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第十四話 命がけの謁見会(1)


「昨夜はお前のおかげで助かったぞ!!」


上機嫌に目の前にいる人物が言う。正確に言えば、星影が林山のフリをしてここに来る原因となった人物。あれから奇跡的に一命を取り留めた安林山(あんりんざん)こと(りゅう)星影(せいえい)。元々相手は、怒ってはいなかった。面白い奴だ、とかえって気に入られてしまったらしい。幸い正体もバレずにすんだのだが、強制的に文・武官僚の集まっている場所へと連れてこられたのだった。偶然にも自分が助けた人物こそ、諸悪(しょあく)根源(こんげん)ともいえる漢王朝第七代皇帝・(りゅう)(てつ)その人だった。


「あの時はもう駄目かと思い、何度庭に行ったことを後悔したことか。」


本人が言うには、昨夜いつものように自分の妻の一人の部屋に行った後、急に庭にある桃の木を見たくなったのだと言う。そうなると気になって妻の横で寝ていられなくなり、護衛もつけずに一人で桃の木がある東の庭『桃花園』まで行ったらしい。幸い途中で宮廷兵に会い庭まで供をさせて、着くと一人で桃の木を眺めていたのだが、いきなりそこを覆面の男達に襲われたと言うのだ。その場にいた宮廷兵はすべてやられ、もはやこれまでかと思った時、星影が現れて男達を蹴散(けち)らしたおかげで助かったというのだった。


「礼をしようにも、お主が逃げたおかげで礼もできなかった。おまけに名前も分からない。まあ、服装からして下級宦官だと察しがついたから見つけることができたのだがな。」


嬉しそうに話す劉徹に星影は、余計なことを、と内心悪態(あくたい)をついていた。あれほどまでに会いたかった皇帝陛下に会えたのは良かったが、星影からすれば、最悪の出会いだった。あんな会い方をするくらいなら、会わない方がマシであった。


「安林山、と言ったな。面を上げろ。顔をよく見ておきたい。」


仕方なく言われたまま顔をあげれば、一同の視線が自分に集まる。


陛下の前で面を上げる事は、大変名誉なことなのだが今はそれどころではない。後宮ではできるだけ目立たないようにしてきたつもりの星影にとっては、陛下の目に留まった事は良い意味でも悪い意味でも正体がばれる可能性がないとは言い切れないのだ。


しばらく星影を眺めていた皇帝だったが控えていた黄藩に声をかける。


「しかし、黄藩が言ったようなやんちゃには見えないのう。」


(・・・・やんちゃ!?私が!?)


思わず黄藩の方を見ると彼は顔をしかめつつ言った。


「ええ。そりゃもう!!入って早々に傷害事件をおこすわ、目上には従わないわ、己の武芸の腕をひけらかすで・・・・・かなりの非常識者。まったく持って宦官らしくありません!!」


(この男・・・・そこまで私を嫌うのか?)


「ほお・・・そんなにひどいのか?」


今度はその横にいる(よう)(りつ)(めい)(りょ)文京(ぶんきょう)に聞いていた。二人が一瞬こちらを見て笑う。


(あの二人・・・私のこと嫌っているからな。この分じゃ、私についてあることないこと陛下に言いふらすだろうな。)


「はい、本当に困っております。お話すればきりがございません。」

「ほう、そんなにひどいのか?話してみよ。」

「でも・・・。」


わざとらしく口ごもる文京に星影は嫌気(いやけ)が差す。


「話によっては何とかしてやってもよい。言いたいことがある者は、話すことを許す。」


「よろしいのですか?では・・・皆、皇帝陛下様のお許しが出ましたよ!」


いっせいに、数十人近くが一歩前に出る。


「なっ!?」


(ちょっと待て!私はそんなに大勢やってないわよ!?)


そのなかには同じ新人の宦官達の姿もあった。ただ彼らの場合は、星影を困らせるつもりのようだった。おそらく例の二人の差し金だろう。


「林山殿は本当に乱暴な方です。意味もなく私達を殴りつけ・・・!」


星影の予想通り楊律明・呂文京を中心に、あの日星影にやられた取り巻きや彼女を嫌っている宦官たちまでここぞとばかりに話し始める。星影は、その様子に怒りを感じなかった。むしろ呆れたと言っていい。冷めた目で彼らを見つめる。


(こういう(やから)がいるから、いつまでたっても宦官は悪く言われ続けるのだろう。)


それはさておき、楊律明・呂文京達がそう言ってくれることは星影にとって都合が良かった。下手に気に入られるよりはましだから。そんなことにでもなってしまえば、星蓮を探し出し、連れ出すことができなくなる。なおも、自分の素行について悪く話し続ける楊律明・呂文京。ただ一人、黄藩だけは黙っていた。


(遠慮せずに好きなこと言っていいのに。あなただって私のことが気に入らないんじゃなかったのか?さっきまで甲高いキーキー叫んでたじゃないか・・・!?)


「・・・もうそれぐらいになさい。」


そうそう、そんな風に甲高い声で・・・・!?


「え?」


「林山の事はそのくらいになさい。」


黄藩の発した言葉は、星影を悪く言う言葉でも、楊律明・呂文京達に同調する言葉でも、陛下に()びる言葉でもなかった。黄藩の発した言葉は、



「いくら陛下のお許しがあったからといって、いくらなんでも言いすぎですよ。」



彼らをいさめる言葉だった。小さく息を吸うと再度言った。


「陛下のご気分を害したらどうするんですか?」


黄藩の言葉通り、その話を聞いていた劉徹の顔はかなり不機嫌そうなものだった。


どうやら楊律明・呂文京達の話を信じているみたいだな・・・。この分だと、適当にお礼かなにか言われて返されるだろう。


楊律明・呂文京達は嫌がらせのつもりで言っているのだろうが、星影にとっては都合が良かった。そう星影が思った時だった。ふいに劉徹と目が合った。彼は意味ありげに星影を見ると口の端を少しあげて笑う。

その瞬間、星影の体に戦慄が走る。同時に辺りに低い声が響いた。



「・・・・首を刎ねるか?」



思わず体が固まる。


(待ってよ・・・!?それって私に言っているの!!?)


いきなりの死罪宣告に星影は動揺する。その様子を見て、声高らかに彼らは言った。


「さすが皇帝陛下様!ご明瞭なご判断。」

「後宮の風紀を乱すものにはけじめが必要ですものね。」


(お前らぁ―――!そんなに私が憎いか!?)


口々に賞賛する楊律明・呂文京達だったが、


「そんなに自分達が死ぬのが嬉しいか?」


「ええ!そりゃあ・・・・え?」


その言葉を最後に、辺りが静まり返る。それは彼ら一同に向けられたものだった。恐る恐る楊律明が尋ねる。


「そ、それはその・・・安林山のことではないのですか?」


「朕がいつ『林山を殺す』と、言った?耳障りな烏合(うごう)(しゅう)を殺せ・・・とは言ったぞ。」


涼しい顔をして劉徹は言った。その目には、すでに問いかけた楊律明の姿は映っていないようだった。


なんだか・・・違う意味で、風向きがやばくなっているような・・・。


「これ以上つまらん嘘を風潮するならば、城壁にその首をさらすぞ。」


「そ、そんな!う、嘘なんて・・・・。」


慌てる一同を冷ややかな視線で劉徹は見る。

彼のその表情は恐怖を感じるのに十分なものだった。



「嘘であろう。もしお前らの言うことが本当ならば、林山が弁明するはずであろう?それなのに弁明するどころか、呆れたように眺めるだけだ。他のことを考えながら。」



目線は彼らに注いだままで、話す皇帝に星影は視線を離せないでいた。


陛下は三人を見ながらずっと話していた。自分を見たのはほんの一瞬のはず。その一瞬の間に、自分の仕草の細かいところまで見たというのか?噂通りと言うか、さすがと言うか、なかなかあなどり難いお方だ・・・!!


しかし、感心している場合ではなかった。



「貴様ら、朕の命の恩人を愚弄(ぐろう)するつもりか?」



「そんな!めっそうもありません!!」



楊律明・呂文京達の寿命が(ちぢ)みつつあるのは間違いなかった。黙って話を聞いていた星影だったが、劉徹の表情が(きび)しくなるにつれ嫌な予感がしていた。最初に会った時は、(あや)しい変な男だと思っていたが・・・。

・・・・噂では今の今上、皇帝陛下は、言葉遣いが悪いと言う理由だけで人を殺すような恐ろしいお方だというが。まさか本当に・・・・・!!



「お前らのような輩の顔など、一秒たりとも見たくない!!オイ誰か!この者達の首を刎ねろ!!」



予感的中!!


途端に命乞いを始める一同。


「お許しください!どうか命ばかりは・・・!」

「お助けください、皇帝陛下様!」


「黙れ!早く殺せ!」


皇帝の言葉に、宦官達の悲鳴が響き渡る。そして、皇帝陛下の命令に驚いたのは彼らだけではなかった。


(ちょっと待って!ここで死なれたら私のせい?それはいくらなんでも・・・!!)


黙って、その状況を静観していた星影だった。


自分を落としいれようとした、楊律明・呂文京達のことは大嫌いだった。

でも、自分が原因で誰かが死ぬのはイヤだった。

自分のせいで、人が死ぬのはイヤ・・・。

そんな星影の気持ちは、言葉となって発せられた。



「お待ちください!!」



嫌いだからという理由で、見殺しには出来ない。


「殺さないで下さい!!」


星影の声に、皇帝をはじめとする全員が彼女を見る。


「お待ちください、皇帝陛下!!どうか呂様達を殺さないでください!!」


「林山!?」


彼らの命乞いだった。命乞いをしていた本人達はもとより、劉徹もびっくりしたようにこちらを見る。



「・・・どういうつもりだ、林山?朕に逆らう気か?」



さっきとは打って変わった、きつい口調で星影に問いただす。


「いいえ。彼らは私のことを言っただけで、皇帝陛下の悪く言ったわけではありません!気分を害されたのでしたら、それは私の責任でもあります。」


「ほお、朕に逆らってまで自分を悪く言った者を助けるのか?こいつらのかわりに首が刎ねられてもいいと?」


席から立ち上がり自分を見据えたまま睨みつける。



「それで、貴方様の気がすむのでしたら。」



即答する星影に周りはざわめく。気にせず星影は話を続ける。


「もし、皇帝陛下が私に恩義を感じてくださるならば、恩賞は彼らの命で結構です。どうか、血なまぐさいことをなさらないでください。」


しばらくの間見つめあう星影と皇帝。鋭い目つきをしていた皇帝だったが、うっすらと笑うと彼女に告げた。


「・・・・いいだろう。そこにいる下衆(げす)共の命は助けよう。」


皇帝の言葉に、安殿、という声が響く。


「お前達、林山に感謝しろよ。」


「は、はい!林山殿ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「感謝します!!」


口々に言う彼らに、星影は複雑な気分になった。気恥ずかしいような呆れのような・・・とにかく、あまりいい気分ではなかった。

「いや、もういいから・・・。」

それだけ言ってあいまいに笑った。


(私に謝るぐらいなら、これを機会に弱い者いじめをしないと誓ってくれた方が嬉しいんだがな・・・。)


そんな状況をもてあましている星影の様子に劉徹が言った。


「おい!礼はもうよいから、さっさと消えろ!これ以上、その甲高い声を聞いていたら殺したくなる!!」


皇帝の言葉に楊律明達は小さく叫ぶ。


「も、申し訳ありません!い、今すぐ出て行きますので、」

「い、命ばかりはお助けを!!」

「もういい、行け!」


彼らは我先にと逃げるように部屋から出て行く。その後ろ姿はなんとも情けないものだった。


「・・・情けない。」


「まったくだ!なんと軟弱な!!」


独り言のつもりで言ったのだが、星影の声は皇帝に聞こえたらしい。口をふさいだが遅かった。相手はニヤニヤしながら自分を見ていた。


「ハハハ!本当に面白い奴だ!あんなクズを助けるとは。」

「お、恐れ入ります。」

「まあ、そういうところがいいのだがな・・・。しかし林山よ、朕に逆らったのだからそれ相応の覚悟に答えてもらうぞ。」


意地悪く笑う相手に、彼女の精神は(がけ)っぷちに立たされる。


私をどうするの?やっぱり斬首?それとも火責めの刑?水攻めの刑?生き埋めの刑?それとも・・・逆さ吊りの刑?あ、もし逆さ吊りだったら、私の死体は林山に持って帰ってもらおう。


危機感を抱いているのだが、気持ち的にはどこか楽観的に彼女は考えていた。そんな星影の考えなど知ってかしらずか、皇帝は楽しそうな口調で言った。


「林山、そう硬くなるな。心配しなくても命をとったりせん。」


じゃあ牢屋に幽閉されるの?


どうしても悪い方へと考えてしまう星影。不安な彼女をよそに皇帝は言った。


「朕の出す、簡単な条件に従ってもらうだけだ。」

「条件?」


思わず聞き返した星影は慌てて口をふさぐ。


後宮における規則の一つに、皇帝陛下の許しがあるまで言葉を発してはいけないという決まりがあるのだが・・・。


(しまった!うっかり声をかけちゃったよ・・・!!)


自分の失態(しったい)に焦る星影に対して、その様子を、目を細めて眺める皇帝。


「気にせずとも良い。朕に気にせず話したいことを言ってよいぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

「さて、話がそれてしまったが、お前には条件をのんでもらうぞ。」


残酷な笑みを浮かべる皇帝。


やはり私が彼らの身代わりに首を刎ねられるの?やばい!そんなことになったら、星蓮は助けられなくなるし、林山にだって迷惑をかけることは目に見えている。こんなことになるなら、勢いに任せて助けるんじゃなかった。


今さらながら、自分の性格を恨む星影。その彼女にとって皇帝陛下の言った言葉は、星影を驚かせるのに十分だった。



「朕は今まで多くの宦官を見てきたが、お前のような面白い奴は初めてだ。お主のことが気に入った。林山よ、今日からお主は朕付きの宦官として仕えよ!」



「「ええ!!?」」



突然のことに星影は声を上げる。否、彼女ともう一人。



「陛下本気でございますか!?」



そう言ったのは、劉徹のすぐ側にいた妖艶な美しさを漂わせる男だった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!



※小説を読んでいて、誤字・脱字・文章のつなげ方がおかしいよ、という箇所を見つけられた方!

こっそり教えてください(苦笑)

ヘタレで、すみません。。。

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