまとめ、桂蓮を林山に勧めたのは、李海金からの金銭的な取引・・・賄賂を貰っていたからだと知ったからだ。
日頃から『息子の嫁には賢女を』と言う丁夫人からすれば、『賄賂を貰って、不正取引のようなことをして決められた婚姻』であったとなれば、黙っているはずがない。
「今回のことで、劉家・李家双方のことがよ――く!・・・分かりました!!林山と桂蓮殿との縁談は―――――――破棄です!!!は・だ・ん!!林山は星蓮殿と結婚させます!!!卑怯者の家に大事な跡取り息子をやれますか!!!?」
この丁夫人、実は地元豪族の娘で大変感情的な性格の持ち主である。おまけに星影と同じく、女だてらに大変腕が立つらしい。(あくまで噂だが。)意外な援軍の登場により、四面楚歌の状況は回避され、林山の婚約反対派の親戚一同を黙らせることに成功。
こうして二人はめでたく結ばれたのだった。
「『女は怖い』というが・・・。まさに、丁夫人のためにあるような言葉だな。」
その時のことを思い出し、星影は楽しそうに笑う。
「笑い事じゃないわ、星影姉さん。」
「悪い、悪い。でもさ、列女が太鼓判を押して許してくれた結婚だよ。あんな『噂』嘘だと思うけどなぁ〜」
「・・・・・・・。」
自分の問いに、黙り込む星蓮。そんな妹の姿に星影はため息混じりに言った。
「そもそも冷静に考えて、ありえないよ。『林山と桂蓮がまだ付き合っている』なんて噂は?」
星影達が先ほどから話す『噂』と言うのが、この桂蓮が関わっていることなのだ。星蓮が気にするその噂と言うのが『林山と桂蓮が影でまだ付き合っている』というものだった。なんでも週に一回、星影達が今いる丘の先にある、薬妙寺という寺で二人が密会していると言うのである。最初は、林山に限ってそんなことはない、と信じていなかった星影達だった。ところが、林山がここ最近、星蓮にも内緒で頻繁にどこかに行くようになったので、さすがに怪しいとは思っていた。心配になった星蓮が何度聞いても、林山はあいまいな返事しかせず、すぐにはぐらかしてしまうのだ。そんな時、星影が彼の友人を捕まえて(締め上げて)聞いたところ意外な事実が発覚した。「林山が薬妙寺で桂蓮と会っているのを見た。」と、言うのだ。それも一度や二度ではないと言う。
「いいか、星蓮。馬鹿がなにを言おうと、林山を信じろ。あんないい奴は他にいない。」
「・・・でも、教えてくれたのは星影姉さんじゃない?」
ジロリと、自分を睨みながら言う妹。
「た、確かに、教えた私が悪かった!でもなぁ〜」
「姉さんの言うこと、身勝手すぎるわ!林山の悪口を言ったり、褒めたり・・・!」
不機嫌な顔で、星蓮は姉を見た。
(・・・・こんなことなら、泣きながらせがまれても、教えるんじゃなかった。)
「悪かったよ、星蓮!しかし冷静に考えれば、教えてくれた奴らが冗談で言ったかもしれないだろう?お前と結婚できる林山をひがんで、嘘を教えたのかもしれないぞ?」
「・・・。」
ふてくされたように黙り込む妹を見ながら、やれやれ・・・と星影は思う。
恋人を褒めても喜ばず、へそを曲げると言うならば―――
「だがな、もし噂が本当ならば・・・・林山はその程度の男だ。」
「!?」
(とことん侮辱してみようじゃないか?)
星影の言葉に、星蓮は声にならない叫びを上げる。
「大体男なんて浮気する生き物だよ。星蓮は、林山が自分に対して一途な奴だと勘違いしていただけなのさ。」
星蓮が黙っていることをいいことに、星影は林山の悪口を言い続けた。
「特定の女が出来れば、『ちょっとぐらいは・・・』って、わき見したくなるものなんだよ、男は!まあ、それが嫌ならこの婚姻を取りやめにすればいいさ。」
「・・・!」
「良かったじゃないか。お前の傷が浅いうちに悪い奴だとわかってよ。無理に女にだらしない、ロクデナシなんかと結婚しなくて・・・やめといた方が賢明―――」
「――――――――ひどい!!!」
それまで黙っていた星蓮だったが、その言葉に過剰に反応すると星影を睨み付けながら言った。
「ひどい!!林山はそんな人じゃないわ!!彼はいい人よ!!そんな悪口言わないで!!そんなこというなんて・・・星影姉さんの意地悪!!!」
捲くし立てるようにそこまで言うと、荒く肩で呼吸をする。
「・・・怒ったか?」
「当たり前よ!!」
間髪いれずに言う妹・星蓮に姉・星影は言った。
「じゃあ信じてやれよ、林山のこと。」
興奮気味の妹の肩に、優しく手を置きながら星影は続ける。
「いや、信じてるからこそ、私の言葉に怒ったのだろう?」
「星影姉さん・・・・!」
「悪い、悪い!そんなに泣くなよ。なぁ?」
自分の胸に寄りかかるようにして、泣きじゃくる妹をなだめながら星影は思う。
いつの時代も恋は女性を、人を変えると言うが。普段は温厚で落ち着きのある星蓮も、恋愛に関しては慌てふためいて取り乱す・・・・性格が百八十度変わるということか。
妹・星蓮を優しく慰めながら星影は言った。
「だからこそ確かめるんだろう。噂がほんとかどうか・・・?」
林山と桂蓮が薬妙寺で密会していると聞いた以上、姉としてこのまま放っておくわけには行かない。こうなると真偽を確かめる必要がある。
しかし、いくら確かめると言っても結婚まで後数日。時間があまり残されていない。星蓮が直接何度も林山に聞いたが、彼は相変わらず知らないと言い張る。星蓮も星蓮で、結婚前にあまり波風を立てたくないということで、林山に強く聞けない。
それなら代わりに自分が聞こうと星影が言えば、もっとややこしくなるからやめて、と星蓮は言い、じゃあ知らないふりをしておけ、と星影が言えば、でも気になってしかたない、と星蓮が言って泣き出す始末。星影は考えた。可愛い妹のために。悩める乙女と言いましょうか、そんな星蓮のために星影は考えた。
そもそも林山という男は、星蓮に『よけいな話』をしない奴だった。よけいな話というのは、剣の稽古の最中に腕にアザをつくった、組み手の練習をしていて捻挫をした、弓の弦で手を切った、と言ったささやかな程度のことである。要は、心配をかけたくないのだ。
それが好きな人、恋人である星蓮にならなおさらである。よくよく星影は思っていた。
怪我を口実に星蓮といちゃつけばいいのにと思うほど、林山は星蓮の『不安』になりそうなことは一切言わない男だった。ただ、星影に対しては、『幼馴染の親友』と思っているのでなんでも話してしまう。そして、自分を通して最終的にいつも星蓮にばれてしまうのだった。
正直、星蓮からすれば、そんな伝わり方は面白くない。自分のことが好きなら、余計な気遣いなどせずに、包み隠さず話してほしい。だから星影が、自分が代わりに林山に聞こうかと言う申し出も断ったのである。そんなことを思い出しながら、星影はあることに気がついた。星蓮が林山に真相を聞いても彼は答えない。星影が聞けば林山は答えるかもしれないが、嫉妬心からそれは星蓮が嫌がるのでしない。
(つまり、星影が星影ではなく、星蓮が星蓮ではない立場で聞けばいいんじゃないだろうか?)
「私が星蓮のふりわして、星蓮が私のふりをして、そのことを確かめるんだろう?」
星影が思いついた作戦――――――『星影と星蓮の二人が入れ替わる』というものだった。作戦はこうだ。まず、二人の衣装を交換し、星影に変装した星蓮に深めの笠をつけさせて顔がわからないようにする。そして星蓮に変装した星影も、顔を隠すための扇を用意する。それから、林山と桂蓮の二人を見たと言う時間に合わせて薬妙寺に張り込む。二人が現れたところで、わざと物音を立てて、星蓮に変装した星影がその場から立ち去る。それを慌てて追いかけてきた林山の前に、星影に変装した星蓮が登場。剣の切っ先を突きつけ、その場で二人を問いただして事実関係を探るという物騒な策だった。この星影のとんでもない提案に、星蓮もあっさりと承諾し、現在に至るのであった。
「でも・・・・でも、本当に上手くいくかしら。」
「上手くいくさ!命の危機を感じている時に、嘘をつく奴がいるか?」
心配そうに言う星蓮の手を引きながら、星影は薬妙寺から程近い廃屋へと向かう。
「そうでもしないと話してくれないって・・・なんだか悲しい。」
「星蓮、」
「いくら私に、心配をかけまいとしてくれる気持ちは嬉しいわ!でもね、やっぱり恋人なら・・・夫婦になるのなら、これからはちゃんと何でも話してほしい・・・。」
「星蓮・・・。」
星蓮がこの提案を受け入れた背景には、これを機会に、林山が自分に直接すべてを話してくれるようになれば・・・と、いう思いも込められていた。
だからこそ、作戦が成功するか失敗するかはわからない危険な賭けに出たのだ。結果がどうなるにしろ、騒ぎになるのは間違いないだろう。しかし何のわだかまりもなく、結婚できるようにするにはこれが最適であると最終的に星蓮が判断したのだ。
「お前が思うようにやりなさい。姉さんは、私は星蓮を応援するよ。」
妹がそうしたいのなら、姉として手を貸すだけ。それが姉妹と言うものだろう。
廃屋の前まで来ると、乱暴に戸を開ける。最初に星影が中に入り、人がいないのを確認すると、手招きをする。
「大丈夫だ!早く来い、さっさと着替えよう!」
「うん・・・でも・・・星影姉さん・・・。」
それでもまだ不安そうにしている妹を星影に渇を入れる。
「そんな弱腰でどうするんだ!?この日のために今まで練習したんじゃないか。うかうかしていると、本当にあの女狐に林山を盗られるぞ!それでもいいのか?」
「――――!!そんなの嫌!嫌よ・・・・私。」
目に涙を溜めながら星蓮は言った。そんな妹を見ながら、今度はなだめるように言った。
「じゃあ、迷わないで。あなたも林山も優しすぎる。それは良いことだけど、悪く言えばお人好し過ぎる。こういう事はちゃんとしておかないと。苦しむのは自分なのよ。」
星影が優しく肩を抱くと、星蓮も安心したかのように彼女に抱きつく。
「・・わかった。私・・・・・やるわ。自分で決めたことだもの。」
そう言った星蓮の表情からは、何かをふっきった様子が感じられた。
「それじゃあさっさと着替えよう!ほら、早く脱いで。」
そう言いながら、身につけているものを脱ぎ始める星影。星蓮もそれに少し遅れるようにしながらも、服を脱ぎ始める。
「ねぇ・・・星影姉さん」
「なんだ?」
脱いだ服を相手に渡しながら星影は答える。
「・・・一つだけ、一つだけ最後に、お願いがあるの。」
星影からの服を受け取りながら星蓮は言う。
「お願い?まさか桂蓮を張り倒してくれって?」
冗談交じりで笑う星影に、いつになく真剣な表情で黙り込む星蓮。
「・・・・どうした?」
手を止めて、妹に目をやる星影。
「この計画では・・・星影姉さんが、囮になってくれる手はずだったわよね?」
「ああ、そうだが・・・?あ、ちょっと襟が曲がってるぞ。」
(なんだ、作戦のおさらいか?)
そんなことを考えながら、星蓮の衣服を正す星影に妹は言った。
「・・・私一人で解決する。お願い、この作戦は私1人でやらせて!!」
「なんだと!?」
思わず声を上げる星影。まじまじと妹を見る。
「・・・・一人で平気なのか!?」
「もちろんよ。だって・・・これ以上星影姉さんに迷惑はかけたくないの。星影姉さんが武芸を始めたのは私たちを守ろうとした結果じゃない。だから・・・」
泣きそうになる星蓮の姿に、星影も苦いものを感じる。
「だから・・お願いよ!星影姉さん、私一人でさせて。お願い。」
深々と頭を下げる妹を前に、何も言えなくなってしまう。
(いい加減この子も、姉離れする年頃になったのか・・・・いや、私が妹離れできていないだけかもしれない・・・。)
「・・・わかった。星蓮の言う通りにするよ。さあ、早く支度を済ませよう。グズグズしてると二人共来てしまうからね?」
「星影姉さん・・・!」
「顔は、この笠をかぶればわからない。」
そう言って、持ってきていた笠を手渡す星影。そんな姉の姿を見ながら星蓮は・・・
「ありがとう・・・ありがとう、星影姉さん。あのね、星影姉さん、私ね・・・・」
星蓮の言葉に星影が顔をあげる。
「星影姉さんのこと大好きよ・・・・とても誇りに思うわ。」
「私もだよ、星蓮。ありがとう・・・。」
嬉しそうに言う星蓮に、思わず照れてしまう星影。そんな互いの様子に、思わず笑みがこぼれる二人。互いの身支度を済ませると、廃屋から外に出る。そしてそのまま二手に分かれて歩き出す姉妹。
「頑張るんだぞ!気を付けてな!」
「わかってるわ、ありがとう!」
満面の笑みで手を振る妹。いつもより長く手を振り続ける星蓮に、星影は照れくさくなり、足早にその場を立ち去る。風がいつもよりも激しく、そして穏やかに吹き、花の芳しい香りを運んでくる。そんな風を胸いっぱいに吸い込みながら、星影はその場を去る。
しかし、後に星影は、ここで星蓮と別れたことを後悔することとなる。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
余談ですが、この小説の主人公は、かなり妹思いという設定です。
次回もよろしくお願いします!!
※誤字・脱字・おかしい文のつなげ方を発見された方!!
こっそり教えてください・・・!!