表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/124

第百十五話 私と皇后さまと皇太子さまと・・・

星影は緊張していた。




「ここが・・・皇后さまのいらっしゃる宮殿・・・」




皇帝と住む場所と同じで高級感はあるが、清楚で品のある内装になっていた。


(女官の数からして、違うものね)


普段、自分が潜伏している宮殿とは違って、女性の数もとても多い。

みんな、皇太子へと頭を下げるのだが、隣にいる星影は居心地が悪くてしょうがない。


(早く着かないかな・・・)


そう思って皇太子を見れば、少年と目があう。


「そんなに身構えなくてもいい。」

「は、はあ・・・」

「母上には、先に人をやって君のことは伝えている。とても会いたがっていたよ。」

「そ、そうですか・・・」


(なんて伝えたんだろう・・・)


刺客を撃退する宦官と、お話したのだろうか。

あるいは・・・


「私の母には妹がいてね。その人は、霍氏に嫁いでるんだ。」

「え?か、霍氏とは、まさか・・・!?」

「うむ、その子供が去病叔父上だよ。」


楽しそうに言う少年。



「思えば・・・そなたの爽快なところが、叔父上の面影がある・・・!」

「誤解ですよ!?私、生まれ変わりではありません!」


熱い視線を送る皇太子に、星影は思う。


(もう、ろくでもねぇ予感しかしない!)


誰だ、私が霍去病の再来とか言い出したのは?

ああ、そうだ。

奴だ。

あの男。



(漢帝国七代皇帝劉徹・・・!!)



歯ぎしりしたいのを我慢した時だった。



「きゃあ!!」

「え?」



不意に響いた悲鳴。

それで星影と側にいた皇太子の護衛が構え、少年が顔色を変える。


「母上!?」

「え!?皇后様!?」

「今のは、母上の悲鳴だ!」

「なんですって!?」


(まさか)


それで嫌な予感を覚える星影。


「皇太子殿下!皇后さまの部屋はこの先ですか!?」

「そ、そうだが・・・」

「みなさん、皇太子さまから離れないで!」

「え!?」

「お、おい!」

「どこへ――――――!?」


行くんだという声を無視して、星影は駆け出した。


(おのれ!皇帝、皇太子ときて、最後は皇后か!?暇なのか、刺客ってのは!?)


足音を響かせながら走った。

音を立てることで、刺客を追い払う効果がある。

程なくして、怯えた様子でうずくまる女官と部屋の入り口が見えた。



「どうしました!?」

「え!?あ、あなたは・・・!」

「宦官です!皇后さまに何かありましたか!?」

「そ、そうなんです!皇后さまが!」

「危険な目に・・・!」

「やっぱりか!!」



それだけ聞くと、急いで部屋に飛び込んだ。




「皇后さま、ご無事ですか!?」




部屋の中は、数名の女官たちがいた。

みな、青い顔をしており、その場に座り込んでいる。

その中に、ひときわきれいな服を着た美人がいた。



「こ、皇后さま・・・・!?」

「そなたは・・・?」



鼻筋が、衛青将軍に似てる。


ぼんやりと思ったが、すぐにそれは別の思いでかき消された。



「貴様!なにしてる!?」

「え?」



見れば、皇帝の妻である皇后を抱きしめている男がいた。

そればかりか、自分の体の下へと押し倒している。



「お~ま~え!!」



それだけで、星影には十分だった。

ぐっと強く拳を握ると、俊敏に相手に近づく。


「え?」


驚く相手の肩を掴んで皇后から引き離す。




「な、なに・・・!?」

「――――――――この変態野郎!!」




怒りを込めて、空いている片方の手で思いっきりぶん殴った。



「うっば!?」

「きゃああああああああ!!」



男は盛大に吹き飛ばされ、机やいすの中に沈んだ。



「は、母上!?何事ですか!?」



そこへ、護衛を引き連れた皇太子が駈け込んで来た。



「母上!一体何が・・・あ!?」

「れ、拠・・・・!」

「皇太子殿下!」



少年の目に、宦官に守られながら抱かれる母の姿が映る。


「どうしたのです!具合が悪いのですから、寝ていないといけないでしょう!?」

「れ、拠、それが・・・」

「襲われていたんです!」


皇后が言う前に星影が言った。


「入り口で、皇后さまが危ないと聞き、私が部屋に入れば・・・」

「は、入れば!?」

「あの下種が皇后さまを押し倒していたのです!!」


怒声を上げながら、自分がブッ飛ばした相手を指さす星影。


「なにっ!?わが母を犯そうとは――――なんと不届きな!捉えろ!」

「はい!」

「こいつめ!」


星影の言葉に、皇太子の命に、護衛達もやられた男を拘束しようとしたが、


「おやめなさい!」

「母上!」

「みな、誤解しています!その方は、不届きものではありません!」

「えっ!?」


これに皇太子だけではなく、星影も驚く。


「な、なにをおっしゃいます!?襲われていたじゃないですか!?」


(なにこれ!?秦の始皇帝の母みたいなやつ!?衛青将軍の姉ともあろう人が、まおとことよろしくやっていたのか!?)


戸惑いながら星影が聞けば、困ったような顔で彼女は告げる。


「それが違うのです。助けてくれたのです。」

「た、助ける?」

「むしろ、私を救ってくれたのです。」

「救った・・・?」


聞き返せば、座り込んでいた女官たちが動き出す。


「た、太中大夫たいきゅうたいふ様!しっかり!」

「大丈夫でございますか!?」

「う・・・うう・・・痛い・・・!めちゃくちゃ痛い・・・!」


そう言いながら、女官に両脇から、かかえられる男。

それを見て、護衛の男達もぎょっとする。


「あ、あなた様は!」

「皇帝陛下からの覚えもめでたい、太中大夫様!」

「ええっ!?知り合い!?」

「ああ、かなりな。」


ギョッとする星影に、安堵の息を漏らしながら皇太子は告げる。


「なんだそなただったのか・・・!あーびっくりした。」

「あの、皇太子様!この人は・・・!?」

「ああ、父上が特に親しくしている配下だ。」

「変質者じゃなくて!?」

「変質者じゃないな。」

「そうでございますよ!」


苦笑いしながら言う皇太子に合わせるように、助け起こした女官たちが言う。


「この方は、陛下のお気に入りの才人です!」

「それをこのような無体をされて・・・無事ではすみませんよ!」

「そればかりか、衛皇后さまにも軽々しく触れて!離れなさい!」


「ええ!?ま、待ってください!私は」

「離れて!」


そう言いながら、1人の女官が・・・彼女たちの中で一番身分のありそうな女性が星影と皇后の間に割って入る。



「離しなさい、宦官!」

「宦官ですけど、言い方にトゲがありますよ!?」

「水月、やめないか!」



そんな女性を皇太子が止める。



「水月も、そなたちも、落ち着け!」

「お、お知り合いですか、皇太子殿下?」

「ああ、母に一番長く使えている侍女で、ここの女官頭だよ。水月、この者を許してやってくれ。」



これに水月と呼ばれた女性は、驚いた後で怖い顔へと変化しながら言った。


「いくら皇太子様でも、これは許せません!宦官をつけあがらせてはいけません!」

「あの・・・宦官嫌いなんですか?」



何となく感じたことを聞けば、蔑むように睨まれた後で言われた。



「好き嫌いはありませんが、この場では一番下の召使い!油断できませんわ!」

「よしなさい、水月。」

「出来ません、衛皇后さま!皇后さまが、甘やかせるから、歌がうまいだけの宦官が、皇后さまを差し置いてのさばるのですよ!?」


(あ・・・嫌われてる意味が分かった。)



きっと、私を嫌っている宦官のことを言っているのだろう。

その影響で、噛んアガンである私も嫌なんだ。



「あなたの気持ちは嬉しいし、わかってるわ、水月。でも、この方もわざとではなかったのでしょう。許してあげましょう?」

「そうはいけません!いきなり、殴り飛ばしたのですよ!?」

「初めて見る顔だから、知らなかったのでしょう?ねぇ、あなた?」

「え!?ええ・・・」


急に話を振られ、背筋を伸ばしながら星影は答えた。


「おっしゃる通り、宮中には来たばかりで、右も左もわからない田舎者でして・・・」

「その田舎者の分際で、無礼を働いたと言うのですか!?」

「水月、おやめなさい。」

「そうだよ、落ち着け水月。彼は私の親しい友人だ。」

「「友人!?」」


これには、水月だけで泣く星影も驚く。



「皇太子殿下、友人ですって!?」

「いつの間に私、昇格したの!?」


声をそろえて言う女官と宦官に・・・自分が連れてきた相手に向かって皇太子は告げる。


「違うのか?少なくとも、私はそう思っているぞ。そなたは、宦官ながら性根が良い。」

「だったら、なおさら見逃せません!」


皇太子の言葉に、水月という女官頭が吠える。


「尊敬する衛皇后さまの大事な子息である劉拠様がそこまで言うほどのお方なら・・・名を名乗りなさい!」


まくし立てながら言う女官に星影は思った。


(大事にされて、慕われてるんだな・・・)


そうわかった以上、粗相は出来ない。


(素直に従うのが得策か・・・)


あまり名を広めたくないのが本心だが、将来有望な少年のために星影は口を開く。



「え~・・・衛皇后さま、皆様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます。わたくし、安林山と申します。」



そう言った瞬間、その場の女達の顔が変わりる。


「え!?安林山ですって!?」

「安林座とはまさか・・・!?」

「あ、安林山って、あの!?」


特に、水月という女官の態度が違う。

さっきまで怒っていた顔が一変し、顔が色づき始めていた。

これは見て星影は思う。


(私また・・・いきり立たせること言ったかしら?)


赤くなる相手に、木間づい気持ちで次の言葉を待っていた時。




「えええええええ!!?君が、あの霍去病様の生まれ変わりかぁ~!?」





馬鹿みたいに陽気な声がした。

同時に、その体を抱きしめられていた。




「なっ!?」

「あはははははは!!」




抵抗する間もなく、抱きすくめられる。





「そうかそうか、君が安林山か~!!あっはっはっ!」

「は、離せ!誰だ・・・!?」




身をよじって抱きしめた相手を見る。




「あ、あなたは、確か・・・!?」




そこにいたのは、先ほど自分が殴り飛ばした男。

背の高い、顔立ちのいい男。

星影の問いかけに、形の良い唇が彼女を見ながら動く。






東方朔とうほうさく。」




よく通る声で言うと、笑顔で彼は語り始める。



「姓は東方、名は朔、字は曼倩!」

「と、とうほう、さく・・・?」

「太中大夫とは名ばかりで、陛下のお伽衆みたいなものだよ~!あははは!いやぁ~会いたかったよ!あははははは!!」



飛びぬけた明るい男に、部屋の中は静まり返る。



(また・・・・・・・濃い奴が出てきた・・・。)



静かになった原因が、自分だけにあるのではないと思う星影。

それと共に、ひと騒動起きる予感がしてならなかった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!


武帝の妻にして、衛青の姉である衛皇后の登場です。

それに加え、東方朔も出てきています。

衛青将軍の姉である衛皇后に興味津々な星影ですが、武帝から絶大な信頼を得ている東方朔は警戒気味です。

東方朔がどんな人物なのか、小説の中では後々わかっていく次第です。

良かったら読んでください。


小説と関係ないですが、サブタイトル決め、いつも悩みます。

そのせいでアップが遅くてすみません(汗)


※文章の中で、誤字・脱字がございましたら、すみません!!お手数ではありますが、ご報告いただけるとありがたいです・・・・(平伏)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ