第百十四話 続・心の準備ができてない~林山編~
「ひっ、一目惚れ!?」
「冗談でしょう、義烈!?」
「本気だ。」
驚く玉蘭と林山に、義烈はどこか嬉しそうに話す。
「ああいう女、なかなかいないぜ?俺は、あの女が気に入った!」
「なによそれ!?あんた、下見に行って宮女に惚れてきたの!?」
「くっくっくっ・・・!」
「ちょっと、笑ってないで答えなさいよ!?」
「はーはっはっはっ!」
「っ!このバカ男!」
含み笑いするばかりで、質問に答えない義烈。
「どういうこと、星影!?」
「お、俺!?」
「そうよ!あなた一緒だったんでしょう!?」
そんな男に、らちが明かないと玉蘭は判断する。
「冗談にしても、こいつが惚れちゃうなんて・・・・・どんな女だったの!?」
「どんなって・・・そんな綺麗な女性いたかどうか・・・」
「弟に会ったんでしょう!?」
「あ、会うには会ったが、側にいたのは・・・人食い虎と、大将軍と、皇太子殿下と・・・」
「どれだけ豪華な人選よ!?あなたの弟、着実に出世の道を上りつめてるじゃない!?」
「まさか!あいつは出世には興味ないですよ!」
(どちらかと言えば、妹にしか興味ない!)
「だから、義烈が廓で相手にしていたような成熟した女性はいな・・・」
そこまで言って気が付く。
「・・・・大人の女性はいなかった・・・」
そう、いたのは親友と動物と大人と少年と・・・
「少女・・・!」
“安様!!”
ひたすら、自分の義姉を心配し、声援を送っていた美少女。
(ま、まさかこいつは―――――――――)
残った可能性を、林山が口にする前に言われた。
「義烈お前、宮中の少女に惚れたのか!?」
否定を願って聞いた一言。
「少女だな。」
肯定して返された。
「えええええええ―――――――――!?」
(あ、あの女の子に惚れたのか!?)
恋は突然起こると言うが、あまりにも以外過ぎた。
「そういえばお前、あの子口説いてたよな!?」
「口説いたですって!?」
「口説いてねぇーよ。」
「いいや!口説いてた!しかも、せ・・・俺の弟に勝ったら、奪うとか言ってたじゃないか!?」
「奪う!?あんた何しに行ったの義烈!?」
「あの子に出会うためだろうな~」
「似合わないセリ言うんじゃないわよ!何考えてんのこのスケベ!」
「スケベですよ、玉蘭さん!それで反感も買ってました!!」
「前言撤回!ドスケベ野郎に変更ね!!」
「おいおい、ドスケベはないだろう~?」
2人がかりで言えば、頭をかきながら義烈は言う。
「男は基本、ドスケベだ。俺だけじゃない。なぁ、星影?」
「否定しないけど、義烈!!」
「ほ、本当に好きになったのか!?」
戸惑いつつも聞けば、腕を組みながら侠客は言う。
「好きも何も・・・・惚れたって言うのが一番わかりやすいな。こういう気分は初めてだからよ~・・・多分そうじゃねぇ?」
「自分のことだろう!?」
「なんでそんなにあいまい!?あんたが、人を好きになったことないって噂は本当だったのね!?」
「そうみたいだな。」
「え!?そうだったの!?」
それでますます林山は思う。
(命がかかった修羅場で、よく一目惚れなんてできたものだ・・・!)
いや、そういう神経だからこそ、ああいうことが平気でできるのかもしれない。
「そういうわけだからよ、星影。オメーの件が片付いたら、俺はあの子を頂くぜ。」
「はあ!?相手は宮中の子だぞ!?皇帝の私物だぞ!?」
「はあっ~!?一人ぐらい減っても気づくわけねぇーよ!そもそも、この先死ぬまでの間に、奥様全員の部屋に子作りしに行けるかわからねぇーだろうが?」
「あ~それはわかるわね・・・皇后を含めた、上位5番目ぐらいまでしか行き来できないでしょうね~・・・体力的にも、女達の戦い的にも。」
「玉蘭さんまで、なに卑猥な話してんですか!?義烈、お前の気持ちはわからないことはないが―――」
「だったら、気持ちだけ理解しろよ。」
「え?」
そう言うと、林山へと視線を向けながら告げる。
「規則だ、道理だ、決まりだってのは、頭でわかってんだよ。けど、心まで規制するいわれはねぇーぞ?」
「義烈・・・」
「オメーは妹と弟を連れ出すことだけ考えな。俺は、そのどさくさであの子を強奪する。」
「真顔で誘拐予告するなよ!?」
「もう決めた。文句は受け付けねぇー・・・!」
低く、強い声で言う相手は、本気だった。
(俺も人のことは言えないが・・・そこまで愛してしまうとは・・・)
“安様。”
(確かにあの子は可愛かったが・・・・)
林山には引っかかることがあった。
(あの子・・・・・・・星影のことばかり気にしてたな・・・)
少女のことを思い出せば思い出すほど、ある仮説が頭をよぎる。
(あの子は、自分の宮殿を抜け出して、虎を引き連れて、星影に会いに行っていた・・・)
それだけの危険を冒して会いに行った。
(もしかしてあの子・・・・?)
「お前の気持ちはわかったよ、義烈。」
「お?話が分かるか、男同士~?」
「ちょっと、星影・・・!」
「こう言うのはなんだが、義烈・・・」
「あん?」
喜ぶ義烈と、渋い顔をする玉蘭に、林山は申し訳ない気持ちで言った。
「お前が、あの子を好きなでも・・・相手もそうとは限らないと思う。」
「ああん?」
「他に、好きな人がいるんじゃないかな~と・・・」
(あの少女、星影のことが好きじゃないのかな・・・?)
可能性はあった。
藍田にいたころ、星影と遠出したりすると、だいたい星影は男だと間違えられる。
この時代、女性は家の中にしかいないので、勇ましい彼女を見えてだれが女子と思うか。
星影に淡い恋心を抱いた辺りで、彼女が女子だとわかって、小さないざこざがあったりしていた。
(おそらく・・・・惚れられてるぞ、星影・・・!)
確かめたくても本人はいない。
それ以前に、本人がそのことに気づいているのかさえ怪しい。
(そう思うと、あの女の子には同情する・・・)
よりによって、男のふりをした奴に惚れるとは・・・。
同時に、目の前の協力者にも同情した。
「はっきり言って、第一印象も悪かったんだ。好きなってもらうのは難しいぞ。」
「本当にはっきり言うな、お前は。可能性は0じゃないだろう。」
「きゃははは!無理よ無理!」
2人のやり取りを聞いていた美女が声をあげて笑う。
「いくら見てくれが良くても、あんたみたいなゴロツキ、相手にされるわけないでしょう!?」
「そ、そこまで言うのは玉蘭さん!で、でもな、真面目な話・・・相手が別に好きな人がいるかもしれないから・・・」
「それがどーした。」
玉蘭と林山の言葉に、真顔で義烈は言い放つ。
「俺に惚れさせればいい。」
「簡単に言うな!?」
「はあ?簡単なことだぜ?俺は、あいつを養うだけの甲斐性がある。しかも、愛情までついてるんだ。文句ないだろう?」
「あんたねぇ~そういいながら、一夫多妻で他に女作るんでしょう?」
「作らねぇ!!」
呆れながら言った玉蘭に、机をたたきながら義烈は言う。
「あいつがお俺の物になるなら、他に女はいらねぇ。」
「ぎ、義烈?」
「俺の女だ。必ず俺の女にする。」
「お・・・!?」
(おいおい!なんか、とんでもない展開になって来たぞ・・・!?)
婚約者の手掛かりを求めて忍び込んだはずが、どうしてこうなってしまったのか。
(恋の泥沼に発展してしまいそうな予感・・・)
脱線する星影奪回計画に、見直しを考えはじめる林山。
「まぁ、俺の話はここまでだ。」
そんな空気を察してか、気恥ずかしそうにしながら話題を変える義烈。
「問題は、新しい登場人物についてだ。」
「あ!?このヤマネコのお面の人のこことか?」
「わはははは!残念!わしじゃない!」
「え?」
「そうね。星影の弟さんのことね。」
「えっ!?」
真面目に林山が言えば、笑い飛ばした仙狸の言葉に同意してから玉蘭が告げる。
「経緯はどうあれ、彼は宦官に身を落としてしまった。どういうことか、わかるわよね、星影?」
「それは・・・」
(ここは、疑われないよに話を合わせなくては!)
焦りもあったが、本心を悟られないように林山は口を開く。
「おそらく・・・・妹に会いたくて、宦官となって入廷したのだと思います・・・」
無難で安全な答え。
普通は納得する答えだったが、
「違うな。」
「義烈!?」
普通ではない男が異を唱えた。
「普通はそうかもしれねぇけど、アイツは違うぜ。」
「どういう意味よ、義烈?」
怪訝そうに聞く玉蘭に、大侠客は楽しそうに言った。
「あれだけの腕があれば、婚約者は奪い返せる・・・」
「義烈!?」
核心を突かれる言葉に、思わず相手の名を呼ぶ林山。
それに口の端を上げながら義烈は言う。
「俺の見立てではそうだぜ?なんだかんだで、キョーダイは似ちまうもんだな、星影?」
(こいつ・・・どこまで見破ってるんだ!?)
歯ぎしりしたくなるのを我慢して考える。
(いや、まだ俺達が性別まで偽っている件はばれていない!それだけは、秘めなければ!!)
「そういうことなら、話は別ね。」
「玉蘭さん?」
話を聞いていた玉蘭が、口元に手をやりながら言う。
「義烈の見立ては確実・・・相当な使い手となれば、宮中の連中がこのまま黙っているとは思えない。もしかしたら・・・今回の一件で、改めてあなたの弟を調べ直すかもしれない。」
「えっ!?ど、どういう意味ですか!?」
「身辺調査よ。」
「は!?でもそれは・・・宮中に入る際に審査されていることでは?」
「それは、書類上での話よ。あの皇帝なら、玉がなくても大目に見てそうじゃない?でもね・・・場所が場所よ。」
そう語る玉蘭の表情は深刻。
「ただでさえ男手がない後宮となると話が別だわ。」
「え?」
「いつ、刺客に化けるかわからないからよ。」
「し、刺客!?いくらなんでもそんな!」
「あら?わからないわよ~弟さん、あなたの妹と引き裂かれたのよ?愛する人を奪われ、股間も奪われ・・・あたしだったら、事故に見せかけて怪我ぐらいはさせるけど。」
「うっ・・・!」
(ひ、否定できない・・・!)
俺ならば、考えるだけでできない。
しかし、あの親友は考えた上で、どうすれば実行するか考える女だ。
(星影ならやりかねそうで、逆に怖い!)
「まぁいいじゃねぇーか、寝首かこうが、怪我させようが。」
「義烈!」
鷲掴みした果物を口に運びながら、何を考えてるかわからない男は言った。
「どーせ、お前が主役で奪還劇をするなら、義弟君に連絡しないとだめだろう?」
「れ、連絡って・・・」
「その手筈は、こちらでなんとかする。お前は、よく休んで体力を温存しておけ。」
「義烈・・・」
「そうね。国を相手に戦うわけだから、最後は持久戦と体力と・・・」
「「悪知恵。」」
声をそろえて言う好漢と美女。
その姿に、俺はこれからどうなるのかと不安を隠せない林山。
「ぶっははは!そりゃあ、いいなっ!」
「痛って!?」
それを吹き飛ばすように、バシバシと背中を叩かれる。
「あ、あなたは!むちゃくちゃな狸の人!」
「おう!気軽に仙狸と呼んでくれ!」
林山の言葉に、彼の肩に腕を回しながら言う狐臭い男。
「話は分かった!俺も協力するぜ、義烈!」
「おう、よろしくな。」
「よろしくね。頼りにしてるわ~」
「わはははは!じゃあ、今度一発やらしてくれよぉ~」
「ちょ、ちょっと、ちょっと!」
自分そっちのけで普通に会話する3人に林山は聞いた。
「あの!この人は、あなた方の知り合いか?義烈、玉蘭さん!?」
「まぁな。面白いおっさんだ。」
「そうよ。面白いスケベ親父よ~まさに、狸が人間の男に化けたみたいよ。」
「大丈夫なんですか、それ!?」
「平気よ。狐と違って狸は、人間との間に子供は作れないって言うじゃない。ねぇ、狸さん?」
「そうそう!無責任な子作りはしないようにしてんだ!」
「そーじゃねぇよ!!俺は、信用しても大丈夫かって話をしてるんです!」
「信用?へっ・・・!この親父とは一番無縁の話だ。」
「じゃあ、だめじゃんか!?」
「そんなことない。」
茶化すように言う義烈を怒鳴る林山に、男は急に真面目な声で言った。
「わしは、気に入った相手は絶対に裏切らん。態度の悪い情感や、人を蹴落としてでも抜け駆けしたりするやつは、信用させたふりしてつぶすけどな。」
「ちょ・・・物騒ですね!?センリさん!?」
「厳飛龍。」
「へ?」
「わしの名は、『厳飛龍』と言うんだよ、劉星影。」
聞き覚えのある言葉。
まさかと、林山が思う前に男は仮面をはずした。
「お初にお目にかかる。凌義烈とは古なじみで、あだ名は『センリ』。」
「あっ・・・・・!?」
(あなたは!!)
そこにいたのは、藍田にいた頃から知る相手。
(厳師匠―――――――――――――!!?)
自分に格闘技を教え、親友を【女龍傑】と呼ばれるまでの女傑に育てた男だった。
「初めまして、劉星影。本名ではなく、センリと気軽に読んでくれ!よろしくな~!?」
「は・・・・はじめ・・・・?よ、よろしくお願いします・・・・!?」
笑顔で言う師匠の目は、『知り合いだと黙ってろ』と語っていた。
これに力なく、疑問形の声であいさつするしかない林山。
林山の義烈への不安は吹き飛んだ。
しかし、代わりに別の不安が林山の元へときたのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!
凌義烈の一目ぼれだけでもややこしいのに、星影&林山のお師匠様も星連救出の実行に参加です。
自分の身代わりで活動している星影に続き、厳師匠も現れ・・・林山の苦労は耐えないようです(笑)
※見直しをしていますが、誤字脱字があったらすみません・・・!!